90.おかえりとただいま
やっと帰ってきました。
翌日の事情聴取というものはとても簡単なものだった。
事件に関わった人たちからの聴取は昨日のうちに終えていたらしく、私はほぼそれらの確認をとるというだけだった。
聴取の場にいたのがアルベルグの国王だということには驚いた。
昨日は気づかなかったが、よく見れば確かにリンデン公爵と似た面差しだったが不思議と怖くは感じなかった。
国王はリンデン公爵の今後の処遇について私に希望を聞いた際には「私があの者の兄だからと言って遠慮はいらない。全てが希望に沿うとは言えないが出来るだけ貴女の願い通りにしたいと思っている」と言った。
「では、死刑だけはおやめください」
私がこの言葉を口にした時、ざわついたのはアルベルグ側の人たちだけだった。
第二部隊の皆にはすでに私の意向は伝えてあったから当然だ。
「私がここにいることで本音が言い辛いなら席を外そう」
「その必要はありません。これが私の本音ですから」
「・・・何故、と聞いても良いだろうか。私は、いやアルベルグの者は皆貴女がリンデン公爵の死を願うと思っていた。あやつはそれだけのことをしたと」
それは当然のことだろう。
他国から人を攫い、軟禁し、罪が暴かれれば殺そうとしたのだから。
「それでも私はあの人の死を望みません。許せるかと聞かれたら絶対に許せませんし、二度と会いたくもありません。でも私はどんな経緯であれ自分のせいで誰かが死ぬなんて嫌なんです。ふいに思い出してしまった時に”死”という言葉が一緒についてくるのが嫌です」
これを第二部隊の皆の前で言った時、「甘い」と言われた。
私だってそれは思う。
しかし先ほど言った言葉に嘘はない。
私は私のせいで誰かが死ぬということがどうしても嫌なのだ。
今後も心から笑って生きていくために、あんな人に私の人生に影を落としてほしくない。
「ですから、これはリンデン公爵の為でもあの人の兄である国王陛下の為でもありません。私の為です」
「・・・そうか。ならば貴女の希望通りにしよう」
そして私はここで部屋から出た。
その後はアラン隊長が話を纏めてくれたらしい。
後から話を聞くと「簡単に言うと、手と目の届くところに首輪でも付けて見張っておけ。二度目はない。と言った感じだ」と言われた。
ついでに魔術師たちはご自慢の魔力を封じられたそうだ。
それ以上は教えられなかったし、私も聞くつもりはない。
二度と私に関わらないでいてくれればそれで良い。
その後レンバックに帰る間、私はユーリの背にいた。
そして私を支えるように、後ろにラジアスも騎乗していた。
天竜はまだ私を乗せて飛べる大きさではないことと、レンバックでは公になっていない存在なこともあって、いつものように私の腰袋の中に毛玉になって入っている。
そのユーリの上で私は自分がレンバックから連れ去られた時の話を聞いていた。
「―――と言うわけで今スイーズ伯爵は牢獄だ」
「やっぱり・・・」
「やっぱり?」
「攫われてから考えていたんですよ。何で私は攫われたのか。恨まれるとしたら誰かって。私の知っている中ではスイーズ伯爵家の人だけだったので。まあ攫われた理由は想像の斜め上を行くものでしたけど」
ハハッと乾いた笑いが思わず漏れた。
直ぐに私を支えるラジアスの腕に力が入る。
「大丈夫です。でもスイーズ伯爵家の人たちはどうなるんですかねー」
「とりあえず爵位は取り上げられるだろうが、それはハルカが気にすることじゃない」
「・・・そうですね」
そしてしばらくレンバックへ続く街道を進むとユーリに乗った私たちは隊長たちから離れ森に入った。
なんでも私が攫われたことはレンバックの中でも一部の者たちしか知らないらしく、聖獣であるユーリが騎士団と共に戻ってくればいらぬ憶測を呼ぶということで私たちはこっそり森から入るということだった。
隊から離れたユーリは一気に速度を上げあっと言う間にレンバックの王城に帰り着いた。
ほんの数日離れただけなのにレンバックの王城を見て酷く懐かしさを覚えた。
私が感慨に浸っている間にユーリが遠吠えをすると城からダントンと第一部隊の護衛を連れた国王が走ってきた。
ダントンには「無事で良かった」と抱きしめられ、国王には「よく戻った」と肩を叩かれた。
「ガンテルグ。お前もよくやってくれた」
「いえ。私はさほど。天竜のおかげでハルカ嬢を救い出すことが出来ました」
「そうなのか?」
『そうだぞ!我はハルカのためにたくさん動いたのだ。だがラジアスもハルカを守った』
天竜が自慢気に腰袋から飛び出してきてそう言った。
「そうか。では詳しい話はまた後程聞くとしよう。今はしっかりと身体を休めるように。ガンテルグ、お前も一緒に休んで良い」
「ありがとうございます。アルベルグ国王からの書状は後から帰還する隊長が持っておりますので」
「わかった」
「では失礼いたします」
『ついでに宿舎まで連れて行ってやろう』
「本当か?」
「ユーリ、ありがとう」
いつものように抱きついて礼を言うと『礼なら次に会った時とびきり上質な光珠を寄こせ』と言って宿舎まで送ってくれた。
第二部隊の宿舎に着くとそこには残っていた第二部隊の面々とジェシー、それにミリアが待っていた。
「「ハルカ!」」
私はジェシーとミリアに抱きしめられた。
「良かった!本当に良かったわ!」
「無事なのね?どこもケガとかしていないのね?本当に心配したのよ!」
二人が泣きながら言うものだから、私もつられて泣いてしまう。
三人でわんわん泣いていると隊の皆は笑いながら私の背中をポンポン叩いていく。
そしてルバートがジェシーにハンカチを渡し「ほら、言うことがあるのでしょう?」と言うとジェシーとミリアは涙を拭って私を見た。
「ハルカ、お帰りなさい」
「お帰りなさい。貴女の帰りをみんな待っていたわ」
「~~ただいま!」
「おう!おかえり!」
「よく帰ってきた!」
「頑張ったな!」
「・・・ただいまかえりましたっ~~~~っうわぁぁん」
「お?どうした?急に幼くなったな」
「いつもの優男風のハルカはどこ行った」
「いいじゃないか。泣きたい時は泣け、泣け!」
今度は私が二人に抱きついて泣いて、それにつられて二人も泣いて、みんなで笑った。
私におかえりと言ってくれる人たちがこんなにいる。
ただいまと、帰って来たんだと思える場所があることが嬉しかった。
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
今日自分の部屋が37℃になっていました。
エアコン買おうかと真剣に考え中( ;∀;)
みなさんも暑さにお気をつけくださいねー。




