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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
番外編

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コミックス3巻発売記念小話

お久しぶりです。

おかげさまで、3月7日(金)に『王立騎士団の花形職』のコミックス3巻(最終巻)が発売となりました。

最終巻は電子専売で、残念ながら紙本はありません。

どうぞよろしくお願いいたします!

3月20日まで下記など色々なところで1巻が無料で読めるようです。


[BOOK☆WALKERさん]

https://bookwalker.jp/dec039298d-c33a-488b-83e4-850763a36df4/

[コミックシーモアさん]

https://www.cmoa.jp/title/289255/

[ブックライブさん]

https://booklive.jp/product/index/title_id/1515011/vol_no/001

[ebookjapanさん]

https://ebookjapan.yahoo.co.jp/books/817085/A005767738/

[Renta!さん]

https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/366719


ぜひ読んでみてください。

なんせ無料ですから°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°


 



「最近魔術師長と何かやっているみたいだが、いったい何をやっているんだ?」


 いつもの夜の報告会。

 とは言っても、恋人になってからはそれ以上に大事な二人だけの時間だ。


(ふ、ふへへ……恋人とか、恋人とかーっ!)


 自分で言っておいて照れる。

 いつまで経っても慣れないけど、この先も何年経ってもラジアス様にはドキドキしていそうな気がする。

 それもそれで幸せそうだ。


「――ルカ、ハルカ?」

「あ、はい! えっとですね……ラジアス様には言っても大丈夫かな」

「光珠関係か?」

「まあ、そうですね。でも一応他言無用でお願いします」

「わかった」

「実は森の魔素を増やせないかいろいろと実験してるんですよ」

「魔素を?」

「はい」


 ユーリたち魔力持ちの生き物たちは、空気中に含まれる魔素というものを取り入れることで力を維持したり、成長に繋げている。

 それは広く知られている事実だ。

 けれど、ユーリによるとそれは間違いではないが正確な答えではないということがわかった。

 実は森に生えている植物にできる果実などを食べることでも魔力を得られるらしい。


「それで最近よく森に行くんだな」

「そうなんです。私がいなくなってもユーリたちが継続的に魔力を得られるようにしたいと思って」


 私がそう言うと、隣に座るラジアス様が私の手をぎゅっと握った。

 その顔にはどこか焦りがあった。


「……大丈夫ですよ。そういう意味のいなくなるじゃありません」


 ラジアス様の手に自分の手を重ねた。


「どう頑張っても私たちの命はユーリたちよりも早く終わりを迎えますよね。だから今のうちに準備をしておきたいんです。急にいなくなったりしませんよ?」

「……そうか、そうだな。すまない。そんなはずないよな」


 ラジアス様は苦笑して私の肩を抱き寄せた。

 だから私も遠慮なく寄り掛かる。


(ああ、大事にされてるな)


 ひとりじゃないと思わせてくれるこの場所が本当に大切だ。


「そうですよ。もう私の居場所はここなんですから。ずっと隣にいさせてください」

「もちろんだ」

「ふふ、大好きです」

「っ、俺もだ」


 こんなに幸せでいいのだろうか。

 いや、いいでしょう! べつに誰も咎めない。


「それで、実験はうまくいっているのか?」

「それがまだ何とも言えない状況で。果実とかはできるまでに時間がかかるじゃないですか? だからまだ成功かどうかもわからないんですよね。でも一つだけ上手くいったこともあるんですよ」


 気が向いたらユーリも協力してくれるのだけど、泉に魔力を送った際には泉に含まれる魔力が増えたらしい。

 けれどそれは一時的なもので、少し時間が経つと元に戻ってしまった。

 ガッカリはしたものの、そう簡単にいくわけはないなとダントン先生と二人で苦笑を零した。


「でも、ここからがすごいんです」


 ものは試しと泉に光珠を沈めてみたら変化があったのだ。


「その泉って私がこの世界に来た時に落ちた場所なんですけど、元々水の中で金の粒がキラキラしているような所なんです。それが光珠を沈めたらよりキラキラ度が増したんですよ!」


 そしてユーリが泉の水を飲み、含まれる魔力が増えていると言った。

 しかも、その後一時間くらいその場にいたが、キラキラ度も変わらず魔力の量も変わらなかったのだ。


「それはすごいな。良かったじゃないか」

「そうなんです。もう本当に嬉しくって! ついダントン先生と手を叩いて喜んじゃいました。ただこの効果がどれほどもつかまだわからないんですよね」


 これに関してはユーリが経過を教えてくれることになっている。

 私が落ちてきた泉は森の奥のほうにあり、自分の足でそこに向かおうとするとかなり時間がかかる。

 この間泉に行った際もユーリの背に乗せてもらったから行くことができたのだ。

 私はもふもふを堪能しつつユーリの背を楽しんだのだが、ダントン先生は「せ、聖獣様の背に跨るなど……!」と顔面蒼白だったのは少し可哀想だったけど。


「そのうちユーリがどうなったか教えてくれることになってるんですけど……あ! もし良ければ一緒にその泉まで行きませんか?」

「いいのか? ユーリが来るのを待たなくて」

「いや~、ユーリに任せているといつになるかわからないですし」


 ユーリと私たちでは時間の流れ方が違う。

 ユーリのそのうちがいったいいつになるのかは定かではないのだ。

 だったらこちらから動いたほうがいいかもしれない。

 とは言っても先ほども言ったように、自分の足で向かうとなると時間がかかるのでユーリに迎えに来てもらおうと思っているのだけれど。

 森に入って身体に魔力を巡らせて頭の中でユーリを呼ぶと、どういうわけかユーリに私の声が届くらしい。

 みんなに畏れられることもある聖獣のユーリだけれど、なんだかんだ優しいので『気が向いたらきてやる』と言いつつ今まで呼び掛けを無視されたことはない。


「私のこの世界での始まりの場所にラジアス様と行けたらなって思うんですけど、どうですか?」


 私がそう問えば、ラジアス様も「ああ、俺も行きたい。一緒に行こう」と言ってくれた。

 そうと決まればいつ行こうかとラジアス様と話し合い、数日後に休みを合わせて行くことを決めた。


「もしその前にユーリが来たとしてもそれはそれで。なんだかんだユーリは優しいからまた連れて行ってくれますよ」

「ユーリに対してそんなことを言うのはハルカくらいだな。天竜も連れて行くのか?」

「もちろん。置いて行ったらきっと拗ねちゃいますよ」


 今はもう私の部屋で休んでいる天竜。

 どこに行くにも私と一緒に行きたがる天竜を置いて行ったら可哀想だろう。


「ではみんなで行くか。楽しみだな」


 そう言ってラジアス様は笑った。





 ◇◆◇◆◇




 泉に行こうと約束した日。

 結局それまでの間にユーリは来なかった。


『やはりな。我らの時の流れはハルカらとは異なるからのう。だが、ハルカと約束したのならさっさと結果を報告するべきではないか』


 手のひらサイズの天竜がラジアス様の頭の上でブツブツ言っている間に、私は魔力を巡らせてユーリを呼ぶ。

 来てくれるだろうかとそのまましばらく待っていると、森からユーリが現れた。


『……何だ、揃いも揃って』

「ユーリ! 来てくれたんだね! あのさ、この前の泉にまた連れて行ってもらいたいんだ。お願いしていいかな?」

『泉……? ああ、あそこか』

「……ユーリ? もしかして忘れてた?」


 ユーリの反応から、もしかして経過を教えてくれるという約束を忘れているのではないかと疑った。


『泉なら数日前にも様子を見に行ったところだ。今もまだ他の場所よりも多くの魔力を含んだ状態だ』

「本当に? 良かったー、じゃあ光珠の効果はありそうだね」


 これなら他の泉にも光珠を沈めておけば、同じ効果が期待できるかもしれないと内心ガッツポーズを決めた。

 ゆくゆくはその水を吸い上げた周りの木々や、その木になる果実にも魔力が多く含まれたり、森自体の魔素の濃度が濃くなれば言うこと無しなのだけれど。

 こればかりは長期的に見ていかなければならないだろう。

 ユーリから告げられた途中経過に満足していると、ラジアス様がユーリをジトッと見ながら「泉の様子は見ていたが、その様子を教えて欲しいというハルカの願いは忘れていたんじゃないのか?」と言った。


「え? そうなの?」

『……何のことだ』

「忘れてたんだな」

『……』


 なんと、ユーリは私がお願いしたことを忘れていたらしい。

 こちらから確認してみて良かった。

 危うくいつまでも待つところだった。


『ユーリよ、おぬし嘘が下手だのう。隠す気があるのかと聞きたいくらい下手だ』

『うるさいぞ、天竜』

『図星を指されたからといって怒るでない』

『ふん、泉のことがわかればもういいのだろう? 私はもう帰るぞ』


 不貞腐れた様子のユーリが私たちに背を向けようとしたので、すかさずもふもふの体をがしっと掴んだ。


「待って! それはそれとして、泉には連れて行ってほしいの! お願い!」


 必死に頼み込むと、ユーリは溜息交じりに『面倒だ』と言った。

 けれどこちらに向き直ってくれたところを見ると、泉にまで連れて行ってくれるようだ。

 ほら、やっぱりユーリは優しい。


『さっさと乗れ』

「うん! ありがとう!」


 ユーリの気が変わる前にと急いで跨ると、ラジアス様の温もりを背中に感じた途端にユーリが駆けだした。

 そしてあっと言う間に泉に到着。


「わあ、本当だ! まだこの間と同じくらいキラキラしてる」


 そしてなんだか泉の周りに動物が多い。

 どうしてだろうと思っていると、肩に乗った天竜が『皆魔力持ちの生き物のようだな』と言った。


「そうなの?」

『ああ、自然とこの泉の魔力の多さを感じ取っているのだろう』


 この中からいずれユーリのように魔力の高い子が出てくるのかもしれない。

 そうなってくれれば嬉しい。


「良かったな」


 ラジアス様が私の頭にぽんと手を置いた。

 その手と私を見る瞳はとても優しかった。


「はい」


 このまま魔力がこの地に多く留まるようにするにはどうしたら良いのか。

 まだまだ課題は多いけれど、これはその記念すべき一歩だ。

 その一歩が私のこの世界での始まりの場所からだと思うと感慨深い。


「ここがハルカが流されてきた場所なのか……」


 ラジアス様はキョロキョロと周りを見渡しながら不思議そうに呟いた。


「ラジアス様は森に詳しいですよね? ここには来たことなかったんですか?」

「そうだな。王城からも距離があるし、初めて来たな。水が光っている泉というのも初めて見た」


 ランニング中に急にこの泉の中に落とされて、訳もわからないままに溺れかけて。

 泉から出られたと思ったら今度はユーリに睨まれて。


「あの時は怖かったなぁ。ユーリすごい唸ってくるから」

「そうだったのか?」

『……ふん、私がハルカを食べるなどと馬鹿げたことをぬかし呆けていた』

「いや、でもしょうがなくない? 元いた世界にはユーリみたいに大きな狼いなかったんだから」


 しかも喋る狼だ。

 驚かないほうがおかしいと思う。


「それは恐ろしかっただろうな」

「そうですよ。でもあの時会ったのがユーリで良かったって本当に思ってるんです」

『……なんだ急に』

「別に急でもないんだよ。ずっと思ってたし、感謝してるんだから」


 あの時出会ったのがユーリじゃなかったら、私は今ここにこうしていられただろうか。

 森はユーリの管轄だから、いずれは会えたかもしれないけれど、この森はとても広大だ。

 何日も誰とも会えず、知らない場所に放置されていたら、平常心を保てていたとはとても思えない。


「あの時すぐにユーリに会えたから、ユーリが王城に連れて行ってくれたから、だから完全に心が折れる前に助けてもらえた」


 心が折れる前に、身体が健康なうちに、自分の状況を知ることができたから、だから比較的早めに前を向くことができたのだと今では思うのだ。

 万が一ユーリよりも先にネイサン・リンデンに発見されていたら、こんなに穏やかな今を迎えられていなかっただろう。

 訳もわからないままあの狭い地下室に閉じ込められて、ラジアス様に出会うこともなく、虚ろな人形として一生を終えていたに違いない。


「……だから、ありがとう」

『感謝しているならこれからも私に光珠を寄こし続けるがいい』

『おお、ユーリが照れておるぞ』

『……うるさいぞ、天竜』

「素直じゃないな」

『黙れ、連れて帰ってやらんぞ』

「はいはい、悪かったって。睨むな、睨むな」

「ふ、あははっ」


 軽快な会話に思わず笑みが零れる。


「ユーリも、ラジアス様も、天竜も。みんなにいつも感謝してるよ。本当にありがとう」


 私はいつも誰かの優しさに助けられている。

 だから私ももらった優しさをこの世界に返していきたい。

 とりあえず、この身にある膨大な量の魔力をこの先の未来に残していけるように頑張ってみよう。

 それですらきっとみんなに助けてもらうんだろうけど、それでいいのだ。

 この世界に生きて、この世界に溶け込んで、この世界の一部になって、ここを自分の故郷にして。

 日本にいる家族や友達に胸を張って、私は幸せだと言えるような日々を過ごしていきたい。

 いや、過ごす。


「これからもずっとよろしくね!」


 この先もずっと、みんなと一緒に私は笑って生きていくのだ。


お久しぶりのハルカたちでした。


こんなハルカたちの話が読んでみたい、あの時彼らはどう思っていたのかなどがあれば教えてくださいね。

もしかしたら書いたりするかもしれません( ..)φ

それではまたお会いしましょう。

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☆3巻電子で発売中☆

挿絵(By みてみん)



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