64.流民は何処へ
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今回は切りが悪く少し長めとなりました。
会議室に主要な関係者が集まり、その隣室に来客の手伝いなどをしていたメイドたちが集められた。
敢えて隣室にメイドが集められたのは情報漏洩を防ぐためと、妙な先入観を持たせないためだった。
「陛下。念のため城内の空き部屋など全て確認しましたが流民の姿はどこにも」
「だろうな」
「城下警備の第三部隊にもすでに知らせをしてあります。何か情報が入り次第また」
「わかった」
「こちらからは何かわかったか?」
国王は机の上に広げられた目録に目をやった。
目録に記された商人からの購入品、貴族からの献上品の中で比較的大きい物や重い物など、運ぶために荷車を必要としそうな物を選別する。
受け取り係だった者に確認すると、その中で箱などの何らかの入れ物や、大きな布にくるまれていた物はそれほど多くは無かった。
「だいぶ絞られたな」
「品も確認しましたが、これとこれ・・あとこの品も布ごと納められています」
「そういえばこちらの物は従者が担いで持って来られていました」
次々と上げられる報告を元に目録の該当する品に線を入れていく。
すると残った品は僅か二つとなっていた。
「残りはこの二つか。ワイズ辺境伯からのタペストリー、そして・・・スイーズ伯からの造花」
「いずれも大きな箱に入れられていました」
「うむ・・・。ワイズ辺境伯とハルカ嬢の関係性は?」
「今のところ直接的な接点は無いはずです。ただワイズ辺境伯は流民の出現で聖獣様が力を手にすることを大層喜んでおられるようで、今回献上されたタペストリーも建国時の聖獣様と初代国王の姿が織られたものでした」
「そうか」
ワイズ辺境伯領はザザ山に面した広大な領地だ。
初代ワイズ辺境伯は300年前の戦争で初代国王サンディアと共に立ち上がったメンバーの一人であった。
建国にあたり、ザザ山方面の守りを固めるために移り住み、辺境伯という爵位に就いたものの、実際は当時の聖獣や魔力持ちたちの力を恐れた他国からの侵略など一切無く、今となってはザザ山の植物から取れる染料を用いた織物が盛んな場所だ。
そしてサンディアと肩を並べ戦う聖獣の姿を実際目にした初代ワイズ辺境伯が残した手記が数多く存在しているため聖獣への畏敬の念が強い。
それ故聖獣へ力を分け与えることが出来る流民の出現は彼らにとって喜ばしいことだった。
もちろんそういったことを理解した上で、念のための確認だ。
国王やラジアスたちもワイズ辺境伯がハルカの失踪に関わっているなどは思ってはいない。
「品を納めに来られたのはワイズ伯爵のご子息ご息女で、次の夜会で流民の姿を見た暁には流民と聖獣様のお姿を織ったものを作成するつもりだと申しておりました」
せいぜい子供達にまでその思想は行き届いているのだなと思うだけだ。
「わかった。ではスイーズ伯爵は?」
国王は周りの面々の顔を見て苦笑した。
「言わずもがな、か」
スイーズ伯爵領の主な産業が武器であることは言わずと知れたことである。そしてハルカが現れたことによりその商売が上手くいかなくなっていることも事実である。
現在この国に置いてハルカの存在を一番疎ましく思うのがスイーズ伯爵であっても何の不思議でもない。
「ただなあ、あいつがそんな大それたことが出来る人間だとも思えん。スイーズ伯爵はハルカ嬢との面識はあったのか?」
「伯爵自身は無かったと思いますが、娘のフィアラ・スイーズ伯爵令嬢はハルカと面識があります」
「あ、あの!」
ここで第一部隊の騎士が手を挙げた。
「なんだ?」
「以前そのフィアラ嬢から流民に心無い言葉を投げられ、扇を壊されたと言われたことがあります」
「それは穏やかではないな。どういうことだ?」
「私もフィアラ嬢からの話を聞いだだけなので詳しくはわかりませんが、自分の存在はこの国にとって有益なのだと傲慢無礼に振舞いフィアラ嬢の手にしている扇を差し出せと言われたと・・・」
「ハルカがそんなことするわけが無いだろう!!」
会議室にラジアスの声が響く。
「落ち着け。・・・他には?」
もう一人、第一部隊の者が手を挙げた。
「私もフィアラ嬢から流民に忠告を受けたと。・・・そこのラジアスに近づくな、伯爵令嬢ごときが目障りだと」
「――何をバカなっ!わざわざ騎士団まで来てハルカを貶めていたのはその伯爵令嬢の方だ!」
「だから落ち着けと言っているだろうが」
バシッと国王によって背中を叩かれたラジアスは唇を噛み締めて拳を握った。
「それで?私はハルカ嬢のそのような言動の報告を受けていないのだが?」
「それは――。・・・私もラジアスが言うようにハルカ嬢がそのような言動をしたということに疑問を持ったからです」
「私もです。普段のハルカ嬢からは想像も出来ないですし、フィアラ嬢以外の者からはそのような話を一切聞いたことが無かったので、確認を取ってからと思いました」
第一部隊の騎士たちの話を聞き、ラジアスは握りしめていた手を緩めた。
「なるほどな。まあ私もあのハルカ嬢がそのようなことをする人間ではないとは思うが・・・まあその真偽についてはさておき、その令嬢が原因となってスイーズ伯爵が動く可能性は?」
「スイーズ伯爵は娘を溺愛しているというのは社交会では有名な話ですが・・・いくら何でもそんなことで。そこまで愚かではないと思いたいですが」
「献上された造花はどのように持って来られたのだ?」
「スイーズ伯爵と造花を入れた大きな箱の乗った荷車を引く従者が二人付き添っておりました」
「品を納めた後は?」
「その後の動きは私には分かりかねますが、あの場にいたメイドたちならあるいは」
「では直接話を聞くか」
そう言うと国王は隣室に向かった。
開けられた扉から急に現れた国王にメイドたちが驚き頭を下げる。
「ああ、今はそういう堅苦しいのは無しにしてくれ」
その言葉にメイドたちはおずおずと顔を上げる。
「さて、何故ここに集められたのかわからなくて不安に思っていることだろうが、君たちを罰するためではないからそこは安心してほしい」
メイドたちはあからさまにほっとしたように息をついた。
就寝していたところを急に起こされ一部屋に集められた彼女たちは、今の今まで理由も分からずこの部屋で待機させられていた。
「この中で今日スイーズ伯爵と言葉を交わした者はいるか?」
国王の言葉を聞いてメイドたちが「スイーズ伯爵様?」などとざわつく。もしかしたらスイーズ伯爵が誰だかを知らないものもいるのかもしれないと国王は言葉を続ける。
「従者を二人連れて大きな造花を二つ納めに来たようなのだが」
「それでしたら私が」
一人のメイドが手を挙げた。
「造花の参考にしたいから庭園を見たいとおっしゃられたのでご案内いたしました」
「どれくらい庭園にいたかは分かるか?」
「申し訳ありません。ご案内した後は私も仕事に戻りましたのでそこまでは」
「そうか。他に誰かを庭園へ案内した者はいるか?」
国王が他のメイドを見渡す。
誰も手を挙げなかったので一番年嵩のメイドが答えた。
「私の知る限り他にはいないかと。品をお納めに来られた方達もすぐに帰られる方が殆どでした。普段庭園に興味を持たれるようなご令嬢方も本日は騎士団の公開演習もございませんでしたし、雨の後で地面がぬかるんでおりましたから」
わざわざぬかるんだ庭園へ足をやり履物を汚す貴族はいないだろう。
「ではもう一つ質問だ。この中で今日ハルカ嬢に会った者はいるかな?」
国王の質問に今度は何人かのメイドが手を挙げる。
「私は朝、王城へと向かうハルカ様にお会いしました」「私も」
「私はお帰りになるハルカ様にお会いしました。とても眠そうにされていて・・・」
「それは何時頃だ?」
メイドの言葉を遮るように国王が聞く。
「え、あの、正確な時間はわかりかねますが、雨が上がって暫く後のことだったかと」
「ハルカ嬢に会ったのはどこだったのか覚えているか?」
「二階へ続く階段前の通路をひとつ曲がったところです」
そこからさらに一つ角を曲がれば庭園横の通路だ。
やはり庭園に差し掛かる前までのハルカの行動はいつも通りだった。
何が起こったのか、なぜこのようなことを聞かれているかも分かっていないメイドからもたらされる情報がハルカがいなくなった事実と繋がっていく。
「そうか。皆このような時間にご苦労であった。もう下がって良い」
国王たちはそう告げると隣の会議室に戻って行き、外に控えていた城門を警備していた騎士を呼んだ。
会議室では城門を守っていた第二部隊の騎士二人に対して確認作業が行われた。
怪しいところが無かったかという問いに対して二人は「無かったと思う」と答える。
登城した時と同じように荷車に箱を二つ乗せて帰って行ったと言った。
「箱の中は確認したか?」
ラジアスが聞く。
「登城された際にはもちろん中の荷を確認しました。しかし帰りは・・・」
来た時は中身を検める義務があるが、帰りは義務付けられていない。
「あ、でも従者の方と言葉を交わした際に中身を納めたから箱が空になって軽くなったと言って空箱を見せられましたが・・・」
「二つともか?」
「!・・・いえ、ひとつだけです。もう一つは確認していません」
「わざわざ見せる必要のない箱を開けて中をね・・・ますます怪しいな」
国王が呟やいたその一言に何も知らない騎士が反応する。
「陛下、ラジアス副隊長。一体何が起きているのですか?私たちが通過させたその箱に何か問題のある物でも入っていたのですか?」
ラジアスが国王を見ると国王は頷いて見せた。話しても構わないということだ。
「ハルカが失踪した」
「ハルカが・・・失踪?!」
騎士たちは驚きの声を上げた。
同じ第二部隊に所属する者としてハルカの存在は非常に近しいものだ。
そのハルカがいなくなったというのだから当然だろう。
「そうだ。自分でいなくなった可能性も絶対無いとは言えないが、状況から考えて何者かに攫われた可能性が強い。そして今一番疑わしいのはスイーズ伯爵だ」
「なっ、ではあの私たちが確認しなかった箱の中にハルカがいたかもしれないということですか?!」
「・・・そうだ」
「っそんな・・!」
「お前たちを責めているわけではない。そもそも下城の際の確認は義務付けられていないからな」
「ですが・・・」
騎士の気落ちした声を遮るように国王が手をパンと叩いた。
「そもそも責められるべきはお前たちではなく早々にハルカ嬢の警備を解いた私にある。今はハルカ嬢の救出を第一に考えろ。反省するのはその後だ」
「「「はっ!」」」
その場にいた者の声が揃う。
「ガンテルグ第二部隊副隊長、先に隊員を連れてスイーズ伯爵の身柄を押さえろ。抵抗するようなら縛り上げて構わん。一通り屋敷を捜索してもハルカ嬢が見つからない場合は伯爵を城まで連れて来い。ああ、それから伯爵夫人と娘、スイーズ伯爵家の使用人なども屋敷から一歩も外に出すなよ。第三部隊をそちらに向かわせるから彼らに屋敷を見張らせろ」
「はっ!」
「ダントン」
「はい」
「お前はスイーズ伯爵が城へ来た時に特性の“鑑定”を使え。魔力から感情を読み取ることは出来るな?」
「はい、お任せを」
「そっちのお前たちは念のため検問所に詰めていた者を呼んで来い」
「はい!」
「では行け!」
国王の声で皆が一斉に動き出した。
読んでいただきありがとうございます!
どうにも会話が多くなりがち。
読み辛くなければ良いのですが。




