六話
夜が明けて宿を出た。ばあさんがニコニコしていたのが癪に障るが、それはきっと昨晩なにもしていないからだろうな。
朝十時となれば王都も賑わう。というか飲み屋が多いので夜も眠らず、明け方は行商や朝市なんかで人が行き交い、そして昼間は一般人が出歩く。つまり一日中人の往来がある。それが王都という場所なのだ。
「で、どっちに行くんだ」
昨日は宿に入ってすぐに寝てしまったし、今日は起きてすぐに宿を出た。なにも決めていない俺たちは宿の前で立ち往生だ。
「ちょっと待ってなさい」
シアは右手を上げて魔力を込めた。東西南北に手のひらをかざし「こっちよ」と一人で歩き始めてしまった。どこに行くかくらいは言って欲しい。
そうしてたどり着いたのはサンドイッチの屋台だった。
「おい」
「まずは腹ごしらえでしょ」
「確かに腹は減っているが」
魔力を込めてまでやることか。
「大丈夫。呪術師の方は動いてないから、サンドイッチを食べながら向かっても問題ないわ」
「それならいいだが」
たまに抜けてるところがあるから心配になる。というか朝食を食べたかったらまず先に言えばいいのに。
サンドイッチを買って王都を練り歩く俺たち。ブティックで服を見たり、他の屋台で食べ物を買ったり、大道芸を見て驚いてみたり。
「そうじゃねーだろ」
観光だこれ。
「なにが?」
「なにがじゃねーが。本来の目的を見失っておる」
「言葉遣い安定しないわね……」
「お前のせいだぞ。父さんの呪いを解くために王都に来たんだ。こんなことをしてる場合じゃない」
「スピカとはデートしたのに」
口を尖らせてそっぽ向いてしまった。
もしかしてコイツ王都で遊びたかったのか。
いや待てよ。考えようによっちゃ俺とデートしたくて無理矢理引きずり回したのか。なるほど、可愛いところもあるじゃないか。
まあ見た目は最初から可愛かったが。
「呪術師の方はどうなってる?」
「動いてないけど」
「動いたら教えろ。行くぞ」
「行くってどこに?」
「いいからついて来い」
シアの手を取ってあるき出した。
それから再度王都の中を練り歩くことになった。シアにはスピカと同じように服や靴を買って、物欲しそうに見ていたペンダントも買った。
カップルに人気っぽいレストランで昼食をとってから美術館なんかにも寄った。
そういや忘れかけてたがコイツは魔王城で軟禁状態だったんだよな。世間のこととかも知らなかっただろうし、こうやって王都を歩くこともなかった。異性とデートすることだってもちろんなかったわけだ。
買い物をしている最中もそう、食事も美術館も目を輝かせていた。あの町じゃ外食なんてほとんどないし、母さんが作れる料理にも限界はあるし、そもそもレストランなんかとは味付けも盛り付けも違う。人がいる場所で食事をするのも始めてだっただろうし、シアにとっては始めてのことばかりなのだ。
もうちょっとだけ、コイツのことを考えた方がいいかもしれない。
世の中を知ることもいいことだし、最終的に人に戻るのであれば間違いなく必要になる知識だってある。
川辺にある公園にやってきた。屋台でソフトクリームを買ってベンチに座った。周囲にはファミリーやカップルがたくさんいた。傍から見れば俺たちもカップルに見えるだろうか。
いや、どっちかというと兄妹かもしれない。
「美味しい……」
「そうかそうか、ソフトクリームは初めてか」
値段もそこそこするし王都くらいにしかないから、そのへんの町に住んでいれば初めてっていう人も多い。
「こんな冷たくて甘いものが世の中にあったのね」
「たぶん家でも作れるぞ」
「本当に? でも家で出たことは一度もないけど」
「普通には作れないからな。魔法で氷を作ったり冷やしたりしないといけない。でも一般人は魔法が使えない。だから一般家庭で作るのは無理なんだ」
「なるほど、そういうことね。じゃあ私が協力すれば作れると」
「そういうこと。作り方は帰って教えてやる」
アイスを食べて時間を潰す。天気はいいし、そのおかげでアイスも美味い。
「申し訳、なかったわね」
ふとそんなことを言い出した。
「なにが?」
「本来の目的からは逸した行為だと自分でも理解してるわ」
「なにかと思えばそんなことか」
「そんなことって……」
「確かに本来の目的は違うな。そこに関しては俺も思うところはある。だがまあ、たまにはいいんじゃないか?」
「それで呪術師を逃してしまうかもしれないのに?」
「呪術師は動いてないんだろ?」
「多少の動きはあるけどほとんど動いてないわね」
「つまり最初に手のひらで呪術師にマーキングかなんかして常に動きを監視してたんだろ? だから居場所を訊いた時に即答できる。ちゃんと対応策を取ってるなら言うことはなにもない」
「それでも時間を無駄にしてるとは思わないの?」
「この時間が無駄だってことか? そりゃないだろ。可愛い女の子とデートしてんだから無駄じゃない」
俺がそう言うと、シアは顔を真赤にして俯いてしまった。




