十一話
シアは大きく深呼吸し、覚悟を決めてソニアに向けて飛びかかった。
「わー! おねえちゃーん! 怖いよー!」
「あ、そういう演出のための深呼吸なのね。そこまでしろとは言ってないんだけどね」
まあいいか。
と、ここでラッパの音が響きわたった。
『ミッションコンプリートゥ』
「今じゃねーよ! おせーのかはえーのかもわかんねーよ! クソっ!」
じじいの判断基準が本当にわからない。いや、飯食ってたとかトイレ行ってたとかそういう感じだとは思うけど。
「ちょ、ちょっとアンタ離しなさいよ! 前が見えないでしょ!」
「怖いよー! 助けてよー!」
シアがめっちゃ睨んできた。早くしろっていう催促の眼差しだ。
「わかったわかった」
軽く手を上げてからモンスターの方を見た。目が合うと「もういいのか?」と言わんばかりに首を傾げていた。
「もういいよ、かかってきなさい」
「グオオオオオオオオオオオオ!」
二足歩行から四足歩行へと変わり、モンスターが突進してきた。速度は尋常ではなく、一般人ならまたたく間に轢き殺されてもおかしくない。
律儀なモンスターに両手を合わせ、俺はその突進を正面から受け止めた。
ゴツンと大きな音がした。俺の頭とやつの頭がぶつかったのだ。
「痛い痛い」
一瞬だけ意識を失いかけた。身体の方はモンスターとの隙間に風のクッションを作ったのだが頭が当たるとは思っていなかった。
「お前、殺すのはちょっと惜しいんだよな」
すごい律儀だし礼儀正しい。ペットとして飼えば最高の相棒になりそうだ。
「ブオオオオオオオオオオオオ!」
「ん、お前最初から凶暴なモンスターだったわけじゃなさそうだな」
近付いてみてわかったが元はただの豚型のモンスターっぽい。誰かが魔力を与えて大きくしたんだ。もしくは自分から魔力を吸収したか。これがわかるのも百回死んだおかげでもある。まあ魔力感知系は魔王の時に一通り持ってた能力だしな。
そうと決まれば善は急げだ。
「お前もここで死にたくはないだろう」
「グルル……」
「んじゃやるか」
ゆっくりと風魔法を解いて密着。そしてモンスターの中にある邪悪な魔力を一気に引っこ抜く。俺にとったらこんなのわけないが、引っこ抜かれた方はどうなるんだろうな。めちゃくちゃ痛いのかもしれないし、めちゃくちゃ気持ちいいのかもしれない。
モンスターは叫び声を上げながら、光に包まれて縮小していく。最終的には俺の両手に乗るくらいまで小さくなってしまった。
地面で小さくなるそれをすくい上げるようにして持ち上げた。
「どうだ、動けるか」
もぞもぞと動き、鼻先をこちらに向けた。つぶらな瞳が非常に愛らしい。
「ぷぴぃ」
「鳴き声くっそ可愛いな」
「ぷぴ、ぷっぴぃ」
ジャンプして俺の肩に乗っかった。そして優しめに頬ずりしてくる。
「お前もしかしてメスか?」
「ぷぴっ!」
「ヒロイン、お前だったのかもしれんな……」
クソじじいが神様ってことを考えれば十分ありえる。まあでもさすがに豚がヒロインはありえんか。人型に変身しない限りはないな。
「ない、よな?」
「ぷ?」
「うん、大丈夫そうだ」
シアに手を振ると、だるそうな顔でソニアから飛び降りた。
「何?! 何が起き……起きてない?」
「ああ、なにもなかったぞ」
「あのデカイモンスターは?」
「これ。小さくなった」
「なんで?!」
「知らん。これが本来の姿なんだろ。さあ帰るぞ、目的のマトゥタケは採ったわけだしな」
カゴを持って出口へと向かうことにした。自生していたマトゥタケは豚のせいでほぼ残っていないが、自分たちの分は確保したのでいいとしよう。
「ところで出口ってどこだよ」
それから二時間、俺たち三人と一匹は山の中をさまよい歩いた。




