74.あの時の手紙
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やっとちょっと進みました。
そうしてオーランドと共にやって来たディアスは今、謁見の間に通されていた。
自分が今回の何かに関わる重要な物を騎士団に渡したことは理解していたが、まさかいろいろとすっ飛ばして国王に、さらには聖獣に会うことになるとは思ってもいなかった。
驚きの声が出そうになるのを懸命に口を結ぶことで耐えた。
先ほど無様に叫んだスイーズ伯爵とはえらい違いだ。
そんなスイーズ伯爵は入ってきたディアスを見た時は自分の無実を証明するために執事はやって来たと思っていたのだがどうにも様子がおかしい。
ディアスは横目で主であるはずのスイーズ伯爵をちらっと見たが、すぐに視線を王座に向け深々と礼をとった。
「ディアス!ディアスよ!私が何もやっていないことをさっさと証明しろ!」
スイーズ伯爵は何かがおかしいと思いながらも保身を図ろうと必死だった。
この執事はいつも良い案を出してくれる。
今回のこの窮地もこの執事に任せておけば何とかしてくれる。そんな期待の籠った眼差しを向けられたディアスは視線だけスイーズ伯爵に向けると小さな溜め息を吐いた。
「おい・・・おいっ!何だその態度は!誰に向かってそんな態度をとっている!私はお前の主だぞ!?」
先ほどまで追い詰められて床に膝をついていたスイーズ伯爵は、国王の前だというのに執事に蔑ろにされたことに怒りで顔を赤くし、ディアスに食って掛かろうとした。
そして一歩踏み出そうとしたところをラジアスに服の襟を掴まれて「グエッ」とカエルのような声を上げた。
そしてラジアスはスイーズ伯爵を手荒に床に放り投げた。
「な、にをする!」
「お前こそここを何処だと思っている。王の御前であるぞ」
無様に転がり文句を言うスイーズ伯爵にラジアスはしゃがんで胸ぐらを掴むと一言「黙れ」と言って手を離した。
再び床に転がったスイーズ伯爵を尻目に国王はディアスへと話しかけた。
「スイーズ伯爵家の筆頭執事、ディアス・ギスで間違いないな?」
「はい、間違いございません」
「では先ほど第三部隊長に渡した物について話を聞かせてもらおう」
「私で答えられる限り全て偽りなくお話し致します」
そうしてディアスは話し出した。
「まず先ほどお渡しした物ですが、以前よりスイーズ伯爵家が懇意にしている宝石商が旦那様に渡した手紙でございます。内容が少々不審であったため念のため処分せず保管しておりました」
「ほお」
「今回旦那様が何か疑いを掛けられるようなこと、ましてや国王陛下直々の命で騎士団の方が動くようなことが起きたと聞いた時、私はこの手紙のことを真っ先に思い出しました」
国王はじっとディアスを見つめると続けるように促した。
「数か月前に来るはずだった黒髪黒目の少女・・・これは流民様を表しているのではないかと推察いたします。そしてそんな手紙を受け取った旦那様と旦那様を捕らえに来た騎士団の方々。国が動くほどの事態、流民様の身に何かあったと考えるのが自然です。故にその手紙を騎士団の方に委ねた次第です」
「なるほどな」
「国王陛下。無礼を承知でお教えいただきたく。我が主は一体何をしでかしたのでしょうか」
国王は一瞬言うかどうか考えた後、口を開く。
「スイーズ伯爵は流民を拉致した疑いがある。いや、もう確定だな」
さすがのディアスも驚いたのか、一瞬目を見開いた後スイーズ伯爵を見て、また国王に向き直った。
「なんと・・・なんと愚かな・・・」
「だがディアス・ギス。お前が寄こしたこの手紙のおかげで行き先が掴めるかもしれんな」
「お待ちください陛下!そやつは嘘をついております!」
再び喚きだしたスイーズ伯爵を抑えようと動くラジアスを国王が目線で制止する。
「ほう?どこが嘘だというのだ?言ってみろ」
「その手紙がここに存在するはずがありません!手紙は焼き捨てたはずです!」
「焼き捨てるとは、そんなにやましい手紙だったのか?」
「な、内容の話をしているのではなく手紙自体がここにあることがおかしいと言っているのです!」
スイーズ伯爵はディアスを見てさらに叫ぶ。
「ディアス!お前は何をしているのか分かっているのか?!ここまでお前を育ててやった恩を仇で返すとは・・・この恩知らずめ!」
言われたディアスは心底呆れた顔をするが何も言い返さない。
だが国王に「自由に話して良い」と言われるとスイーズ伯爵の方を向いてやっと口を開いた。
「旦那様に育てていただいた覚えはございません。私を筆頭執事として育てたのは旦那様が解雇した前執事ですし、私達使用人は互いに切磋琢磨しながら旦那様の至らない部分をフォローしながらやってきておりましたので受けた恩も特にございません」
雇ってから今までほとんど口答えなどしたことの無かった執事から言い返されたことに、スイーズ伯爵は驚きを隠せなかった。
「な、なんだと!誰に向かってそんな口を聞いている!私が誰だか分っているのか!」
顔を赤くし唾を飛ばしながら無様に叫ぶ伯爵にディアスはさらに続ける。
「ええ、とてもよく存じ上げております。傲慢で愚かなスイーズ伯爵様。旦那様こそ分かっておられるのですか?貴方が行ったことは犯罪です。国の益となる人間を意図的に排除するなど・・・」
「うるさいうるさい、うるさい!私に雇われている平民ごときが私に上から物を言うな!あの手紙だって燃やした!無いはずの物を持っているというお前の言葉は信用おけん!」
「それについては今からご説明いたします。国王陛下、宜しいでしょうか」
「聞かせてもらおう」
ディアスが語るに、スイーズ伯爵は基本読んだら読みっぱなし、出したら出しっぱなしの男であった。
それを文句を言われる前に片付けるのもこのディアスの仕事だった。
手紙などはディアスも目を通し、要点をまとめた物を用意するところまで、場合によっては返事を書くまでもディアスの仕事だった。
だからあの手紙もいつも通り読みっぱなしで机の上に放置してあったのを、いつも通り目を通したのだ。
そしてその内容から手元に残しておくべきと判断し、内容を別の同じような便せんに書き写し、入れ替えた。
ただ書き写し入れ替えただけならスイーズ伯爵も宝石商の男も気づいただろうが、ディアスは普段からスイーズ伯爵の字を真似て書かされたりしていたせいか人の字を真似ることが得意だった。
メイド長曰く、ディアスが本気を出せば真似された本人でさえ自分が書いたものと錯覚するレベルらしい。
そんなわけで、宝石商の男がスイーズ伯爵を迎えに来た時に燃やした手紙はディアスが真似て書いた方だったのだが気付かれることが無く、本物の方がディアスの手元に残ったというわけである。
「旦那様の手伝いをしていたことが変なところで大変役に立ちました」
「スイーズ伯爵よ。ずいぶんと優秀な男を雇っていたようだな」
スイーズ伯爵は両手を握りしめ、わなわなと震えていた。
少し前までは全てが上手くいっていたはずなのに、今は何をしても何を言っても悪い方に転がっていく。
「スイーズ伯爵。いい加減全て吐いて楽になったらどうだ?お前はアルベルグの者と繋がっているのか?ハルカ嬢をアルベルグに引き渡したのか?」
追い詰められ、打ち上げられた魚のように口をはくはくとしているとバタバタと誰かが謁見の間に駆け込んできた。
検問所へと捜査に行った騎士たちだった。
「御無礼失礼いたします!」
入ってきた騎士たちは部屋に転がるスイーズ伯爵を見ると僅かに目を瞠り、急ぎ国王の元へと駆け寄った。
そして何かを伝えると、国王の顔がより厳しいものに変わる。
「ハルカ嬢がいなくなり、お前が屋敷に帰り着いた少し後か。検問所を馬車に乗った二人組の商人が通過したらしい。その商人は“検め不要”の手形を持っていたそうだ。スイーズ伯爵、お前のサイン入りのな。行き先は隣国アルベルグ。こんな偶然あるか?」
検問所ではよほど信頼のおけるもの以外、基本的には荷の検問が義務付けられている。
自国の者ですら滅多にパスは出来ない。他国の者なら尚更だ。
アルベルグの誰かからのハルカを探している手紙、いなくなったハルカ、状況証拠に他国の商人に対しての検め不要の手形の発行。
誰が見ても答えは一つだった。
「お前は国を裏切ったか!答えろヘンリー・スイーズ!!」
たとえこれ以上情報を引き出せなくなったとしてもここで認めないようなら叩き切る。
そのつもりでラジアスは腰に下げた剣の柄に手を掛けた。
しかしその剣は抜かれることなく終わる。
「申し訳、申し訳ございません・・!流民の拉致の手引きをしました・・・」
ついにスイーズ伯爵が認めた。
手紙は57話で出てきた手紙です。
このディアスは56話の最初の方で貴族たちの会話に出てきた「当代が雇った優秀な執事」と同一人物です。
先代から仕えていた執事は口煩かったので解雇→使えそうで煩くない執事を雇った。
現スイーズ伯爵はそう思っていたようですがこれが大間違い。
作中では語られていませんが、前執事と同時にこっそり辞めていた執事見習いをスイーズ伯爵が好む人物に仕立て上げ再びスイーズ伯爵家に潜り込ませたというのが事実です。
おバカな伯爵は使用人の名前、ましてや見習いなど名前も覚えていないので全く気が付かなかったと言うオチ。




