八話
昼間、ゾンビたちがドアを開けたりしているところを見るとある程度の学習能力が備わっていると見るべきだ。そうなればゾンビたちが結託して人間ハシゴみたいな物を形成して登ってくる可能性も低くない。
「ねえ」
と、シアが俺の服を掴んだ。
「なんだ。腹でも減ったか?」
シアは顔を赤くしてもじもじとしている。
「もしかしてお前……」
「なによ、仕方ないでしょ」
「漏らしたのか……?」
「まだ漏らしてないわよ!」
「漏らす可能性があるってことか」
だろうなとは思ったけど。
「じゃあここでするしかねえな」
「イヤよ! 他人の家の屋根でするなんてイヤ!」
「じゃあどうすんの? 漏らすの?」
「漏らしたらここでするのと変わらないでしょ!」
「トイレ、トイレか……」
屋根を飛び移って時間を稼ぎ、テキトーな民家で用を足してもらうしかないな。
「んじゃいくか」
そしてお姫様だっこ。
「優しくして……」
「んな時間ねーだろ」
限界まで体を強化して屋根を飛び移っていく。一番遠くの民家まで跳躍し窓をぶち破って家屋の中へ。トイレにシアを押し込んでから外に出た。
ゾンビたちが来る前にシアをトイレから引きずり出して逃げなければいけないので、見張りがいないと困るのだ。
一分、二分、三分。ゾンビたちの足音が大きくなってきた。限界の速度で屋根を飛んできたから、ゾンビたちも俺たちを探して走り回っていたんだろう。
「シアー! 早くしろー!」
声を張り上げるが反応はない。
さすがにもう待てないと、トイレに戻ってドアを開けた。
「ちょ、ま」
パンツを上げているところで悪いが、そのまま抱きかかえてその家を出た。
パンツがひらりと宙を待ったのがなんだかちょっと面白かった。
そうしてまた屋根の上へ。シアは仏頂面で体育座りをしていた。
「いや悪かったって」
「思ってないでしょ」
「思ってる思ってる。でも目の前の女の子がノーパンで体育座りをしてるって考えるとちょっとドキドキするよな」
めちゃくちゃ睨まれた。
「これが終わったらもっと良いパンツ買ってやるから機嫌直せって」
「パンツの話はしてないわよ!」
怒られた。
結局その後、特に会話もなく星を見上げていることしかできなかった。話しかけようとすると睨まれるのだから仕方ない。
そしてあと二時間といったところまできた。
シアの頭がカクンカクンと上下に揺れ始めた。夜十時。そろそろおねむの時間なのだ。
「おい」
「な、なによ」
一応起きてはいるらしいが、目はトロンとしていてこれ以上は起きていられないというのが伝わってくる。
「寝てもいいぞ」
「寝ないわよ」
「でももう限界じゃん」
「限界じゃない」
「いいから、ほら」
足を伸ばして腿を叩いた。シアはため息をついたいたが、近寄ってきた俺の腿に頭を乗せた。
「固い」
「文句言うんじゃない」
瞼がゆっくりと下り、数秒後には寝息を立てていた。子供か。
頭をそっと撫でるとサラサラの髪の毛が気持ちよかった。
「大丈夫だ。なんとかしてやるから」
何度か撫でてみるが起きる気配はなさそうだ。
空を見上げると満点の星空。ちゃんと二人で見たかったな、なんて思いながら、俺も屋根の上で横になるのだった。




