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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
六章:逃げキレ!
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十話

 リビングでコーヒーを飲んでいると、シンとした室内に違和感を覚える。すでに深夜なので静かなのは当然だが、家の外は住民たちの戸惑いの声で溢れている。家の中が静かなのはおかしいのだ。


 そこで、スピカと母さんが出かけていることを思い出した。じじいが張った結界のせいで町に入れなかったはずだ。ということは二人はまだ外にいるのだ。


 急いで家を出て町の周囲を捜索した。あのじじいが余計なことしなければこんなことにはならなかったはずだ。


「クソじじい……」


 しかしまあ、二人が帰ってきて誰かにキスされるのも見たくないし誰かにキスするのも見たくなかったしこれで良かったと言えばよかったのか。非常に判断が難しいところだ。


 結界が張られていた場所をぐるっと回ってみたが二人はいなかった。


 元の場所に戻って辺りを見渡した。地面でなにかがキラリと光った。駆け寄ってみると花柄のブローチだ。非常に見慣れた母さんのブローチ。確か父さんに貰ったやつで大事にしていたはずだ。


 なにかがあったと考えるのが自然だろう。


 さらに周囲を散策すると二人が持っていった買い物かごが落ちていた。食料やら小物やらが散らばっていた。また、その近くには車輪の跡。


 嫌な予感がして、額から汗が垂れてきた。


 正直じじいを呼び出して怒鳴ってやりたい気分ではある。しかしそんなことをしている余裕があるのなら今すぐにでも二人の元に行かなければならない。危険が迫っているのであれば一刻も早く助け出す必要があるのだ。


 馬の蹄のあとを見ればどっちに向かったかはわかる。魔法を限界まで行使して馬車のあとを追った。


 車輪は少し離れた洞窟へと続いていた。


 息を殺して中に入る。普通の人間なら暗くてよく見えないが俺は非常に夜目が利く。コウモリや猫に転生した時に手に入れた能力だ。


 自分から出る物音や声を消すサイレンスの魔法を使って洞窟を進んでいく。徐々に明かりが見えてきた。透明になるステルスをかけて明かりの方へと歩みを進めた。


 そうして拓けた場所に出た。壁際には無数の女性が座り込んでいた。手足を縛られ、口は布を噛まされていた。その中には当然、スピカと母さんの姿もあった。二人は眠っているようだった。


 中央では男たちが焚き火を囲んでいた。ゲハゲハと笑いながら酒を飲み食事をする。今すぐにでもぶん殴ってやりたい。


 だが少し違和感があった。男たちはいかにも野盗、ごろつきといった風貌だった。けれどその中に一人だけ綺麗な身なりをした男がいたのだ。おそらくだが俺と同じくらいの年齢だ。髪は長めであるが肩まではない。体つきもそうだが中性的な顔立ちで、男の俺からみてもかなりのイケメンだ。


 怒りがこみ上げてくるものの、これだけの人質がいるとなれば俺一人ではなかなか上手くはいかないだろう。


 考えろ。今なにをしたら人質を助けられるのか。


 綺麗な身なりをした男が立ち上がった。


「イズルさんどこ行くんですか?」

「ちょっとトイレにね」


 イズルと呼ばれた青年はこちらに歩いてきた。そして俺の横を通り過ぎる際にこう言った。


「外、行こうか」と。


 コイツは俺のことが見えている。だから小声で言ったのだ。


 イズルのあとについて洞窟を出た。イズルは鼻歌を歌いながら意気揚々としていたが、正直俺を連れ出す理由はよくわからない。


 洞窟を出るとヤツがこちらへと振り返った。


「こそこそ隠れなくてもいいのに」

「おおっぴらに入るわけにもいかなくてな」


 俺は魔法を解いてそう言った。


「キミの力があれば一般人なんてわけないでしょ?」

「お前、なにものなんだよ」


 イズルは大げさに驚いたようなジェスチャーをした。


「今の話でもなんとなく想像はできたんじゃないかな? キミの力に気付いて、キミの魔法を見破った。それがどんな存在かなんて限られてくるでしょ?」


 魔王であれば俺の魔力くらいには気がつく。でも俺の魔法を破ることはまずできない。しかも今の魔王はシアだから魔王というのはあり得ない。


「お前も、なのか」

「ボクが蘇ったのは102回目。キミは?」

「これで101回目だ」

「じゃあボクの方が先輩だ。いやー嬉しいな、後輩ができるなんて」

「こんなクソみたいなバグに巻き込まれて嬉しいもクソもあるか。お前だってそうだろ」

「そんなことないよ? ボクは楽しめてるからさ。誰にも介入されることなく自由に生きられたし。あー、でも虫とかはちょっとキツかったけどね」


 本当に楽しそうに会話をする男だ。


 仲間がいたという安堵感もあるが、コイツからはただならぬ雰囲気を感じる。同時にスピカや母さんを攫ったのだ。つまりコイツは俺とはまったく違う楽しみ方をしているということになる。


「なんで女の人を攫ってるんだ?」

「アイラがそういう商売で稼いでるから協力してあげただけ。女性には苦労してないしね、ボクは」


 その視線は「キミは苦労してそうだね」とでも言いそうである。


「罪悪感とかはないのか?」

「罪悪感? そんなものはだいぶ前に捨てたよ。持ってても意味ないもの。だって何回も生き返るんだよ? 倫理観も正義感も意味ないよ。死ねばその人生は終わるんだから」


 なんとなく言いたいことはわかる。人が犯罪を犯さないのは罰が怖いからだ。未来に汚点をつけたくないからだ。清く正しく生きる方がいいと知っているからだ。


 でも自分が今までしたことが全部消えるとしたら。考え方によっては何度でも犯罪を犯し、何度でも死に、同じことを繰り返すんだろう。繰り返すうちに罪悪感が消えても不思議ではない。


 不思議ではないが、俺には理解できない。


「正直、俺はお前みたいなやつは好きじゃないな」

「なんでさ。キミもこうやって気楽に生きてみなよ。そうすれば世界が広がるよ? 好きなことやって、死んで、生き返って。人間に転生したらまた楽しくやればいい」


 ズズズっと、イズルの身体から黒い靄が出始めた。強力な魔力。下手をすれば俺よりも強いかもしれない。やってみなければわからないが、きっとコイツもまだ俺の力をはかりきれていないはずだ。


「悪いが俺はお前と同じ生き方はできないな」

「なんでさ」

「いい人生を送りたいからだ」

「いい人生なんて人それぞれじゃない?」

「だからだろ。好きなことやって生きるのがお前にとって最良の人生でも、それが俺に適応されるかは別の話だ」

「キミは窮屈で良い子ちゃんにしているほうが好きなんだね」

「好きってわけじゃない。ただ俺は平穏な人生を送りたいだけだ」

「平穏ね」


 腕を組み、鼻で笑った。


「結局死ぬのに?」


 本気で言っているのだろう。


 意見はもっともだ。俺たちの人生は一度切りじゃなかった。


「それでもだ。どうせ蘇るんだとしても気持ちよく死にたい」

「なるほどね。キミとは上手くやれそうにないね」


 一瞬でイズルの魔力が膨張した。一般人であれば卒倒しそうなほどの圧倒的な魔力。考える間もなく俺は巨大なバリアを張った。

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