72.スイーズ伯爵家の使用人
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
今回はひたすら使用人の話です。
謁見の間に新たに人が加わった。
スイーズ伯爵家の筆頭執事であるディアスという人物だ。
スイーズ伯爵家は本人たちよりも、その屋敷で働く使用人たちの方が明らかに優秀である――
これは知る人ぞ知る事実だ。
一番それを理解しているのは領民だが、スイーズ伯爵家と関わりのある貴族は大抵の者がその事実に気付いている。
それと言うのも、領地の視察に来るのも領民の声に耳を傾けてくれるのも、話し合いの際に資料を用意するのも、よく会話を聞いていてすぐに反応を示すのも筆頭執事であるディアスなのだ。
そしてそれとなくスイーズ伯爵に耳打ちし、上手く話をまとめるのもディアスなのである。
屋敷は内も外もいつも美しく保たれており、美にうるさい夫人やフィアラにも文句を言わせず、たとえ何かを言われてもすぐさま対応してみせるメイドたちもいる。
お茶会を開くと言われれば、参加者の好みをしっかりと把握し好みの紅茶やお菓子、さらには流行に乗り遅れないドレスや髪型で夫人やフィアラを着飾ってみせる。
何故スイーズ伯爵家の使用人たちがこのような素晴らしい人材だらけなのか。
それはひとえにこの使用人たちが仕える主たちが駄目すぎるからに他ならない。
筆頭執事が動かない限り領地の事などほぼほったらかしで何もしないくせに、金に汚く収入が落ちれば領民から取り立てれば良いと簡単に宣う伯爵。
娘のことは大切にしているが、それ以外には美容と贅沢にしか興味が無く、気に食わないことがあれば使用人に当たる伯爵夫人。
見た目は大変美しく、一見すると穏やかで慎ましくも見えるが、伯爵夫妻に溺愛され甘やかされて育ったせいで全てが自分の思い通りになると信じて疑わず、否定されるようなことを言われれば相手を悪者のように誘導する娘のフィアラ。
とんでもない一家である。
しかし、この職場は仕えるべき主たちを除けば非常に働きやすい。
まずお給金が良い。そして休暇もしっかり貰える。
何故ならそれらすべてを管理しているのが主一家ではなく、筆頭執事のディアスであるからだ。
本来なら当主が行うべき仕事のほとんどをディアスが行う。
それではスイーズ伯爵は何をしているのかと言えば、ディアスがまとめた書類に適当に目を通し、所定の場所に判を押す。
これだけである。
署名や文章が必要なものでさえ「お前が適当にやっておけ。こんなことで私の手を煩わせるな」と言ってのける。
煩わせるも何もそれがお前の仕事だろうと誰もが感じるだろうが、これがスイーズ伯爵の日常なのだ。
そして使用人たちがここを辞めない一番の理由は彼らが皆スイーズ伯爵領出身であることが大きい。
彼らの親や子らもこの領内で暮らす者がほとんどだ。
つまり、主が仕事を投げ出したまま放置すれば領地は荒れ、領民の声に耳を傾ける者もいなくなるだろう。
そのうちに減っていく収入に気付いたスイーズ伯爵はただ領民に納めさせる税を増やし、領民の生活は苦しくなるに違いない。
それが分かっていて放置することなど出来るわけがない。
優秀な者がさらに下の者を育てたことで現在のスイーズ伯爵家の使用人たちがいるのだ。
彼らは主一家を全く尊敬していない(本来なら問題である)がそれらをおくびにも出さない。
主一家を持ち上げつつ方々を上手いこと調整している。
基本的には屋敷内、伯爵夫人やフィアラに関してのことはメイド長を中心に、伯爵と領地のことは筆頭執事のディアスを中心に非常に上手く執り行っている。
「はて、ここの領主は一体誰だったかな」
これはいつ誰が言った言葉だったか。
フィアラらのことに関しては気づいているのはこの屋敷の使用人たちくらいかもしれないが、スイーズ伯爵の無能っぷりはまさに知る人ぞ知る、である。
ただ関わる者たちは、他家に口出しは無用、というより何か言ってここの使用人たちがいなくなるよりはそのままにしておいた方がお互い損をしないということから沈黙を貫く。
知らないのは本人だけだろう。
何もしなくとも上手くいくのだからある意味幸せな人生とも言える。
ただし、使用人たちも初めからこの様だったわけではない。
少なくとも前スイーズ伯爵が存命の時はこんなことは無かった。
前伯爵は視察ももちろん自ら行ったし、領民のこともきちんと考えていたが子供の教育だけは失敗した。
妻を早くに亡くした前スイーズ伯爵は息子――現スイーズ伯爵であるヘンリーを立派な領主になれるよう厳しく育てたつもりだった。
ヘンリーも黙って従うような大人しい子供だと思われていたが実はそうではなかった。
勉強は大嫌いであったし、お金があるのに働く理由も分からなかった。
自分が楽に生きるために平民がいるのにと思うような考え方の捻じ曲がった人間だった。
父である前伯爵のことも好きではなかったが自分とは考え方の違う人間だとはわかっていたし、逆らって説教されるのも嫌だった。唯一感謝したのは美人な婚約者を用意してくれたことだけだ。
そして突然の病で前伯爵が他界し自分が当主となると、今までの抑圧から解放されたかのように傲慢な態度をとるようになり、いろいろなことを投げ出すようになってしまった。
そんなヘンリーに初めのうちは前伯爵の時から仕える執事を筆頭に、諫め、諭し、改善を促したが彼は聞く耳を持たなかった。
それどころか鬱陶しいと自分に意見した使用人を次々に解雇した。
何人かの使用人が屋敷を去るのを見送るうちに、残された者たちはヘンリーに期待するのを諦め、従順に勤めているように見せながら、屋敷を去り領地で暮らすかつての仲間たちとこっそり協力し合ってヘンリーの愚かさにより領地に害が出ないようになんとか執り行ってきたのだった。
それにより現在の優秀過ぎる使用人が出来上がったのである。
当主に何も期待できない今となっては、娘のフィアラが優秀な婿を迎え入れてくれることを願うばかりだが、あまり期待はしていない。
話がなかなか進みません・・・。
でも作者としてはこれも必要な話だと思っているのでのんびりお付き合いください。




