九話
「3」
ネティスがミュレスへと向かう。
「2」
覆いかぶさるようにして両腕を広げた。
「1!」
「あああああああああああああああ!」
予想通りというかなんというかコケて沼に飛び込んだ。
「だよねー!」
ネティスのことだから、言うことをちゃんと利いたところで行動を完遂できるかどうかは別の話なのだ。
しかしなんというか、派手にダイブしたせいでミュレスの顔面に泥とドラッゴンが飛び散って視界は塞げたようだ。
右手に込めた魔力を沼の中で破裂させた。泥及びドラッゴンが高く高く宙を舞う。というか俺と巨大ドラッゴン以外を遮蔽するように壁を作ったのだ。
これで俺を観察できる者はいなくなった。
左手を前に出して一瞬で魔力を溜める。右手に魔力を溜めていたのは上手く壁を作るために調整していたからだ。モンスター一匹殺すために魔力を溜める必要はない。
「俺と対峙したことを誇りに思うがいい」
レーザービームのように、俺の左手から光が発射された。光は胴体を貫き、内側から爆散した。こうすればより多くのドラッゴンを倒すことができる。
泥の壁が沼に落ちて、冒険者たちもなにが起きたのか理解できていないようだった。
これで一件落着だ。
じゃない。
まだ一万匹のドラッゴンを対峙していない。
「じじい、あと何匹だ」
『あー、あと七百くらいかのう』
「結構あるな」
『さっきと同じことやればええんじゃなかろうか』
「さすがに不審がられるだろ」
『一回やった時点で充分不審じゃがの』
「ええい黙れ。あとは自力でなんとかする」
剣を構え直していざ残り七百匹討伐へ。
「いくぞお前ら!」
と、後ろを振り向くと冒険者はほとんどいなかった。
そう、ローラもネティスもミュレスも岸に上がっていたのだ。俺がじじいと会話してる短い間に陸に上がるとか、ローラ助けたらドラッゴン退治をやめる気満々だったってことじゃねーか。
「おい! なに勝手にやめてんだよ!」
「もう魔力がないので無理ですね!」
ミュレスが自信満々にそう言った。
「まだ元気じゃねーか!」
「私これから仕事に戻らなきゃなんですよ。それでは失礼」
ドロドロのまま、ぎこちないダッシュでどこかに走り去っってしまった。絶対ウソじゃん。
次にローラとネティスを見た。ローラは案の定というかなんというか横になってダウンしていた。ギルドのお姉さんに水をぶっかけられていたのだが、きっとお姉さんはよかれと思ってやっているに違いない。ローラの顔が真っ青なのも知らずに。
ネティスは……まあいいか。
「ちょっと!」
「なんだよ論外」
「論外ってなんですか!」
「でももう入りたくないんだろ?」
「そりゃそうですよ。一回シャワー浴びたのにまた入ってあげたんですよ? 労われこそすれ罵倒される覚えはありません!」
「じゃあいいや」
「それはそれで嫌なんですよね」
「なんなのお前、めちゃくちゃ面倒なんだけど……」
いつまでもこんなやりとりを続けていられるか。
結局、俺は一人で剣を振るうこととなった。周囲からの応援もありなんとか七百匹を達成した。沼の中で俺が一人だけ剣を振るい、他の連中は応援しながら酒盛りをする。知らない人間が見たらイジメのような光景だった。
だが話はここでは終わらない。どうやら冒険者たちの間では「アイツはなんであそこまでドラッゴン退治にこだわっていたのか」という話が持ち上がり、アイツはドラッゴンに両親を殺されているだとか、ドラッゴンの素揚げが好きすぎるだとかいろんな噂が飛び交っていた、らしい。
そして俺がドラッゴンスレイヤーとして有名人になったのはまた別の話。
いや同じ話だったわ。




