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16図書館にて




 夕方になって王城に戻ったエリザは、レヴィンに早速報告をした。

 執務室の机の上に地図を広げ、ふたりで眺めて話す。


「雨を降らせるのはぜひ頼みたい。今年は特に西部が日照り傾向が強いようで、収穫量にも不安があるんだ。乾いているところに時々降らせてくれたら助かる」

「はい、わかりました。定期的に巡回して、雨を降らせていきます」

「ああ。あと、水路については計画を上げてみよう。おそらく農閑期に人を雇って工事することになると思う。工事が難しいところについては、もしかしたら君に頼むかもしれない」


 エリザは頷く。


 魔術ならばすぐに水路を掘れることをレヴィンには伝えているが、レヴィンは皆の仕事を考えて計画を立てようとしている。農閑期に工事が入れば、労働者に賃金が支払われる。賃金が支払われれば民が潤う。幸せになる。


 レヴィンは魔術に頼らず、多くの人々の仕事を考え、国全体をよくしていこうとしている。それはエリザにはない視点だ。


「他にはえっと……あ、そうそう。小型の低級モンスターが異常繁殖しているような気がします。冒険者の人もそう言っていました」

「低級モンスターか……」

「いまはあまり問題はないですが、このままですと中級モンスターが増えていってしまいますので、殲滅してしまってもいいでしょうか?」

「いや、騎士団で対処しよう」

「騎士団に?」

「ああ。範囲が広すぎて人が足りない場合は、冒険者ギルドにも依頼しよう」


 騎士団と冒険者ギルド、まったく別物で接点がないようにエリザは思っていたが、レヴィンの中ではそうではない。同じ国に住む、同じ民。同じ目的に向かって協力し合える相手だと見ている。エリザは自分の視野の狭さを恥じた。


「そうだな……エリザは騎士団のモンスター討伐に随伴してくれないか。危険になったら支援してもらいたい」

「はい、もちろんです」

「ありがとう。私も同行するし、騎士団の中には君の力を既に知っている者たちもいるから、安心してほしい」


 その言葉を聞いてエリザは驚いた。


「レヴィン様もですか? 王太子殿下自らモンスター討伐に出るのは危なくないですか」


 レヴィンは不思議そうな顔をする。


「君や皆を行かせるのに私がここで待っているわけにもいかないだろう」

「お考えはとっても立派だと思いますが……レヴィン様、働きすぎではないですか?」

「それを君に言われるとは思わなかったな」





 騎士団の準備が整うまで、エリザはホワイト王国のマナについての調査をすることにした。だが、これがまったく成果が出ない。


 まずは発端となったと思われる100年前の大災害のことを調べようとするが、100年前ともなると当時のことを知っている人もいない。そのため城の図書館への入館許可をもらい、当時の記録や資料を当たってみる。


 それでわかったのは、当時の被害はとても凄惨なものだったということだった。襲いくる天災に、そしてその後の飢饉。窮地に陥ったホワイト王国を救ったのはブラック皇国だった。

 皇国の魔術王が大災害を鎮め、皇国が食料を援助した。そしてそれ以降、ブラック皇国とホワイト王国は友好関係となった。


(友好国というよりは属国扱いに見えるけれど)


 ホワイト王国は毎年のように莫大な金額をブラック皇国に支払っている。大災害のときの援助の謝礼として。王国には金が取れる鉱山があり、それが財源となっていた。


(――あ、いけないいけない。関係ないこと調べてた……)


 机の資料から顔を上げ、座ったまま大きく伸びをし、背を逸らす。


「聖女様、調べものですか」


 静かに声をかけられてそちらを向くと、王太子補佐のステファンが立っていた。


「ステファンさん……はい。どうしてこの国のマナがおかしいのか調べようと思って、手掛かりを探していたんですけど……なかなかうまくはいきません」

「魔術に関することならば、こちらでもお手伝いできませんね。申し訳ありません」

「いえいえ。あの、それよりもちょっとお聞きしたいんですが、レヴィン様って働きすぎではないですか?」


 ちょうどよい機会なので聞いてみた。レヴィンの補佐をしているのなら、彼がどの程度働いているかよく知っているだろう。


「そうですね。もともと文武両道で公務にも精力的な方でしたが、聖女様がいらしてからますます励んでいらっしゃるようです。何しろ変化したことや、新しくできることが増えましたので」

「わたしのせい?!」


 思わず大きな声が出る。エリザははっとして口を塞いだ。ステファンがおかしそうに微笑んでいる。


「ええ。聖女様のおかげで、毎日楽しそうにされていますよ」

「わたしのおかげ……」

「はい。聖女様が王国に来てくださったおかげです。王太子殿下はいつも聖女様に感謝されていますよ」


 そう言われるのはエリザも嬉しい。


「あの、もうひとつ聞きたいんですが――わたしの報酬、多すぎでは?」


 レヴィンはエリザへの報酬を正統な報酬というが、やはり額が多すぎる気がする。王太子の補佐のステファンなら相場を知っているはずだ。


「そんなことはありませんよ」


 ステファンは柔和に笑う。


「元々皇国に支払う予定だった金額を考えればずっと安上がりなのでお気になさらず」

「どういうことですか?」

「皇国の魔術師を派遣してもらう予定だったので、当然皇国にも多額の謝礼を払う予定だったのです。それをせずに直接聖女様を雇えていますので、ずっと安上がりになっているんですよ」


 確かにそれならば、皇国への謝礼は膨大になっているだろう。謝礼が丸ごと支払わずに済んでいる分、予定していた予算より安くなっているはずだ。

 それを聞いて少し気が楽になる。


「――聖女様。もしよろしければ、お疲れの王太子殿下を元気づけてあげてくださいませんか」

「わたしがですか?」

「はい。きっとお喜びになると思います」


 ステファンは笑顔でそう言って図書館から出ていく。

 ひとりになったエリザは考えた。どうすればレヴィンを元気づけられるだろうかと。


(――そうだ! これならきっと喜んでもらえるはず!)


 いい考えを思いついたときには、すっかり夜になっていた。






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