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W婚約破棄された伯爵令嬢はクーデレ王太子から愛されていることに気づかない  作者: 雨宮羽那
第5章

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43・厄介な男③


 どういう名目でシュミット様が城の中へ入り込んだのかは私には定かでは無いが、とりあえず顔を合わせるのは避けたい。


 ――見つかったら絶対面倒くさいことになるわ……!


 私がシュミット様から逃げようと、踵を返したその時。


「ソフィ! こんなところにいたのか!!」


 後ろからシュミット様の大声が聞こえてきて、私は頭を抱え込みたい気分になった。


 ――げっ! なんで見つかるのよ! 目ざといわね!

 

 これはもう、適当に挨拶をしてさっさと退散しよう。そう決めた私は、作り笑いを浮かべて一応顔だけシュミット様の方を振り返った。

 

「シュミット様……。ごきげんよう。それでは――」


「待ちたまえ。僕は君と話をしに来たんだ」


 シュミット様は私が退散しようとしていることに勘づいたのか、被せるようにして言う。

 面倒くさいことこの上ない。


「昨日は邪魔が入ってしまって話せなかったからね。だからわざわざ君の職場まで足を運んだんだよ」


「そうですか」


 ――お帰りください。


 こちらとしては、シュミット様とする話などないのだ。さっさとウィリアム様のもとへ行きたいのに邪魔されているものだから、苛立ちを感じてしまう。


「僕がなぜ君とよりを戻してあげようと思ったと思う?」


「さあ……」


「もっと興味を持ちたまえ!」


 ――だって興味無いもの……。


 私からしてみれば、シュミット様は未練もなにもない元婚約者である。興味津々な方がおかしいだろう。

 気のない私の様子にシュミット様は不満げだったが、ごほんと咳払いをすると再度口を開いた。

 

「僕は近々外国に渡り、会社を立ち上げようと思っている。しかし、父に融資を頼んだにも関わらず、なぜか断られてしまったのだ」


 ――そりゃそうでしょうよ。


 浮気をして婚約を破談にするわ、勝手に行方をくらませるわ、挙句今度は融資をしろとは、親からしてみても自分勝手にもほどがあるだろう。

 エディン侯爵様が融資を断ったのもわかる気がした。


「そこでだ! 君を人生のパートナーとして再指名すると同時に、ビジネスパートナーになって貰おうと思ったわけだ!」


 シュミット様は私に向かってぱちりとウィンクをして見せる。寒気がするからやめてほしい。


「……ビジネスパートナー?」


 怪訝に思いながらも問い返した私に、シュミット様は自信満々な表情で頷いた。

 

「ああ! 君は仕事がしたいと僕に散々言ったじゃないか! 君が僕に援助をして会社を立ち上げるのを手伝ってくれれば、君が僕のために仕事をすることを認めよう!」


「はあ……?」


 突拍子もないシュミット様の話に、私はあんぐりと口を開いてしまった。

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 

 つまりは、会社を立ち上げるための資金をガーランド伯爵家から出させるために、私とよりを戻して結婚しよう、という魂胆だろうか。ついでにシュミット様のためなら働いてもいいよ、と……。


 ――冗談じゃないわ……。

 

 恐らくシュミット様はブランカ様に振られ、親からも見放され、行くあてがなくなって私の元へ来ているのだろう。

 あまりにも自分本意なシュミット様の話に、怒りを通り越して呆れてしまう。


「シュミット様、その話お断りします。私はあなたのために生きるつもりはありません」


「なんだって!? 君に断る権利なんかない! 君は僕のものだろう、ソフィ!!」

 

 はっきりと告げた私に、シュミット様は信じられないとでも言うようにぐわっと目を剥いた。

 凄まじい形相をして、私に掴みかかろうとしてくる。


「……何言ってるの? 彼女は俺のなんだけど」


 その時涼やかな声が割り込んできて、シュミット様も私も咄嗟に動きを止めた。

 はっと廊下の向こうへ視線を向ければ、そこには不快そうに眉をひそめたウィリアム様が立っていた。

 

「ウィリアム様……!?」


「え、な、はぁ!? ウィリアムって、ウィリアム殿下!?」


 驚いてウィリアム様を呼んだ私と、私の口から出てきた名前に慌てふためくシュミット様。

 どうやら、シュミット様がウィリアム様と顔を合わせたのはあの中庭の日の一瞬だけのようだ。

 シュミット様は、王太子であるウィリアム様の名前は知っていても顔は知らなかったようで、ウィリアム様と私を何度も見比べている。

 

 そんなシュミット様には構わず、私の目の前までつかつかとやってきたウィリアム様は、ぐいっと私の腕を取った。

 

「行こう、ソフィリア」


「え……。あっ」


 そうして私はウィリアム様によって、呆然とするシュミット様の前から離れることになったのだった。



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