61.消えた流民
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ハルカが連れ去られる少し前―――
「先生、これで最後です」
ハルカは作り上げた光珠をダントンに渡す。
「お疲れ様。どうだい?さすがに一日で5つは辛いかな?」
「そうですね。以前のようにふらついたりすることは無いですけど、実は今結構な眠気に襲われてます」
「うーん、やはり余裕をもって3つまでにしておくほうが良いようだね。今日はもう終わりにするけれど、一人で戻れるかい?」
「天竜もいますし、大丈夫ですよ」
窓際の椅子の上ですやすや眠る天竜を見てハルカは言った。
窓から太陽の光が入り込み、天竜は実に気持ち良さそうだ。
「いるといっても寝ているけれどね」
「天竜ってよく寝るんですよ。やることがないとずっと寝ていますよ。やっぱりまだ幼体だからですかね」
「そうなのかな。天竜様に関しては私たちも分からないことの方が多いからね。ハルカ嬢から聞いて初めて知ることも多いよ・・・っとそんな話よりハルカ嬢も早く休んだほうが良い」
「そうですね。そうさせてもらいます」
「本当に送っていかなくて大丈夫かい?」
「大丈夫ですって」
ハルカは椅子の上で眠る天竜をそっと掬い上げ、腰袋の中に入れた。
眠っている天竜はちょっとやそっとの振動では起きないのでこの中に入っていてもらっても何の問題も無いのだ。
「それでは失礼します」
「ああ、気をつけて戻るんだよ」
光珠作りを終えて自室に戻るハルカは決まって同じルートを通る。
庭園に面した通路からその横を抜けて騎士団へ戻るそのルートが一番人に会わず、気楽だった。
貴族相手にも物怖じしないと思われているハルカであったが、やはり粗相があってはならないと緊張もするし、ご令嬢や城のメイドたちから声を掛けられて王子様対応するのも気疲れする上なかなか解放されなくて困ることもある。
本来の自分をそこまで偽っているつもりはないが、外面を用いている自覚はあるので、それを張り付けたままにしているのはなかなか疲れるものだ。
しかもついこの間までは、この人通りの少ないルートでさえも視線を感じることが多々あった。
ラジアスとの外出許可が下りた後から城壁内でのその視線を感じなくなったことから、あれはおそらく警護というよりも監視の意味合いが強かったのではないかとハルカは勝手に推察している。
視線の先の存在をハルカでもわかるくらいに匂わせているあたりが牽制の意味もあったのかもしれないが。
一応この国に保護されたとは言っても、いきなり現れた正体不明の人間が敵じゃないですよー、力を悪用しませんよーと言ってもハイそうですかというわけにはいかないだろう。
外出許可が下りるまでの数か月間はハルカという人物を見極めるための時間だったのだろう。
今となっては城壁内では監視の目も、付かず離れずの警護も無くなり比較的自由に歩くことが許されている身だ。
人の視線を感じ無いというのは実に落ち着く。
日本において、人から監視されるという状況は普通に生活していれば無いことから余計にそう思うのかもしれない。
そういう理由もあって人通りの少ないこのルートを使用していたのが、今回ばかりは裏目に出た。
庭園へと出た途端に何者かに腕を勢いよく引かれた。
「うわ?!」
驚き、バランスを崩したところにこめかみに一撃。
「っ何を――」
手刀のような形で殴られ、強い衝撃に脳が揺れるようで立っていられなくなった。
そこへすかさず口と鼻を覆うように布が当てられた。
そしてそこでハルカは意識を失った。
「やあ、副隊長殿。今日は城で仕事かい?」
「魔導師長。商人たちから購入した夜会用の荷が大きいものが多いので我々が駆り出されました」
ダントンがちらっとラジアスの後ろに目をやれば、大きな箱を抱えた騎士たちが指示された方へと荷物を運んでいるのが見えた。
「たしかにあの大きさでは文官には厳しいようだ」
「そうでしょうね。魔導師長がここにいらっしゃるということは今日のハルカの光珠作りはもう終わったのですか?」
「つい先ほどね。ああ、今日はいつもより多く作ってもらったからハルカ嬢には少し無理をさせてしまったようでね」
「・・・もしやまた倒れたのですか?」
「いやいや、そこまでではないから大丈夫だよ。ただとても眠そうでね。もしかしたらすでに自室に戻って眠ってしまっているかもしれない」
ダントンの言葉にラジアスはほっと肩を下した。
「それならば後で様子を見ておきます」
「そうしてくれると助かるよ。あの子は誰かが気にかけてやらないとすぐ無理をするから」
ラジアスはダントンの言葉に激しく同意して頷いた。
ダントンとハルカの様子を見に行くと約束を交わしたものの、ラジアスが戻ったのはすっかり日も暮れてからだった。
トントン――ハルカの部屋の扉をノックするも中から返事は無い。
「ハルカ?いないのか?」
声を掛けるも返事が返ってこないため食堂にでもいるのかと思い、ラジアスは食堂へと向かった。
自身も食事を取っていなかったので日替わりセットを受け取り席に着く。
辺りを見回したがハルカの姿はどこにも無かった。
「副隊長、お疲れ様です」
先に食事を終えた隊員から声を掛けられたのでハルカを見ていないかどうか確認する。
「いや、自分は見ていないです。お前らは?」
話を振られた他の隊員も皆見ていないと言う。
やはり疲れて部屋で寝ているのだろう。そう思ったラジアスは食事の作り手であるケッチャ夫人に声を掛け、ハルカ用に軽くつまめる軽食を用意してもらうよう頼んだ。
自身の食事を終え、用意してもらった軽食を持って再びハルカの部屋を訪れた。
「ハルカ?ハルカー?いないのか?」
おかしい。
これだけ大きな声で呼んでも反応が無いなんて倒れているのではないか。
「天竜?そこにいないのか?いたら返事をしてくれ」
ドンドンと強めに戸を叩き、ハルカと常に行動を共にしている天竜に呼びかけるがこちらも応答が無い。
ドアノブを動かしてみるが、しっかりと鍵がかかっているようでガチャガチャという音が響くだけだ。
何か嫌な予感がしたラジアスは執務室に戻ると奥にあるハルカの部屋の合鍵が仕舞ってある箱の鍵を開ける。
それを持ちハルカの部屋に戻り鍵を回した。
「すまない。入るぞ」
一応声をかけ扉を開ける。
薄暗い部屋のどこを見渡してもハルカの姿は無かった。
(こんな時間に部屋に戻っていないなんて・・・ハルカはどこへ行った?まさかどこかで倒れているのか?)
ラジアスはハルカの部屋を後にし、灯りを手に持つと外へと駆け出した。
ハルカが普段城へ行く際に通っている道をくまなく探すが見つからない。
(まずいな・・・。最悪の事態も考えなければ)
流民であるハルカが姿を消したとなれば大事だ。
だがハルカが自分からここを去るとは思えない。いなくなったという確証が無ければ公にすべきではない。
だが一人で探すには限界がある。
そう感じたラジアスは城へ行きまずはダントンを探すが、運の悪いことに彼はすでに帰宅してしまっていた。
(クソ!あとはあの方しかいないか)
いなくなったのはハルカだけではない。一緒に天竜もいなくなっているのだ。
天竜の存在を知っているのは残るは国王のみ。
ラジアスは城内の国王の居住区へ急いだ。
王の部屋へと続く扉の前には第一騎士団が護衛として立っている。
騎士たちは前触れなく現れたラジアスに少し驚いている様子だった。
「取り急ぎ陛下へ御目通り願いたい」
「こんな時間にか?用件は?」
「申し訳ないが陛下以外に話すことは出来ない」
「我々にもか?」
「ああ。陛下には流民の件で至急判断願いたいことがあると伝えてもらいたい」
「・・・わかった。少し待っていろ」
僅かの時を経て騎士が戻ってきた。
「陛下がお会いするそうだ。入れ」
開けられた扉を抜けると、そのさらに奥にもう一枚扉がありその前にも護衛の騎士たちが立っていたが話が通っているおかげで特に止められることは無かった。
先ほどよりも重厚な扉の奥には国王の住まいがある。
扉をノックし名乗る。
「王立騎士団第二部隊副隊長ラジアス・ガンテルグです」
「入れ」
言われて中に入れば国王は立派なソファに腰を掛けており、その向かいのソファにラジアスも座るように促した。
「夜分に申し訳ありません」
「気にするな。急ぎの用なのだろう?ハルカ嬢に何かあったか?」
「まだわからないのです。陛下、人払いを」
「・・・わかった」
ラジアスの顔に出た若干の焦りを感じ取ったのか国王はすぐにその要求に応えた。
国王が手をさっと挙げると室内にいた者が外へと出て行った。
それにしても平和ボケって怖いですね。
警備体制どうなっとるんだ。いや、まあ私が書いている話なんですけどね・・。
まだイチャコラ無しが続きますが辛抱強くお付き合いいただければ幸いです。




