71.聖獣が少し動けば
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『おい』
「ひっ!ひいぃ!」
動いたと思ったら突然に目の前に現れた聖獣の姿に最初と同じように腰を抜かしたスイーズ伯爵に息を整える間も与えないままユーリは唸るように言った。
『おい貴様。いい加減にしろ。知っていることを早く答えろ』
「な、何をでございましょう?」
『何を、だと?まだとぼける気か』
ぐるぐると唸り声を上げながらユーリがスイーズ伯爵を睨みつける。
「ひぃっ!・・・しら、私は何も知りませぬっ!」
『知らぬだと?先ほどあれだけ動揺していた奴がぬかすな。貴様が知らんと言うなら他に誰が知っているというのだ。答えろ。それとも今ここで死にたいか。偽りしか吐けぬ口など必要無い。この場で貴様ごと喰いちぎっても良いのだぞ』
静かに、それでいて低く腹に響くユーリの声に誰もが息を飲んだ。
国王とダントンは「止めろ!ユーリ!」などと叫んでいるが、聖獣から敵意を向けられたスイーズ伯爵の顔は青ざめ、身体はガタガタと震え、尻を床に着けたまま後ろにずるずると下がろうとした。
しかしそれを後ろに立っていたラジアスが阻んだ。
「ひゃっ・・・ぁあ、ひっ!おい、お前!私を助けろ!何をしている!・・頼む!助けてくれ!!」
スイーズ伯爵は縋るようにラジアスの脚を掴むが、ラジアスは一歩も動くことなく、そして突き刺すような視線を自分の脚を掴む男に向けた。
「偽りを述べなければ何も問題はありません。やましいことが無いのならそのように怖がる必要などないのでは?」
「そうだろ?ユーリ」とラジアスはユーリに投げかけた。
『そうだ。どうした?何故何も答えない。無言は貴様の罪を肯定するものと捉えるぞ!』
一際大きく唸った最後の声にスイーズ伯爵は頭を抱えて蹲った。
「知らん・・・!知らん、知らんっ!!私は何も知らない!流民の拉致に私は関係無い!私は何もやっていない!!私は悪くない!悪いのはあの流民だ!」
スイーズ伯爵がそう叫ぶとユーリはふんっと鼻息を吐いてまた一足で国王の隣に戻った。
『そら見ろ。やはりああいう馬鹿にはこれくらいやらねば分からんのだ』
「お前な、本当に喰い殺すかと肝が冷えたぞ・・・」
「聖獣様、私もこの場が血で染まるかと思いました・・・」
『あんな不味そうな者頼まれたとしても喰いたくない。それにもしもの時は魔導士長が盾でも張るんだろうが』
直前までの自分に向けられていた敵意から解放された伯爵は、そっと顔を上げ何故雰囲気が変わったのか不思議に思っていた。
今自分が何を叫んだかはよく覚えていないが、もしかして助かったのかと思ったのも束の間、後ろに立つラジアスがぼそっと「腕の一本くらいもぎ取ってしまえば良かったのに」と、舌打ちと共に呟いた声が聞こえてまた震え上がった。
この騎士は甘いマスクと穏やかな性格で人気の騎士ではなかったのか、これのどこが穏やかな騎士なのか。
フィアラが思いを寄せている男はこのような人物だっただろうか。
スイーズ伯爵は自分を見下ろすラジアスの瞳の冷たさに驚く。
何がこの男をこれほど噂と違う人物にさせるのか――流民が絡んでいるからなのか。
大切な可愛いフィアラを邪険にしてまで選ぶ価値があの流民にあるとでも言うのか。
(どいつもこいつも・・・そんなに流民が大事か?!万が一の自衛のための高額な武器を少数回すだけで私の懐も潤い上手くいっていた!誰も彼もが損をすることなく上手くやっていたのにあの娘が現れたことで全てが狂わされたのだ!)
目先の事しかか考えられないスイーズ伯爵にハルカの価値など到底理解出来るはずが無かった。
(あの娘がいなくなったところで誰も困らないではないか!あの娘が現れずとも、聖獣が姿を見せずとも、この国は元から平和だったではないか!初めから必要の無い存在だったのだ!)
ここまで来ても自分の仕出かした罪の重さを理解出来ていないスイーズ伯爵はどこまでも愚かだ。
そんな彼に国王が声を掛ける。
「さて、スイーズ伯爵よ。そろそろ気持ちは落ち着いたか?」
「は、はい。取り乱して申し訳ございません」
「いや、そんなことはどうでも良いのだ。落ち着いたならそろそろ居場所を吐いてもらおうか」
「居場所、でございますか?・・・どなたの居場所でございましょうか?」
「はははっ!面白いことを言う。流民のハルカ嬢の居場所をさっさと吐けと言っているのだ」
「恐れながら・・・私は存じ上げないと言ったはずです」
「ああ、確かに言った。「知らない。流民の拉致に私は関係ない。何もやっていない。悪いのはあの流民だ」だったか?ハルカ嬢の何が悪いのか言ってみろ」
「いえ、あの、それはその、聖獣様に驚き訳が分からなくなっただけでして・・・」
ダンッ!!
国王が椅子の手摺を思い切り拳で叩いた。
「スイーズ伯爵よ。私は時間が惜しい。いつまでもお前の戯言に付き合っている暇はない。さっさとハルカ嬢の居場所を答えろ」
「で、ですから私は何も知らないと――」
「まだ言うか。ではなぜハルカ嬢が拉致されたと知っている?私が納得する答えを言ってみろ」
「それは、陛下が、探しているとおっしゃったのではないですか」
「言ったか?ダントン」
「たしかに急ぎ探しているとおっしゃりました」
「でしたら――」
「ですが探しものが流民であるなどとは一言もおっしゃっておりません。まして拉致されたなど、探しものがなくなった経緯など一切話しておられません」
「だそうだが?・・・どうした、スイーズ伯爵。顔色が悪いぞ」
探しているのは流民だと分かっていたが、他の者たちは一言もそれを口にしなかったというのか。
ここまでの全ての会話が自分からこの事実を言わせるためだったと知ってスイーズ伯爵は眩暈がした。
流民を攫った証拠の物さえ出て来なければ大丈夫だと高を括っており、居場所や拉致された方法を聞き出そうとしているのだと思っていた。
まさか「流民は攫われた」という初歩的なことを吐かせたかったのだとは思っていなかった。
自分はさっきそのようなことを口走ったのか?
自ら最後の一押しをしてしまったというのか?
そんな、そんな・・・
「あ・・ああ・・・違う、違うのですっ・・」
「何が違うと言うのか。ハルカ嬢が攫われたことは一部の者しか知らない極秘情報だ。それこそ関わった者しか知り得ない。ハルカ嬢が失踪したと判明した際、王城にいなかったお前がなぜそれを知っているのか。言い訳があるのなら聞いてやろう。私を納得させる言い訳があるのならな」
国王の言葉にスイーズ伯爵は膝をつくことしか出来なかった。
なかなか話が進まなくてすみません(;´Д`)
みんな伯爵にイライラMAX!
ラジアスもきっといつもと全然違うどす黒いオーラを纏っているはず。




