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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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時間稼ぎ


 負傷したジルグを守るため、私達の前に勇ましく並び立つ従魔達。

 私とリズも援護できるようにしているけど、気持ちを落ち着ける平静のイヤリングを付けていても、脚が震えているわ。

 だって、あんなとんでもない化け物と相対している上に、私達はその動きを見切れず、ここまで化け物を押さえていてくれていたジルグが戦線離脱中なんだもの。

 できればジルグには早く戦線復帰してもらいたいけど、焦っても傷はすぐに治らないわ。

 脇目で見ると、傍に寄ったロシェリが治癒魔法を掛け続けている。

 だけど撃ち抜かれた脚はまだ半分も治っていないから、戦線復帰はしばらく無理でしょうね。

 どうにかして時間を稼ごうと思いながら化け物を睨むと、そいつは口の両端を上げて嘲笑った。

 「色別」で見える殺意のどす黒い色に、侮りや余裕といった色が混じっていく。

 あいつ、ジルグ以外は自分の動きについてこれないって分かってるわ。

 でも実際そうだから、どうしたもんかしらね。


「おうっ、ちょっと邪魔するぜ」

「えっ、ひゃっ!?」


 渋々といった表情の小さいレギアが急に飛んできて、体の中に入って来た。

 そしたら装備していた胸当てが外れて、代わりにレギアの顔が浮かんだ胸当てが装備されていたわ。

 私だけじゃなくてリズと従魔達にもレギアが憑依して、胸当てや胴体を守る防具になっている。


「緊急用のやつだ。気に食わねぇが、奴を斬るためにはしょうがねぇ」


 そうだった。

 ジルグが動けなくなった場合に備えて、緊急時にはレギアの分体を憑依装備する手はずになっていたんだった。

 レギアの説得には手間取ったし、強化に慣れる時間が足りなかったから付け焼刃だけど、急場を凌げるくらいには修業をしたつもりよ。

 これでなんとか頑張らないと。


「力を貸してやるんだ、無様な真似するんじゃねぇぞ」

「分かってるわよ」

「とはいえ、これはあまり長くやっていられないけどね」


 リズの言う通りよ。

 私達がレギアに強化された力を扱えるのは、「超越」を抜きにしても短時間だけ。

 まさに付け焼刃でその場凌ぎ。

 でもこの場を凌いでジルグが回復する時間を稼がないと、あの化け物には勝てる気がしないわ。

 結局頼っちゃうのは情けないけど、事実だから受け入れないとね。


「いくわよ!」

「うん!」


 レギアを憑依装備したからか、化け物の表情がちょっと苛立っている。

 その化け物へ向けて従魔達が突進していく。

 素早いアシュラカンガルーが真っ先に接近して拳を振るい、続けてゴウリキコアラが爪を伸ばした右腕を振り抜く。

 どちらもレギアの強化で速さも威力も段違いになっているはずなのに、あの化け物は拳を全て片手で捌きながら、もう片方の手で爪を受け止めると横へ引っ張って、二体をぶつけ合わせて遠くへ放り投げた。

 続けてマキシマムガゼルの棘付き棍棒、丸転するギガントアンキロをそれぞれ片手で受け止めて後方へ受け流す。

 さっきまでより動きが見えてるけど、だからこそ修行した力が通用していないのが悔しいわ。


「このっ!」

「アースショット!」


 今度は私が指に挟んでつがえた四本の矢を同時に撃ち、リズは土魔法を放つ。

 だけど両手に魔力の爪を発生させて魔法と矢を破壊すると、背後へ迫るアシュラカンガルーに気づき、振り返りながら魔力の爪を振るおうとする。


「させないよ。ブラインドスチーム!」


 リズの水魔法で発生した水蒸気が化け物を包んで視界を奪い、その間にアシュラカンガルーは脚を止めて退く。

 その直後に突風が駆け抜け、水蒸気が吹き飛ばされていく。

 私とリズ、アシュラカンガルーとゴウリキコアラはその突風を浴びて転んで、後ろにいる大勢の味方からは悲鳴が上がる。


「なによ、この風はっ!」


 舞い上がる砂ぼこりを腕で防ぎながら見えたのは、化け物が腕を払った勢いで風を起こし、水蒸気を吹き飛ばしている光景。

 まさかあんな力業で、水蒸気を吹き飛ばすなんて。

 だけどね、その突風にもビクともしない重量級の従魔が私達にはいるのよ。

 重い体重で突風に耐えて、吹き飛んだ水蒸気を掻き分けて、マキシマムガゼルとギガントアンキロが化け物へ迫っていく。

 壊れかけの盾を構えるマキシマムガゼルがシールドバッシュを仕掛ける。

 でも片手で止められた上に、後退りすらしない。

 そこへ後続のギガントアンキロが体ごとマキシマムガゼルの背中を押すと、化け物は両手を使って盾を押さえた。

 そのまま押されて後退するかと思ったら、口を開いた。


「あっ――」


 危ないと叫ぶ前に、開いた口から放たれた球体が盾を破壊する。

 魔法そのものはマキシマムガゼルに憑依装備しているレギアの分体が吸収したけれど、盾が壊れたから自由になった化け物は高く跳躍。

 前のめりになって転倒するマキシマムガゼルと、それを踏みそうになるを避けながら転倒するギガントアンキロの下敷きにならないよう回避すると、落下しながら魔力の爪を振り上げる。


「させない!」

「プラントウィップ!」


 転倒した状態から起き上がれず、攻撃されようとしている二体を守るため、私とリズは矢と魔法を放つ。

 だけど化け物は空中で身を翻して魔力の爪を振るい、矢を破壊して植物魔法の蔦を切り裂いて、真下にいるマキシマムガゼルを踏みつけるように蹴った。

 魔力の爪よりはマシなんでしょうけど、マキシマムガゼルは鳴き声を上げて痛がっている。

 さらに、起き上がるのに苦心しているギガントアンキロを蹴って、こっちへ転がしてきた。


「ちょっ、何してくれてんの!? シャイニングベール!」

「ディメンジョンウォール!」


 避けられそうにないから防御魔法で受け止めると、防御魔法がミシミシって軋む。

 それでもどうにか防ぎきれると思ったけど、何故か衝撃が増して防御魔法に亀裂が走った。


「ヤバッ!?」

「くっ!?」


 耐えられないと判断して、咄嗟に左右別々に逃げる。

 それからすぐに防御魔法が壊れて、ギガントアンキロが地面を滑りながら迫って来たから、思いっきり前へ跳んでどうにか回避した。


「あうっ!」


 だけど窪みがあったのか石があったのか、とにかく足を捻っちゃった。


「おいおい、何やってんだ」

「う、うるさいわね……」


 やっちゃったものは仕方ないじゃない。

 それにギガントアンキロが直撃するよりはずっとマシよ。

 そのギガントアンキロは、うつ伏せになって崩れ落ちている。

 防ぎぎれなかったとはいえ、ある程度は勢いを殺せたお陰でどうにか避けられたのね。

 そうだ、リズは?


「ビーちゃん!」


 良かった、リズも無事だったのね。

 でもゴウリキコアラがどうしたの?

 顔を上げて辺りを見渡すと、ギガントアンキロの傍にゴウリキコアラが仰向けで倒れていた。

 どうしてあそこに?

 あっ、まさか途中から衝撃が増したのは、ギガントアンキロにゴウリキコアラが叩きつけられたから?

 ということは、それをやったのは確実に……てっ!

 ゴウリキコアラを投げたであろう化け物の方を見ると、マキシマムガゼルを足蹴にしながら、お腹を抱えて大笑いの表情をして体を揺らしていた。


「よくもビーちゃんをっ! グラビティホール!」

「リズ、それは駄目!」


 その魔法は悪手よ。

 だってそれ、相手を引き寄せる重力の球体を目の前に出す魔法じゃない。

 守ってくれる前衛も無しに、それ使ってどうするの!


「……あっ」


 気づいた時には既に球体が発生し、化け物を引き寄せていたわ。

 しかも化け物が口から球体を放って、グラビティホールとぶつかり合って爆発。

 グラビティホールを貫いた球体はリズに憑依装備したレギアの分体が吸収したけど、爆風をまともに受けたリズはしりもちをついて、化け物の方は吸い寄せられた勢いを利用してリズに迫っている。

 この足じゃ助けに入れないし、今からじゃ魔法も矢も間に合わない。

 どうすることもできない危機的状況を救ったのは、猛スピードで化け物へ接近した赤い存在だった。


「っ!?」


 側面からそれに襲われた化け物は、咄嗟に防御の姿勢を取って攻撃を受け、少しだけ飛ばされて着地した。

 それをやった赤い存在は、種族固有スキルの「怒髪天」を発動したアシュラカンガルー。

 怒りが一定を越えたら発動できるこのスキルで体毛は真っ赤になって、全身の筋肉はより盛り上がって、普段から合わせている真ん中の両手が離れている。

 変化があるのは見た目だけじゃなくて、身体能力も強化されているわ。

 怒りの雄叫びを上げて、強化された力と速さ、六本腕に増えた手数を駆使して化け物へ殴りかかる。

 まさしく怒りの連打とばかりの凄まじい猛攻に、さすがの化け物も……全然通じてない。

 さっきの攻撃こそ当たったけど、その後の六本腕での連打を笑いながら捌いている。


「嘘、あれでも通じないの?」


 そう口にしたリズの気持ちは分かるわ。

 さっきよりも明らかに速く動きながら繰り出されている、六本の腕での高速かつ強力な打撃の嵐。

 たった二本の腕でその全てに反応して対処しているんだから、手数の多さがまるで有利に働いていない。

 それどころか、たった一撃の反撃を受けたアシュラカンガルーが吹っ飛ばされて、崩れ落ちたギガントアンキロの脇腹へめり込んだ。

 レギアを憑依装備して防御力も強化されたはずなのに、アシュラカンガルーはその一撃で気を失っちゃった。

 やばい、これ絶体絶命のピンチって奴?

 そう思って血の気が引く中、化け物の視線がこっちを向いた。

 死。その一文字が頭をよぎった瞬間、何故かレギアの憑依装備が解けて、何かが物凄い勢い化け物へ接近していった。


「はあぁぁぁぁっ!」


 気合いの籠った声は聞き覚えのある声。

 その声の主であるジルグが振り下ろしたハルバートを、化け物は腕を組んで受け止める。

 直後に二人同時に距離を取ると、ジルグの防具に戻った分体が、吸収していた球体を放出した。

 あれはマキシマムガゼルとリズの防具だった時、吸収したやつね。

 だけどそれは魔力の爪であっさり切り裂かれ、そのまま両者は互いに睨み合う。


「悪い。よく耐えてくれたな」


 さっき撃ち抜かれた脚は治っている。

 ああ、良かった。

 なんとか治癒が済むまで時間を稼げたのね。

 そうと分かったら急に力が抜けて、立ち上がれなくなっちゃった。


「せっかく頑張ったんだから、勝ちなさいよね」

「ごめん、後はよろしく」


 私達の掛けた言葉に無言で頷いて応えると、ジルグが手にしているレギア製のハルバートが赤みを帯びていく。

 あれは「灼熱」かしら。


「フレアエンチャント、エアロエンチャント」


 ハルバートが真っ赤な炎を纏い、風によって渦巻く。

 火力が上昇して炎は青白くなっていって、なんだか周囲の気温も上がったように感じるわ。


「アクアエンチャント、アースエンチャント」


 さらに水と小石が加わると、炎と風とも混じり合って一つの光になった。

 やがてそれは黄金の輝きになって、ハルバートとジルグの体の表面を薄く包み込む。

 エレメンタルエンチャント。

 火と水と風と土、四つのエンチャントを同時に使用することで発動する特殊型の魔法で、それぞれが相乗効果で互いの効果を高めている。

 修業中、苦し紛れにそれをやったジルグが偶然発見した魔法よ。

 ちなみにこの魔法の存在を知っていたのは、精霊王だけだったのよね。


「いくぞっ!」


 よりいっそう加速した動きで化け物と打ち合う姿を見つつ、駆け寄って来たロシェリから治癒魔法を受ける。

 最期は頼っちゃう情けない仲間だけど、どうか頑張って。




 ****




 ハルバートを振るう度、魔力爪とぶつかり合って火花のようなものが散る。

 治療後に切れかけていた強化魔法を掛け直していたから戦線復帰が遅れたけど、アリル達が頑張ってくれた。

 付与魔法の分はエレメンタルエンチャントと「灼熱」で補う。

 風のように空中さえ駆け、水のように攻撃を受け流して、アースエンチャントの特徴である大地の如く強力な膂力でもって、鉄さえも瞬時に溶かしかねない高温の一撃を繰り出す。

 それにも関わらず、ジェノサイドは一瞬の怯みも隙も見せず、攻撃も動きも衰える様子を見せない。


「こんっ、のっ!」


 斧部分と魔力爪がぶつかり合い、「爆斧術」による爆発で互いに後ろへ吹っ飛び着地。

 だけど互いに立ち止まることはせず、すぐさま駆け出して相手を倒すための一撃を繰り出し、魔法を放ち、防ぎ、避け、鍔迫り合いをする。

 「剛力」と「逆境」と「活性化」も使っているのに、それでようやく互角の力比べなのか。

 その最中、ジェノサイドが後ろへ引いて前へつんのめった。

 倒れそうになったのはどうにか踏ん張って堪えたけど、距離を取ったジェノサイドの口から「不定形魔法」で光の線が放たれた。

 駄目だ、今からじゃ避けられない。


「ちぃっ! レギアッ!」

「おうよっ!」


 ハルバートを構えてレギアに魔法を吸収させる。

 だけど光の線は物凄い勢いで、気を抜けば勢いに押されてハルバートが後ろへ吹っ飛びそうだ。


「ぐっ、うぅぅっ」


 魔法は吸収できているからダメージは無い。

 でも途切れることなく光の線が放たれ続けているから、全く気を抜けないし、魔法を使う余裕も無い。

 今はとにかくこれに耐えて、この状況を脱する隙を待つしかない。


「つおっ!?」


 マジか、威力が増しやがった。

 吸収には問題無いみたいだけど、勢いが増したから腕だけでなく全身に力を込めて踏ん張る。

 ここが堪え時だ、なんとか隙が出来るまで辛抱してみせる。

 そう腹を括って堪えているものの、地面に跡を残しながら足元がジリジリと下がっていく。


「おいコラァッ! 俺様が吸収してやってんだから、これくらい踏ん張りやがれ!」

「分かってるよ、それぐらい!」

「だったら気合い入れろ! それとも、テメェはこの程度なのかっ!」

「舐めるな。そんな訳、ないだろうがあぁぁっ!」


 自分が蒔いた種が原因でこんな奴が生まれて、大変な事態になってんだ。

 俺が責任もってどうにかしないで、どうするってんだっ!


「おぉぉぉっ、らあぁぁぁっ!」


 踏ん張れ足腰、向こうでの修業でどんだけ走ったと思ってんだ。

 そんでしっかりしろ、俺!

 何が隙を待つだ、消極的になってるんじゃねぇ、前に出て攻めろ!


「レギア、越えろ!」

「おうよっ!」


 「超越」による強化で力が湧いて来て、それと共に体へ若干の痛みが走る。

 だけどこの程度、何でもないだろ俺の体っ!


「おぉぉぉっ!」


 後ろで踏ん張っていた左足を前へ踏み出す。

 たったそれだけなのに、ジェノサイドの目が見開いたように見えた。

 このまま一歩、また一歩と距離を詰めていく。

 そしたら押し返すつもりなのか、光の線が一回り太くなってさらに威力が上がった。


「ぬっ、ぐっ……」


 堪えろ、堪えろ、そして進め。

 一歩ずつでいい、距離を詰めろ。

 そうして次の一歩を踏み出した時だった。


「シャイニング、ブラスト!」


 響いたロシェリの声に続き、光魔法がジェノサイドに命中して体勢を崩した。

 俺に集中して不意を突かれたからこそなんだろうけど、これでずっと放たれていた光の線が止まる。

 今を逃す訳にはいかない。


「合わせろレギア!」

「ちっ、しゃあねぇな」


 レギアへ呼びかけながらジェノサイドへ槍部分の先端を向け、前へ突き出しながら「飛槍術」で突きを飛ばす。

 それに合わせてレギアがここまで吸収した光の線を放出する。

 これに「闇属性攻撃」も合わせた、白と黒が渦巻く先端の尖った突きが伸びていき、ジェノサイドへ命中。

 腕を組んで防御されたものの、構わず攻撃を続けるとジェノサイドの足が地面を滑り出し、跡を残して後退していく。

 そのままどこまでも伸びていくようにジェノサイドを後方へ押していき、やがて何かあったのか爆発が起きて土煙が舞い上がる。

 ちょうどそこでレギアの「魔法放出」も止まり、後には地面に攻撃の余波と、地面を滑ったジェノサイドの痕跡が残っているだけだった。

 でもまだだ。さっきのやり過ぎるくらいが駄目だったんだから、もっとやり過ぎるくらいでないと。


「シャークブラスト!」

「コンドルブレイブ!」

「プロミネンスストライク!」

「ガイアクエイク!」

「ガトリングエクスプロージョン!」

「スパイラルフォール!」


 土煙が上がった場所目掛け、残る魔力で使えるだけの魔法を使う。

 途中からロシェリ、アリルとリズ、後方から混成部隊による魔法も飛んでいき、煙が高く大きく舞い上がり続ける。

 やがてそれが治まる頃には、もう魔力が尽きそうだった。


「はぁっ、はぁっ……」


 魔力の消耗でエレメンタルエンチャントと「灼熱」が維持できずに解けて、ドッと疲れが湧いてきて片膝を着く。

 できればすぐにでも死亡確認に行きたいけど、今はまだ煙が晴れていないからやめておこう。

 もしも死亡していなくて、視界の悪い中で襲われたらひとたまりも無いからな。

 さすがに今回は混成部隊も小さなざわめき程度しか起きておらず、これで勝ったと騒ぐ輩は一人もいない。


「お疲れ、さま」


 同じく魔力を使い切ったのか、顔色の悪いロシェリが杖を支えにしながら歩みって来る。


「確認が済むまでは油断できないぞ。それより、お前は大丈夫か」

「大丈夫。こうすれば……」


 そう言うと杖が魔力に包まれ、ロシェリへ流れ込んでいく。

 それに伴って顔色は良くなっていき、やがて支え無しでも立てるようになった。

 今のは杖の「魔力貯蓄」スキルで蓄えておいた魔力を、自分に移したのかな。

 生憎と蓄えられている魔力はロシェリのもので、俺は受け取れないから、次元収納から魔力回復用と体力回復用のポーションを取り出して飲んでおく。


「そうだ、さっきは援護ありがとうな」

「どう……いたしまして」


 褒められたから照れたのか、恥ずかしそうにフードを引っ張って、顔を隠そうとしている。


「ところで、アリル達は?」

「皆、治した……よ」


 ロシェリが振り向いた方を見ると、治療してもらえたアリル達がこっちへ近づいて来るのが見えた。

 無事な様子に安堵しながら視線を立ち上る煙の方へ戻し、徐々に晴れてきた煙の中からジェノサイドが飛び出してこないか、「不定形魔法」で攻撃をしてこないかを警戒する。

 やがて煙が晴れるかと思いきや、轟音と共に大小様々な土塊がいくつも空中へ飛び、煙が突風によって吹き飛ばされた。


「……しつこい奴だ」


 さっきの魔法による攻撃で荒れた大地の中心に、息を切らしているジェノサイドが立ち、苛立った様子で降って来た土塊の一つを粉砕してこっちを睨む。


「ま、まだ生きてるの!?」

「どれだけ頑丈なのさ!」


 近づいていたアリル達が駆け寄って来て、守るように筋肉従魔達が前に出る。

 後ろの混成部隊にも動揺が走っているのか、ざわめきが耳に届く。

 だけどよく見れば、ジェノサイドの体は傷だらけで、肩で息をしている。

 もう少しで倒せそうには見える。

 でも、こっちも限界が近い。

 仲間達は傷こそ治っていても疲れを隠せていないし、混成部隊は満身創痍だ。

 でも、まだ手は残っている。

 体はまだ十分に動ける、自己強化の魔法の効果も残っている、ポーションで体力と魔力も少しだけど回復している。

 撃ち抜かれた脚以外の傷は回復していないから、「逆境」の効果も発揮している。


「もう、これしかない」


 ジェノサイドを倒せそうな手段で残っているのはただ一つ。

 母さん直伝の接近戦における奥義しかない。

 これに賭けるため、立ち上がってハルバートを横薙ぎに振れるよう構える。

 さあやるぞ、これが今の俺が出せる全力だ。


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