九話
頭の中でファンファーレが響き渡った。クエスト終了、つまりウイルスの停滞時間が切れたということだろう。
上空からコインが降ってきた。取りこぼしそうになったがなんとかキャッチできた。これで七枚か。あと三回のクエストでなんとかできれば楽なんだが、人生そういうわけにもいかない。
夜空を見上げながらシアの頭を何度か撫でる。起きる様子がないのはこんな状況であっても安心しているからなのか、単に図太いだけなのか、睡眠欲がなによりも勝るものなのかは謎である。
と、目端になにかが写り込んだ。
「ほほっ、上手くやったようじゃのう」
気がつくとじじいが隣に座っていた。心臓が飛び出るかと思った。
「マジで怖い」
「怖い? なにがじゃ?」
「こんな夜中に音もなく現れたら完全にホラーだからね。しかもお前現れてからちょっとだけ黙ってただろ」
「怖がるかなと思って」
「故意じゃん」
「惚れてはいないぞ」
「恋ではない」
クソくだらないやり取りをしてしまった。
「つかここに来るならコインを降らせる意味ないだろ」
「決まっとるだろ、演出じゃ。コインを上から降らせた方がそれっぽいじゃろ。あー、クエスト達成したなーって」
「上から降ってきても達成感はないから。面倒なだけだから」
さっき落としそうになったしな。ヒヤヒヤするくらいなら手渡しでお願いしたいところだ。
まあじじいにお願いするのは癪だから言わんが。
「これであと三枚じゃのう」
「三回のクエストで終われば楽なんだけどな。次のクエスト三倍チャンスとかにならん?」
「さすがに欲張りすぎじゃない?」
「だよな」
三倍チャンスにはならなくても楽なクエストならそれでいいや。
「そういや図書館の地下で見たんだが、あそこでウイルスの研究をしてたのか?」
「うむそうじゃ。元々研究所でこの町ができる何百年も前に埋め立てた」
「だろうなと思った。写真とかあったし。どうやってシアに説明するの難しかったぞ。やるならぶっ壊れないくらいに埋め立てろよ」
「埋めたのはワシじゃないもん」
「じゃないもんとか言うのホントムカつく。じゃあ誰なんだよ。明らかになにかしたのを隠蔽しようとしてただろ」
「当時の王様じゃよ。でも施設はあそこだけじゃないぞよ」
「あんな研究所がいくつもあったってのか」
「今回のウイルスはまだ良いほうじゃ。他の研究所はそれはそれはエグい物を作っておった」
「例えば」
「吸い込むと老化する」
「浦島太郎か。いやまあヤベーんだけどさ。他には?」
「穴という穴から血液が吹き出す」
「それはまあ、とんでもないな。蔓延しなくてよかったと思う他ない」
「いや、一時期プチ流行してとんでもないことになったぞ。繁殖力が弱かったからそこまで広まりはしなかったがなあ」
「お前の見た目でプチって言葉を使うな。他にもあんのか、ヤバいウイルス」
「あるある。数え切れんほどある。右頬だけが膨らむウイルス、タンスに小指をぶつけた痛みに苛まれるウイルス、鼻から花が生えるウイルス」
「確かにヤバいよ? ヤバいけどヤバい方向性が違う」
「人がモンスターになるウイルスとか食べ物を受け付けなくなるウイルスとか」
「それ、そういうのが欲しかった。いや欲しかったっていういい方はよくないんだけども」
「まあそういうウイルスを作らされていたわけじゃ。あの時代は国取り合戦が産業としても成り立っておったからのう」
「産業ってどういうことだよ」
「いわゆる戦争屋というやつじゃな。武器商人や戦争賭博なんていうのもあった。奴隷売買も盛んじゃったなあ
「昔を懐かしむような目をするなよ。思い出にするにはブラック過ぎる」
「いい時代に生まれたと思うがいい」
「いろんな時代に生まれていろんな死に方したからなんとも言えんわ。今がいい時代っていうのは間違いないけど」
徴兵制度なんて発令されたら間違いなく戦争に行かされるだろうしな。
「昔の話はまたしてやるでの、今はシアちゃんをちゃんとしたベッドで眠らせてやる方がいいんじゃないかのう」
「じじいにしてはいいこと言うな。んじゃ帰るか」
「次のクエストはそのうちな。ではの」
煙になってじじいが消えていった。
俺はシアを抱きかかえて自宅に戻った。その間、なにが起きたのかわからない住民たちの悲痛な叫びを聞くことになった。大人も子供もこんな時間にそのへんうろうろしてて一日の記憶がなければそれも仕方ないだろう。
シアをベッドに寝かせて一息ついた。




