46.面倒な人
ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます。
ユーリ。
実感わかないって言ったけど、今わいたよ。
今、私の目の前にはとても美人な女性がいる。
柔らかそうなふわふわした金髪にピンクがかった淡い茶色の瞳、ドレスから覗く細い首元に華奢な腕、漂うフローラルな香り。
これぞ庇護欲を誘うご令嬢と言った感じの可愛い系美人である。
「無礼者が。下民に名乗る名など無いわ。お前のような薄汚い烏がなぜこんなところにいるのです。ああ、どなたかに媚でも売りに来たのかしら。汚らわしい」
ただし、性格はかなり悪そうだ。
事の発端は数分前。
いつものように王城で光珠を作成し終えた後、私は廊下を歩いていた。
角を曲がろうとしたところで急に足を出してきたのがこの女性である。
(うん、出してきた。明らかに引っ掛けようとしてたよね)
曲がる前にちらちらとドレスの端が見え隠れしていたので、わざわざ距離をとって曲がったおかげで避けることが出来たのだが。
避けた瞬間に聞こえてきたのは舌打ちだった。
体勢を整えて相手を見ればそれはそれは美しいご令嬢がいたのである。
その女性が言った言葉に舌打ちをしたくなったのはこちらの方だ。
「いきなり出てくるなど危ないではないの」
いや、いきなり足を出してきた人が何を言っているのか。
反論したいところだが、見るからに貴族といった風貌。
特殊な立場と言えどこちらは一般市民。
反論などはしない方が良さそうだと思い留まった。
「申し訳ありません」
ご令嬢は手にした扇を広げると口元を隠すようにして言った。
「貴女、流民の方でしょう?女性だと聞いていましたけれど、その格好・・・なんてみっともない。騎士団に身を置くなんて、男性を漁りにでもいらしたのかしら?なんてはしたないの」
(はあ?!何このひと。てゆーかあんた誰だよ!)
内心ひどく苛立ったが顔に笑顔を張り付けて冷静に返す。
「申し訳ございません。しかしこの服は隊から支給された服ですし、騎士団には私などに漁られるような愚鈍な者などおりませんのでご心配には及びません」
「私に反論するというの?」
「いえ、そのようなつもりはございません。・・・ところで失礼ですが貴女様のお名前をお伺いしても?」
ご令嬢は顔をかっと赤くさせわなわなと手に持つ扇を握りしめた。
そして冒頭の台詞に戻る。
おそらく自分のことを知らない者など今までいなかったのだろう。
ここまでの言動から察するに貴族の中でも上の方なのだろうと予想できた。
これだけ容姿に恵まれ、家格も高い。
(世の中全てが自分の思い通りに動くと思っていそうなタイプだな)
正直にとてつもなく面倒臭い。
絶対に友達になれなさそうなタイプ。好みじゃない。
しかも烏というのは私のことだろうか。
べつに嫌いじゃないから良いよ。こちらの世界の烏は日本にいたものよりも小ぶりでころっとしていて可愛いし光に当たると艶やかに光って綺麗なんだから。
「媚びを売るなどとんでもない。私は仕事でこちらに赴いただけですよ。そう、仕事なのです」
こういうタイプは関わらないに限る。
どういうわけか向こうはこちらを一方的に敵視しているようだし早く逃げたい。
私は出来る限り丁寧な言葉を選んで話し続ける。
「名も知れぬ貴女様は貴族のご令嬢とお見受けいたします。城にいらっしゃるということは、きっと私のような者には分からないお仕事がおありなのでしょう。(あるよね?まさか遊びでお城に来たわけじゃないよね?)私などにお時間を割くのは勿体無いのでは?(いい加減この無駄な時間から解放してほしいんですけど)」
言葉に嫌味を隠したのは許してほしい。
本当に早くどこかに行ってほしいのだ。
これを言っている間も私の顔には笑顔という仮面が張り付いたままだ。
そろそろ解放してもらわなければ顔が攣ってしまいそうだ。
「なんと言い訳しようと勝手だけれど、ラジアス様に少し気にかけていただいたからといって勘違いなさらないことね。あの方はとてもお優しいの。それこそ薄汚い烏にまで気を回すほど。物珍しさだけで男性の気を引けるのはほんの一瞬なのだからあまり調子に乗らないことね」
そう言うと彼女は去っていった。
残された私は思わず呟く。
「・・ええ~。何今の」
つまり、彼女の本当に言いたかったことは最後のところなのだろう。
“薄汚い烏の分際でラジアス様に近づかないでちょうだい”
これを言うためだけに態々私を待ち伏せし嫌味を言って帰って行った。
暇人か。
「というか結局あの人どこの誰なの?」
考えても知らないものは分からないし、もう帰ろうと思っていると後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとセリアンがこちらに向かって来ていた。
「ハルカも今から隊に戻るのか?一緒に帰ろう」
セリアンは私の後ろからやってきた。
もしかしたら先ほどの女性とすれ違っているのではないだろうか。
「セリアン様、ここに来るまでに可愛らしい女性に会いませんでしたか?」
「ん?フィアラ嬢の事か?何だ、お前知り合いだったのか?」
「ふわふわの金髪にピンクがかった瞳のご令嬢ですか?」
「そうそう。スイーズ伯爵家のお嬢さんだよ。めちゃくちゃ可愛いよな。さっきもすれ違いざまに「ご機嫌よう」って。いやー、隊長の御使いなんて面倒だったけど来て良かったわ」
でれっとしたなんとも締まりのない顔で話すセリアンが少し心配になった。
女を見る目が無いぞ、セリアン。
しかし今の話で分かったのは彼女の名はフィアラ・スイーズ伯爵令嬢。
人によって態度を変えるところも、自分より立場の弱いものを見下す態度も、私の最も苦手なタイプ。
しかもどうやらラジアス様に想いを寄せている様子。つまり恋のライバル。
(めんどくさ~・・・)
考えただけでげんなりする。
久々に人に悪意を向けられたからか精神的に疲れた。
早く戻ってラジアスの笑顔を見てほっとしたいと考えながら、隣でいまだフィアラ嬢への賛辞を続けるセリアンに適当に相槌を打ちながら王城を後にした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
久し振りに新たな登場人物が出てきました(笑)
評価、感想なだどいつも励みになっています。
ニヤニヤしながら読んでます。ありがとーう!




