82.恐怖の片鱗 ※リンデン視点
陛下のその感情は国王としてなのか、それとも兄としてなのか。
少しばかり罪悪感が生まれなくもないが、私は彼女を手放すつもりはない。
あの魔力を遮断する部屋にいる限り絶対に見つかることは無いだろう。
私の屋敷の者も誰一人口を割ることは無いだろう。屋敷の者の中でも流民の存在を知っているのは極一部だが。
「疑われたままではお前も気分が悪いだろう。流民殿の早期発見のためにもお前も協力してほしい」
「もちろんです。ガンテルグ殿。私に出来ることがあれば仰ってください。可能な限りご協力いたしましょう」
「ありがとうございます」
「さあ、そうと決まればさっそく始めましょう。関係者に私の名前が挙がったというのはどういうことなのですか」
私は自ら進んで先ほどの話に戻した。
こういう時は下手に遠回りに探られるよりも、自ら足を進めていった方が主導権を握れたりするものだ。
「つまり、そちらで捕らえた者が私が黒幕だと言っており、そしてその者の屋敷から仲介役の宝石商の手紙が見つかった。ここまでは間違いないでしょうか」
「はい」
黒幕だと言われた件に関してはいくらでも言い訳が出来るだろう。万が一面通しされたところで罪人側の言い分など一方的に切り捨てることも出来よう。
問題は手紙の方か。
(目の前で燃やしたと言っていたはずだが・・・嘘だったのか?いや、それは無いか)
理由はわからないがその手紙があの時の物だとすれば、私がここで宝石商のことを知らないと言うのはまずい。
あの宝石商があの日屋敷に来ていたことは調べればすぐに分かることだろう。
大きな嘘はいずれ辻褄が合わなくなる。
「その宝石商というのはどちらの宝石商でしょうか?私も幾つかの商会と交流がありまして」
「ああ、そうですね。蛇の模様の印を使用する商会です」
「蛇・・・存じ上げないと言いたいところですが、確かにその宝石商は私が懇意にしている者です。しかし本当に彼らが関わっているのですか?つい昨日も私の元を訪れておりましたが、そのような素振りは何も」
「昨日?昨日のいつ頃ですか?」
「夜も迫った頃だったかと」
ガンテルグの顔つきがより険しいものになる。
流民が攫われこちらに連れて来られたと思われる時間帯と同じだからだろう。
当たり前だ。
その宝石商によって彼女は私の元に来たのだからね。
「・・・リンデン公爵。ご無礼を承知でお聞かせ願いたい」
「どうぞ。今何を言っても罪にすることは無いとお約束しましょう。陛下も宜しいですよね?」
「ああ、お前が良いのなら構わん」
陛下も認めるとガンテルグは私を睨むように見つめて言った。
「では、単刀直入にお伺いいたします。リンデン公爵は流民の拉致に関わっていらっしゃるのですか?」
「いいえ。私は何も存じ上げません」
自分が関わっていると告白する犯人がどこにいると言うのか。
ガンテルグが膝の上に置いた手を握りしめるのが見えた。
これ以上追及したくとも彼一人で出来ることなど限られている。
きっぱりと否定されてしまえば確実な証拠が無いかぎり他国の貴族、しかも王弟に対して無理矢理どうこうするということは出来るはずもない。
他に出来ることと言えば、後から来る者たちと合流した後に国内を捜索するか消えた宝石商を探すことくらいだろう。
可哀想に―――私は内心ほくそ笑む。
そうして探したところで結局彼女を見つけることは出来ず、すごすごとレンバックに帰って行くのだろう。
せめてこの国への疑いを、私への疑いを晴らしてから帰ってもらうのが優しさというものだ。
「しかし疑われている私がそう申したところで、あなた方も納得は出来ますまい。私としても今回のことが原因で両国に禍根を残してしまうことは避けたい。ですので、この国におられる間、私のことをお調べになっていただいても構いません。なんなら私の屋敷をお調べいただくのも良いでしょう」
ガンテルグが僅かに目を瞠った。
まさか疑っている人物の方からこの様な提案をされるとは思っていなかったのだろう。どのようにして私の屋敷まで調べることが出来るか考えていたに違いない。
「・・・・そこまで言っていただけるとは。後からくる者とも相談させていただきますが、おそらくご厚意に甘えさせていただくかと思います」
そう言って頭を下げるガンテルグを見て私は愉快でならない。
疑っている男に頭を下げるなど悔しくてしょうがないだろう。そうせざるを得ない自分が情けなくて仕方ないだろう。
自分の思い通りにならないものを手懐けることも楽しいが、手の平の上で転がすのも何て楽しいのだろうね。
気を良くした私は今度はこちらからガンテルグに質問をすることにした。
「では私からも一つ質問をさせていただいても良いでしょうか?」
「なんでしょう?」
「後から他の方々も来られるとのことでしたが、何故ガンテルグ殿お一人で先にいらっしゃったのですか?」
私の質問に一瞬部屋が静まり返る。
どうしたというのだろう。
「何か変なことを聞きましたか?」
「いえ」
「ネイサン。その質問は先ほど私がしたばかりなのだよ。そしてその答えもな」
「おやそうでしたか。ではどのような思惑があったか陛下からお伺いしても?」
「ああ。なんでも流民殿はガンテルグ殿の想い人らしい。早く彼女に会いたいばかりに聖獣様と共に飛び出してきたということだ」
「本当にそのような理由でここにお一人で?」
「・・・恥ずかしながら」
「そうでしたか。それは尚更見つけなくてはなりませんね」
少し項垂れながら返事をするガンテルグに私は陛下とは違う感情を抱いた。
彼女のことを想う男か・・・絶対に会わせたくないねえ。せいぜい見つけられずに苦しむがいいさ。
残す問題は、やはり聖獣か。しっかり確認しておかねばなるまい。
「聖獣様に関しては私もここに来る途中に文官から聞いたのですが、本当に実在していたのですね」
「ああ、そのようだ。まさか生きている間にそれが確認出来ようとは」
「聖獣様がいらっしゃっているということは流民の方は契約者なのですか?」
彼女が嘘をついているとは思いたくないが、もし聖獣と主従契約が済んでいるとなれば少々厄介だ。
「いいえ。聖獣は気高き存在。主従契約などは結んでおりません」
「そうなのですか」
良かった。彼女が私に対して嘘をついていなかったことにほのかに嬉しさを感じる。
心の中で安堵した私に陛下の思いもよらない言葉が聞こえてきた。
「だが聖獣様は流民殿を友のように考えておられるというのだ」
「・・・友?」
「ああ、そして大事な友を拐されて黙っているような聖獣様ではない、とな。分かるか、ネイサン。この言葉の恐ろしさが。お前が何も言わずとも無実を証明しようと誠実に対応してくれることで無益な争いをせずに済む」
「疑われている身として、いえ、それ以前に人として協力するのは当然のことですよ」
私は顔にいつもの笑みを張り付けて陛下の言葉に答えてみせたが、一方で自分の背中を嫌な汗が伝うのを感じていた。
屋敷の訪問日などはまた改めて決めることとなり、私は一旦帰宅の途についている。
おそらく私には分からない位置に陛下の私兵が付いて来ていることだろう。
私が関わっていないということを信じたい兄としての気持ちとは別に、関わっているならば逃すことは出来ないという国王としての責務も忘れることは無い。
我が兄ながら賢王と言われるだけのことはある。
だが、絶対に流民は渡さない。
王位も、初恋の女性も、両親からの期待も周りからの賛辞も、優秀な側近も、全て兄に捧げてきたのだ。
私が望むものはさほど多くはない。
そのひとつくらいは死守させてもらおう。
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