93.夜会の始まり
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会場に着くまでの間にダントンや、警備をしている第二部隊の隊員に会っては驚かれた。
「おやおや。ずいぶん可愛らしくなったものだね。見違えたよ」
「副隊長、お疲れ様です!あれ?今日はハルカと一緒じゃなかったんですか?・・ええええ?お前ハルカか?嘘だろ?!」
「・・・お前女の子だったんだな」
「今日の警備メンバーに自分たちが選ばれた理由が分かりました」
などと言われた。
私も「ありがとうございます」や「ちょっと失礼ですよ!」などと返したおかげかだいぶ緊張も解れてきたように感じていた。
感じていたのだが。
会場に入り、国王の挨拶を聞いているうちにそれは元に戻ってしまった。
「もう皆も知っていると思うが、流民であるハルカ・アリマ嬢は我がレンバック王国の民となった。彼女は聖獣ユーリティウスベルティを始めとする魔力持ちに己の魔力を分け与えることが出来る稀有な魔力の持ち主であり、聖獣と共に生きる我が国の宝である」
(国の宝?!ひぇ・・・)
感情が顔に出ないように笑顔を張り付けて前を向いているが、気持ち的には変な汗がダラダラ流れている。
それを知ってか知らずか国王の話はまだ続く。
「・・・耳の早い者は既に知っていることかと思うが、先日ハルカ嬢を他国に引き渡そうとした愚か者がいる」
会場がざわざわと騒がしくなる。
ところどころで「スイーズ伯爵家が最近取り潰しになったのは」「あの噂は本当だったか」など囁かれていた。
「ハルカ嬢に害なすことはこの国に害なすことと考えよ。ここに集まった者の中にその様な愚か者がいないことを願っている。私からは以上だ。さあ皆の者!久しぶりの夜会だ。存分に楽しめ!」
国王の話が終わると招待された貴族たちが次々と国王夫妻に挨拶をし、そのままの流れで私たちの元へと挨拶にやって来る。
今日は私のお披露目がメインなのでこれは避けては通れないことらしい。
何も話さず笑顔で頷くだけで良いとは言われているが、それだけでもなかなか苦痛だ。
しかし挨拶に来る中に見知った顔を発見した。
「ハルカちゃん!とっても綺麗よ!」
ルシエラだった。相変わらずお美しい。
そんなルシエラの隣にいるのはラジアスによく似た面差しの男性。
「父上、母上、お元気そうで何よりです。ハルカ、俺の父だ」
「初めまして、ハルカ嬢と呼ばせてもらって構わないかい?」
「もちろんです」
「ありがとう。君のことは妻からよく聞かされているから初めてという感じがしないなあ」
のんびりとした雰囲気を持った方だった。
「ガンテルグ侯爵様、お初にお目にかかります。ハルカ・アリマと申します。ラジアス様には大変お世話になっております。ルシエラ様もご無沙汰しております」
「まあ、すっかり立派なレディね。・・・ラジアス、ちょっと」
ガンテルグ侯爵とルシエラは私を見てにっこりと笑った後、ラジアスの袖を引き何やらこそこそと話していたがすぐににやりと笑ったかと思うとラジアスから離れた。
そして「ハルカちゃんにとって今日は良い思い出になると思うわ」と言って去って行った。
「何か言われました?」
「大したことじゃない」
確実に何か言われたのだろうが、ラジアスがそういうのならそうなのだろうと納得した。
そしてその挨拶が一通り終わると会場内には音楽が流れ始めた。
(ついにダンスの時間が!こんな大勢の前で踊らなきゃいけないなんて・・・失敗したらどうしよう)
私が笑顔の下で一人焦っているとラジアスがすっと手を差し出し、悪戯な笑みを浮かべてこう言った。
「麗しのレディ、一曲私と踊っていただけませんか?」
ニッと笑ったラジアスを見て私も思わず笑いが零れた。
私の緊張を解そうとしてくれていることが伝わってきて嬉しかった。
「・・・喜んでお受けいたします」
差し出された手にそっと自分の手を置くと会場の中央まで手を引かれる。
踊り始めは緊張していたが、やはり相手がラジアスだとどこか安心感を覚え、次第に楽しくなってくる。
ラジアスも楽しそうに見えるのがまた嬉しかった。
一曲踊り終え、互いにお辞儀を交わすと後ろから声が掛かった。
「私とも一曲お願い出来るかな」
声を掛けてきたのはオットー公爵だった。
どうするべきか迷いラジアスを見ると軽く頷かれたので私はオットー公爵の申し出を受けることにした。
「夜会は楽しめているか?まああれだけの貴族の相手をするのは大変だったとは思うが」
「そうですね。このような場はやはり緊張しますが」
オットー公爵は財務部の長であり私は第二部隊の書類を運んだりするのでよくお世話になっている人だ。
そして私のファンだと公言して憚らないマリアンヌ嬢の父親でもある。
「先の件では大変な目にあったな。その後問題は無いか?」
「お気遣いありがとうございます。今はいたって平和です。第二部隊の方々も気にかけてくださいますし」
「そうか。それならば良かった。・・・実を言うと私は初め君が第二部隊に身を置くことに賛成はしていなかったのだよ」
ダンスをしながらいきなり告げられた言葉に私は思わず目を瞠った。
「ああ、勘違いしないでくれ。今は認めている。初めはただの娘を騎士団に置いておく理由が無いと思っていたのだ。だが君ときたら文字も書けるし読める、計算も強いというか頭が良い上に稀有な魔力の持ち主ときた。私個人としては第二部隊に渡した書類が早く戻ってくるようになって感謝したいくらいだ」
オットー公爵はさらに続ける。
「私的なことを言えば、娘のマリアンヌが君のおかげで刺繍に目覚めてな。そちらも礼を言いたい」
「マリアンヌ嬢、ですか?」
「ああ、何度か君に贈り物をしているだろう?迷惑になっていなければ良いのだが」
「迷惑だなんて・・・マリアンヌ嬢には私物となるものが少なかった私にハンカチなどを頂いて感謝しております」
「そうか。マリアンヌに伝えたら歓喜するであろうな。そのハンカチに刺繍を入れるためにさぼっていた刺繍の授業にのめり込んでな。妻が喜んでいた」
はっはっはと笑うオットー公爵は完全に父親の顔だった。
そうこうしているうちに曲が終わる。
「第二部隊も君に合っているようだし、それにこの国で気を許せる相手が出来たことは喜ばしいことだ。これからもよろしく頼むよ」
オットー公爵はグラスを持って壁際に立つラジアスをちらっと見てそう言った。
私は自分はそんなに分かりやすいのだろうかと気恥ずかしく思いながらも「こちらこそよろしくお願い致します」と返した。
オットー公爵の後も何人かにダンスを申し込まれ数曲を踊ることになった。
何人かとは踊るように、ただし同じ人物と二曲以上踊らぬようにと言われてはいたので受けはしたが、こんなに立て続けはさすがに慣れないヒールでは辛いものがある。
途中でもう良いのではないかとラジアスを見れば、私の様子に気が付き助けに入ってくれようとした。
ああ、ようやく解放されると思ったのだが、グラスを置きこちらに向かって来ようとしたラジアスはあっという間に若いご令嬢方に囲まれた。
(うわ・・・モテるとは聞いていたけど)
こう言っては失礼だがまるで砂糖菓子に群がるアリ、いや肉に群がる猛獣のようだ。
こういったことには慣れているのか断りを入れながらも進もうとするラジアスの腕に手を置き引き止めようとする者までいた。
(・・・なんか、やだな)
恋人でもない、まして告白もしていない私が文句を言う権利は無いのは分かっている。
これは完全に勝手な嫉妬だ。
断り、手を外そうとしているラジアスを見れば、彼もまた嫌がっているのは良くわかる。
(でも、なんか、見たくない)
見ていたくなくて目を逸らした私の前に一人の男性が立った。
「ハルカ嬢。私とも是非一曲お願いできますか?」
彼は確か先ほど挨拶に来てくれたどこかの子爵家の子息だっただろうか。
いろいろ習った今だから思うが、名前を呼ぶのは確か相手から許された場合だけではなかっただろうか。
それとも相手が貴族でこちらが平民の場合はそれは関係が無いのか。
少しもやっとした気持ちと馴れ馴れしさを感じながらも、私はこの人の申し出を受けることにした。
上手い断り方も分からなかったし、正直なところあのままいると嫌な気分になりそうだったからダンスに逃げた。
身体を動かしている方が余計なことは考え辛いと思ったから。
しかし、それはすぐに後悔に変わった。
差し出された手を取った瞬間、指先をぎゅっと握られた。
ダンスが始まっても背に回された手が妙に自分を引き寄せようとしていて気持ちが悪い。
しかしダンスを受けてしまった以上途中で止めるのは失礼に当たるため必死に笑顔を張り付けた。
「お噂はかねがねお聞きしておりましたが、あれは誰かの嘘だったようですね」
「嘘、ですか?」
「ええ。男のような格好をしていると。こんなに素敵な女性だとは思いもしませんでしたよ。貴族でないことの方が嘘のようだ」
「・・・そうですか?ありがとうございます」
この会話だけで私はこの男がフィアラと似たようなタイプの人間なのだろうなと感じた。
(気持ち悪い。そんな近づく必要無いんだよ!は・な・れ・ろ・・・!)
なおも引き寄せようとする手と妙に近い顔、しかし私は自らの筋力をもってそれを回避する。
(部活で鍛えた体幹舐めるなよー!このボンボンが!)
この妙な攻防を耐え凌ぎ、やっと曲が終わる。
お辞儀をしてさっさと離れようとすると私の肩を男の手に掴まれぎょっとする。
「お放しいただけませんか?」
「もう一曲お願い出来ませんか?」
「申し訳ありませんが少々疲れましたので」
「ああ、それでしたら私もご一緒しましょう」
私は笑顔で苛立つ気持ちを抑え込もうとしたが、思わず眉間に皺が寄りそうになったのを少し俯いて隠した。
それを男は何を勘違いしたのか気持ち悪い言葉を言って寄こす。
「恥ずかしがっているのですか?可愛い人だ。さあ行きましょう」
(もう限界だ・・・殴って良いかな。駄目だな。腕捻りあげるのも、いや駄目だな。ヒールで脚踏みつけるくらいなら・・いけるかな)
私が物騒なことを考えていると頭の上から声が掛かり、肩に置かれていた気持ち悪い感触が無くなった。
「失礼。ダンスが終わったならそろそろ私のパートナーを返してもらっても良いかな」
「は、はい!」
にっこり笑っているのにどこか冷たい空気を纏ったラジアスの登場に子爵子息は慌てて立ち去った。
「悪かった」
「いえ、ラジアス様もなんだか大変そうでしたね」
「まったくだ。だから出たくないんだ・・・大丈夫か?」
「はい。踊りだしちゃったから途中で止められなかったって分かってるので大丈夫ですよ」
「それはそうなんだが、やはりハルカが他の男といるのは面白くないというか」
「え?」
「いや、何でもない。連続で踊って疲れているだろう?少し休憩しよう」
その言葉に思わず勢いよくラジアスを見た。
(き、きた!今日一番のチャンス!)
「どうした?まだ休まなくても大丈夫か?」
「いえ!すっごく休憩したいと思ってました!」
私とラジアスが壁際に寄るとタイミングを見計らったかのようにメイドが近づいてきた。
「ご休憩されるのであればお部屋をご用意してございますのでこちらへ」
よく見るとそれはドレスの試着の際に手伝ってくれたメイドだった。
案内された部屋はテーブルと長椅子があるだけのこぢんまりした造りだった。
しかも長椅子は一つだけしかなく、ものすごく意図的なものを感じる。
メイドを見ると力強く頷かれた。
ラジアスも部屋を見た際、一瞬立ち止まったが、それ以上気にすることなく中に入った。
「ワインと、ハルカは果実水で良いか?」
「あ、はい」
「ではそれを頼む」
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
本当にすぐに戻ってきたメイドはグラスをテーブルの上に置くと「ごゆっくり」と言って扉を少しだけ開けて出て行った。
この部屋のイスは長椅子一つのみ。
必然的に同じ椅子に座るほかない。
ラジアスは私の手を取って椅子に座らせると、自分も拳二つ分ほどの距離を開けて座った。
久々のラジアスと二人きりという状況に鼓動が早くなるのを感じる。
先ほどのメイドの様子から察するに、この部屋には誰も近づけないようにしてくれているのだろうと思っている。
(こんなにお膳立てしてもらったんだし告白するなら今しかない!)
私は意気込んで果実水の入ったグラスを手に取ったのだった。
おまけ。
こそこそしていたガンテルグ親子の会話。
「・・・ラジアス、ちょっと」
「何ですか、母上?」
「うちと懇意の宝石商とこそこそやっていると思っていたら、あれの為だったのね?」
「・・・何のことでしょう」
「ラジアスはいつからハルカ嬢とお付き合いをしてるんだい?」
「あなた、たぶんまだよ」
「は?・・・お前大丈夫なのか?」
「何がでしょう、父上」
「恋人でもないお嬢さんにあんな重たいもの・・・束縛が強いと嫌われるぞ?」
「あんなものを贈るくらいならはっきりさせなさいよ」
「分かってますよっ・・・今日告げるつもりです」
にやり( ̄ー ̄)
「今度また一緒に帰ってきなさいね」
「その時は私がいる時にしてほしいな」
「父上、母上・・・受け入れてもらえるかどうかも分からないのですが」
「その時は私たちが慰めてあげるから一人で帰ってらっしゃい」
(そんなことには絶対ならないけれどね。ふふ、楽しみだわぁ)
あと2話くらいで終わる予定です。
もう少しだけお付き合いくださいねー(^^)




