二話
まずは不審な人物、特に村の外から来た人間がいないかを探してみる。ピルと手を繋いで散歩しながら村の中を見ていった。見方によっては散歩がメインだろうな。
公園にさしかかった時、こちらに手を振るハゲを見つけた。公園には子どもたちもいないし、じじいが一人で嬉しそうに手を振っている姿は狂気でしかない。想像してみて欲しい、満面の笑みで、誰もいない公園から手を振る老人の姿を。
仕方がないので無視して公園を通り過ぎた。関わり合いになりたくない。
「ちょっとちょっと! 無視するのはなしじゃろ!」
「追いかけてくんなよ面倒臭いな……」
「面倒くさいとはなにごとじゃ。神様のこと、バカにしておらんか?」
「別にバカにはしてないけど面倒じゃん、お前」
「もっと優しくして欲しいのう……」
「面倒な上に気持ちが悪い」
「精神的にボコボコにするのやめてもらえんか? じじいちょっと悲しい」
「で、今日はなんの用事なんだよ。話があるなら家でいいだろ。イケメン好青年にでもなって訪ねてくればいいんだし」
「ちょっと今疲れててのう、神様力が下がってるから余計なことはしたくないんじゃ」
「神様力」
「どんな行動にも神様力が必要なんじゃって。スタミナみたいなもんじゃ」
「ソシャゲから離れて?」
そこでじじいが咳払いを一つした。
「今日は新しいクエストを持ってきたぞい」
「知ってるけどね。いつものことだからね」
「それじゃあドーン」
いつもの紙芝居ね。知ってる知ってる。
「あるところにおじいさんとおばあさんがいました」
「桃太郎の導入部分ね」
「実は事故物件を安く買い叩いたので、夜には天井裏からうめき声が聞こえてきます」
「設定が暗すぎる。子供に聞かせる内容ではない」
まあいつも子供に聞かせるような内容ではないけれどもだな。
「それでそれで! そのあとどうなったの!」
ピルがはしゃいでいるのでまあいいか。
「おじいさんは山の社へお祈りに」
「事故物件の幽霊をなんとかしたいと思ってるんだな」
「おばあさんは、そっと屋根裏へと登ることにしました」
「あーいかん。これはいかんですぞ」
「はい、今回のクエストは『暗殺者を捕まえろ!』じゃ」
「暗殺者って、もしかしてネティスの件と関係あるのか?」
「さあ、それはどうかのう」
じじいは下手な口笛を吹きながら知らん顔していた。
この神様、もといじじいとは何度も顔を合わせているし、たぶんこの世界の中でも俺はコイツを一番よく知っている。だからこそ言えるが、暗殺者ってのはたぶんネティスとはまったく関係がない。
この状況で『暗殺者を捕まえろ』なんてクエストを出せば、あたかもネティスが暗殺者に狙われているように見える。だがそれこそが穴だ。なぜならばネティスのストーカーが、本当にストーカーなのか、暗殺者なのか、ネティスの勘違いなのかが明白でないからだ。ギガントマウンテンは俺が動くようにするための口実だし、マトゥタケは自分が食べたかっただけだ。
つまり、これはなにか罠がある。
「うーん、釈然としないけど受けるしかないしなあ」
「うんうん、お前のそういうところ、ワシはすきじゃよ」
「お前に好かれても嬉しくないわ」
「嫌よ嫌よもそういうプレイとはよく言ったものじゃ」
「勝手に捻じ曲げるんじゃない」
「ねーねー、おじいちゃん続きまだー?」
ピルはじじいの服を引っ張りながらそう言った。桃太郎(大嘘)の続きが気になって仕方がないようだ。
「おーおー、ちゃーんと続き聞かせてやるからなー」
ひょいっとピルを抱き上げたじじい。このじじい、実は身長も低くないし、ピルを持ち上げてもまったく違和感がないんだよな。袖口から見える腕もひょろひょろって感じでもないし、俺が知らないだけで筋肉質なのかもしれない。
「ってお前、もしかしてあのおとぎ話の続きってちゃんと作ってあったのか……?」
「当たり前じゃろ。今までのおとぎ話もちゃーんと結末まである」
「結末まであるのに冒頭しか使わない理由は……?」
「結末がわからなくてやきもきするかな、と思って」
「クソ野郎じゃねーか……」
「では今回のおとぎ話、結末まで聞かせてやろう」
スッと、背中から厚い紙の束を取り出した。その厚さ、およそ五センチ。
「マジかよ……」
こうして、俺とピルは一時間ほどじじいの紙芝居につきあわされることとなった。ピルは喜んでいたのだが、話がそこそこ面白かったのが癪に触った。




