35・殿下はうたたね②
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なんだか肌寒いような気がして身震いしながら私が目を開くと、そこは夕暮れ時の中庭だった。
橙色の光が、中庭に広がっている。
「……あれ……」
私はぱちぱちと瞬きを繰り返して、まだぼんやりとする思考で考える。
――私、確かウィリアム様に誘われて中庭へ来て、でも途中でウィリアム様は眠ってしまって……。
どうやらウィリアム様につられて、私まで眠ってしまっていたらしい。
ウィリアム様は、いまだ私の膝の上ですやすやと寝息を立てている。
ウィリアム様の頭が膝の上に乗ったままであることを自覚したからか、途端に膝が痺れてきたような気がした。
「……ウィリアム様、ウィリアム様、そろそろ起きましょう?」
私はウィリアム様の肩を軽くゆすって声をかける。
まだ秋の初めで気温が高いとはいえ、日が暮れると気温は下がっていくばかりだ。このまま中庭で何もかけずに眠っていては風邪をひいてしまうだろう。
――それに、私の膝も限界だわ……!
何度もウィリアム様の体を揺さぶっていると、やがて目を覚ましたようだった。
ウィリアム様がゆっくりとまぶたを開ける。
「ん……ソフィ、リア?」
まだ眠気が完全に覚めていないようで、ウィリアム様はまぶたを擦りながら体を起こした。
「ごめん、結構眠ってしまった」
「ウィリアム様、寝不足だったんですか?」
ウィリアム様は小さく頷いた。
「……うん。昨日色々考えごとをしていたら、眠れなくて」
――なんだか、珍しい気がするわ。
私の中でのウィリアム様は、比較的悩むことなく即断即決のイメージだった。ウィリアム様は仕事が早いからだろうか。
「何を考えていたのですか?」
この王子様が、眠れなくなるほどに考えていたこととは何なのだろう。
尋ねると、ウィリアム様は私の方をじっと見つめてきた。
「……君のことだよ」
「え?」
「君にもっと近づくには、どうしたらいいのかって」
ウィリアム様から真っ直ぐに視線を注がれて、上手く反応が出来ない。
まさか、ウィリアム様が眠れなくなるほど考えていたことが自分のことだなんて、思ってもみなかったのだ。
「君をもっと知りたい。そばにいたい。触れたい」
私に対する言葉を言われているはずなのに、あまり現実味がなかった。
この想いは叶わないものとばかり思いこんでいたせいだろうか。
「俺は君に、恋をしているんだ」
その言葉を告げられた瞬間、私にはまるで時が止まったように感じられた。
上手く呼吸が出来なくて、口の中がからからにかわいていく。
「俺は……君が好きだよ。ソフィリア」
――現実味がないと思っていたはずなのに……。
ウィリアム様が真っ直ぐな瞳で言葉を重ねるごとに、私の心へ思いが染み込んでくるような心地がした。
ウィリアム様は困惑する私の手をそっと取って、自身の顔の方へ持ち上げた。
そして、そのまま私の手の甲へそっと口付ける。
愛おしげな仕草でウィリアム様に触れられて、カッと燃えるように私の体が熱くなっていった。
――どうしよう、動けない。
振りほどくことも、逃げることも、受け入れることも、何もできない。
――私だって、ウィリアム様のことが好きだわ。だけど……。
私は、自分の想いをウィリアム様に伝えてもいいのだろうか。
分からない。
私はただ泣きそうな気持ちで、私の手の甲に口付けるウィリアム様を見つめていた。




