35.初めてのお出掛け(2) ※ラジアス視点
ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます。
もう少しラジアス視点が続きますがお付き合いください。
「副隊長!あれは何ですか?」
「これってどういうふうに使うんですか?」
「うわぁ、見てください副隊長!この飴細工、可愛すぎて食べられませんね!」
「待て待て。あんまり自由に動きすぎるな。迷子になるぞ」
俺は今にも走りだしそうな黒髪の少女の腕を慌てて掴む。当たり前だが自分とは違う細い腕だ。今日の彼女の姿はいつも以上に貴公子然としている。ハルカのことを何も知らない者が見れば異国風の美少年だと思う者がほとんどだろう。
自分で言うのもなんだが、俺自身も人目を引く容姿をしているとは思うが、ハルカもまたその様だ。王城勤めの女性たちや、鍛錬を見学に来ている女性たちまでもがハルカには好意的な視線を向けている。
それはハルカの彼女たちに対する妙な話し方にも理由があるとは思うが、ハルカが女だと分かった後もそれはかわらない。それどころか、むしろ分かった後のほうが物語の王子様のようで格好良いなどと言われているらしい。
「わ、すみません。気になるものが多すぎて」
そう言って笑うハルカは本当に楽しそうだ。
(こんなに喜んでくれるなんてずいぶんと可愛らしいじゃないか。連れてきて正解だったな)
―――そう。ハルカは可愛い。
女性たちをときめかせ、セリアンなどはいまだにハルカを男のようだと言っているが、俺にはもう女性にしか見えない。初めこそ男と勘違いはしたが、一度女だと認識してしまえばもうそれ以外に見えない。
一番の勘違いの原因となっていた短い髪もこの数か月でだいぶ伸びた。今日もジェシーたちの手によって緩く結い上げられたその髪は最近の手入れのせいかとても艶やかだ。
(1ヶ月ほど前にユーリの背に乗って運ばれてきた時はここまで艶やかな髪ではなかったはずだしなあ)
そんなことを考えながら自分の横で街並みに目を輝かせているハルカを見て、ついその時のことを思い出した。
さすがに女性を担ぎ上げるわけにもいかないので横抱きにしたのだが、あの時のハルカの慌てようは今思い出しても面白い。
赤くなって暴れた後硬直し、胸元に顔を寄せてきた時は何かこう、腹の底からぐわっと来るような不思議な感覚になった。懐かない動物を手懐けた喜びとでもいうのだろうか。とにもかくにも、男慣れなど微塵も感じさせない初心な反応であった。
「・・・副隊長?ニヤニヤしてどうしたんですか?」
「おい、ニヤニヤとか言うな。そんな顔してないだろう」
ハルカが怪訝そうにこちらを覗き込んできた。少し思い出し笑いをしていただけだというのに酷い言いようだ。そもそも考えていたのはお前のことだというのに。
「いーえ、ニヤついてましたね。何考えてたんですか?」
「んーちょっとな。それよりそろそろお腹が空かないか?ちょっと行きたい店があるんだが」
「え?どこですか?副隊長おすすめのお店ですか?」
「オススメというか・・・ハルカ甘いもの好きだろう?デザートが評判の店があるらしいんだ」
「好きですけど・・・らしい?」
「あー、王都に行くと言ったらジェシーとミリアがそこならハルカが絶対喜ぶと教えてくれた。今王都で人気のカフェらしい」
自分で店も選べないような男だと思われたかもしれないが、それはこの際気にしないことにする。ハルカが喜ぶのが一番だからな。
「私、今日街に来たのは副隊長の、急にガンテルグ侯爵家へ行くことになったことへの罪ほろぼしかと思ってました」
「うっ・・・まあそれもある。すまない」
「いえ、それはもう良いんですけど。それだけじゃなくてちゃんと私のこと考えてくれてたんだなって思って、その、嬉しいです」
そう言ってハルカははにかんだような笑顔を浮かべた。
その顔を見た瞬間、あの横抱きにした時と同じような不思議な感覚を覚えたのだが、ハルカが早く行こうと急かすものだからあっという間に忘れてしまったのだった。
店はカフェのようなところであったが、流行りの店というだけあって非常に混雑していた。しかし侍女二人の助言もあり、前もって予約していたおかげで待つことなく奥の個室に通された。
食事は街のカフェらしく気取らないものが多く、ハルカも変に緊張することなく楽しんでいたようだった。ハルカが一番楽しみにしていたデザートもハルカの口に合ったらしく、食べている間ずっと目尻が下がり頬が緩んでいて、見ているこちらまで幸せになるような表情だった。
「満足いただけましたか、お嬢さん?」
「ふふ、なんですかその言い方。お腹いっぱいだし幸せだし大満足です!」
「ははっ!それなら良かった。ジェシーとミリアに感謝だな」
「そうですね。・・・副隊長はあまりこういったお店には来ないんですか?」
「ああ、来ない。だって見ただろう?この店の客の大半が女性同士や恋人同士だったじゃないか。いくら紅茶が美味くても男だけでこういう店には来れないし、大体隊のやつらと酒のある店に行ってしまうからなぁ」
そもそも、そこまで甘いものを好んで食べるわけでもないし。王都散策を楽しんでくれる女性と付き合ったこともなかったなと思う。
「さてと、迎えの馬車を頼んであるのだが、時間までまだあるから散策の続きでもしようか」
「いいですね。行きましょう」
会計をしようとするとおもむろにハルカも財布を取りだそうとしたので、それを手で制した。
「支払いは俺がするから。少し待っていてくれ」
「え?ダメですよ。自分の分は自分で払います。お給料だってちゃんといただいてるんですから」
「いーや、こういう時は男が払うものだ。ちょっとは格好つけさせてくれよ、な」
俺がそう言ってハルカの頭をポンポンと軽くたたくと、何か言いたげではあったが最終的には折れてくれた。
正直なところ、こういった場面で財布を出してくる女性を俺は見たことがない。二人で出掛けて女性に金銭を支払わせるなど恥ずべきことだと教わってきたし、女性たちもそれを当然として受け取っていたと思う。ハルカの世界がそうなのか、ハルカだからそうなのかはわからないがとても新鮮に感じる。
店を出て歩きだすとハルカが「美味しかったです。ごちそうさまでした」と言ったので、今まで疑問に思っていたことを聞くことにした。
「なあ、ずっと聞きたかったんだが食事の前と後に手を合わせて言っている“いただきます”と“ごちそうさまでした”って何なんだ?」
「え?!あー、そういえばこちらの世界の人は言いませんね」
「ああ、おそらく俺だけじゃなくみんな不思議に思っている」
「ええー、それならもっと早く聞いてくれても良かったのに。えっと、そうですね。たぶん私の世界でも私の国独特のものだと思うんですけど、食事を始める前と後の挨拶みたいなもので、簡単に言うと食事に携わってくれた人への感謝と、食材になった命そのものへの感謝みたいな感じですかね。ちょっと大げさかもしれませんけど、魚の命を私の命にさせていただきます、ありがとう。みたいな感じです。たぶん」
「なるほど。ハルカがちょっとしたことでも感謝の言葉がすぐ出てくるのはお国柄なんだな」
「それは人それぞれだと思いますけど・・・私そんな感じなんですか?」
「なんだ、自覚ないのか?普通に自分の仕事をしているだけなのにハルカから感謝されて驚いたと言っているやつらは結構いるぞ」
「ええ~、そんなにですか?」
今一つ納得のいっていない顔をしているが、これは本当のことだ。礼を言われて悪い気がするものなどいないし、ちょっとしたことでも感謝の意を示してくれるハルカには自然とみんなが手を貸したがる。
ハルカはよく「この世界の人たちはみなさんとても優しいですね」などと言っているが、それはハルカ自身の態度や優しさが返されているだけなのだが、まあ今の俺の言葉を不思議がっているハルカはわかっていないんだろうな。
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