最終話
そういえば親父、ずっと病院にいるみたいだけどいつ帰ってくるんだろ。さすがに治っててもおかしくないと思うのだが、登場人物がこれ以上増えるのは面倒だよな。
「じゃあなにがお望みなんですか! なにをしたら入ってくれるんですか!」
「なにしても入らないってば……」
ミュレスは腕を組みながらうんうんうなり始めてしまった。これだけ言っても引き下がるつもりはないのか。逆を言えばコイツは俺がどれだけ有能であるかを理解しているということなんだろう。
彼女が考え事をしている間にタブレットを取り出してミュレスの個人情報を見た。
ミュレス=パルサージュ
種族:人間
職業:軍人
武器:暗器
レベル:52(レベル限界87)
特殊スキル:先見の明
繊細な指先
交渉術
この〈先見の明〉というスキルのせいか。
どうやら他人の才能を見抜くスキルらしい。天性の勘みたいなものだろうが、その勘が人間の可能性という部分に特化しているということ。しかしながら「どうして可能性があるのか」までは見抜けないらしい。
「それでは私がお嫁さんになるのはどうでしょうか……?」
「あれだけ悩んだ末にそれ? どれだけ自分に自信があるのか」
「もうこれくらいしか出せる手がないので。いやでも手を出すのは殿方の仕事ですね、失敬しました」
「ちょっと上手いこと言ったみたいな顔すんのやめな? 誰の影響だ?」
「わかりました! それじゃあアナタが納得するようなスンゴイなにかを持ってまた来ます。覚悟しておいてくださいね!」
そう言って、彼女はそそくさとどこかに走り去ってしまった。
「もう来なくていいんだけど」
よくわからないがゾクゾクっと背中が寒くなった。あの女を放置しておいたらこの先かなり面倒なことになるような気がする。だが確証がない。
「残念じゃのう。あの子結構可愛かったのに」
「逃げたんじゃねーのかよ」
「屋根の上から見守っていたぞよ」
「神様感がさっぱりな場所だな。もっとこう、空の上からとかじゃないのかよ」
「浮いてるのも疲れるんじゃ。神様力って信仰心が大事じゃからな、信仰してないヤツの近くじゃと力が落ちるんじゃよ」
「誰よ信仰してないやつ」
「お主以外おらんじゃろうが……」
「まあそうなるよね。で、なんで戻ってきたんだ。そのまま家に帰ればよかったのに」
「まだバイバイの挨拶をしてなかったなと思うてのう」
「ちょっと可愛い感じを出すな」
「また明日クエスト持ってきてやるから許せ。それじゃあのう」
じじいは「ばいばーい」と手を降って天へと上っていった。
「はいはいばいばい」
たまには手でも振ってやるか。
気持ちよくなる水で上がった熱も少しずつ下がってきたし、そのせいで眠くなってきた。ややダルくなった身体で家に戻りベッドに入った。
「なんでここにいんだよ……」
ベッドの中にはシアがいた。気持ちよさそうにすやすや眠っている。いつもは抱き枕にされることを嫌がってるのに、俺が誘わない時に限って俺のベッドに潜り込む。わざとなのか寝ぼけてなのかさっぱりわからん。
「まあいいか」
そっと、一度だけ頭を撫でてから仰向けになった。身体がベッドに沈み込んでいくような感覚があって、俺は眠気の中に飲み込まれていった。これからもたまにじじいに付き合ってやるのも悪くないかもしれないな。なんて思いながら眠りにつくのだった。




