再びの王都
エルマ姫とアルス王子が王都へ帰還するのに合わせ、謁見のために王都へ向かうことになった。
既に王都は間近という所まで来ていて、その道を隊列を組んで走っている。
先頭には王家の旗を立てたエルマ姫とアルス王子を乗せた馬車が、周囲を近衛兵と騎士団員に守られながら走り、その後ろにはノワール伯父さんが指揮する従士隊に守られたゼインさんを乗せた馬車が、最後尾には筋肉従魔達に乗っている俺達が続く。
俺はアリルとリズと一緒にギガントアンキロの背に乗って、ロシェリはいつも通りマキシマムガゼルの肩に担がれ、アシュラカンガルーとゴウリキコアラは自力で並走する。
「この速度なら、今日中に王都へ着きそうね」
「僕、王都は初めてだよ」
「私だってそうよ」
「まだ復興作業中だから、変な期待はするなよ」
「分かってるわよ、そんなの」
ならいいんだけど。
それにしても、二度と行くことは無いと思っていた王都へ、こんな形で行くことになるなんてな。
世の中分からないもんだ。
まあ今回の場合、切っ掛けは自分で作ったとも言える。
「確か今回は謁見だけなんだよね」
「ああ、こういう状況だからパーティーの類は無し。食事会やお茶会もな」
こうした状況で、そんなことが出来るはずがない。
だけど言い換えれば、パーティーのような面倒な場を避けられたとも取れる。
楽しく飲み食いして騒ぐ冒険者の宴と違って、王族や貴族のいるパーティーは水面下での腹の探り合いとか、やらんでもいいことをやるから無くて良かった。
大体、そんなのに参加している暇があったら、元実家の使用人や護衛の人達の安否を確認したい。
あと、ハルバートを売ってくれたあのドワーフの安否も。
旅立ち前にベイルさんから、一応様子を見て来てくれって頼まれたしな。
『そう簡単に死ぬような奴じゃないが、探せるだけ探しておいてくれ。見つからんでも構わん』
ベイルさんだけじゃない。
道中立ち寄ったシェインの町で再会した、女性ドワーフからも安否確認を頼まれた。
『あんなんでも同じ師匠の下で共に修行したんだ、一応調べるだけ調べておくれ』
その女性ドワーフは、素材の買い付けで偶然町を離れていたから無事だったものの、帰ってきたら店は半壊。
幸運にも無事だった炉で復興に必要な物を作りつつ、なんとかやっていた。
再会といえば、ノトールの町では引っ越しの護衛をしたヨルドさん一家、それとシアとも再会したっけ。
避難が間に合って住民に被害は出ていないものの、町は崩壊状態。
そんな中でヨルドさん一家は炊き出しに加わって料理を作り、シアはあの後に組んだというパーティーメンバーと一緒に復興作業を手伝いつつ、魔物や動物を狩っての食料調達に勤しんでいた。
今ではランクもEになっていて、こんなことになる前は出会った頃よりも、少しはマシな生活を家族で送れていたそうだ。
『家は無くなっちゃいましたけど、建て直せるように頑張ります。幸い仕事はいくらでもありますからね』
土木作業でも食料調達でもやってやりますと告げる姿に、俺のせいで誕生したジェノサイドによる被害でノトールの町があんな事になったのが、とても申し訳なく思えた。
デルスが元父親を乗っ取って暴れていた間はともかく、ジェノサイドによる被害は俺にも原因の一端がある。
現地でそれを実感させられた時は、凄く悩んで落ち込んで葛藤した。
何もかも明かすべきなんじゃないかと思ったほどに。
だけどそれは、前にレギアがアルス王子に説いた類の自己満足だと気づいた。
真実を明かしたからって過去が変わる訳でも、ましてや被害が無くなる訳でもないのに、断罪されることで自分を許そうとしている。
もしもあの話を聞いていなかったら、そうしていたかもしれない。
いや、そうなる前にレギアから同じ話をされただろう。
「どうした、ジルグ」
右腕に籠手として憑依装備しているレギアが話しかけてくる。
口と態度が悪い上に自分勝手だけど、なんだかんだこいつには世話になってるな。
「別に、なんでもないさ」
俺はこのままジェノサイド誕生の真実を明かさず、黙って罪を背負って墓まで持って行く。
秘密にするなら最後まで秘密で通して、周囲に騒動と混乱を招かないようにしよう。
それがジェノサイドを自分の手で倒すのとは別の、俺なりの責任の取り方だ。
「ふん、ならいいがよ。ツマラナイ真似はすんじゃねぇぞ」
「何だよ、ツマラナイ真似って」
「そんなの自分で考えやがれ。俺様は寝る」
安定の自分勝手だこと。
だけど、こういういつでもどこでもマイペースを保てるところは、少し見習うべきかな。
俺の場合、ちょっと気にしすぎな節があるからな。
「あっ、見えてきた。あれが王都ね」
アリルが指差した先に、久しぶりに見る王都の防壁が見えてきた。
最後に見た時と違って所々に補修の痕が有って、今も修復作業に勤しむ人達の姿が見える。
町の復興はどれだけ進んでいるんだろうか、あのハルバートを作ったドワーフは無事だろうか、そしてグレイズ家の使用人や護衛の人達は無事だろうか。
腹違いの元弟達とか他の元母親達は、どうなってようが知ったこっちゃない。
向こうが俺にそういう対応をしていたんだから、こっちが同じ対応をしたって文句は言わせない。
そんな事を考えているうちに、先頭が防壁前へ到着。
手続きをしながら徐々に防壁の中へ入って行き、最後に俺達の番が回って来る。
「身分証明書を――うおぉぉぉっ!? なんだ、この魔物達は!?」
その反応、行く先々の町や村でされたよ。
大人達には警戒されて、子供達には怖がられるの二割と興奮されたの八割で。
尤も、怖がっていた子達も問題無いと分かると、興奮していた子達と一緒になって筋肉従魔達と遊んでいたけどな。
「安心してください、こいつらは俺達の従魔ですから。これ、ギルドカードです」
門番をしている騎士団員へギルドカードを提示し、筋肉従魔達が従魔であることを証明。
それを見た騎士団員は、何故かちょっと驚いて俺を見た。
「確認した。姫様と殿下からも話は来ている、通れ」
通行許可が出たからギルドカードをしまい、横を通過しようとした擦れ違いざまに、あの化け物を倒してくれてありがとなと言われた。
思わず振り返ると、その人が手を小さく振っている。
どうやら顔はともかく、名前はこっちまで伝わっているようだ。
「よっ、有名人」
「茶化すなよ」
たぶん伝わっているのは王族や貴族や騎士団の間くらいだろうし、おそらくは名前しか広まっていないはず。
実際、拠点にしているガルアは別として、他の地で騎士団員からお礼を言われたのは名前を知られてからだった。
ひょっとすると生前の母さんも、有名になったばかりの頃はこんな感じだったのかな。
そんなことを思いつつ「罪人の調」による審査を受け、問題無しとされて久し振りの王都へ足を踏み入れる。
「ここが王都なのね……」
「こういう状況でなかったら、どんな町並みだったんだろう」
それが後ろにいるアリルとリズの、王都に対する第一声だった。
事故を起こさないよう、ゆっくりした速度で移動しながら見る光景は、記憶にある光景と大きくかけ離れている。
あっちこっちで建物の修理か建て直しが行われ、作業員の声や作業音が響き、遠くに見える王宮も修復作業中のようだ。
だけどこうした状況でも子供達は元気に駆け回り、住人達は露店を開いたりそこで買い物をしたり、老人や怪我で働けない人達向けの炊き出しも開かれている。
そんな人の逞しさに感心しながらロシェリの方を見ると、そわそわして落ち着きが無い。
「ロシェリ、大丈夫か」
「……平気」
そう言いつつも、深々と被ったフードの裾を引っ張りながら、辺りを見渡している。
どうしたんだ?
「ねぇ、「色別」でロシェリから怖がっている色が見えるんだけど……」
怖がっている色?
あっ、ひょっとして昔自分を虐めていた連中がいないか、気になっているのか?
だとしたらどうするべきか……うん、こうしよう。
「安心しろ。ロシェリを悪く言う奴がいたら、俺達がぶっ飛ばすから」
安心させるためにそう伝えると、キョトンとした様子でこっちを向いた。
「そうよ、私達が付いてるわよ」
「この子達もいるんだから、任せておきなよ」
乗っているギガントアンキロの背を叩きながらリズが言うと、筋肉従魔達が鳴き声を上げたり、荒く鼻息を吐く。
「あ、ありが……とう」
またフードの裾を引っ張って顔を隠そうとしている。
だけど今回は恐怖心でなく、嬉しさと恥ずかしさからだってアリルが呟く。
そんなやり取りを終えて辺りを見渡すと、周囲から視線が集まっているのに気づいた。
まあ、先頭に王家の旗がある馬車、続いてどこかしらの貴族の馬車、そして最後尾に筋肉従魔達を従えた俺達。
こんな光景を前にして、視線が集まらないわけがない。
できればベリアス辺境伯の王都宅へすぐにでも行きたいけど、保護していたエルマ姫とアルス王子が城へ着くのを見届けてからでないと、列から離れることは許されない。
これもまた貴族ならでは面倒事の一つだ。
「王家の旗……。確か今日、エルマ姫様とアルス殿下がお帰りになられると噂があったな」
「御無事でなによりだ」
「ということは、後ろの貴族は姫様と殿下を保護していたベリアス辺境伯様ね」
「最後の魔物に乗った少年少女は誰だ? 護衛に雇った冒険者か?」
そう思われても仕方ない。
まあ実際、道中は護衛をしていたから当たらずとも遠からずだ。
「スゲー! 母ちゃん、あの魔物スゲームキムキだよ!」
「こら、危ないから近づかないの」
「強そうでカッコイイなぁ……」
「おかーさん。あの黒い女の子、耳が尖ってるよ」
「あら、だったらあのお姉ちゃんはエルフなのね」
地味に注目が集まっていて恥ずかしいな。
注目のほとんどは筋肉従魔達か、集落や村から滅多に出ないエルフのアリルに向いている。
そのせいで筋肉従魔達は歩きながらやたらと筋肉を強調するし、アリルは恥ずかしそうに背中に引っ付いている。
当てられている感触については、平静を保って落ち着こう。
「ジルグ、様?」
うん? なんか俺を様付けで呼ぶ声がしたぞ。
誰だろうと辺りを窺うと、年かさのある女性がこっちを見て驚いていた。
あっ、あの人は。
「悪い、すぐに戻るから先に行っていてくれ」
「「えっ?」」
後ろにいる二人へそう言い残し、ギガントアンキロから飛び降りてその女性の下へ向かう。
「久し振りだな。無事で良かった」
「はい。ジルグ様も、お元気そうでなによりです」
「敬語はやめろ。もう俺は、あの家とは無関係だ」
この人は元実家で世話になった使用人の一人。
今は私服を着ているけど、仕事はどうしたんだろうか。
だけど今は、あまり話している時間が無い。
「悪いけど時間が無いからこれで。用があったら、ベリアス辺境伯の王都宅へ来てくれ」
「えっ、辺境伯様の?」
あまり離れている訳にはいかないからそれだけ言い残し、まだ視界にいる筋肉従魔達の下へ「瞬動」スキルで駆けていく。
距離はあっという間に詰まり、追いついたらギガントアンキロの背に跳び乗る。
「戻ったぞ」
「おかえりなさい」
「どうしたのよ、急に」
「元実家で世話になった人がいたから、ちょっとな」
後は彼女が他の使用人や護衛の人達へ伝えてくれるだろう。
さてと、再建中の王宮までもう少しか。
二人を送ったらゼインさんの王都宅でゆっくり……できるかなぁ。
****
あの悪夢から四ヶ月が経過した。
現在も修復が行われている王宮にて、復興作業中の町の様子を眺めて休憩した後に仕事へ戻る。
積み上げられた書類は普段の仕事に加え、被害を受けた地域に関する物や、周辺国への対応案件、被害を受けた王都から逃げ出してつい最近まで帰って来なかった大臣や貴族への処罰など様々だ。
それにしても、いくら私の先天的スキルが複数のことを同時に考えられる「並列思考」でも、この量は多すぎる。
右膝を壊して杖を手放せぬ体にはなったが、運良く命は拾った。
だが連日この仕事量を前にし続け、あの時に死んだ方がマシだったと何度思ったことか。
しかしそんな気持ちは、三男のアルスから届いた手紙に書いてあった、悪夢の解決者が連れている精霊なる存在から聞かされたという言葉で抱かなくなった。
もしもあの時に命を落としていたら、今やっているこの仕事は全て、息子達や娘達に押し付けられていただろう。
正直言って、あいつらには無理だ。
唯一できるかもしれない長男で王太子のベルツも、かの化け物が活動停止中に無意味な攻撃を仕掛け、無駄に資金と食料を使い潰した罰として謹慎させている。
以前はやる気が空回りしていると思って成長を期待していたが、今回の件で根本的に王という立場に向いていないと気づいた。
いずれは国を導かねばならない立場にも関わらず、他者の意見を聞き入れず、それどころか根拠の無い自分勝手な考えを推し進めた挙句、何の成果も上げられなかったのだからな。
浪費してしまった金と食料があれば、どれだけ民への救済が楽になったことか。
あいつの母親である王妃も今回の件は重く受け止めていて、王太子にあるまじき愚行だと嘆き、どうしようかと相談を受けたほどだ。
私としては王太子の座を剥奪し、内面も含めて一からやり直すよう促すつもりでいる。
それで心を入れ替え矯正できれば良し、できなければ別の息子か娘を後継者として立てればいい。
長男が駄目となると次の候補に挙がるのは次男なのだが……。
「父上、少々よろしいでしょうか」
「入れ」
噂をすればなんとやら、その次男がやって来た。
「失礼します」
母親である細身の第二王妃と違い、でっぷりと出た腹と膨らんだ頬をした次男のロドス。
かの悪夢が起きるまでは大人しくしていたのだが、三日前に戻って来てからは精力的に動いている。
……悪い意味でな。
「何の用だ」
「はっ。謹慎している兄上なのですが、反省している様子がまるでありません。つい先ほども、室内から家具へ当たり散らす音と父上への恨み言が聞こえました。他にも兄上は」
またか……。
王宮へ戻ってきてからのロドスは、確実にベルツを王太子の座から引きずり下ろすため、粗探しと告げ口ばかりしている。
そんな事をしている暇があるのなら、書類の一枚でも処理してもらいたいものだ。
まるで手柄を上げたかのようにベルツの告げ口を語る姿に、どうしてこう励む方向を間違ているのだろうと頭が痛くなる。
いくら自分が次期国王になれるチャンスが浮上したとはいえ、これでは国は任せられん。
せめて空回りでもいいから、これからの事を考えた案件でも出してくれていれば、今後しっかり教育すればという気にはなるというのに。
「このように、兄上の振る舞いは王太子に相応しくないとは思いませんか、父上」
「……そうだな」
お前も含めてな。
それも分からないロドスは、満足そうに胸を張っている。
こんな奴に、国を任せられる資質も見所も無い。
ベルツも駄目、ロドスも駄目となると、それに続くのは長女のカルミラか。
だがあいつは今回の件で尽力してくれている、ノード公爵家へ嫁ぐことが決まっている。
それに続くエルマも嫁ぎ先は決まっていたが、嫁ぎ先の侯爵家が今回の件で王都から逃げ出した挙句に昨日まで帰って来なかったから、婚約を白紙にしてやったわ。
だから後継者に指名することはできるが、今はまだ無理だろう。
というのも、先に挙げた三人以外は全員未成年だ。
後継者に指名する以上はある程度の能力が求められるが、未成年とあってまだまだ知識も経験も覚悟も足りない。
だからこそ、あの時に私が死んでこの仕事を押し付けられても、的確な処理ができないと判断した。
そう考えると、私がこうして生き残ったのは幸いだったのかもしれない。
もしもあの時に私が死んで、代わりにベルツやロドスが国の舵取りをしていたら、一体どうなっていたことやら。
新たに跡取り問題が浮上しているものの、これはまだ未成年の子供達の成長に期待するとしよう。
「ところで父上。かの化け物を討伐した者達は、当然貴族に叙するのですよね」
「うむ。彼らには金銭と勲章の他、倒した少年には名誉男爵を、仲間の少女達には名誉士爵の地位を与える予定だ」
できれば正式な爵位を与えたいが、本人達がそれを望んでいない。
いくら少年がベリアス辺境伯家の姓持ち家臣の籍に入っていて、仲間の少女達は少年と婚約を交わしているとはいえ、彼らは現在辺境伯家に仕えて働いているわけではない。
そのため、下手に機嫌を損ねたら他国へ行かれてしまう可能性がある。
そうなっては国を救った英雄への配慮ができないと、国内外へ悪影響が出てしまうし、今後の復興のためには彼らのような国を救った英雄が必要だ。
他国がこの国の現状を好機と見て、攻め込んで来ることへの抑止に繋がるしな。
だからこそ、ここは向こうの意を汲むべきだろう。
「名誉男爵? 名誉士爵? 何故名誉爵位なのですか」
「本人達が正式な爵位を望んでいないのと、先にベリアス辺境伯家から与えられた褒美を考えれば、それぐらいが妥当だからだ」
正式な爵位に比べれば弱いが、名誉爵位でも私が与えたとすれば幾ばくかの繋がりは持てる。
加えて国王にしか授けられない勲章も与えたとなれば、繋がりとしては十分だろう。
それにアルスからの手紙によると、彼らはいずれベリアス辺境伯家の下で働くことを了承しているようだ。
我々もそうまでして正式な爵位を授かりたくないという、彼らの気持ちに理解を示し、名誉爵位を与えるという旨は手紙でアルスにも伝えてある。
後になってその約束を一方的に違えれば、彼らだけでなくベリアス辺境伯との関係も悪化しかねない。
国境に領地を持つベリアス辺境伯家との関係が拗れれば、隣国に付け入るスキを与えかねん。
だからこそ、先の理由も含めてこちらが譲歩の意思を示した。
しかし、勲章を与えようというアルスの提案は本当に助かったな。
でないと、褒美が釣り合わないところだったし繋がりも弱かったぞ。
「何をおっしゃいますか父上。褒美は与えられるだけ与えればいいのです。それに化け物を倒した少年は、かつて侯爵家の次男だったと聞いています。ここで爵位を与えれば、そいつは実家を見返せたと我々に感謝するでしょうし、仲間の平民達だって爵位を得られて喜ばないはずがありません!」
こいつは私の話を聞いていたのだろうか。
本人達が正式な爵位を望んでいないと、ハッキリ言ったはずなんだが。
それに与えられるだけ与えろと言われても、物事には限度がある。
褒美とは少なすぎても駄目だが、多すぎても駄目なのだ。
功績や快挙に合わせた、ちょうど釣り合うようにせねばならない。
そもそも実家を見返せたと感謝? 平民が爵位を得られて喜ぶ?
正式な爵位を望んでいない時点で、そんなことがありえるはずがない。
「爵位を与えれば、我々の息の掛かった令嬢を送り込めます。なんなら今回の褒美として、エルマと婚約をさせてはいかがでしょう。ちょうどアレの相手が処罰され、婚約が白紙になったのですからちょうどいいのでは?」
重要人物の手綱を握るという意味では、ロドスの提案は間違っていない。
ある意味正しい判断と言えるし、王族らしいとも言える。
だが今回の相手にはそれが通用しないし、むしろ反感を買ってしまう。
帰って来てからの行いといい、このやり取りといい、ロドスは視野が狭すぎる。
失敗しようとも自力を示そうとせず、競争相手の揚げ足を取って粗探しばかりして、挙句に人の話を聞かず王族や貴族特有の考え方や偏見を押し通す。
これではとても、次代の王として国を任せられない。
ベルツから王太子の地位を取り上げた後、ロドスも含めて今後の精進を厳しく告げておくかな。
それで矯正されなければ仕方ない。
生き延びた責任を果たすべく、他の子達が成長して次代の王に相応しい者が育つまで、私がこの国を支え続けよう。
そのためにまず、仕事の邪魔をするこの愚か者を出て行かせなければ。
「却下だ。既に宰相を始め、主だった者と会議をして調整は済んでいる。現状変更の予定は無い」
「いいではないですか、我々はこの国の頂点に立つ王族。多少の勝手は通ります」
「勝手も使い方次第だ。誤れば暴君と化す」
「褒美を与える程度でそんなはずがないでしょう」
「何と言おうと、この件は彼らと打ち合わせをするまで、変更するつもりは無い。仕事が片付かん、もう出て行け」
言っても聞かないから、最後は突き放すように退室を促す。
提案を受け入れなかったからか、ロドスは忌々しそうに退室する。
やれやれ、視野が狭いだけでなく器量も小さいか。
私なりに一生懸命育てたつもりだったが、子育てとは難しいものだな。
何かバカなことをしでかさないよう、一応見張りは付けておこう。
すぐに私は手を叩き、どこからともなく現れた隠密にロドスの見張りと、早まったことをしようとしたら止めるように言いつけた。
さあ、仕事を続けよう。
しかし……多いなぁ……。




