十三話
次の瞬間、私は現実世界に戻っていた。
ベッドの上に寝そべっていた。豚型のピルが私のことを心配そうに見下ろしていた。が、私の胸の上に乗らないで欲しい。
「ちょっと、意外と思いんだから」
ピルを抱き上げてから起き上がる。
ピルを床に下ろして立ち上がれば、息苦しさも気だるさもどこかに飛んでいってしまったみたいに元気だった。
なによりも体中に魔力が満ちている。これがあのコインの効果なのか。
「そういえば神様とか言ってたっけ……」
「呼んだかのう」
ひょいっと、神様がドアの向こうから顔を出した。
「なんでいるの……」
「神様だから?」
「そんなところにいたら他の人達に見つかっちゃうんじゃ?」
「大丈夫じゃ。ワシの姿は見えとらんからのう。神様は万能じゃから覗きもし放題じゃ」
「クソみたいな発言を聞いた気がする」
「覗き放題なのは間違いないが別に覗くとは言ってない。神様じゃから、そのへんはちゃんとせんといかんからのう」
「よくわからないけどなんでここにいるの?」
とは言ってみたけど、そういえばこの人がいないとアルの場所もわからないか。
「ここにいる理由なんて一つだけじゃろう。お主に力を与えに来たんじゃ」
「力?」
「これじゃ」
そう言って神様はなにかを空中に放り投げた。あれは夢の中で見た九枚のコインだ。
コインは空中で縦長に膨らんで豆のような形になった。そしてまるで生きているかのように私の右手に吸い寄せられた。九枚のコインが連なって、まるで腕輪のようになったのだ。
「なにこれ、怖いんだけど」
「それはお主の意思でコントロールできる……いわばファン○ネルってやつじゃな」
「ファ○ンネル?」
「なんちゃらビットとかそういう言い方もされるのう」
「よくわからないけどそれってなに? 説明が欲しいのに名称ばっかり話すから要領を得ないんだけど」
「ズバズバとキツイことを言う子じゃのう……」
面倒だからちょっと睨んだら「ひっ」と言って少しだけ離れていってしまった。
「わかったから睨まんでくれ。それはビットコイン」
「名前がヤバそうだけど」
「じゃあコインビー」
「ヤバそうな名前しか出てこない。絶対なにかのオマージュでしょ」
「じゃあ好きなように呼んでよ、もう。文句ばっかり言われてワシのメンタルはボロボロじゃわい」
「じゃあレッドマトン」
「はい決定」
意外とあっさり決まったわね。
「レッドマトンは一つ一つがお主の魔力で動くことができる。ただしお主の思いのままに動かせるわけではない、お主の魔力を糧にして動いてるだけでな」
「私の意思に関係なく動くってこと?」
「一応マトンたちにも意思があるからのう」
「生きてるの?」
「みたいなもんじゃな。だからこうして欲しい、ああして欲しいっていうのを念じてお願いするんじゃ」
「お願いって……」
アルが集めたコインなのに願いしないと動いてくれないのかと。
「まあ素直な子たちばっかりじゃから大丈夫。お主のような可愛い女人の言うことならきっと利いてくれるじゃろう。たぶん」
「きっとっていう言葉とたぶんっていう言葉を同じ文章に使うのやめてもらえる?」
高確率で叶うであろう希望と、叶って欲しいというただの願望を一緒にしないでいただきたい。
「本当に大丈夫じゃから心配せんでええ。でじゃ、マトンは自分で行動できるが限られたことしかできん。見てわかる通りに手足がないから、物理的には体当たりを使うことになるじゃろう。その代わり魔法を使うことができるんじゃが、これも限られたものしか使えない」
「限定ばっかりじゃん」
「このちっこい見た目でとんでもないことができたらそれはそれで問題じゃろ」
「たしかに」
「んでその魔法なんじゃが、一個一個違う魔法が使えるんじゃ」
「なるほど。魔法の種類は?」
「光線、暗黒、火炎、電撃、地変、旋風、水泡、回復、分析の9個じゃな」
「それらにお願いしてうまいこと戦えってことね」
「そういうことじゃ」
「でも分析って最初ちょっと使ったら使わなくなりそうね」
「そういうことは言わん方がええぞ。日陰で泣いてしまうかもしれん」
「感情もあるの……?」
「当然じゃ」
この人はコインになにをさせようとしたのだろう。さすがに神様といえど好き勝手しすぎなんじゃないだろうか。
「まあとにかく私の力になってくれるのね。でも見た目が分かりづらいわね」
全部金色なものだから見分けがつかない。
「じゃあちょっと見た目を変えよう」
神様が指を鳴らすと、マトンはぐにゃりと姿を変えた。星型、十字形、ハート型、三角、四角、丸形、棒形、雫形、渦巻形の9種類。
「見た目がやかましい腕輪が出来上がってしまった」
「でもわかりやすいじゃろ」
そこに関しては言い返せなかった。




