番外編 その後の二人
お久しぶりです。
9/15(金)からコミックブシロードWEBさんで
『王立騎士団の花形職』のコミカライズが連載スタートします。
初のコミカライズです。
はしゃがずにはいられません∩(*´ᗜ`∩)♪
よろしくお願いいたします。
二組の「その後の二人」が出てきます。
時期としてはお付き合いが始まった後の話です。
最初はノンシュガー、最後のほうは加糖となっております。
「あれ? ルバート様いつ帰ってきたんですか?」
執務室へ続く廊下でルバートを5日ぶりに見かけ、ハルカは思わず声をかけた。
「ああ、ハルカ。久しぶりですね。つい先程戻りまして、陛下に報告を終えたところです」
「あ、じゃあこれからアラン隊長にも報告ですね」
「ええ」
「では私は邪魔にならないように席外しますね」
ルバートはこの数日間何かの任務で王城内勤務を外れていた。
任務内容はハルカには知らされていないため、自分はいないほうが良いだろうとその場を去った。
ハルカと別れたルバートは執務室の扉をノックした。
「ルバートです」
「入れ」
執務室の中には隊長のアランと副隊長のラジアスがいた。
「ルバート・フォンセット、ただいま任務より戻りました」
「ご苦労だったな」
「早速で悪いが報告を頼む」
「はい。まず結果から言うと、取り決めどおりにされており奴は苦しんでいるようです」
「そうか。それは何よりだ」
アランとラジアスは満足そうに頷いた。
ルバートの任務。
それは隣国アルベルグの鉱山に送られた重罪人、ヘンリー・スイーズの追跡調査だった。
ついでに同じく鉱山送りになったネイサン・リンデンの確認も任されていた。
ハルカはもうあの二人には関わりたくないと言っているし、思い出すのも嫌だろうとあえて今回の調査については伏せられていた。
もしかしたら、もう関係ないからどうでもいいと思っているかもしれないが。
しかしこの国の人間、特にラジアスはそうではない。
「そうでなければ罰にならないからな」
大切な存在であるハルカを一時でも苦しめ、悲しませたあの二人を忘れることも許すこともできないし、するつもりもない。
ハルカと同じだけ、いやそれ以上に一生を苦しむべきだと思っている。
自分がこんなに汚い思いを持っているなんて、ハルカには言えないとラジアスは思う。
まあ知られたところで「えー! そんな一面もあるんですね!」と笑顔で返されそうな気もするが。
「ではもう少し詳しい報告を頼む」
「はい。私が伝え聞いたことと直接見てきたことをお伝えします」
そうしてルバートはアルベルグで見聞きしたことを振り返った。
◇◆◇◆
――カーンカーン、カーンカーン
「くそ! なぜ私が!」
ヘンリー·スイーズは今日も苛立っていた。
なぜ貴族である自分が毎日毎日平民の罪人に交ざって薄暗い洞穴の中で身体を酷使しなければならないのか。
「くそ、くそ……私は悪くない。あの男が……あいつさえ声をかけてこなければ……」
「うるせえぞ、新人! 口動かす元気があるならもっと腕振れっつってんだろ!」
「何度も言わすんじゃねえよ! また殴られてえのか!」
「ひ、ひいっ!」
「だからうるせえって言ってんだろうが!」
カーンカーンとつるはしを振り下ろしながら、ヘンリーはここに連れて来られた時のことを思い返す。
自国で断罪されてから、あれよあれよという間にこの鉱山に連れてこられた。
そして身ぐるみを剥がされ、代わりにボロ布のような小汚い作業着を渡された。
聞けばここは隣国アルベルグで、作業員のほとんどが罪人なのだという。
「まさか伯爵である自分にこのような罪人に混じって働けというのか!」と声を荒げたヘンリーに、管理官は淡々と現実を突きつけた。
「お前はもう伯爵の位は剥奪されていてすでに平民だ。それも重罪を犯した罪人だ」
それに対しヘンリーは「他所から来た小娘ひとりを拐かす手引をしたくらいで何が重罪か! 私はただ国の常識を乱す異物を取り除こうとしただけだ! 我が国の国王陛下に接見を! きちんとお話すれば、私がいかに国を思って行動したのかをわかってくださるはずだ!」と悪びれもなく言った。
ここまできてもヘンリーはまだ自分は悪くないと思っていた。
しかも自分の犯した罪を都合よく正当化していた。愛する娘や国のために行ったことが罪であるはずがない。
自分は貴族で、流民だかなんだか知らないが平民とは命の価値が違うのだと信じて疑っていなかった。
愚かすぎて始末に負えない。
しかし、どんなにヘンリーが喚こうと、当然だが結果は何も変わらなかった。
彼はこれから死ぬまでここで、今まで経験したことのないきつい労働を科せられるのだ。
この鉱山に送られた罪人は皆が魔力封じを施され、魔力を持つ管理官の下に置かれる。
魔力を封じられた彼らは己の肉体のみで鉱山を掘らなければならない。
ただでさえきつい労働だが、ずっと怠け貴族として生きてきたヘンリーにはより過酷な環境だった。
けれどそれも仕方がない。ヘンリーは国が違えば死罪に処されてもおかしくない重罪人なのだから。
魔法が使えればもっと効率よく鉱山の開発が進められるのだろうが、ここでそれをしないのは、この鉱山自体が鉱物の採取を主な目的とした場所ではないからだ。
この鉱山の最たる目的は罪人への罰。
このような場所で一生を終えるくらいならいっそ殺してほしい、あの時罪を犯さなければこんな場所に来ることはなかったのに、と感じさせることこそが重要なのだ。
たとえそう思わなかったとしても、この鉱山で管理下に置かれながら惨めな一生を終えるという屈辱もあった。
この鉱山では5人1組の体制が取られており、その5人で日々の作業に当たっているのだが、その誰もが凶悪な犯罪を犯した者ばかりだ。
ヘンリーが入れられた組もまた然り。
さらにはヘンリー以外の4人は根っからの平民で、貴族を嫌っていた。
ヘンリーが何も言わなければ、ただ「新人が来たな」としか思われなかっただろうが、愚かなヘンリーは自分で自分の首を絞めた。
「はん、どうせ禄でもないことしか出来ない平民どもめ。私は貴族だぞ? 私の分までしっかり働くんだ!」
愚かとしか言いようがない。
自分の置かれた状況を全く理解しようとしなかったヘンリーは、この言葉を放った直後、自分が入る5人組の構成員に意識を失うまでぼこぼこに殴られ、今まで言われたことのない罵声を浴びせられた。
そして痛みの中で目を覚ました時、ヘンリーはびしょ濡れだった。
労働の時間になっても起きなかったヘンリーはバケツで水をかけられ目を覚ましたのだ。
5人組は必ず5人で作業に当たらなければならず、1人でもサボれば罰を受ける決まりだった。そして管理官は多少のケガ程度は気にも留めない。
呆然とするヘンリーは引きずられながら労働場所へと連れて行かれた。
まともに働いたことなどないヘンリーは当たり前だが何をやっても上手くできず、体力もないためすぐに使い物にならなくなった。
けれど休むことなどもちろん許されるわけもなく、その度に怒鳴られ、殴られ、立ち上がらされた。
そしてヘンリーを精神的に苦しめたのは、どんなに労働しても、すばらしい鉱物を掘り出しても、その利益が彼の懐に入ることは絶対にないということだった。
せいぜい利益のほんの一部が粗末な衣服や食事、発掘に必要な道具代に当てられるだけだ。
朝から晩まで働いているのに何も得られない生活は想像以上に辛く、殴られてばかりいる身体は痣だらけになっていた。
こんな生き地獄がこれからもずっと続くのか、そう思うと頭がおかしくなりそうだった。
そんなある時、別の洞穴で作業をしていた他の5人組とばったり鉢合わせた。
(どいつもこいつも頭の悪そうな奴らばかりだ……ん、んん!? あれは、まさか……!)
ぼうっとその5人組を見ていたヘンリーは、その中に見知った顔がいることに気がついた。
そして反射的にその人物に向かい腕を伸ばした。
「貴様……貴様のせいで! 許さん! 許さん!」
「おい! 何してんだ! やめろ!」
ある人物につかみかかり、今にも手を出しそうなヘンリーを、他の4人が羽交い絞めにして無理やり引き離す。
揉め事を起こされたら連帯責任で全員そろって罰を受けなければならないからだ。
「放せ! はなせぇっ! こいつが、こいつのせいで私は!」
「何だコイツ。ついに頭イカレちまったのか!?」
引き離されてなお目的の人物に向かって手を伸ばすヘンリーを、掴みかかられた人物はじっと見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。
「――ああ……誰かと思ったら君か、スイーズ伯爵。いや、元伯爵」
その言葉にヘンリーはカッと頭に血が上る。
誰のせいでこんなことになったと思っているのか、知らないなんて言わせない。
「貴様の、貴様のせいだろうがぁ! リンデンッ!」
顔を怒りで真っ赤にしながら叫ぶヘンリーを前にしても、リンデン公爵――いまはただのネイサン・リンデンは何も感じなかった。
リンデンはヘンリーとは違い、文句を口にすることなく淡々と労働にあたっていた。けれど反省したわけではない。
もう全てがどうでも良くなってしまったのだ。
あの一件で地位も名誉もこれまでに手にしてきた何もかもを失った。
自分が欲張りすぎたとは思っていない。ただ珍しいものが欲しかった。自分だけのものが欲しかった。それを手に入れるために努力した。ただそれだけだ。
この鉱山に連れて来られてからは何も心動かされることがない。欲しいと思えるものもない。淡々と毎日同じことを繰り返し過ぎていく。
もう全てがどうでもいい。死のうが、生きようが。
光の届かない海底のように暗い目をヘンリーに向けたまま、リンデンは溜息を一つ吐く。
「……うるさいな。……実行したのは君の意思だ。それにもう過去のことだよ……」
「なんだと! 脅してやらせたのは貴様だろう!」
「……はは……変わらないねぇ、君も。もう全て終わったことなんだ。……どうでもいいんだよ」
「どうでもいいだと! 許さん! 私は絶対に許さんぞ! さっさとここから出て私の無実を証明するのだ!」
きっと愛する妻と娘が自分の解放を陛下に嘆願してくれているはずだとヘンリーは信じていた。
とっくに見捨てられているとも知らずに。
「……愚かだねぇ」
この鉱山に連れて来られた時に、罪状とここから一生出られない旨は聞かされているはずだ。
それなのにヘンリーはそれを理解しようともしない。
リンデンを含め、この場にいるヘンリー以外の全員が地面に押さえつけられたヘンリーを馬鹿にしたように見下ろしていた。
「お前たち! これは何の騒ぎだ!」
「うわ! やべえ!」
そこへ管理官が騒ぎを聞きつけてやってきた。
地面に押さえつけられたヘンリーと、それに向かい合うリンデンを見て、管理官は大体の事情を察した。
「騒ぎを起こした罰として、この場にいる全員本日の夕食はなし。鞭打ち10発の刑を言い渡す!」
「そんな! そりゃないぜ、管理官!」
「そうだ、そうだ! 俺たちはちゃんと止めたぜ!?」
「うるさい! 連帯責任だ! ほら、さっさと立ち上がって進め! ヘンリー・スイーズ、お前はこっちだ!」
管理官の言葉に皆が舌打ちをし、ヘンリーを睨みながら歩き出した。
ヘンリーは管理官に手首を縄で縛られるとそのまま強制的に立ち上がらされて独房へと連れて行かれる。
途中で足がもつれて転んでしまったが、管理官は止まることなくそのままヘンリーを引きずりながら進んで行った。
彼らの様子を隠れて見ていたルバートは管理官に問う。
「あれ、どうなるんです?」
「騒ぎを起こしたとして他の者と同じ罰に加えてさらに鞭打ち10発追加です」
「なるほど。貴族の矜持などポッキリですね」
かつては自分が気に食わないものを虐げる時に行っていた鞭打ちを、自らが受ける側になるとはヘンリーも思っていなかっただろう。
「きちんと罰を受けているようで安心しました。ちなみにリンデンも、ですよね?」
「もちろんです。陛下からもそうするよう直々に言われていますから」
いくら弟とはいえ、いや、弟だからこそ他国との関係に亀裂を生じさせるようなことを起こしたことを軽く考えてはいけない。
しかも改めて調べてみれば、取引不可のものを違法に入手したり、ハルカの事件でも身寄りのない魔力の高い人間が犠牲になっていたりと余罪がたくさんあったのだ。
民を守るべき立場でありながら民を犠牲にしたその所業は到底許せるものではない。
ハルカの「死罪だけはやめてくれ」という希望がなければ、アルベルグの法では間違いなく死罪になっていただろう。
「約束を守っていただけているようで安心しました。ああ、もし脱走なんて試みた場合にはもっと手ひどくお願いしますよ?」
「わかっていますよ」
「ふふ、ではお忙しいところありがとうございました」
「いえ、流民の方が心穏やかに過ごされますよう」
「ありがとうございます。では」
こうしてルバートは調査を終えた。
◇◆◇◆
「以上です」
「鉱山に送られてなおスイーズの愚かさは変わらずか……」
「そのようだ」
執務室に呆れを含んだ溜め息が3つ零れた。
「ああ、そうだ」
「どうした?」
「あちらの国王陛下にもハルカはどうしているかと尋ねられたので、副隊長と聖獣様に愛されて健やかに過ごしていると言っておきました」
「っぶ! お前! 余計なことを言うんじゃない!」
「いや、だってねえ? ハルカのことの直後に副隊長はまだ片恋なのか? と聞かれたもので。いやー、いくら他国とは言っても王族に嘘は吐けませんよね」
ルバートは臆面もなくそう言ってのけた。
「お前ならそんな質問簡単に躱せるだろうが!」
「いやだなあ。ハルカは幸せだから欲しがっても無駄ですよっていう牽制じゃないですか」
ああ言えばこう言う。
そうだ、ルバートはこういうやつだったとラジアスは辟易した。
「はっはっは! 口はルバートのほうが一枚上手だな。ルバート、報告ご苦労だった。お前は明日から2日休暇が与えられているからゆっくり休んでくれ」
「……ご苦労だった。もう行っていいぞ」
「ふふ、ありがとうございます。では、失礼します」
ルバートが出て行くと、アランがラジアスの肩を叩き「疲れた時には美味いものと愛しい人の笑顔が効くぞ」と親指を立てながら言った。
その言葉にラジアスがいっそう疲れたところに執務室の扉がノックされた。
「ハルカです」
「入っていいぞ」
ハルカが扉を開けてそろりと顔を出す。
その手にはお茶のセットが入ったバスケットがあった。
「どうした?」
「今そこでここにお茶を持ってこようとしていたジェシーさんと会ったんですけど、そこにルバート様が来て、副隊長はお疲れのようだから癒してあげてくださいって言われて……。大丈夫ですか?」
お茶の用意をするのは本来専属侍女の仕事でハルカの仕事ではないというのに。
そう思いながらもこちらの様子を窺うハルカが可愛い。
「ハルカ、せっかく用意してもらって悪いが俺はもう帰るからそのお茶はラジアスと二人で飲んでくれ。残すのも申し訳ないしな」
「わかりました。お疲れ様です」
「おうお疲れ。お前たちももう就業時間は過ぎてるからな。休める時にしっかり休めよ。じゃあまた明日な」
あっと言う間に帰り支度を済ませたアランが部屋を出て行った。
「えっと、お茶飲みます? それとももう部屋に戻って休みますか?」
「お茶をいただこう」
「わかりました」
ラジアスがソファに座ると、ハルカはテーブルの上にカップを2つ並べポットからお茶を注いだ。
そしてテーブルを挟んでラジアスと向かいのソファに座ろうとするハルカにラジアスは待ったをかけた。
「ハルカ? どこに座る気なんだ?」
「どこって……」
このソファにと言おうとしたハルカの声を遮って、ラジアスは「ハルカ」と優しく呼び掛ける。
そして自分の横をポンポンと叩き「おいで」と言った。
その甘い声にハルカは吸い寄せられるようにラジアスの横に腰を下ろした。
(っは! いつのまに! くうっ! まんまと吸い寄せられた!)
そんなハルカの動揺を知ってか知らずか、ラジアスはその腕の中にハルカを引き寄せた。
「え? ラジアス様!?」
「……はあ」
「もしかして本当に具合悪いんですか? 大丈夫ですか?」
「問題ない。今絶賛癒され中だ」
自分の言葉一つで頬を赤く染めるハルカをラジアスは愛しく思う。
ハルカにはもう2度とあんな目に遭ってほしくないし、遭わせないと心に誓う。そしてあの事件のことを思いだす暇もないくらい楽しい人生を送らせてやりたい。
「ハルカ」
「はい!?」
「今、幸せか?」
「え? なんですか急に」
「……すまん、変なことを聞いたな」
ラジアスは腕からハルカを解放するとテーブルに置かれたカップに手を伸ばす。しかしハルカからシャツをついっと引かれて伸ばしかけた手を止めた。
「ハルカ?」
「……幸せですよ。私のことをこんなに想ってくれるラジアス様がいてくれるから、幸せじゃないわけないじゃないですか」
恥ずかしそうに笑いながらそう言ったハルカに愛しさが込み上げ、ラジアスは再びハルカを抱きしめた。
そしてそのままハルカに口付けをしようと顔を近づけ、あともう少しでそれが重なるとなった時、無情にもハルカの手がそれを阻止した。
「なんだこの手は」
「だ、だって。だってここ、執務室じゃないですか!」
「就業時間は終えている」
「でも駄目です!」
「なぜだ」
「お、思い出しちゃうから!」
「……は?」
「仕事中に思い出しちゃうからここでは駄目です!」
「べつに――」
大丈夫じゃないかと言いかけて、ラジアスはその考えを改めた。
「そうだな。やめておこう」
自分は大丈夫だろうが、思い出して赤くなっているハルカを他の誰かに見られるのは嫌だと。
「じゃあ、また後で」
その言葉に驚きとわずかな期待のこもった眼差しを向けられて、ラジアスは嬉しそうにハルカをきつく抱きしめた。
いいねや&誤字報告に評価などありがとうございます。
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