十一話
イズルは躊躇なくその魔力を俺にぶつけてきた。魔法とも言えない純粋な魔力の塊だった。
バリアに魔力の塊が衝突する。風圧で周囲の木々がざわつき、細い木などは根っこから抜けて飛んでいってしまった。俺もバリアを支えるのが精一杯で洞窟の方に気を回してなどいられない。反撃なんてもってのほかだ。
魔力の塊とバリアが完全に相殺し合った。一層強い風が吹き荒れる。
「キミも一度魔王になった口だね。じゃなきゃボクと渡り合うことなんてできないだろうし」
「別に魔王になりたかったわけじゃないんだけどな」
「望んで転生を繰り返してきたわけじゃない、か」
「虫だの微生物だのモンスターだのってろくな目に遭わなかったからな」
「でも楽しかった思い出はあるでしょ?」
「まあ、たまにな」
「じゃあ今考えれば有意義だったわけだ」
「逆だ。今が有意義だからこそ、今までの転生も許容できる」
「やっぱりボクとキミは違うね」
「そりゃ別の人間だからな」
「そうじゃないよ。考え方の根本がもう違うってこと。たとえどんな生物になったって、捉え方次第で楽しめるんだ。キミは楽しみ方を知らなかった」
「虫とか楽しめるわけないだろ。異常だ」
ああそうか。異常なんだ。そうでなくては説明がつかない。盗賊たちと手を取り合って犯罪を犯す。それが普通なわけがない。これもまた楽しんでいるということなんだろう。
「異常だよ。この状況が異常なんだ」
「そういうことじゃねーよ。お前が異常なんだ」
「それも合ってるけどね。異常でいいのさ。何回も転生させられて正常でいられるわけがない。きっとキミも異常なんだよ」
「俺は正常だ」
「そう思ってるのはキミだけだよ」
「普通の人ならお前のこと異常者っていうだろ。じゃあ俺は正常だ、真逆なんだから」
「その普通っていうのも普遍じゃないからね。時代によってだいぶ違うよ」
「詭弁じゃねーか」
「詭弁だろうがなんだろうが事実だから。それに、キミもきっとボクの気持ちがわかるようになるよ」
「一生わかんねーよ」
「経験が足りないだけさ。転生を続けてればわかるよ」
「それでもわかんねーって。俺とお前は一生相容れない」
「ま、なんでもいいけどね。ボクは楽しめればそれでいい」
「楽観主義者が……」
「人生楽しんだもの勝ち。何回も転生して、何回も楽しいで、そうしたら辛いことなんてなにもない」
イズルは背を向けて森の中へと歩き出す。
「どこ行くんだよ」
「逃げるんだよ」
「逃げる? お前の力があれば俺を殺すことだってできるだろ」
「別にキミを殺したわけじゃないからね。ボクは楽しみたいだけなんだ。今の状況を、この世界を、キミとのやりとりをね」
イズルの背中から翼が生え、またたく間に飛び立っていった。暗闇に消え、どこまで飛んでいったかさえもわからない。
それでも胸騒ぎが止まなかった。きっとイズルはまた現れるはずだ。現れて、今度はなにをするのかわからない。
とにかく今は母さんたちを助けるのが先決だ。
洞窟に戻って盗賊を眠らせ、誘拐された人たちを開放した。記憶の操作は得意じゃないからやらなかった。というか記憶を消したら盗賊団を捕まえられない。
盗賊団は全員裸にして縛って洞窟の外に置いておいたから、明日には全員風邪でもひくんじゃないだろうか。被害者が通報してくれれば誘拐事件の方は解決だ。
身体をスライム状にして母さんたちを運んだ。夜も遅かったのでひと目につくことはないだろう。
母さんとスピカをベッドに寝かせた。ふたりとも気持ちよさそうにすやすやと寝ているが、誘拐された記憶は明日消さないといけないだろう。怖い目にあったことなんて忘れてしまった方がいい。
とりあえずじじいと話をしなければいけない。俺以外に何度も転生してるやつがいるなんて聞いてないからな。




