38 姪たちの強襲
早起きした、本日。
空は快晴でこんな日は外でボーッとするに限るなぁ……
「おじちゃまー!」
「ごふっ!」
のんびりとしていた俺は、その不意打ちに気づけずに気がつくと愛しの姪に馬乗りにされていた。
隙だらけのボディーに思いっきりきまり、むせそうになるのを堪えて俺は大人の対応をする。
「……ティー、びっくりするから」
「えへへ!だいせいこう!」
悪気のない笑顔。
視界の外では、シャルティアが申し訳なさそうにしており、セシルは僅かに微笑んでいた。
……なるほど、幼い姉妹に気を使ったのか。
「スワロもさり気なく乗ってるんだね」
「……おじさん、えほん」
「はいはい、もう少しだけ待っててね」
新作で誤魔化したが、ダメだったか。
無言で俺の足元を抑えていたスワロだったが、そう答えると退いてくれた。
姉はそれでいいが……問題は妹の方か。
「ティーよ」
「なあに、おじちゃま?」
「どいては貰えないかな?」
「いや!」
拒否されてしまった。
何がお望みなのだろうか……お菓子か?お菓子なのか?
だけど、あんまりあげると、義姉達に怒られるし……孫に甘い母様も、そういう所は厳しめだからなぁ。
にしても、母様から見てティファニーとスワロは孫なんだよな……今更何をって感じだろ?
でも母様が祖母……随分と若い祖母だけど、それが当たり前なのがこの世界の凄いこと。
母様の場合、実年齢より若く見えるから余計にそうなんだろう。
まあ、母様の若さはいいとして、問題は我が姪だろう。
何をご所望なのやら……
「じゃあ、どうしたらどいてくれる?」
「おじちゃまがあそんでくれたらどきましゅ!」
「はいはい、遊ぶから下りてね」
ひょいっと、その軽い体を持ち上げて下ろして座ると、双子の姉妹は俺の膝の上を仲良く分け合って座った。
まあいいけど……
「それで、何したい?」
「おままごと!」
不思議なもので、この異世界にも女の子達の遊びにおままごとは存在していた。
まあ、王族貴族版と庶民版の2種類あるが。
お姫様、王妃様に憧れる女の子、貴族に憧れる女の子は王族貴族版を、庶民のお嫁さんに憧れる女の子は庶民版という感じだが、2人の姪は庶民版のおままごとがお好きなようだ。
まあ、お姫様だしね。
庶民の生活は新鮮に映るのだろう。
「じゃあ、おじちゃまがだんなさまね!」
「分かったよ」
配役は、俺が旦那で、ティファニーとスワロが奥さん役らしい。
一夫多妻なおままごとなのが、この世界の状況を現してて面白いが、おままごとくらい一夫一妻でもいい気がするのは俺だけだろうか?
「ただいまー」
帰宅から入るのが、おままごとの定番だろう。
2人の姪を膝から下ろして立ち上がって、さも帰ってきましたよという動作をしながら、2人の元に行く。
「あなたー!」
「げふっ!」
――すると、何故かいつも通り鳩尾目掛けて飛び込んでくるティファニー。
彼女的にはこれがお出迎えなのだろうか?
「……おかえりなさい」
その後ろで、ひっそりとそんなことを言うスワロの方が奥さんっぽかった。
「……あなた、えほんかってきた?」
……でもないか。
彼女的には、絵本が欲しくてたまらないらしい。
そんなに求めてくれると嬉しいが……絵本作家でもない、素人の趣味作なので、もう少しゆとりが欲しい。
義務で描くと絶対、クオリティーが下がるし、仕事にはしたくない。
そう、あくまで趣味で創作をしたいのだ。
「……妻よ、熱烈な歓迎ありがとう」
「どういたしまちて!」
「にひひ〜」と、笑みを浮かべるティファニーは無邪気で可愛いが、とりあえず突撃するのは勘弁して欲しい。
「あなた!こんやはゆにこーんのしちゅーよ!」
その言葉に、シャルティアに抱かれていたユニコーンのナイトが怯えていた。
……聖獣を食卓に出す発想は無かったな。
「そっか、じゃあ、ちゃんと供養しないと」
「くよう?」
「聖獣様から貰った大切な命だからね」
「うん!」
分かってなさそうなティファニーだが、聖獣を食べるという発想は思いつきだろうから、封印するように言っておく。
そうして、2人と和やか……うん、多分和やかにおままごとをするが、「しょうらいは、おじちゃまのおよめさんになる!」とティファニーが言い出し、スワロも頷いていたのは微笑ましかった。
父親や兄などの身近な親しい人にそう言うのは定番だが、まだまだ幼い子供なので、そういう将来になる可能性は低いだろう。
というか、兄の子供を嫁にって……いよいよもって、俺は好色の称号が贈られそうだ。
まあ、別にそんな称号貰っても不都合はないが……俺には既に可愛い正妻と2人の側室が居るので、あんまり増やしてもねぇ……
ハーレムひゃっほい!みたいな、そんな羨ましい精神があればいいのだろうが、好きでもない異性を囲うのは違う気がするし、せっかく今のところ政略結婚とか無いのだから、このまま平穏に過ぎて欲しいものだ。
姪たちの子供らしいその言葉を聞きながら、そんなことを思う俺はかなりあれだが、可愛い姪には好きな人と幸せになって欲しいものだ。
しみじみとそんなことを思うのだった。





