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W婚約破棄された伯爵令嬢はクーデレ王太子から愛されていることに気づかない  作者: 雨宮羽那
第3章

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23・修羅場に遭遇①


「今日の夜会には不参加だったはずじゃないの!? こんなところまでついて来ないでちょうだい、シュミット!」


 シュミット、という名前が会話に出てきて私は確信を持つ。

 この廊下の向こうにいるのは、ブランカ様、そしてシュミット様で間違いないだろう。


「君が僕を避けているからだろ!? 君が夜会に参加するって聞いたからこっそり逢いに来たんじゃないか!」


「あなたが嘘つきでしつこいからよ!」

 

 言い争う二人の声に、とてもでは無いが尋常な事態とは思えない。私は恐る恐る声がする方へ向かってみることにした。

 声は、廊下の奥から聞こえてくる。この廊下を真っ直ぐ行った先にあるのは、中庭や大広間だ。

 

 ――どうしてブランカ様とシュミット様がここにいるの?

 

 私は廊下を進みながら、どうしてブランカ様たちが城にいるのかを考える。

 そもそもここは王城なのだ。貴族と言えども、用事がないのに気軽に足を踏み入れてよい場所では無い。

 

 ――そういえば今日って、確か城で夜会がおこなわれていたっけ?


 ブランカ様たちが城を訪れる用事として、私が思い当たることといえばそれくらいだった。

 この城では、定期的に貴族を招いての催し物が行われている。私が以前参加していた、大広間での茶会のようなものだ。

 今回の夜会の招待状は、一応我が家にも届いていた。だが私は、他の貴族に会いたくなかったことと仕事を理由に不参加を選択したのだ。

 

 なお、王太子殿下が夜会に参加するとは微塵(みじん)も聞いていないので、恐らく今回もウィリアム様は不参加である。

 もしウィリアム様が参加されるのならば、エリオットがきっと昼間からお祭りのように騒ぎ立てているだろうし、夜会直前の夕刻まで(ウィリアム様に付き従わねばならないエリオットが)仕事はしないだろう。

 

 そんなことを考えながら私が廊下を進んでいると、やがて中庭の前までたどり着いた。

 だが、ここにブランカ様とシュミット様の姿は見当たらない。


 ――どこにいるんだろう……。

 

 私がきょろきょろと周囲を見回したその時、再度ブランカ様の声が聞こえてきた。

 どうやら二人は中庭よりもさらに奥の方で言い合っているようだ。


 ――見つけた!

 

 様子を伺いながら奥へ進んでいくと、人けのない廊下の突き当たりに二人はいた。

 夜会用に着飾っているブランカ様と、なぜか普段着のような簡素な服装をしているシュミット様。

 私は二人に気づかれないように、そっと壁へ身を隠した。

 

 ――? なんでシュミット様、夜会なのに正装をしていないの?


 そういえば、エディン侯爵様によるとシュミット様はあの中庭で言い争った日を最後に、行方をくらまして音信不通になっていたはずだ。エディン侯爵様がシュミット様を心配すると共に「あの親不孝者が!」とブチギレていたのを思い出す。

 しばらく私が顔を見ていないうちに、いったい彼に何があったのだろうか。

 

「ブランカ! 一度は僕を支えてくれるって言ったじゃないか! 僕のためなら身分も捨てられると! あれは嘘だったのか?」


 シュミット様はブランカ様を相手に、憤慨(ふんがい)したとばかりに嘆いた。


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