一話
今、この町はとんでもない出来事に見舞われていた。言うなれば未曾有の大震災のようなものだ。
「で、これからどうするつもり?」
シアが腕を組み、ため息を吐いた。
「このまま逃げ回るしかないだろ。一般人を傷つけるわけにはいかない」
物陰から町の様子を見る。深い霧の中、皆虚ろな目をしてゆらりゆらりと目的もなく町をさまよっていた。いや、目的はあるのだが、一見すると目的があるようには見えない。まるでできの悪いゾンビ映画を見ているような気分だ。
「どうしてこんなことに……!」
拳を強く握りしめる。この町全体がこのような状態で、今となっては逃げ場はない。
「俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったはずだ」
「まあ、そうよね」
「こんなことには……!」
「もういいからそういうのは!」
シアがいきなりキレた。
「なんだ。ヒステリックな女は嫌いだぞ」
「シリアスに努めようとしてるところ悪いんだけどね、そこまでシリアスな状況じゃないのよこれは」
「めちゃくちゃシリアスだろ。町の人があんなことになってんだぞ? お前恐ろしくないのか?」
「じゃあ聞くけど、あの町民に襲われたらどうなるか言ってみたらどうなの?」
「まず頭を掴まれる」
「本来よりずっと強い力でね」
「そのまま頭を固定されて」
「引き寄せられて」
「キスをされる」
「はい、ここでなにが恐ろしいのかを説明してちょうだい」
「鍛冶屋のおっさんやそのへんのじいさんにキスされるんだぞ。この世の終わりだ」
「アンタの世界はどんだけ狭いんだ……」
「今の俺の世界はとんでもなく狭いんだよ。わかるだろ。魔法だって使えなくなっちまった」
「魔法が使えなくなっても世界は縮まらないわよ」
「お前にゃわからんだろうなあ……」
今まで強大な力があったからこそ快適に生活できていたのだ。それがなくなってしまったら俺はもう……。
「じゃあもう狭い世界でいいわよ」
「このままここで死んでいくのか。いやだなあ……」
「だからそういうシリアスな展開じゃないんだってば。でも、まあ、そのなんだろ」
「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ」
シアが恥ずかしそうに首の後ろを掻く。徐々に顔が赤らんでいく。
「狭い世界でも独りじゃないんだからいいでしょ」
「それってどういう意味だ?」
「うるさいわね! もう行くわよ!」
「行くってどこに……?」
「知らないわよそんなの!」
「なんでキレてんのかまったくわからんのだが」
そんなやり取りをしながら俺たちは町の中を歩いていく。行く宛もなく、町の外にも出られず、ただただ時間を消費するしかない。




