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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
本編

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88/107

88.ぬくもり

久々に少し甘さを求めた回。

 

 天竜は自身が倒した魔術師と、ユーリから押し付けられた魔術師をやって来たアルベルグの兵士に纏めて放り投げた。

 そしてゆっくりと私たちに近づき『すまなかった』と謝った。


「何で謝るの?」

『・・・ハルカに怖い思いをさせた。ユーリたちが来なければどうなっていたか分からん』


 申し訳なさそうに頭を垂れる天竜に私は抱きつく。


「そんなことない。そんなことないよ。天竜のおかげで外に出られた。天竜がいたから、一緒にいてくれたから私も頑張れたんだよ」


「ありがとう天竜」と私が言うと、天竜はどこかホッとしたように『そうか』と呟いた。

 そしてシュルシュルと縮んで手乗りサイズに姿を変え、ユーリの頭に乗った。


『邪魔だ、降りろ』

『良いではないか。我は疲れたのだ。おぬしたちよりもたくさん動いたのだ』

『大体空に浮かんでいた時は大きかったのに何故また縮む』

『仕方なかろう。魔力の定着には多少時間が掛かる。今の我では意識せずとも保っていられるのはせいぜいおぬしと同じ大きさくらいだ』


 ユーリと天竜がそんな話をしているとラジアスが私たちの元に戻ってきた。

 先ほどまでの険しい顔とは違い、いつもの私がよく知るラジアスの顔に戻っていたが、やはりまだ私を心配しているように見えた。


「ハルカ。全て終わった。遅くなってすまない」

「いえ!天竜も一緒だったから大丈夫です。なんともありません。ほら、私だって第二部隊の一員ですから!せっかく助けに来てもらったのに遅いとか言ってすみません」


 私は笑って拳を握り力こぶを作るようにしてみせた。

 私は大丈夫。

 安心してください。

 そう示したつもりだった。

 けれども私のその拳はラジアスの大きな手に包まれ、そっと下ろされた。

 私を正面から見るラジアスの顔には沈痛な表情が浮かんでいた。


「ラジアス様?」

「何ともないはず、ないだろ?」

「え?」

「俺たちが来るまでよく頑張ってくれた。だがもう頑張らなくても良いんだ」

「ラジアス様?本当に平気ですよ?」

「手、震えてる」


 そう言ってラジアスによって開かれた私の拳は、確かに震えていた。


「あれ?おかしいな。手、疲れてるんですかね?」

「ハルカ」

「ちょっと待ってくださいね。きっとすぐ止まりますから」

「―――っハルカ」


 次の瞬間、私はラジアスに抱きしめられていた。


「ハルカ、本当にもう終わったんだ。ちゃんと俺たちの国に帰れる。もう強がらなくてもいい、耐えなくていいんだ」


 背に回された手がトントンと優しく背中を叩く。


「辛かったな。心細かったよな。よく折れずに頑張った。助けられて、本当に、本当に良かった・・・!」


 もう限界だった。

 ラジアスの優しい手と声に抑えていた感情が溢れ出す。


「こわ、かった・・・本当は怖かったんです・・・」

「ああ」


 感情と共に涙まで溢れ出す。


「・・・ふ、ひぅ・・・天竜がいてくれたけど、それでもやっぱり不安でっ・・・あいつは絶対に見つからないって自信満々で、ふぇ・・・このまま見つけてもらえなかったらどうしようって!」


 ラジアスの服をぎゅっと握りしめて叫ぶように感情をさらけ出す。


「うぅ、ひっく・・・でも、ラジアス様なら、・・・うぁ・・・絶対探してくれるって心のどこかで信じてて・・・」

「ああ、俺は絶対にハルカを諦めたりしない。信じてくれて、ありがとうな。お前に会うことが出来て、こんなにも嬉しい」


 私を抱きしめるラジアスの腕に力が入る。

 ―――温かい。

 ずっと緊張していた心が解けるようだった。


「うぇ、ひっぐ・・・うわあああああ―――ラジアス様!ラジアス様!怖かったよぉ―――また一人になっちゃうんじゃないかって・・・もうラジアス様に、みんなに会えなくなるかもしれないって思ってっ、ひっく、うあああ―――――」


 私は思いっきり泣いた。

 日本にいた時もここまで泣いた記憶はないくらいに声が枯れるまで泣いた。

 こんなに泣くつもりはなかったのに、一度出た涙はなかなか治まることを知らず、いつまでもラジアスの腕の中でぐすぐすと泣き続けた。

 途中で「大丈夫だ。俺はハルカの側にちゃんといる。皆もハルカの帰りを待っているよ」なんて優しく言うものだから、止まりかけていた涙がまた溢れ出したのは仕方がないと思う。




 散々泣き倒し気持ちが落ち着いてくると、自分の今の状況が分かるようになってくる。

 今の状況―――そう、私は今ラジアスに抱きしめられているのである。

 理解した途端に自分の鼓動が跳ね上がるのが分かった。

 恥ずかしい。

 恥ずかしいのに落ち着く。

 もう少しこうしていたいと思ってしまう気持ちと、このままだと心臓が破裂すると思う気持ちとのせめぎ合いだ。


(いや、でも落ち着いたなら離れないと。ラジアス様にも迷惑がかかるし)


 そう思いながら泣き腫らした目でラジアスを見上げれば、私を抱きしめたまま「ん?」と優しい笑みを浮かべてこちらを見返してきた。

 超至近距離でラジアスの笑顔を見た私は上げた顔を勢いよく下に向けた。

 この時もし私の身体から効果音が出せたなら≪ボンッ!≫と音がしたに違いない。

 間違いなく私の顔は赤くなっていることだろう。


「あの、もう大丈夫です。泣いてしまってすみません」


 手でラジアスの胸を押して離れようとすると、それに気づいてそっと腕を緩めてくれた。

 私の頬を両手で包みそっと上に向け、親指で涙の痕を拭ってくれる。

 その間もラジアスは優しげな瞳でずっとこちらを見つめていた。

 やっぱり私はその空気に耐えられなくて俯いてしまう。


(駄目だ、勘違いしちゃいそう)


 火照る頬を押さえて顔を上げれば、ラジアスはなおも私を見つめ微笑んでいた。

 しかし急に真顔になったかと思うとおもむろに自分の着ていた上着を脱ぎ、私の肩に掛けた。


「きちんと前を閉めて」

「へ?」


 キョトンとしてラジアスを見上げると、先ほどまでと違い若干赤く染まった顔で私に掛けた上着のボタンを閉め始めた。


「その、・・・服がだな」

「え?・・・あっ!」


 私はやっとラジアスの言わんとしていることに気が付いた。

 リンデン公爵によって私のワンピースの胸下まであるボタンは外されているのだ。いくら下着をつけていると言っても人様に晒して良い格好ではなかった。


「違う!違います!確かにちょっと触られたけど、それ以上のことは何もされてないんです!」


 あの時のことを思い出すと途端に恐怖が蘇る。

 だがそれ以上に、他の誰に疑われてもラジアスにだけは絶対誤解されたくないという思いがあった。


『そうだぞ。あの外道がハルカの肌を弄るから我も我慢出来ずハルカとの約束を破って飛び出してしもうた』

(天竜余計なこと言わないで!)

「弄る・・・だと?」


 ラジアスの顔が歪む。


「触られたのか?」

「ほんの、少しだけ・・・。でもそれだけです!信じてください!」

「信じる。信じるが―――くそ、ハルカに触れた手だけでも切り落としておくべきだったか」


 ラジアスは私の言葉に間髪入れずに信じると返してくれた。

 ただ最後に物騒な言葉を呟いたが。



『おい、ラズ。引き上げるようだぞ』


 物騒な言葉を吐いたラジアスに、ユーリが何事も無いように声を掛けた。


 ユーリにしめされた方を見ればリンデン公爵と魔術師たちが簀巻きにされ、馬の背に乗せられているところだった。

 私たちの視線に気づいたアルベルグの兵が一人こちらにやって来る。


「あの者らは公爵を連れて城へ戻ります。私は報告も兼ねて先に向かいますが貴方方はどうしますか?」


 話しかけてきた人物が誰かわからずそっとラジアスを見れば「アルベルグ国王の私兵だ」と教えてくれた。


「出来れば状況説明や流民殿の無事も一緒に報告をと思っているので、一緒に来ていただけると助かるのですが。もちろん流民殿が優先なので無理にとは言いませんが」


 ラジアスが「どうする?」という視線を向けてきたので私は軽く頷いて返した。


「そうですね。こちらとしても早くハルカを休ませてやりたいので一緒に行きましょう」

「そうですか。ありがとうございます」


 兵はあからさまにほっとした顔になると、今度は真剣な面持ちで私の方に向き深々と頭を下げた。


「本当に申し訳ない。アルベルグの貴族の端くれとして心より謝罪申し上げる。自分にこのようなことを言う資格は無いと分かってはいるが・・・無事で良かった」

「・・・いえ・・・っ」


 本当は気にしなくて良いと続けたかった。

 でも出来なかった。

 悪いのはリンデン公爵であってアルベルグではない。

 そう分かってはいても、リンデン卿がアルベルグの公爵という多くの者の上に立つ立場にあったと知った今、分かっているのに体が強張った。笑うことが出来なかった。

 そんな僅かな私の変化に気付いたラジアスが肩をぎゅっと抱き寄せる。

 アルベルグの兵は短い返事しか返さなかった私を気に留めることは無かった。

 おそらく本当にただ言いたかっただけなのだろう。そのまま自らの馬を連れに戻って行った。

 その後ろ姿を見ていた私の肩を引き寄せた手に力を入れてラジアスが私を覗き込む。


「悔しがる必要は無い」

「え?」

「こんな事が起きたばかりなんだ。アルベルグの者を前に身体が緊張しても不思議じゃない。ハルカの心は決して負けてはいない」

「ラジアス様・・・」


 何故分かってしまうのだろう。

 私はアルベルグの兵を前にまともに返事をすることが出来なかった。笑うことが出来なかった。

 強がりでもそうすることが出来なかった。それがとても悔しかった。

 リンデン公爵から与えられた恐怖に屈してしまったようで悔しかったのだ。


 私はラジアス様に思いきり抱きついた。

 今度はきちんと自分の意志で抱きついた。


「ハルカ?どうした?」


 ラジアスは驚きつつもきちんと受け止めてくれる。


「・・ずるいです」

「ん?」

「何で私の思っていることラジアス様には分かっちゃうんでしょう」


 ラジアスは私を抱きしめ返して「どうしてだろうな」と言った。

 そして僅かな間をおいて「じきに分かるよ」と言って笑った。



こういう時大人しくしている天龍とユーリは偉いなと思う。

空気の読める天竜と聖獣です。


ブクマ&評価&感想、誤字報告などありがとうございます。

梅雨が明けて暑い日が続きますので、みなさん体調にお気をつけくださいねー。

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☆3巻電子で発売中☆

挿絵(By みてみん)



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[良い点] ハルカはかわいいよなぁーラジアス役得だよ!活躍は一瞬だったけど、、、これってユーリだけでも助けられたんじゃない?とはけして言ってはいけない! それにしても天さんやユーリは大活躍だけでなく…
2020/08/10 06:26 退会済み
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