42・厄介な男②
シュミット様が突如来訪してくる、というハプニングがあった翌日。私はいつも通り、執務室で仕事を行っていた。
――シュミット様には困ったものだわ。
昨日屋敷の人間総出で話し合った結果、とりあえずのシュミット様への対策として、外出する際はしばらく父が同行することになった。
とは言っても、私の外出は基本的に職場である城へ向かうくらいだ。父も騎士団長としての仕事があるから、四六時中私のそばにいるというわけでは無い。
そのことに多少の不安はあるが、仕事中はウィリアム様とエリオットが近くにいる。
さすがのシュミット様も、城の中でなにかしてくることはないだろう。と、信じたい。
「ソフィリア。今日の夕方、良かったら一緒にお茶しない? 隣国から珍しいお菓子が届いたらしいんだ」
「ええ、ぜひ」
ウィリアム様と私の関係はというと、安定していて平和そのものである。
執務室で仕事をし、休憩を共にすごし、時には夕方お茶をしたり話をしたりする。
――ああ、癒されるわ……。
ウィリアム様はシュミット様と大違いだ。
そばにいるだけで落ち着く。ウィリアム様は私に無理難題を強いてこないし、考えを押し付けてきたりしないからだろう。
昨日久しぶりにシュミット様と対面したからか、余計にウィリアム様の良さを感じてしまう。
「いいですねぇ……。仲良きことは美しきかな……」
エリオットは、そんな私とウィリアム様の様子をにこにこと微笑ましそうに見守っていた。
◇◇◇◇◇◇
「そろそろ夕刻ですね」
エリオットのそんな声が聞こえてきて、私ははっと顔を上げた。
集中して仕事をしていたせいか、時間の経過にまったく気づいていなかったのだ。
エリオットの言葉通り、執務室内の大きな窓からは橙色の光が差し込んできている。
「今日は終わりましょうか」
エリオットは自分の机の上を片付けながらそういった。
私も終わりたいのだが、今日の仕事はキリが悪かった。明日続きをやろうにも、資料が不足している。
――せめて、今日のうちに資料は揃えておきたいわ。
「ごめんなさい、私、この資料だけ探してくるわ。ウィリアム様、いいかしら?」
しかし今日はこの後、ウィリアム様とお茶をする約束をしていた。
一応許可を取る必要があるだろうと思い尋ねると、ウィリアム様はこくりと頷いた。
「俺はここで待ってるから、探してきていいよ」
「ありがとうございます!」
「ええー、ソフィリア様は真面目だなぁ」
お礼を言う私の横で、エリオットはやれやれと肩をすくめて苦笑している。
どうやら私が仕事人間であることを半ば呆れているのだろう。
「それがソフィリアのいいところだろ。俺は好きだよ」
「はいはいご馳走様ですー!」
ウィリアム様は、私に向けたのではなくエリオットに向けてそう返した。
この王子様、気取った様子もなくさらりとこういうセリフを吐いてくるものだから心臓に悪い。
「す、すぐに見つけてきますね!」
私は顔が赤くなっているであろうことがバレないようにと、急ぎ足で執務室を飛び出した。
◇◇◇◇◇◇
しばらく資料室内で資料を漁っていると、私が目的としていたものは見つかった。
――早く執務室へ戻らないと……。
ウィリアム様をあまり待たせるわけにも行かないだろう。
私は資料を抱えて、すぐに資料室を出る。
執務室へ戻るべく元きた道を戻っていたのだが、廊下の先から歩いてくる人物を見て目を疑った。
――っていやいや、なんでここにいるのよ!?
なんと、シュミット様がキョロキョロと周囲をうかがいながら、城の廊下を歩いていたのである。




