十五話〈アルファルド〉
なんでコイツがここにいるんだ。確かに熱でうなされてたはずなのに。
「なによ、その顔」
「どんな顔してるかはしらんけど、まあ、変な顔になるのも仕方ないんじゃないでしょうか?」
「なんで疑問形?」
と、そこに氷柱の雨が降り注ぐ。
シアが右手を上げると、なにか小さいものが目の前に現れて氷柱をすべて防いだ。
「離れるわよ」
俺を抱きかかえたままシアが跳躍。イズルから数十、メートル離れたところに着地した。
シアは「ふう」とため息を吐きながら仮面を脱いだ。
「いや仮面は最初から外しておいてもよくない? なんで仮面つけてきたの? そういうプレイなの?」
ゴンっと頭をぶん殴られた。
「痛いが」
「うっさい。助けてやったんだから黙って感謝しなさいよ」
そう言いながら腕を組む。ちょっとだけ顔が赤いのが気になる。
だがコイツに助けられたのは間違いない。
「大丈夫なのか?」
「なにが」
「熱とかいろいろ」
「今は大丈夫。おじいさんがなんとかしてくれたから」
おじいさんと聞いたらまあ一人しか思いつかない。が、ここであのクソじじいの存在を認めるわけにはいかない。
「そんな有能な人知り合いにいたっけ?」
とりあえずしらばっくれてみるか。
「すごいことができるおじいさんなんて一人しかいないでしょ」
「どこに住んでる人?」
「もういいからそういうの。アンタ、神様といろいろやってたんでしょ? 全部聞いたわよ」
しらばっくれることもさせてもらえない状況らしい。あのじじい、シアに接触しやがったのか。
「全部ってどこまで?」
「コイン集めて私の魔王特性を消そうとしてたってやつ」
「まあ、全部だよね」
それしかないんだけど。
しかし俺が108回転生したとかそういう話はしていないらしいな。どうしてじじいと知り合ったのかとかこれから訊かれることになるかもしれんが、今は気にしてないようだから俺も触れないでおこう。
「つかお前なんか強くない? レベルもそうだけど、あの小さいのなんなの? バリア出したりしてたけど」
「それはおいおい教えてあげる。今はとにかくアイツを倒さないと」
イズルがゆっくりと近づいてくる。いつもへらへらしていたアイツが無表情だと少し怖いな。特にレベル差がある分、体がアイツを拒否してる感じがする。
「これは、どういうことかな」
どうやらシアに声をかけているらしい。
「助けにきちゃ悪い? っていうかアンタ、よくやってくれたわね」
「でもトレントに取り込まれて死んでしまえば、また別の存在に転生できるかもしれなかったんだよ? それは魔王をやめるのと一緒じゃないか? まあ人間になれるかどうかはわからないけどね」
イズルがいつもどおりのえみを浮かべた。横にいるシアから殺意が湧いてくるのを感じた。見なくてもどれだけ怒ってるかわかるくらい、怒りが魔力になって漏れ出しているのだ。
「アンタが本当のクズだっていうのはわかった。誰かに騙されていたとか、誰かを人質にとられていたとかそういうこともなさそうだし。これなら迷うことなくアンタをぶちのめせるわ」
「ぶちのめす? キミが? 自分のレベルがわかってて言ってるのかい?」
「別に私一人でやるわけじゃないし」
と、シアが俺を見上げた。
「だよな」
俺はシアの頭に手を乗せた。
「仲がいいみたいだね。でも仲がよくてもレベルの差は埋まらないよ」
そうだ、いくら二人で挑んでもイズルに勝てるかはわからない。単純にレベルを足しただけでは意味がない。それはイズルと一対一で戦った俺が痛感している。しかしシアのレベルが俺のレベルに到達しているとは思えない。それでも前より強くなっているような気はする。どれくらい強くなったのかはわからないが、これもじいさんがやったんだろうか。
「レベルの差はレベルで埋めるわよ。今の私が先日までの私だと思わないことね」
シアが右手を前に出すと腕輪がバラバラになってチャームが空中に浮いた。なんだあれ、あんなの知らないぞ。
「なにそれ、かっこいい」
「神様はファン○ネルとか言ってたわよ」
「マジかよ。ネオタイプじゃないと使えないあれじゃん。俺も欲しい」
なんて言ってる間にイズルが氷柱を何本もぶつけてきた。先程と同じようにシアがバリアを作ってそれを防ぐ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。どうせ言っても利かないだろうから好きなようにやりなさい。私が合わせるから」
「それならありがたい」
元の世界でも団体競技は得意じゃない方だったからな。誰かに合わせるというのは性に合わない。その割に要領もよくないもんだから、人生って難しいなーなんて思った記憶がある。
しかし今は違う。やろうと思えばいろいろできるだけの力がある。シアのあのチャームもかなりの力を持ってるみたいだし、防御方面は任せてもいいんだろうな。
「うし、行くか」
自分の体を魔法で癒やしてからイズルに向き直った。
そしてシアの援護を受けながら一気に接近する。
氷柱も電撃も炎も、そのすべてを避けてイズルの背後を取った。だがイズルに驚いた様子はない。そんなことをしても無駄だと言いたげな瞳を見ていると怒りが湧いてくるようだ。




