一話
魔族とシアが会話していたのは、町の人間のほとんどが見ていたに違いない。しかし、どこでどう捻じ曲がったのか、シアが魔族の捕虜にされそうになったということで町に広がっていった。変な詮索もされないし楽でいいからこのままにしておこう。
それはそうと、ウチにはなぜかローラが言い座っていた。
朝食まで自然に食べている。どんどん人が増えるな、この家。
と、そこでドアがノックされた。母さんがドアを開けると、近くの農家のおっさんがいた。
「今日はイモの収穫があるんだ、ローラちゃん借りてもいいかな」
「どう、ローラちゃん」
「任せるがいい! 私がいればイモの収穫などたやすいことだ!」
そう言いながら、ローラが家から出ていった。近くに住むあのオッサンも、ほぼ毎日ローラを誘いに来る。まあ、大人十人分くらいの働きするからな。終わったあとはお裾分けも持ってくるし、好きにやらせておくか。
あれから数日、ローラもシアも異様なほどに町に馴染んでいた。
「馴染むというか、なんというか……」
狩りも畑仕事も、町の人から言われるとホイホイついて行ってしまう。そして数日分の食料を持ってくるのだ。正直俺が働かなくても全然食えてる。
だがそれ以上に馴染みつつある存在が、俺の目の前で光沢を放っていた。
「なんでおめーが食卓で飯食ってんだ? ああ?」
母さんはキッチン、スピカは遊びに、今ここには俺とそいつしかいない。
「ワシも人間の食事が食べてみたくてのぅ」
「いつでも食べられるよね? 俺の家に来なくてもいいよね?」
紛うことなきハゲ、そう、神様である。
「知ってる人間がいる人の家の方が居心地いいじゃろ? そういうことじゃよ」
「まったくわからん。マジでさっさと出てってくれるか。女の子と会話してる時間よりお前と会話してる時間の方がたぶんなげーんだわ。たぶんな、俺が思うに、このままだとお前がメインヒロインになっちゃうんだわ」
「お主、ワシを狙っておったのか……?」
「狙ってねーよ!」
今日始めの一発。光源に向けて怒りを叩きつけた。
「クソっ! いい音するじゃねーか!」
「痛いのぅ。ワシにこんなことするのお主くらいじゃぞ」
「お主くらいって、お前会話するような相手いるのか」
「おらんけど? この世界の神様はワシ一人じゃからな」
「は? この世界の神話っていろんな神様いるだろ」
「ああ、それ全部ワシじゃよ」
「中には女神とかもいるんだぞ。嘘も大概にしとけや」
「その女神の名前は?」
「例えば……豊穣の女神フェントナとか、浄化の女神インクルスとか?」
「ワシワシ」
「なんだ、詐欺か」
「詐欺じゃないわい。このヒラヒラの服、こうやって頭に被ればロングヘアー見えるじゃろ」
「いやいや、いくらなんでも無理だろ。どうやっても顔は誤魔化せないし」
「神様、舐めておるな? 顔なんていくらでも変えられるんじゃ。それに神話などそんなもんじゃい。人が書いたもんなんてあてにならんのー」
「笑ってる場合じゃねーから。この世界に住む人間全てに謝罪しろ。でも邪神イスクスと全能神ビブロキアの戦争はどうやって説明すんだよ」
「一人二役くらい簡単じゃ。ワシは神様じゃから」
「なんでも神様だからで済ませようとするの、絶対やめた方がいいぞ」
「大丈夫じゃ。神がワシしかいないということは、誰もワシを断罪できんからのぅ」
「好き放題だな……それはそうと、今日はなんで来たんだよ。一昨日は飯食いにきただけだったし、昨日は飯食いに来ただけだったろ」
そういやコイツ、飯食うためにしかうちに来てないのでは。
「今日は新しいクエストを持ってきたぞよ。感謝したまえ」
「内容によっちゃ叩き切るぞ」
「怖いのぅ。大丈夫じゃ、お主なら完遂できようぞ」
「ああそうかい。じゃあ外でも行くか。ここでもなんだしな」
「部屋でもいいんじゃぞ?」
「黙れ」
俺が立ち上がると、じじいも渋々立ち上がった。
「それじゃあお母さん、今日も美味しいごはんありがとうございました」
「いいのよ、アルの友達ですもの、遠慮しないでまた来てちょうだい」
「ありがとうございます」
一礼して、じじいが家を出ていった。
追いかけて肩を掴む。
「おい、ちょっと待て」
「なんじゃ、藪から棒に」
「母さんにはお前の姿、どういうふうに見えてるわけ?」
「金髪のイケメンじゃよ。爽やかな感じを演出してある。とりあえず歩きながら話すぞよ」
こういう時は妙に落ち着いてるんだよな。
「そういう能力があんの?」
「お前も持っておるぞ。認識阻害、認識変化とかそういう類の力じゃ」
「俺も持ってるっていうのは?」
「昔魔法少女に転生したじゃろ、その時に取得したはずじゃ」
「結構昔だよな、それ。魔法少女に変身できる能力は覚えてるけど、そんなことまでできるのか」
「認識阻害はな、相手からの見方を変えることができるんじゃ。もちろん透明人間になってあんなことやこんなことも可能じゃ」
「いや、だったら最初から透明の状態で来てくれよ。俺の友人だとかわざわざ嘘つく必要もねーだろ」
「ご飯食べられなくなってしまうじゃろ」
「判断基準が神様のそれじゃねーよ」
「お、今ので思いついたぞ。次のクエストはコインと一緒にタブレットをやろう。極薄で超小さいやつじゃ」
「なにを思いついたか知らんがいきなり世界観ぶっ壊してくね」
「世界観なんぞあってないようなもんじゃ。なんとか観なんちゅーのはな、結局そいつのエゴなんじゃよ。エゴを正当化するためにそう呼ぶんじゃ」
「ドヤ顔でそれっぽいこと言ってんじゃねーぞ。で、そんな小さいタブレットでなにをしろと」
「大丈夫じゃ、画面に人差し指と親指を当てて広げると、透明な大きな画面が空中に現れるようにしておく」
「ああ、SFとかでよく見るやつな」
「そうじゃ。今のお前は自分のレベルもわかっておらんじゃろ。他人のレベルもなんとなくしかわからない。モンスターのレベルもじゃ」
「そりゃそうだ。レベルを見る能力は、冒険者ギルドで神の祝福を受けないと得られない特殊スキルだ。冒険者ギルドなんて俺には無縁だからな」
「だから、そのタブレットに神の祝福を与えてやる。忘れてる転生継承で得た能力も見られる。自分のレベルも確認できる。そして他人のレベルやスキルも見られる。最強じゃろ」
「その能力を俺自身にかければいいだろ」
「バカじゃな、そんなズルさせるわけないじゃろ。あれは冒険者の特権じゃ」
俺とこうやって話してる時点でズルなんだけどな。
「で、肝心のクエストの内容は?」
「はい、昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました」
「その紙芝居どこから取り出したんだよ」
アンニュイな絵でおじいさんとおばあさんが描かれた紙芝居が始まった。もうなんなんだよ。
「おじいさんは山へドリフトに」
「その年で走り屋現役なんだね、おばあさん大変そうだな」
「おばあさんは川へ血を洗い流しに」
「展開。展開が怖すぎる。テンションだださがりじゃねーか」
紙芝居がめくられると、そこにはこう書かれていた。
『特殊クエスト、フレンドを作ろう』
はいはいラッパラッパ。
「友達って言おうね。つか続きめっちゃ気になるんだけど」
「また次の機会じゃ」
「紙芝居挟まなくても良かったんじゃないかな。で、友達作ろうって言われても、一応俺にも友達いるぞ」
「名前を上げてみよ」
そう言われると出てこない。いや、でもビリーは一応友達ってことでいいだろ。
「……ビリー、とか?」
「ちょっと言い淀んだな。じゃあそのビリーと友達になるんじゃ」
「だから友達だって」
「本当に友達かどうか確認してみたらええぞ」
「そこまで言うなら確認してやろうじゃねーか」
「ワシは一旦上に帰るでの、制限時間は二十四時間じゃ、しっかりなー」
前回のように、光の粒となって消えてしまった。すべてが唐突、突拍子もなさすぎて困る。




