入れ替えて先天も進化
陛下との顔合わせということもあり、滅茶苦茶緊張した打ち合わせは無事に終わった。
後半の歓談では色々突っ込まれた事を聞かれたけど、あれは俺達について探りにきてたな。
スキルの入れ替えとジェノサイド誕生の秘密以外、特に後ろめたいことは無いから、それに関しても普通に返して済んだけどな。
ひょっとしたら宰相か後ろにいた近衛兵の誰かからは、嘘がないか「看破」で調べられたり、「解析」を使われたりしたかもしれない。
「完全解析」によると宰相の先天的スキルが「解析」で、近衛兵には「看破」を持っているのが二人いた。
だけど嘘は言っていないから「看破」は問題無いし、「解析」に対してはベイルさんの所で買ったこれがある。
暗幕のペンダント 高品質 闇属性
製作者:エリナ
素材:銀 シャドーオウルの爪
スキル:隠蔽LV7【固定】
状態:良好
暗闇に潜むシャドーオウルの爪と銀を使ったペンダント
装備中は「解析」や同様の効果がある魔道具を無効化する
証拠品を隠すのは上手くならないので、あしからず
お揃いで買ったこれを装備していたから、「解析」スキルを使われていたとしても大丈夫だ。
「解析」は先天的スキルな上、そうそういるものじゃないとはいえ、対策をしておいて良かった。
もしもスキルを見られていたら、どうなっていただろう。
「謁見は明日の午前か。ヘマしないように気を付けないとね」
「心臓……破裂、しないように、しないと……」
「いやいや、それは緊張しすぎだよ」
ベリアス辺境伯の王都宅にて寛ぎつつ、明日に備えて心の準備をする。
今日はまだ打ち合わせだったから良かったけど、明日は本番だから今日以上に緊張するだろう。
「そういえばゼインさんが言っていたけど、明日の午後は大粛清をするんだって?」
「ああ。国難の時に王都から逃げ出して、あいつが討伐されるまで帰って来なかった連中の断罪会だ」
俺達の謁見が執り行われた後、王城では逃げ出した貴族や大臣を呼び出しての粛清が行われ、処分が下される。
内容としては降格や罰金や懲戒免職や左遷、中には取り潰しの家もあるそうだ。
ちなみにゼインさんが仕入れた情報だと、元実家は乗っ取られて操られた被害者という点も考慮され、侯爵から伯爵への降格と少額の罰金で済むらしい。
ただ、俺や使用人や護衛への暴力行為は別問題。
既に裏が取れていることもあり、俺を含めた生存している被害者へ慰謝料の支払いと伯爵から子爵への降格、それと生存している使用人と護衛は全員が国で保護され、望むのなら新しい職場を斡旋してくれるそうだ。
さらに騎士団に所属する者としてあるまじき所業ということで、騎士団を除籍処分になるとか。
既に当主の元父親と次期当主候補の元義兄は死んでいるけど、騎士養成学校へ在学中の元義弟達は退学処分と騎士団への入団永久禁止、騎士団出身の夫人が復職するのも許さないとのこと。
「明日の王城は荒れそうね」
「というよりも、表彰をした後に粛清をしなくちゃいけない、陛下が気の毒だよ」
「逆か、後日じゃ、駄目、なの……?」
「粛清は時間が掛かるし、あまり先延ばしにできないから仕方ないさ」
処分を言い渡され、言い訳まみれの反論や誤魔化しだけで構成された虚言を展開して、なんとか処分を免れようとするか減刑を求める光景が目に浮かぶ。
場合によってはそれで余計な事を考える輩も出そうだから、本当に大変そうだな。
だけど俺も他人事じゃない。
自業自得なのを認めない元実家が、言いがかりをつけて絡んでくるかもしれない。
単に騒ぐだけなら放置するけど、実力行使で来るのなら返り討ちにしてやる。
勿論、スキルを入れ替えて貰えるものは貰った上でな。
「さて、今夜は明日に備えて早く寝るとして、これからどうする?」
「だったらちょっと体動かさない? なんか肩凝っちゃったわ」
「同感。庭を使わせてもらって、軽い訓練でもしようよ」
「その前に……お腹、空いた……」
うん、まずは軽く腹に何か入れようか。
****
謁見当日。
しっかり洗濯したいつもの服装に防具を纏い、筋肉従魔達と眠ったままのレギアは厩舎で待機させ、武器は廊下で近衛兵に預け、打ち合わせ通り宰相の呼びかけで玉座の間へ入る。
玉座に座る陛下と、その脇に控えている宰相以外にも多くの人々がいて、拍手で俺達を出迎える。
今この場にいるのは、王都から逃げなかったり逆に王都へ駆けつけたりして、復興と救済に尽力している人達らしい。
既に入場していたゼインさんもその中におり、笑顔で拍手をしている。
「ひひひ、人が、いっぱ、いっぱい……」
周囲の人の多さに怯えるロシェリは、見るからに動きがガチガチだ。
陛下の前だからフードを被れないのに、つい被ろうとする手をリズとアリルが止める。
「お願いだから、この場だけは我慢して」
「後で気絶してもいいから、なんとか耐えて」
「ひうぅぅぅ……」
今にも倒れそうなロシェリはそのまま二人に先導され、どうにか所定の位置に到着。その場で片膝を着いて頭を下げる。
ここからは俺が一人で対応だ。
このメンバーのリーダーであり、ジェノサイド討伐の張本人として玉座に座る陛下へ挨拶を述べる。
仮にも貴族出身だからこうした場の知識はあるし、ゼインさんから所作や挨拶を教わって、問題が無い程度には身につけた。
緊張を抑えながら挨拶を述べ終えると、そこからは進行役の宰相から言われた通りに動き、陛下が述べる褒美に対しては感謝の言葉と受け取る旨を返し、宰相の部下が運ぶ金の入った袋を乗せた盆を受け取り、名誉とはいえ貴族になった証の貴族証と勲章を付けてもらう。
そして最後に陛下がもう一言述べて、俺達の出番は終了。
拍手されながら扉に近い位置へ移動し、列の端へ立つ。
「ふに……」
「おっと」
緊張が解けて倒れそうになるロシェリを、三人で咄嗟に支える。
「よく頑張ったわね」
「心臓、破裂するかと、思った……」
「破裂しなくて良かったね」
小声でそんな事を話しつつ、ゼインさんを始めとした何人かの功績が述べられ、それへの褒美を授ける様子を見届けて謁見は終了。
退室するのは位の低い人からだから、俺達が真っ先に玉座の間を後にして、廊下で武器を返してもらって次元収納へ入れておく。
「ぷはぁ……やっと終わったよ」
「時間がとても長く感じたわ」
「死ぬかと、思った……」
今日一日だけで、ロシェリは何回緊張で死にそうな目に遭っているんだろうか。
廊下を歩く足取りはフラフラで、アリルとリズに支えてもらわないと倒れそうだ。
まあいい、もう終わったんだから後は帰って――。
「おい、そこの出来損ない!」
休もうと思ったのに、ここで元家族の登場かよ。
といっても、元義弟二人だけだ。
いきなり後ろに現れたそいつらは、どっちも血走った目でこっちを見ていて、周囲にいる人達が何事かとこっちを見ている。
向こうは何か用があるみたいだけど、こっちは用なんて無いからスルーしよう。
「行こうか」
冷めた目を僅かな間だけ向けてすぐに背を向け、ロシェリ達へそう伝えて歩き出す。
「えっ、いいの?」
「構う必要性は無いからいいよ。行こう行こう」
リズにそう返すと、少しの間を空けて追って来る足音が聞こえた。
それを遮るのは、元義弟達の汚い声だ。
「待てよ出来損ない!」
「俺達を無視するとは、どういう了見だ!」
何と言われようと無視を貫き、そのまま歩き続ける。
いいのとアリルが小声で尋ねてきたけど、いいからと返しておく。
だって既に聞くに堪えない意味不明なことや、訳の分からない責任転嫁を叫んでるし。
第一、こうしておいた方が自滅を誘えるし。
「無視すんなっ!」
「出来損ないの分際で!」
後ろから女性の悲鳴と、駆け足が近づく音が聞こえた。
その場で立ち止まって振り向くと、どこに持っていたのか斧と槌を振り上げ、こっちへ迫る元弟達。
「心眼」スキルで腰に空間収納袋があるのを捉える。
あの中に入れていたのを取り出したのか。
これは想像以上の展開だけど、対応できないほどじゃない。
ロシェリ達の前へ進み出て、身を守る手段を取る。
「ディメンジョンウォール」
空間魔法の防壁を展開して自分と、後ろにいるロシェリ達を守る。
振り抜いた斧と槌を防がれた二人は、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「防ぐんじゃねぇよ!」
「調子に乗るな、出来損ないが!」
そう叫んで何度も武器を振るっても、ディメンジョンウォールには傷一つ付かない。
さてと、今のうちにスキルの入れ替えをしておこう。
ジェノサイドとの戦闘後から今日まで、入れ替え用に「速読」や「暗記」や「整頓」や「清掃」のレベルを上げておいたから、二人分でも余裕で入れ替えられるぞ。
まずは先天的スキルから「逆境」と「剛力」、それと後天的スキルから「斧術」と「槌術」を貰ってスキルを進化させておこう。
後は新しく習得している「強振」と「強打」と「斬撃」かな。あっ、LV1ずつだけど「自己強化魔法」もあるじゃん、貰っておこうっと。
「何をしている!」
「大人しくしろ!」
そうこうしているうちに騎士団員が駆けつけ、数人がかりで二人を押さえ込んだ。
「何するんだ、放せ!」
「俺達はそこの出来損ないが、ありもしない功績をでっち上げたことに、粛清をしようとしているだけだ!」
でっち上げてって、言いがかりどころか妄想もいいところだ。
「放す訳がないだろう!」
「緊急時でもないのに、城内で武器を振るうとは何事だ!」
「大人しく縛につけ!」
どれだけ二人が抵抗しようとも、所詮は騎士養成学校の生徒程度の力じゃ、数人がかりの本職には敵わない。
しかも今は戦闘向けスキルが失われていき、弱体化しているんだからなおさらだ。
こうしている間にもスキルの入れ替えを続け、先天的スキルの「逆境」と「剛力」以外の戦闘向けスキルは全てもらった。
お陰で「斧術」は「爆斧術」へ、「槌術」は「衝槌術」へ進化した。
いやぁ、再習得してレベルを上げていてくれて助かったよ。
ジルグ・アトロシアス 男 16歳 人間
職業:冒険者 Cランク
状態:健康
従魔:アシュラカンガルー
体力3379 魔力2285 俊敏2598 知力1703
器用2291 筋力2364 耐久2307 耐性1682
抵抗1716 運306
先天的スキル
入れ替えLV9 完全解析LV8 灼熱LV9
能力成長促進LV7 魔力消費軽減LV8 逆境LV10
剛力LV9 活性化LV7 体力消費軽減LV7
後天的スキル
算術LV1 速読LV1 夜目LV3 空間魔法LV8
暗記LV1 土魔法LV9 風魔法LV9 咆哮LV8
威圧LV9 強振LV8 料理LV2 解体LV6
刺突LV7 強打LV8 斬撃LV7 採取LV3
魔斬LV7 清掃LV1 整頓LV1 集中LV4
瞬動LV4 回避LV5 統率LV2 騎乗LV1
進化スキル
飛槍術LV2【槍術LV13】
自己強越化魔法LV2【自己強化魔法LV13】
業火魔法LV1【火魔法LV11】
激流魔法LV1【水魔法LV11】
心眼LV1【動体視力LV11】
爆斧術LV1【斧術LV12】
衝槌術LV1【槌術LV12】
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
とうとう「逆境」がLV10に達したか。
先天的スキルも進化するのなら、もうちょっとだな。
帰ったらレギアを装備して、進化するのか確かめてみよう。
「おいこら! 聞いてんのか、出来損ない!」
「仮にも兄なら、俺達を助けろ!」
引きずられるように連れて行かれる二人が喚いているけど、何でそんなことをしなくちゃならないんだ。
「お前ら、あいつも魔法を使ったんだから捕まえろよ!」
「そうだ! 何故僕達だけを捕まえろ!」
「彼が使ったのは身を守る防御魔法だ、攻撃性は無い。それに武器を手にしていない」
騎士団員の一人がそう告げても、二人は認めようとせず文句を言っている。
片親だけとはいえ、あれと血が繋がっていると思うと嫌気がするぜ。
「んじゃ、帰るか」
「そうね」
「うん、行こう……」
「そうだね」
予想通り自滅した二人には、更なる処分が下されるだろう。
緊急事態でもないのに城内で武器を振るうのは、それだけ重罪だ。
しかし、あいつらがあそこまで考え無しだったとは。
殴り掛かって来るのを想定していただけに、武器を手にしたのは想定外だった。
まっ、対応可能な範囲内ではあったけどな。
「おう、戻ったか。暇でしょうがねぇから、強い奴でも斬りに行こうぜ」
「城内で物騒なこと言うんじゃない」
厩舎で待っていた筋肉従魔達とレギアに合流し、ゼインさんが城内から出てくるのを待つ。
その間に周囲へ聞こえないよう、小声で元弟達とスキルを入れ替えたこと、先天的スキルも進化するのかを確かめたい旨を伝えると、ロシェリ達だけでなくレギアも面白そうだと反応する。
やがて城内から出てきたのを確認したら後に続き、ギガントアンキロの背に乗って馬車の後を追う。
これで王族関連の用件は終わった。
残る用事はこっちに滞在中、ハルバートを作ったドワーフを探すのと、元実家の使用人や護衛の人達と可能な限り会っておこう。
一先ずは帰ったら昼食と休憩を挟んだ後、庭を借りて訓練をすることにした。
主な目的は、先天的スキルが進化するかの検証だ。
という訳でレギアを装備してスキルのレベルを上げ、「完全解析」で確認をしてみると。
起死回生LV1【逆境LV11】
進化したよ。
先天的スキルも進化するのか。
「どうだったんだい?」
「進化した」
「「「おぉっ……」」」
リズの問い掛けに答えるとロシェリ達は揃って驚き、ハルバート形態のレギアは愉快そうな表情を浮かべる。
「ハッハッハッ。やっぱりテメェといると退屈しねぇぜ。その調子でガンガンスキルを進化させたら、どれだけ強い奴を斬れるんだろうな」
ガンガン進化と言われても、レベルが高いほど次のレベルへ上がりにくくなるから、そんな簡単に上がらないって。
いくら「能力成長促進」がLV7でも、限度があるって。
「ということは、私達の「能力成長促進」を合わせれば、一人か二人はそれが進化するんじゃない?」
あっ、言われてみればそうだ。
今のところ「能力成長促進」のレベルは全員が7に達している。
合計で28だから、二人なら「能力成長促進」を進化させられる。
ついでにアリルと分け合った「活性化」は合計でLV15、「魔力消費軽減」は合計でLV16だから、この二つもどちらか一方は進化可能だ。
これに後天的スキルを加えれば、かなりの数のスキルが進化するぞ。
ただ、それは誰かしらのスキルが弱体化することになる。
元義弟のような連中ならともかく、彼女達のスキルを弱体化させるのは気が引ける。
それにレベルを急激に上げたら、体と技術を鍛えるのが大変だし。
「とりあえず、どんなスキルへ進化するのか確認するだけにしよう。向こうでの日々のように鍛え直すの大変だし」
「「「賛成」」」
精霊王の下で修業した日々を思い出し、ロシェリ達は即決で賛成してくれた。
「なんだよ、ツマラナイな」
無茶言うなって!
そういう訳で一時的にスキルを入れ替えて、先天的スキルの進化の検証をした結果、「能力成長促進」は「能力急成長促進」へ、「活性化」は「活力旺盛」へ、「魔力消費軽減」は「魔力消費激減」へ進化することが判明。
これらを元に戻し、今度は後天的スキルも調べていく。
それを一通り終えてスキルを元通りに戻していたら、ロシェリから提案された。
「わざと、レベルの低いスキル……作らない?」
急な提案に全員でキョトンとする。
「どうして?」
「レベルは、低い方が上がりやすいから……育てて、交換を、繰り返すの」
「「「あぁっ!」」」
そうだ、それって元実家を出る前にやっていた方法じゃないか。
全ては奪わずLV1だけ残して、成長したらスキルを入れ替えてを繰り返す。
そうやって奪われる側は成長が速い状態を保ちつつ、自分のスキルを強化していく。
今度はそれを仲間内で、育てたいスキル同士でやろうということだ。
どうしてこの手段に気づかなかったんだろうか。
もっと早く気づいていれば、ジェノサイドとの戦闘はもっと楽だったかもしれないし、そもそもデルスと元父親の状態で倒せたかもしれない。
……いやでも、そうなったら鍛え直しが余計に辛くなっていたか。
「ど、どう、かな?」
「一気にやり過ぎなければ、いいんじゃないかしら」
「そうだね。入れ替えたら鍛え直せば、やれるんじゃないかな」
「本当、どうしてこの手段をもっと早く思いつかなかったんだ……」
「ハッハッハッ。とんだ間抜けだな」
うるさい、余計なお世話だ。
心の中でそう呟き、どのスキルを育てるかを相談して、俺の「魔力消費軽減」とロシェリの「魔飢」、アリルの「魔力消費軽減」とリズの「悪意予知」をLV1ずつ入れ替えることにした。
半ばお試しのような感覚で入れ替えた後は、スキルを扱うための特訓を開始。
元義弟達から入手したスキルの分、体も鍛えなきゃならないから、母さん仕込みの鍛え方で体を鍛える。
そして時間が経過すると共に体感する、想定以上の「魔飢」による空腹状態。
腹……減った……。
LV1でこれなのか……。




