67.心強い味方
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誘拐の目的が自分そのものだったとは完全な想定外だ。
(どうしたら良い?どうすれば逃げられる?どうすればこの状況を知らせることが出来る?・・・ラジアス様)
「怖い・・・会いたい、助けてラジアス様・・・」
リンデン卿と相対していた緊張から解放され、急に不安が私を襲う。
膝を抱えた腕に頭を埋めると涙が零れそうだった。
こんな時に思い出すのはやはりラジアスの顔で、頭に浮かんだその姿に縋りたくなってしまう。
しばらく動けずにいると腰袋の中でもぞもぞと天竜が動いた。
出てきても良いというのを忘れていたことに今さら気付く。
袋を開けてやるとぴょんと天竜が飛び出してきた。
『我も、我もいるぞ!泣くなハルカ!』
いつも以上に跳ねている。
天竜なりに私を励まそうとしてくれているのが分かって少し落ち着いた。
「そうだね。私は一人じゃなかった。どうやって逃げ出すか一緒に考えてくれる?」
目尻に溜まった涙を拭って天竜に笑いかければ驚きの言葉を返された。
『うむ!任せておけ!我はすでにここからの脱出方法を考えついておるぞ!』
「え?・・・ええ?!本当に?!」
『伊達に長くは生きておらぬわ!このような箱、我が破壊してくれる』
「箱ってこの部屋のこと?天竜はさっき見えなかったと思うけどこの部屋の壁魔法を吸収しちゃうみたいなんだ」
私は言いながら壁に向かって魔法を放った。
魔法は先ほどと同じように消える。
「ね?」
『うむ、確かに。だが魔法など使わなくとももっと簡単な方法があるではないか。物理的に壊せば良いのだ』
「・・・ええぇ?」
まさかの力技。
私が内心、いやいや、長生きとか全く関係無いじゃん?と思ったのは仕方がないことだろう。
「あのさ、天竜には非常に申し訳ないんだけど、女一人と毛玉一匹で壁は壊せなくない?武器も無いし、カンカンやってたら気付かれると思うんだけど」
『・・・』
私の言葉に天竜はいつになく不服そうにこちらを見て言った。
『ハルカよ・・・我が長くこの姿でいるせいで本来の我の姿を忘れておるな?我の本来の姿はこのような小さき箱などには到底収まらぬ巨躯であるぞ』
「そりゃあ竜なんだから大きくなったらそうかもしれないけど、あの姿になっても今はまだ幼体でしょ?」
『・・・おぬし冷静そうに見えて相当動揺しておるな。普段なら我が言わなくても自分で気づきそうなものを』
「え?何?どういうこと?」
『思い出せ。ハルカの普段の仕事は何だ?いつも城で作っているものは何だ?』
私の仕事は騎士団の雑用で、城では光珠を作っていて―――
「・・・あー!!」
『理解したようだな。ハルカの作る珠は我を飛躍的に成長させる。本来の姿とまではいかなくともこの箱を破壊できるくらいにはなれるだろう』
この部屋は確かに魔法は効かないかもしれない。
しかし私が作る光珠はただの私の魔力の塊だから影響は受けないはずだ。
本当に攫われたのが天竜と一緒で良かった。私一人なら動揺して考えつかなかっただろうし、思いついたところで天竜が一緒じゃなかったらいくら私が光珠を作れたとしても意味が無かった。
「天竜!私たくさん光珠作るよ!」
『うむ!我もこのようなところ早く去りたいのでな。ここにおったら確実にあの男の気持ちの悪い趣味に付き合わされそうだ』
「・・・たしかに」
珍しいものが好きだと言うあのリンデン卿にとって天竜以上に珍しい存在などありはしないだろう。
ここにいたら二人とも危ない。
『珠を作っている間の見張りは任せよ。魔力を感知出来ずとも人の気配くらいはわかるからな』
「うん、お願い。あと作ってる最中で私が寝落ちしそうだったら引っぱたいてでも良いから起こしてもらって良い?」
なにせ私の魔力は通常の400倍あるのだ。
倒れさえしなければ無限に光珠を作れるはずなのである。
『任せよ!』
◆◇◆◇◆◇◆
ハルカが光珠作りを始めた頃、ラジアス率いる王立騎士団第二部隊の面々はスイーズ伯爵邸に到着していた。
なお隊長であるアランは王城にて国王と共に行動している。
ドンドンッ―――深夜の静寂にドアを叩く音が響く。
比較的治安の良いレンバック王国では貴族の屋敷と言えど、夜間に門の前に見張りを立てておく家はほぼ無い。
扉を叩く音に屋敷の中の者たちが慌てて起きだしたようだった。
「――お待たせいたしました。このような時間にどなた様でしょうか?」
扉の中からこちらを窺うように声が掛けられる。
「王立騎士団の者だ。ご当主はおられるか?」
「騎士団の方?・・・少々お待ちくださいませ」
こちらを疑うような声と共に奥でひそひそ話す声が聞こえる。
窓からは何人かのメイドが外を見ていた。
やがてバタバタと走る音が聞こえたかと思えば、目の前の扉がゆっくりと開けられた。
大方本当に騎士団の者なのかどうか確認していたのだろう。
このような時間に訪問するなど通常ではないため当たり前の行動と言える。
「お、お待たせいたしました。旦那様は今就寝中でございまして、すぐに参りますので暫しお待ちくださいませ」
そう言って頭を下げるメイドにラジアスは言う。
「貴女はメイド長か?」
「はい」
「ではこの屋敷にいる者を全て一部屋に集めてくれ。もちろん奥方とご息女もだ」
「全員?今すぐにでございますか?」
状況が全く飲み込めないメイド長が慌てて聞き返す。
「全員今すぐに、だ。これは陛下の命である。速やかに頼む」
「国王陛下?!か、かしこまりました! 貴女たち、すぐにみんなを起こしてきてちょうだい。奥様とお嬢様の元へは私が行きます。旦那様の元へはディアスさんが行かれているから良いわ」
メイド長は急な事態にもかかわらず的確に指示を出していく。
スイーズ伯爵家の使用人たちが当主と違って優秀であるという噂は本当のようだとラジアスは彼らを見て思っていると、外に新たな馬の蹄の音が響いた。
王立騎士団第三部隊の者たちだった。
「ラジアス!遅くなってすまない。今どんな状況だ?」
ラジアスの横に立ち声を掛けてきたのは第三部隊長のオーランドだった。
「お疲れ様です。こちらも先ほど到着したばかりです。私たちはこのまま伯爵を連れて城に戻ると思いますのでここはお任せします」
「おう。しっかし陛下直々の命なんていつ振りだ?伯爵は黒で間違いないのか?」
オーランドは短く刈り込んだ茶髪を手でガシガシとかきながら小声でラジアスに聞く。
「どうでしょう。さすがに白ではないと思いますが、この感じだとここにはいなさそうですね」
「だよなー。まあ俺たちは陛下の命に従うだけだがな・・・お、伯爵のご登場だ」
オーランドが顎で示した先には身なりを整えたスイーズ伯爵が慌てて階段から降りてきていた。
メイド長が言うディアスさんとはこの屋敷の執事です。
使えない伯爵の代わりにいろんな仕事をしています。
伯爵は彼を上手く使っているつもりですが、実際は「これをどうにかしておけ」→「かしこまりました」くらい何もしていません。
スイーズ伯爵家の使用人は皆優秀ですが「ディアスさんがいなくなったらこの伯爵家は終わりね」と思っています。
仕事で利き手を負傷しまして、文字入力することが痛いので更新の感覚が少し空いてしまうと思います。
ゆっくりですが続きを書いてはいますので暫しお待ちを~。




