66 ハーフエルフ
城に戻ってから、シャルティアを部屋へと見送ってから、俺はハーフエルフの女の子の寝ている俺の借りてるシスタシア王国の城の自室へと戻る。
治癒魔法で回復してるし、とりあえず自室に運んだのだが、まあ、あまり人が来ないという点では俺の部屋が1番だろう。
起きた時に色々聞くにしても、色々備え付けのあるこの部屋は便利だった。
小さいがキッチンもお風呂もある。
この身は8歳だし、そろそろお眠なのだが、ベッドは女の子に譲ってるのでソファーに横になる。
別の部屋に運ぶべきかとも思ったが、女の子が起きてウロウロするようなことになれば、事情を知らない城の人間を驚かせることになる。
ハーフエルフの女の子を見世物にしたくはないし、少ない可能性で家族や親戚を頼れるようなら俺が転移魔法で場所を特定してる間、この部屋で面倒を見てもらう方がいいだろう。
それに、この部屋は眺めも悪くないしね。
ソファーに寝転がると、すぐに眠気が襲ってくる。
女の子に反応があったら起こすようにフェニックスのフレイアちゃんに目覚ましをお願いしつつ、俺も探知魔法を使いつつ眠る。
寝ながら魔法使うと、半分くらい意識をそちらに持っていかれて熟睡出来ないが、仕方ない。
そうして、眠っていると暫くして、ツンツンと俺の頭をフレイアちゃんがつついた。
時刻は真夜中。
大体、寝てから3時間ってところかな?
重い瞼を開けて、起き上がってからご飯の支度をする。
多分、全く食べれてないから、スープとか食べやすいものがいいかもしれないな。
そう思って手早く調理してから、お皿に盛り付けてベッドのある部屋に向かうと、ハーフエルフの女の子は警戒するように怯えていた。
その視線が俺に向かうと、女の子は状況をなんとなく理解したように、俯いていた。
一歩近づくと、怯えられる。
そんな反応をされると、困るが……とはいえ、これまでの境遇を思うとその反応も仕方ないだろう。
「えっと、体調はどうかな?」
そう聞くが、首を縦に振るだけだった。
「そっか、とりあえずこれ食べなよ」
スープを差し出すと、女の子は虚ろな瞳で、『食べていいのか?』と聞いてるように思えた。
「いいんだよ。食べれる?」
コクリと頷くが、スープに手を伸ばす気配はない。
何故かを考えていると、チラッと地面とスープを見比べているようだった。
うーん……物凄く嫌な予感。
これはあれかな?
スプーンとかではなく、地面に置かれて動物の餌やりみたいな食べさせられ方をされてたとか?
毒とか疑うような感じではないので、そんな気がする。
なんとも、下衆な連中だことで。
「スプーン使える?食べさせてあげようか?」
そう聞くと、ブンブンと首を横に振ってから、『本当にいいの?』という瞳を向けてくる。
「いいんだよ、ほら、食べてみて」
そう優しく微笑むと、ゆっくりとスプーンを使ってスープを一口。
「……おいしい」
「なら、良かった」
女の子は、零しながらもスープを美味しそうに食べる。
何とか食べきってから、俺は女の子に話を聞くことにする。
「それで、ええっと……人語は話せる?」
「……すこし、なら……」
「エルフ語は?」
そう聞くとコクリと頷く女の子。
『じゃあ、これでいいかな?』
俺がエルフ語でそう尋ねると驚いたように目を見開くが、理解出来るようで答えた。
『はい……あの、私のご主人様ですか?』
エルフ語だと、それなりに流暢に話せるようなので、このままでいくか。
『少し違うかな?まあ、君を保護した者だよ。まずは名前を聞いてもいいかな?』
『ソルテといいます』
『ソルテか、歳はいくつかな?』
『10歳です』
俺が思ってたより年齢は上だった。
ハーフエルフということもあるが、栄養不足もあるのだろう。
『ソルテは、どこの出身なのかな?』
『イドの村に住んでました』
『そっか、家族は?』
そう聞くと、ソルテは少しだけ言葉に詰まりつつも答えた。
『母は私を産んでからすぐに亡くなりました。父は……私が5歳の頃に殺されました……』
『殺された?』
『盗賊に村が襲われて、女の人以外殺されました……』
ソルテの話を聞くと、父親はエルフで母親が人間だったそうだが、駆け落ちした2人はとある村で生活をしていたらしい。
そこに、ハーフエルフのソルテが生まれたのだが、村人達はそれを快くは思わなかったそうだ。
父親であるエルフと母親は一応は受け入れたそうだが、混血というのがあまり良いイメージでは無かったそうで、ソルテは村の子供達に虐められていたそうだ。
それでも、母が亡くなってから父親がずっとソルテを守ってくれていたそうだが、ある日村に盗賊が押し寄せてきて、幼いソルテの前で村人達は殺され奪われたそうだ。
ソルテの父親はエルフということで、人より少し頑丈だったせいか、目の前で面白半分で拷問されて殺されたらしい。
そして、そこからソルテの地獄が始まった。
奴隷以下の扱いを受けて、衣食住もろくに与えられずに、殴られ蹴られ、刃物で刺されてととにかく酷かったらしい。
5年もそんな生活が続いたという。
何度か今日みたいな闇オークションに参加したが、買取り手はおらず、もう少しで廃棄と世話役の男からは脅されていたそうだ。
『言葉はお父さんに?』
『はい……人語の方は少し難しくて……』
一応どっちも習ってたらしいが、エルフ語の方が得意なのだそうだ。
人間にとって標準である人語の方は、カタコトで読み書きもあやふやだが、エルフ語なら言葉に関しては問題ないらしい。
まあ、人語の聞き取りは捕らえられていた地獄の5年でかなり発達したそうだが。
聞いてると本当に苦しくなる話だが、つまり、彼女は予想通り頼れるような親戚や知り合いなどは居ないのだろう。
住んでいた村は全滅で、母を早くに亡くして、父は目の前で殺された。
母親の実家……は、流石に分からないし、駆け落ちしたってことは、結婚に反対だったのだろうから、かえって危険か。
父親のエルフの方は、もっと残酷かもしれない。
ハーフの中でも、エルフのハーフは特に嫌われているし、エルフという種族にとっては嫌悪の対象でしかない。
頼るのは危険だろう。
仮に生き残った村人や親戚が居ても、ソルテの話を聞くに村でも歓迎されては居なかったようだし、頼りにはならない。
まあ、予想通りといえば予想通りだが、あまり嬉しくない予想通りだった。
『ソルテはこれからどうしたい?』
『どう……?』
『うーん、行く宛てがないなら、俺の所に居ない?』
『でも、私は……ハーフですよ?』
ソルテはハーフという存在に関して理解してるようだ。
だからこそ、迷惑ではないかという視線を向けてくる。
『気にしなくていいよ。それに、俺はそういうの気にするような人間じゃないしね』
『あの、貴方は一体……?』
『名乗ってなかったね。俺はシリウス。シリウス・スレインド。スレインド王国の第3王子だよ』
そう言うと驚いたように目を見開くソルテ。
まあ、見た目的に王子に見えないか。
レグルス兄様や母様みたいな圧倒的高貴なオーラとかないし。
『君がどこか行きたい場所ややりたい事があるなら、止めないけど、良かったら俺の元に来ない?側でお世話してくれる人が欲しくてさ』
まあ、セシルやシャルティアが居るのだが、2人ともずっと付きっきりは無理だし、雇うとしても俺の専属メイドが1番無難だろう。
『……いいの、ですか?』
『ん?何が?』
『ハーフエルフの私が王子様の側に居て……』
まあ、なんちゃって王子だし。
そんなことは言わずに俺はソルテの頭に手伸ばす。
ビクッと反射的に反応するソルテ。
きっと、自身に向かってくる動作は全てこれまで攻撃だったのだろう。
なので、俺はソルテの頭に手を乗せて優しく撫でる。
『よく頑張ったね。後は俺に全部委ねてくれないかな?』
そう微笑むと、ソルテは驚いてから、ポロポロと涙を流してしまった。
泣かせちゃったなぁ……我ながらカッコ悪いが、どうせ変わり者の第3王子だし、やりたいようにしないとね。
頭を撫でていると、ソルテは何度かコクリと頷いて俺に必死で答えてるように思えた。
それから、俺はソルテが泣き止むまでずっと側に居てあげた。
まあ、それくらいしか出来ないしね。





