彼と彼女の血塗れた記憶
妙にテンションの高い清掃員の女性との邂逅を経て、遅い昼食を食べ終わった時、気付けば時刻は午後三時を上回っていた。
「さて! お昼も食べ終わったし、また何か乗りに行こうか!」
「……もうだいぶ乗っただろ」
まだ満喫する気でいる叶に、悠人はやれやれと肩を竦める。
秋も深まってきたこの時期、日が暮れるのは想像以上に早い。現在もすでに、西の空では空色と橙色が混ざり合い始めていた。
悠人としては、日が暮れる前に早く帰宅したかった。あまり日が暮れると、帰路の途中で自身を狙う吸血鬼に遭遇する恐れがあるからだ。
(吸血鬼の能力は日が暮れると共に高まるって、この前襲撃された時に耳にしたからな……)
特に今は一般人である叶と解も一緒だ。人間を軽く上回る力を有する吸血鬼との戦いに彼らを巻き込ませないためにも、早く帰宅することは得策なのではないかと思う。
無論、娯楽に気を取られ犠牲を増やすことを懸念しているのは自分だけではない。妙に苛立っているというかそわそわとしているような挙措を取っていることから、ローラもきっと早めに退園することを望んでいるはずだ……
……と、思っていたかった。
「……カナエ、そろそろ日が暮れる。特に先日の殺人犯がまだ逮捕されていない以上、早めに帰宅をした方が安全なのではないかと思うのだが」
「えっ? まだ早くない? ……そりゃあ今の夜戸市って治安良くないし、早く帰るに越したことはないけど……」
「ああ、だから最後に付き合ってはくれないだろうか? どうしても立ち寄りたい場所があったのでな」
今すぐにでも帰宅したい悠人とは異なり、ローラにはまだ心残りがあったらしい。妙にそわそわとしていたのは「どうしても行きたい場所がある」という欲望を伝えたかったためらしい。
当然、まだ遊び足りない叶はそれに了承する。
「うん! 全然問題無いよ! 早めに帰った方がいいにしても、最後に一つ乗るくらいだったら日が暮れるまでにも閉園時間にも充分間に合うだろうし」
「すまない。恩に着る」
「いいよ別に! それで、何処に行きたいの?」
「あれだ」
「どれどれ……えっ……」
自身の行きたい場所をローラが指差した瞬間、叶の顔が凍り付いた。
ローラが興味を示していたのは、現在自分たちがいるカフェレストランから数十メートルほど先にある、赤い文字で「恐怖! ヴァンパイア城の怪奇」と書かれた看板が下がっている中世ヨーロッパ風の古城のような建物。周囲は鬱蒼とした木々に囲まれており、非常におどろおどろしい雰囲気が漂っている。
園内のガイドブック曰く、この建物は洋風のお化け屋敷のようだ。何百年も封印されていた吸血鬼が再び蘇り城を訪れた人々を恐怖に陥れる、という設定があるらしい。
(……なんか、何処かで聞いたことのあるような設定だよな……)
設定の陳腐さはさておき、ローラがこのアトラクションに異様に反応していたのは、きっと彼女が対吸血鬼の秘密結社に属しているからなのだろう。彼女のことだから中の吸血鬼が作り物だと気付かず暴れ回りそうな気がしなくもないが。
だが、ローラがお化け屋敷に入らざるを得ないという欲望を露わにしていても、叶のことを同行させる訳にはいかなかった。
「あ……カナはこういうスプラッターとかお化け屋敷とか駄目だもんな。だからローラ、やめておけ」
悠人が反対の意を示した瞬間、たちまちローラの顔が不機嫌になる。
「……何故貴様が反対するのかね」
「いや、駄目だ。カナは過去の経験のせいで血とか殺人とかに異常なトラウマを持ってるんだよ」
叶に聞かれぬよう悠人が小声でそう告げると、ローラは一応納得したような反応を示す。
「よほど深刻な心的外傷ならば同行させることができないのも仕方ない。……が、彼女のことを一人置き去りにする訳にもいかないだろう。どうするのかね?」
「お前がお化け屋敷を諦めればいいだけの話だ」
「戯けを言うでない。マリーエンキント教団の聖女たる者として、娯楽対象とされた吸血鬼を見逃す訳にはいかないのだよ」
どうやらローラにはお化け屋敷を譲る気は無いらしい。あの古城の中に本物の吸血鬼が本当にいると確信しているが故に、何が何でも討滅しなくてはと考えているのかもしれない。
叶をお化け屋敷に連れていく訳にはいかないが、逆に叶を一人にしておく訳にもいかない。さてどうしたらいいのかと悠人は考え込む。
そんな時ある提案を出したのは、今日は割と口数の少なかった解だった。
「それなら僕が浅浦さんを見てるよ。悠人はフォーマルハウトさんと楽しんでくるといい」
「な、っ……!」
ローラの美貌には驚愕と嫌疑が全面に押し出されている。つくづく感情が分かりやすいタイプだ。
わなわなと肩を震わせるローラ、そして予想だにしていなかった発言に虚を衝かれ唖然とする悠人に、解はいじらしげに目配せする。
「僕も実はお化け屋敷はあまり得意じゃないからね。それに、悠人とフォーマルハウトさんの関係がどう進展するかも気になるし」
「は? おい、それってどういう意味で……」
本来はローラと解の間の深い溝を埋めるためにここに来たのに、自分は一切干渉せず親友と彼女の関係性を静観すると言う。そんな解に、悠人は大いに戸惑った。
しかし彼は「あとは任せた」と言わんばかりに、悠人には見向きもせず叶に話しかけている。
「浅浦さん、フォーマルハウトさんのことは悠人に任せて、僕たちは別のアトラクションに乗って待ってようか。例えばあのパンダカーとか」
「あ……うん! 全然大丈夫だよ!」
叶は頷き、先行く解の後をついて行く。
しかしある程度足を進めたところで悠人とローラの方を振り向き、申し訳無さそうに頭を下げた。
「ごめんね、悠くんにローラちゃん。私たちはパンダカーのところで待ってるから、二人だけで楽しんできてね」
叶なりには充分配慮した発言だったのだろうが、それを受けたローラの顔は非常に苦り切っていた。
「……最悪だ……」
しかし結局、嫌々ながらもローラは悠人と共にお化け屋敷に入った。
彼女としては、この上なく嫌悪している宿敵と同行してでも、この吸血鬼を題材としたお化け屋敷の中身を一目見たかったようだ。
尤も、渋々ながら共に行動することを選んだのには『真祖の監視』という聖女としての務めがあるからなのかもしれないが。
内部は思ったよりも静謐な雰囲気。てっきり吸血鬼に扮するスタッフが壁をぶち破って登場するなどの演出が盛り込まれているものだと思い込んでいたが、入り口で手渡された懐中電灯を照らして見えるものはひび割れた鏡だったり不自然に開かれた棺だったりと、恐ろしくはあるが堂々と阿鼻叫喚を煽るものではない。
陰湿な怖さに満ちたこの空間は、どうやらじわじわと恐怖を呼び起こすことを目的として設計されたみたいだ。
「ヴァンパイア城」という名を語っておきながらも、吸血鬼らしき者は一向に登場しない。吸血鬼との邂逅(と戦闘)を望んでいたらしいローラは、入って数分後にはすでに落胆の表情を浮かべていた。
「貴様、どういうことだね。吸血鬼の館を名乗っておきながらそれらしきものが一向に現れないではないか」
「夜戸メルヘンエンパイアの本質は小さな子供でも楽しめる遊園地だからな。お化け屋敷の怖さを控えめにしてるのも、小さい子への配慮なんだと思うぞ」
「全く……どうしてカナエはこのような幼稚で陳腐なものでさえも異常に恐れているのかね。入ってみれば多少価値観は変わるであろうに」
「……いや、彼女のトラウマはその程度じゃ直らない。絶対に」
不貞腐れるローラに対し、悠人は曇った表情で言う。
その様子に違和感を覚えたのか、彼女はふっと真摯な顔付きになり、悠人に尋ねてきた。
「貴様に問いたいのだが、何故そこまでしてカナエの心的外傷を気にしているのだね? 端的に例えるならば、彼女に対する貴様の行動は部屋の塵埃を徹底的に排除せんとする潔癖症の人間のようだ」
「……」
口に出すのは憚られた。
何故なら、今でも忘れることのできない事件があった直後、犯人から脅迫されたから。
――今目にしたものを外に漏らせば容赦しない、と。
事件直後から、あの日見た光景への痛みは、悠人と叶だけで分かち合ってきた。全て語ってしまったら最後、お互いの大切な人が同じような目に遭ってしまうかもしれないし、最悪の場合お互いが標的にされる危険性もあったからだ。
だが、今一度冷静になって考え直してみる。
(俺の父さん母さん、そしてカナや解は一般人だから、あの犯人にはきっと太刀打ちできない……でも、こいつは、)
聖女として何度も何度も人外の化け物と戦ってきた、このローラ・K・フォーマルハウトという少女ならば、
(こいつならば、仮に語ってしまったことで犯人が報復しに来たとしても、返り討ちにできるんじゃないか?)
その不確定的な判断が、悠人に事件の概要を語らせる後押しとなる。
彼女ならきっと信じてくれる、理解してくれる。そんな甘い確信を、悠人自身は感じていた。
(こいつのことを信用してる訳じゃない。でも腹を割って話せるのは、たぶんこいつだけだ)
だから、彼は開口する。
深く息を吸い、口に出すことに怯える心に喝を入れ、そして腹を割って話す。
「……実を言えば、俺とカナは昔、とある殺人事件の現場を目撃したことがあった。とても陰惨でありながら、全く報道されることが無かった事件。その事件の光景が、今でもカナの心を深く傷付けてるんだよ」
*****
あれは五年前、まだ俺とカナが小学六年生だった頃の話だ。
その時はたまたま学校が休みで、互いに暇だったから駅前のショッピングモールに遊びに行こうっていう話になっていた。
ゲームセンターで景品を取ろうと四苦八苦したり雑貨屋で文房具とかを物色したり、まあ小学生らしく貴重な休日を幼馴染と共にそれなりに満喫していたさ。
だが、ショッピングモールの中を巡っている途中で、カナが大切にしていた猫の縫いぐるみキーホルダーが紛失してしまうっていう小さな事件が起こった。
ただのキーホルダーなら「失くなったものは仕方ない」って片付けられたかもしれない。でもカナが失くしたそれは、彼女にとってはかなり大切なものだったんだよ。
何せそのキーホルダーは、いつかのカナの誕生日の時に、俺が誕生日プレゼントとしてあげたものだったんだからな。
幼馴染からの取り留めのないプレゼントを家宝のように大切に扱っていたことは俺も知っていた。紛失したことに対して大きなショックを受けているカナをこれ以上悲しませないために、俺は必死になってカナのキーホルダーの捜索をしていたっけ。
捜索の甲斐もあり、やがてキーホルダーは無事に発見された。誰かが床に落ちているのを拾って掛けておいたものなのか、それとも偶然に引っかかったのか、三階と二階を繋ぐ階段の手すりに引っかかっていたんだ。
カナの宝物が見つかり、俺のカナもとても安心し切っていた。
……だから、その後に迫っていた危機の気配に気付くことができなかったんだろうな。
キーホルダーを難なく拾い上げた瞬間、下の階段から突然女性の鋭い金切り声が聴こえてきた。
アイドルを見かけた時に上げるような黄色い声とは明らかに違う。「きゃあああああっ!!」とかいった空を裂くような叫びは、正真正銘の切羽さ詰まった悲鳴だった。
明らかに尋常じゃないその声に、偶然にも付近にいた俺とカナが反応しない訳がなかった。何が起こったのかすら分からない状況だったが、「誰かが助けを求めている」って本能が俺らを突き動かしたんだと思う。
俺たちは急いで叫び声のした場所へと向かった。
だがその時に目にしたものは、まだ子供だった俺たちの精神に大ダメージを与えるのには充分すぎるものだったんだ。
――首筋から血を流した人間の死体の関節という関節が綺麗に断ち切られる瞬間。それが、辿り着いたちょうどその時に目にした光景だった。
それで、踊り場に転がった死体の隣では、全身に血を浴びながらも無傷の人間が楽しそうに嗤っていた。その異様な佇まいから判断して、そいつが犯人だってことは明確だった。
俺自身、あまりにも凄惨なその光景に恐怖していたから、犯人の顔はよく覚えていない。確か女……のような気がしたけど。
だが、あの時奴が俺たちに向けて言ったことは、今でも脳裏に深く刻み込まれている。
『今は君たちのことは見逃してあげる。だけど、今目にしたものをほかの人間に口外するようなことがあれば、その時は容赦しないから』
その言葉を耳にしてハッとした時には、犯人はその場から姿を消していた。
いや、消えていたのは奴だけじゃない。バラバラに分解された遺体も大量に撒き散らされた血も綺麗に片付けられていて……いや、むしろ最初から何も無かったかのように、事件の爪痕は跡形もなく消え去っていたんだ。
当然、何事も無かったかのように片付けられた殺人事件がニュースで報道されたことは一度も無い。事件の被害者は「行方不明」という扱いにされたらしいが、それも大した大事にならずひっそりと沈静化していった。
……でも、超的な力が働いたせいで事件が無かったことにされたのだとしても、世界で唯一の目撃者だった俺とカナの脳内からあの日目撃した凄惨な光景は未だに消えていない。
何故犯人が忘れさせてくれなかったのかは分からない。そんなに口外させたくないなら俺たちの記憶からも完全に消し去って、本当に隠蔽しておけばいいとは思うんだが……真意は犯人のみぞ知る、って奴だな。
まあ、犯人の最終的な目的については置いといて。
あの事件によって、平穏な日常に残酷な光景が割り込むという恐怖を覚えてしまったカナは、あれ以来血とかオカルトとか、とにかく犯人にまつわっているものを異常に恐れるようになった。
具体的に言えば、ホラー映画やサスペンス映画なんて以てのほか、どころか血や臓物が多少なりとも登場する医療ドラマでさえも駄目な始末。さらにはちょっと指を切って血を出しただけでも発狂するくらいにな。
でも逆に、あの日以来カナはよく笑うようになった。あいつの楽観的な思考は、この事件によって培われたと言っても過言ではないと思う。
たぶんそれは、自身の極端なトラウマから必死に目を背けようとしている表れ――言い換えれば、虚勢なんだろうな。
俺としては、あのような事件にカナのことを巻き込むのは二度とごめんだ。カナを被害者にするのはもちろんのこと、カナのトラウマを掘り起こすこともしてはならないと思ってる。
――たとえ俺が吸血鬼の真祖として再覚醒したのだとしても、その想いだけは変わらない。絶対に。
*****
「……それが、カナエの負った心的外傷か」
悠人の独白を聴き終えたローラが、顎に右手を宛てがう。一連の話に関して思考を巡らせているらしい。
「切断され血液を抜き取られた遺体に、跡形も無く消え去った殺戮現場、か……」
「何か犯人に思い当たりがあるのか?」
何かを知っているかのようなローラの口振りに悠人が尋ねると、彼女は素直に頷いた。
「ああ。五年前に『極東の地方都市に吸血鬼出現』との話を教団の同胞から耳にしたことがあってな。これは私の推論だが、貴様の言う事件の犯人は吸血鬼の可能性が大きい」
「分かるのか?」
「殺戮現場を無かったことにするという芸当ができるのは、良くも悪くも吸血鬼のみだ。……それもただの吸血鬼ではない。昼間にも関わらずある程度力を振るえているということは、真祖並の吸血鬼が犯人だということだ」
それから、ローラは悠人に向け憐れむような顔を向けた。
「貴様、すでに五年前から厄介な者に目を付けられていたようだな。おそらく彼の事件の主犯は『四使徒』だぞ」
彼女の言葉の中には、聞いたことがあるような無いような単語が含まれている。
「……四使徒?」
「……貴様、真祖であるにも関わらず四使徒のことも覚えていないのかね」
何も知らない悠人にローラは呆れ返っている。今まで自身が四百年前に滅びたはずの真祖であることを知らなかったのだから、真祖関連の情報を覚えていないのは当然だと思うのだが。
やれやれと溜め息を吐きながらも、親切にローラは解説してくれた。
「前提として、人間が吸血鬼化するためには吸血鬼の血液を摂取する必要があるという話をしよう。奴らは同族が無闇やたらと増えることを良しとしないためあまり行使することはないが、駒として使えそうな人間を前にした場合、自らの血を飲ませ眷属ないし配下とするのだよ」
「いろんな伝承では『吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になる』ってよく言われてるけど、実際はその程度じゃ吸血鬼にはならないってことか」
「誰だね、その設定を作った不届き者は。吸血されただけで吸血鬼化するというのなら、鼠算のように吸血鬼が増え続け、今頃この世は吸血鬼だらけの世界と化しているであろうに」
馬鹿馬鹿しい、と鼻を鳴らすローラだったが、話の脱線に気付いたが故かすぐに軌道修正する。
「それはさておき、四使徒の説明に戻ろう。彼らを端的な言葉で表すならば、常に真祖に寄り添う眷属にして、何者よりも真祖に忠実な配下だ。それと先ほどの私の説明を照らし合わせれば、彼らが何なのか分かるのではないかね?」
「……俺に血を与えられて、吸血鬼になった奴ら?」
「正解だ。奴らは四百年前よりも先の時代に真祖によって血液を飲ませられた、いわゆる真祖の直系の子孫らなのだよ」
懐中電灯を手慰みながら、ローラは話を続ける。
「子が父を慕うのと同様、四使徒の輩も真祖を非常に慕っている。人間はもちろん、下位の吸血鬼が迂闊に真祖に手を出すのも赦さないくらい、奴らは『真祖』という存在を神のように崇拝している」
「つまり吸血鬼が俺を狙うのは、自らの生存だけが理由って訳じゃないんだな」
「吸血鬼の世は絶対王政、そして彼らにとっての絶対的な王とは何を隠そうと貴様だけだ、ユークリッド・ドラクリヤ・クレプスクルム。至高の王が何百年も欠けた状態は配下にとっては耐え難い事態だということなのだよ。特に眷属である四使徒にとってはな」
その時、ローラが不意に足を止めた。もうすぐ出口に差し掛かるというのに、何故留まる理由があるのだろうか。
「ついでに忠告しておく。現在この街に潜伏している吸血鬼ゼヘル・エデルも四使徒の一柱だ」
「分かるのか?」
「滅多に表舞台には姿を現さないとはいえ、四使徒は界隈では非常に名の知れた存在だ。教団では常識とされている事項であるのにも関わらず、クルースニクの私が知らない訳が無いだろう」
立ち止まっているローラの銀灰色の視線は、何かを警戒するように鋭く細められている。
「吸血鬼たちの最終目標は貴様を吸血鬼の世に連れ戻すこと。四使徒が積極的に関わっているということは、ついに奴らが本気を出したということだ」
それから彼女は咄嗟に懐中電灯を放り投げ、慣れた手付きで懐から素早く白銀の銃剣を引き抜き、
「――そして現に、奴らは今この時も牙を向いている。私たちに向かってな」
悠人の後方に向け、発砲した。




