一話
なんやかんやあったが、ピルフェットは家族に受け入れられた。いやおかしいだろとは思ったのだが、ピルフェットはブタにも変身できるのが幸いした。眼の前で変身してみせたら全員信じた。それまでは「幼女誘拐犯」みたいな目で見られた。
「アルー! アルー!」
リビングで朝食をとっていると、ピルフェットが首元に抱きついてきた。
「今朝ごはん食べてるからやめなさい」
「やだー! アルと遊ぶー!」
「ワガママ言うんじゃありません」
「おい、顔めちゃくちゃ緩んでるぞ」
シアに言われて顔に手を当てる。たしかに俺の顔面は緩みきっていた。
それもそのはずである。俺にデレッデレだった頃のスピカを思い出してしまうのだ。おにいちゃんおにいちゃんと抱きついてきたスピカ、可愛かったな。いや、今は今で可愛いのだが、やはり無償の愛というのは心地が良い。
「ピル、ごはんは食べたのか?」
「まだー!」
「じゃあはい、ここに座っていっしょに食べようね」
自分の股の間にピルを座らせた。
「わーい!」
「顔、顔がキモい」
シアのジト目にもだいぶ慣れた。少しずつこの視線が気持ちよくなりつつある。
その時、ドアが思い切り開かれた。大きな音に振り向くと、そこには汗だくのネティスが立っていた。
「アルさん!」
「なんだお前か。どうしたんだよそんなに慌てて」
「こんな事を言うのは非常に不本意なのですが、アルさんに助けていただきたいんです!」
「助ける? お前なんかやらかしたのか? もしかして軍部がお前を無理矢理引き戻そうとしてるとか? いやー、そりゃないか。お前軍人としては割と無能だしな」
「そういうネガティブな発言はいいんですよ! それに軍部に戻れるならそっちの方がいいんです! ってそうじゃない!」
ツカツカと歩いてきてテーブルを両手で叩いた。ピルがビクッと飛び跳ねたのでそっと頭をなでた。
「顔、シャキッとしなさい」
「はい」
なんとか顔面の筋肉を強張らせた。なんだか最近は普通の顔をしているのがやや難しいと感じるようになってしまった。
「アルさん!」
「この距離で大声を出すんじゃない。で、なにがあったんだ」
ずいっとネティスの顔が近付いてきた。近い近い、息がかかるくらいの距離だぞ。
「私、命を狙われてるみたいなんです。歩いてると視線を感じるし、この前なんか窓のところに誰かいたんです。私が窓のところまで行ったら慌てて逃げたみたいで……」
顔は青ざめ、真剣さが伝わってきた。
「心当たりでも?」
「それは、ないんですけど」
「じゃあ勘違いだ。こんな田舎だし、それなりの理由がなきゃ命なんて狙われないだろ。お前の場合軍人だったころも有能ってわけじゃないんだし――」
そうか、有能じゃないのに結構いい地位にいたんだなコイツ。
「命狙われてる説、一理あるかもしれない」
「そうでしょう、そうでしょうとも! だから私を助けていただきたい!」
「だが断らせて?」
「ちょっと優しめに断ってもダメです。私がここでこんな生活をしているのはアルさんのせいなんですからね!」
「でも俺が思うに、あのまま軍部にいても同じことになってたと思うんだけどね」
「それでも他に頼れる人がいないんです!」
「ローラがいるだろ。同居人、めちゃくちゃ強いはずだぞ」
「ローラさんは気がつくとどこかに言ってしまうので頼りにならないんですよ。定期的に戦闘しないと腕がなまるとかで……」
戦士の鑑かアイツは。でも勇者の器ってより戦闘狂の部類だな。
「んじゃまあ、お前の命を狙ってるやつを捕まえればいいわけだな」
「そこで私を守るという選択肢はないんですか……?」
「お前の護衛をして無理矢理フラグを立てるなんて面倒なことするわけないだろ」
「面倒ってなんですか!」
「それは自分の胸に手を当てて考えてくれ。それじゃあ、犯人を探しにいくか。シアはネティスについててやってくれ」
「私? まあ、いいけど」
なんだか歯切れが悪いな。それになぜか顔が赤い。
「お前、なんかおかしくないか?」
「おおおおおおおおかしくなんかないわよ。それよりさっさと犯人探しに行ったらどうなの? こんな時くらいしか役にたたないんだからさっさと行きなさいよ」
「なんだか今日はやけに当たりが強いな。まあいいか、とりあえずちょっくら出てくるわ」
「ピルもいくー!」
「おーよしよし、肩車してこうなー」
「わーい!」
「普通に行け」
怒られてしまった。
仕方なく、ピルと手を繋いで家を出た。犯人を探せと言われても、証拠もなにもないのに探せるわけはないんだけどな。
しかしあのネティスに暗殺者か。どっちかというとストーカーって感じの方がしっくり来る。顔はいいからな。




