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【前代未聞】三〇〇〇回感想書いたので公開してみる【今だけ】  作者: 鴉野 兄貴
1201-1300

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#宝島 #小説 #真藤順丈 #直木賞

宝島

著者名 著:真藤 順丈

発売日 2018年06月21日

価格 定価 : 本体1,850円(税別)

ISBN 978-4-06-511863-4

判型 四六変型

ページ数 546ページ

初出 「小説現代」2018年6月号

(講談社BOOK倶楽部より)

 しばらくの間スチーヴンスン著『宝島』をリスペクトした作品紹介を続けた。


 これならば日本アニメ版『宝島』もレビューすべきだと皆さんは思われるだろうが残念ながら筆者は未見であるので(※ひょっとしたら物心つく前に視聴したかもしれないが)語るに語れない。スチーヴンスンの『宝島』は語り聞かせを是として作られているので即興小説というよりむしろTRPGに通じるという説があるがこれは支持したい。妻の連れ子の主張を受け入れてガンガン話に混ぜた感があるからだ。かといって『宝島』を今更読み返すのも気が引けるので先日直木賞を受賞した真藤順丈版の『宝島』を紹介したい。といっても筆者は例によってオーディオブックサービスであるオーディブルを用いて拝聴した。


 ちなみに、直木賞を取るまでは全く売れていなかったのは有名な事実である。面白いのに。

 そう思っていたのは担当編集もであったらしく、プロモーション裏話がインターネットの記事に掲載されているのでご興味がある方は調べてみると面白いかもしれない。編集さんの力を感じるはずだ。


 この物語については一部の方からは「決定版として(※実際に起きたことを中心として)描かれた作品としては小林よしのり氏著作の『沖縄論』のほうが良い」と呼ばれているらしいが筆者はこちらの小林氏の作品は未見のため、真藤氏の作品にのみ絞って話したい。(※後の2020/07/31に新ゴーマニズム宣言沖縄論拝読したがあえて語らない)



 戦果アギヤーという生業が存在した。今でもある意味日本全国のどこかに存在するかもしれない。

 沖縄語は基本アイウが母音になっていて他は繰り上げになるらしいので標準日本語では戦果上げ屋になるだろうか。(※地方によって沖縄語は異なります)


 沖縄戦の屈辱まだ止まぬ時期、戦後に米本土から来た連中はかなりガラがよろしくなく多くの人々、特に女子供が夜な夜な被害を受けていた。そのため米軍基地や米軍人から何物かを奪ってくるあるいはもらってくる行為を敗北した戦争の延長として『戦果』と呼んでいた時期がある。


 その時代、最後の大仕事とばかりに米軍最大基地から戦果を奪うため各島の勇士が集い戦果を奪うというミッションインポッシブルが実施された(※小説内の設定です)。

 その過程で英雄と呼ばれた戦果アギヤーが消え、死亡説も流れる中、何故か正面から出ていったという証言もあり。


 彼を慕う恋人。その娘を想う幼馴染。そして英雄の弟。

 彼らは去った兄の意思や足跡を追いつつそれぞれの人生を進めていく。


 Aサイン(※米信託統治領認可の店)の女給から一念発起して教師、そして活動家へ。

 戦果アギヤーから収監を経て戦後混乱期の制度に乗ることで警察官に。やがて米軍犯罪を取り締まる米軍のスパイ役に。

 野良犬のような男から刑務所で教養を獲得し死生観を得、ヤクザへ。やがて正真正銘のテロリストへ。



 時代は米軍による犯罪行為は島の警察ではまず裁けない(※今でもだが少し緩和)実情、航空機の落下、二束三文で土地を買い取っていく米軍政府に対する反抗のヒーロー瀬長亀次郎等の実在人物や実際にあった事件を踏まえ二十年ものスパンで三者三様の人生と関係性の変化を描いていく。


 あまりにもきつかったので作者が別の作品を書こうとしたらしいが、何とか着地に至ったのは素晴らしい。とにもかくにもそうしてこの物語は我々が手に取ることができるようになった。



 この物語は謎の『語り部』が物語を説いていくのである。この辺はスチーヴンスンの宝島に似ているが、語り部の正体も後に明かされることとなる。英雄オンちゃんはどこに消えて何をしていたのか、持ち帰ったはずの戦果はどこに隠れていたのか、戦果のとんでもない正体とはなにかなどの謎ときが作中20年もの長きにわたって語られること、主人公の一人ヤマ子(※背が異常に高く胸がとんでもなく大きい美女であることからついたあだ名だが『語り部』氏以外は誰も本名を呼ばない)が路上孤児たちに語り聞かせをする物語の中に『星の王子さま』『ハックルベリーフィンの冒険』などと共に『宝島』が入っていることからこの物語もまたスチーヴンスンの宝島にリスペクトが捧げられている事、大人から子供への継承と大人になり切れない『子供たち』の物語であることが暗示されている。


 最後の戦果はすぐそばにあった。それは大きな気づきと共に去って行った。だがすぐにまた手元に戻ってくる。

 タカラは案外手近にある。ヌチドゥタカラ(命こそ宝)というが、それは民族性や魂をも含むのかもしれない。


 瀬長亀次郎の紹介はまた別の機会にしたい。

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