19騎士団とのモンスター退治
ホワイト王国の騎士団は小型モンスター一斉討伐のために東の森へ向かう。
エリザは杖に乗って飛びながら、その行軍についていく。王太子であるレヴィンが乗る馬の横について。
(がんばらないと)
エリザの役目は全体のフォローだ。
怪我人が出たら治療して、危険になったら魔術で一掃する、簡単な仕事。
モンスターの討伐自体が慣れている仕事なので怖さはない。しかもこんな勇ましい騎士団と一緒なのだ。緊張感はあるが、恐れはない。
それどころか、こんないい天気の日に、こんな大勢で移動していると、なんだか旅行のようで楽しくなってくる。
二日かけて移動し、今回の目標地点の森に到着する。
道中はトラブルもなく平和そのものだった。しかしその平和は、森からスライムやゴブリンなどの小型のモンスターが現れた瞬間に終わる。
騎士たちは組織だった動きで出てくる小型モンスターを手際よく倒していく。騎馬部隊、重装部隊、弓矢部隊、互いに連携しながら粛々とモンスターを討伐していく姿はさすがの一言で、エリザが介入する隙はない。
「さすがですね」
エリザが思わず呟くと、隣にいたレヴィンが頷く。
――その時、レヴィンを護衛するアレックスが空を見上げる。そこにはワイバーンの姿があった。
しかし騎士団は慌てふためくことなく、弓矢部隊が一列になって弓矢を構える。
騎士団長の号令とともに一斉に放たれた弓矢は、ワイバーンの翼をやすやすと突き破った。
飛行のための翼にいくつもの穴が開いて、ワイバーンは空中姿勢を保てず落ちてくる。
落ちてきたワイバーンは重装の騎士たちが囲んで倒す。連携のとれた、鮮やかな手並みだった。
「以前ワイバーンに苦戦したことを反省して、対策を強化したんだ」
「なるほど……すごいですね、みなさん」
「ああ。今日は特に皆、士気が高い。エリザ、君がいてくれるからだろう」
「わたしは何にもしていません。レヴィン様がいらっしゃるからでは?」
「いや。私だけの時より、皆やる気だ。騎士とはそういうものなんだ」
レヴィンはそう言って笑うが、エリザには自分が士気に影響を与えているなんてにわかには信じられない。
「――王太子殿下、お気をつけください」
アレックスが緊迫した表情でレヴィンに注意を促した瞬間、さらに大きなモンスターの気配が森の奥でうごめいた。
メキメキと木が軋む音が響く。
のそりと出てきたのは、山のような身体に、丸太のような太い尾を持ったモンスターだった。
緑色の皮膚を守る分厚い鱗。大きな口から覗く鋭い牙。金色の目。
「ドラゴン……?」
――ドラゴン。世界最強のモンスター種。これは一般的なドラゴン種だが、その迫力は通常のモンスターとは格が違っていた。
「どうしてドラゴンがこんなところに――エリザ!」
「これはわたしがやっちゃってもいいんですか?」
「君だけでも逃げてくれ!」
エリザは杖を振った。
「わたしが逃げるのは最後です――弱体領域」
どんなに強いモンスターでも、その身体はエレメンタルで構築されている。モンスター特有のエレメンタルのマナ吸収率を阻害すれば、どんな強大なモンスターでも弱体化できる。ドラゴンであっても。
魔術紋章を地上に展開させる。ドラゴンの真下に。
エリザの狙い通り、ドラゴンはみるみる弱まり長い首を地面に落とし、腹を地につける。
「天雷!!」
雷魔術がドラゴンの真上に落ち、激しい光と熱で身体を構築するエレメンタルを破壊する。
ドラゴンの身体が霧散する。その存在の証をわずかにも残さず、ドラゴンは消えた。森が本来の静寂を取り戻す。
「王太子殿下! 聖女様! 聖女様!!」
あちこちからレヴィンとエリザを称える声がする。大歓声で森がざわめく。
もうモンスターの脅威はなさそうだ。エリザは杖を握って騎士たちの元へ駆け出した。
「皆さん大丈夫ですか? 怪我された方がいたら教えて下さい」
怪我をしている騎士の治療に回る。怪我人は少なく、重傷者はいなかった。
そうして王国騎士団のモンスター討伐は無事に終了した。
◆ ◆ ◆
また二日かけて王都に戻り、城に入ったエリザは早速レヴィンに尋ねた。
「次は何をしましょうか」
「何かあったら話すから、しばらくゆっくり休んでくれ」
エリザは青ざめる。
「もしかして……もうわたしにできるような仕事がない……とか」
「いやいやいや。私からの正式な依頼はいまのところはないだけだ」
それは仕事がないということではないだろうか。
エリザがふらふらとした足取りで部屋に戻ると、メイドのマリアンヌがエリザを出迎えた。
「おかえりなさいませ、聖女様」
エリザはぼんやりとした顔でマリアンヌを眺める。マリアンヌはいつも完璧にきれいだ。いつでも完璧なメイドだ。
「……マリアンヌさん、部屋を変えてもらえないでしょうか」
「承りました。どのような部屋をご希望ですか」
「わたしごときが希望なんて……もういっそ物置でも――そう、物置がいいです。どこか外の! わたしこんな立派な部屋にいる資格ないですので!」
「聖女様、落ち着いてください。そのご要望は承れません」
――確かに、王太子の聖女が外の物置に押し込められたと噂になれば外聞が悪すぎる。
「聖女様、いかがなされたのですか?」
「……ないんです」
「何がでしょうか」
「やることがないんです! 仕事がないわたしなんて生きている価値がありません!」
「聖女様、落ち着いてください。いまはなくても、すぐに聖女様しかできないことがでてきますので」
「そうかもしれないですけど……」
――そうではないかもしれない。
これからも仕事が入らなかった場合が怖すぎる。
「聖女様、もしお暇でしたらパーティに参加されてみませんか?」
「パーティ? 警備としてですか?」
魔術師は人間相手に攻撃魔術を使うことはできないので、警備としてはあまり役に立たないのだが、要請があるのなら馳せ参じる。
「主賓としてです。聖女様を招きたいとおっしゃられている貴族がたくさんいらっしゃいますので」
「――無理です。ダメです。わたし、マナーもよく知らないし、ダンスもできないし、気の利いた会話もできません……田舎から出てきた一般魔術師なんです……レヴィン様に恥をかかせてしまいます……」
自分が道化になるのはいい。笑って喜んでもらえるなら、それでも構わない。
だがエリザはレヴィンに――王太子に雇われている聖女だ。あまり無様な真似をすれば、レヴィンにまで迷惑がかかるかもしれない。そう思うと恥をかくような行動ははばかられる。
「では基本のマナーとダンスを覚えましょう。ダンスさえできればパーティで会話がなくても大丈夫です」
「ひえっ」
「王太子殿下と聖女様がパーティでダンスを踊られれば、きっと素晴らしい光景になるでしょう」
「ひええっ!」
エリザはおののいて後ずさった。マリアンヌは何を言っているのだろうか。どんな光景が見えているのだろうか。
エリザも想像しようとしてみたが、頭がくらくらした。貧血かもしれない。
「ダメ、ダメですよそんなこと。レヴィン様の婚約者の方に悪いです」
「いらっしゃいませんよ」
「え?」
「王太子殿下には決まった方はいらっしゃいません」
「…………」
「何も問題ございません」
「――あります! ありますから! 問題だらけですから!」
必死の抵抗むなしく、エリザはマリアンヌからダンスの基本を指導されることとなった。




