81.突然の呼び出し ※リンデン視点
私はアルベルグの王城の長い廊下を早足で歩いていた。
「それで?急ぎの用ということだったが何があったのだ?知らせに来た者は何も知らないようだったが」
同じように急ぎ足で横を歩く文官に問えば、彼もまた曖昧な答えしか返さない。
「それが私も詳しくはわからないのですが、おそらく少し前に来訪したレンバック王国からの使者絡みではないかと」
「レンバック王国から?」
「はい」
私はハルカを迎えるのに合わせて久々の休暇を申請しており、本来なら明日まで登城の予定は無かった。
手に入ったものが思っていたよりも上質だったことから、甘やかし愛でるだけの愛玩動物から格上の存在に変わった。
当初の予定からは少々狂ったが、理知的な瞳と簡単には靡かない気高さを持った異世界の娘に満足し、共に過ごす時間を楽しんでいた。
一筋縄ではいかなそうな珍しい娘。さて、今日はどのようにして距離を詰めてみようか。
彼女自身の事や聖獣の存在について聞けば、少しは会話が弾むだろうか。
朝からそのようなことを考え、まだ心を開かない彼女のために一人落ち着く時間も与える。
その時間でさえもこれからのことを考えれば私にとっては楽しい時間だった。―――そんな時だ、城から知らせが届いたのは。
いくら休暇中だとしても、いくら自分の兄だとしても、国王陛下直々の呼び出しを無視するわけにもいかず私は今ここにいる。
そんな私に文官はレンバック王国からの使者が来たと言った。
「何故レンバック王国から?そのような予定は無かったはずだろう?」
おそらく流民に関してで間違いないだろう。
(想定していなかったわけではないが、いくらなんでも早すぎるな。証拠は残してこなかったと言っていたはずだが・・・)
しかも急ぎ呼ばれたということは、少なからず自分が疑われているということだ。
実行役である宝石商の男たちはすでにこの国を去りレンバック王国とは反対方向の国へと向かい、ほとぼりが冷めるまでは戻ってこないと言っていた。
そうなると自分が関わったと言い張るのはスイーズ伯爵だけとなる。
権力と金に弱そうなあの男を使うために敢えて名を名乗ったことが仇となったか。
(本当に使えない愚かな男だ・・・自ら喋りさえしなければどうとでもなるものを。娘程度では脅しが足りなかったか)
表面上は急なレンバック王国からの訪問者をただただ不思議に思うように見せてはいるが、心の中でスイーズ伯爵に悪態をつく。
しかし、それも文官の次の言葉で止まった。
「ええ。本当に急な来訪だったようで。しかもその使者は聖獣に乗って現れたという話です」
「今何と言った?・・・聖獣だと?」
「ええ、ええ、驚くのも無理はありません。あの歴史上でしか語られない聖獣です。本当にいたのですよ!見た者の話では輝く銀の巨大な狼だったと」
やや興奮気味に話す文官が横を向くと、そこにいたはずのリンデン公爵が歩みを止め後方にいた。
「リンデン公爵?」
その呼びかけにハッとしたリンデン公爵はすぐに文官に並ぶ。
「すまない。聖獣とはもはや空想上の生き物かもしれないと思っていたこともあったからね。驚いてしまって。私も一度お会いしたいものだ」
何事も無かったかのようにうっすらと笑みを張り付けて、リンデン公爵は国王の元へと急いだ。
リンデン公爵が応接室に入ると、国王、宰相、そして見知らぬ男が一人いた。
まず口を開いたのは国王だった。
「休暇中に呼び出してすまなかったな」
「いえ。して、急ぎの用とは?」
「ああ。その前に彼を紹介しよう。レンバック王国から参られたラジアス・ガンテルグ殿だ」
紹介されたガンテルグという男も名乗り礼をとった。
騎士団所属と名乗る男は騎士服の上からでも分かるスタイルの良さと淡い髪色に甘い容姿を持っていた。
先ほど紅茶を持ってきたメイドが心なしかそわそわしていたのも頷ける。
「私はネイサン・リンデンと申します。王弟という立場ではありますが、現在は臣籍降下し公爵位を賜っております。以後お見知りおきを」
私は人好きされる外向き用の笑みを張り付け挨拶をした。
大体の者はこの顔にどこか安心感を覚えるのか、肩の力を抜く者が多いのだが目の前のガンテルグという男はその逆だった。
名乗った瞬間向けられた視線は力を抜くどころか緊張が高まった様子だった。
(おおかた私が犯人、もしくは犯人に繋がると踏んでいるのだろうが、こんなにわかりやすくては駄目だねぇ。まだまだ若い)
陛下に促され席に着くと話が始まった。
話の内容は想像出来る。さて、自然に驚く準備でもしておこうか。
「急ぎの用だがな、お前はレンバック王国の流民を知っているか?」
「ええ、もちろん知っておりますよ。噂は森を越えてこの国まで届いておりますからね」
ここで慌てて知らないなどと言う必要は無い。
私はこの国で主に外交を担っている立場だ。そんな私が周辺諸国の情報に疎いわけはない。
「たしか国王や聖獣の覚えもめでたい魔力供給という珍しい特性の魔力を持った黒髪黒目の男装の麗人、でしたか?」
そう言ってガンテルグを見れば「よくご存じで」と短い返事が返ってくる。
「まあこれくらいは。してその流民の方がいかがされました?」
今度は陛下を見て聞き返す。
すると若干言い辛そうに口を開いた。
「これからする話はお前にとっては気分が悪くなる話かもしれんが、落ち着いて聞いてくれ」
「はあ。よく分かりませんが、努力します」
「実はな、その流民殿が拐されたらしいのだ」
「それは・・・」
「そしてその件に関して捕らえられた者が、この件にお前が関わっていると言っているらしい」
「――私が、ですか?」
私は目を見開き動きを一瞬止め、あたかも今言われた言葉に驚いているかのように見せる。全てを知っている者が見ればとんだ茶番だと思うだろうが、それは仕方がない。
ネイサン・リンデン公爵は今はじめてこのことを知ったのだから驚かなくては逆に不自然だ。
「ああ。そのことでガンテルグ殿はこちらに参られたのだ。夜には他の騎士団の面々もこちらに到着されるらしく、我が国としても流民殿の捜索に協力することにした」
「さようでございましたか。しかし、私が流民殿の誘拐に関わっているとは一体どういうことなのでしょうか?」
「身に覚えはないか?」
「ええ、全く」
「そうか」
私の答えを聞いて陛下はどこかほっとしたようだった。
次話もまだリンデン卿視点で進む予定です。
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