修行の現状
精霊王の下を訪れ、母さんの指導で修業を開始して早四ヶ月が経過した。
今日も今日とて修業に励んでいるけど、少し前までと違ってレギアはいない。
一ヶ月ちょっと前まで装備品へ憑依していたレギアは、進化したその日から精霊王の下で修業するようになった。
だからといって、こっちの修業には全く影響は無い。
レギアが憑依していたのは進化を促すためであって、俺の修業に協力していた訳じゃないからだ。
憑依時に発動するスキルを封じられていて、何の強化も受けていなかったんだから当然も言える。
そんな訳で、今日も母さんから厳しく鍛えられている。
「ダッシュダッシュダッシュ! 速さを落とさない、抱えているそれも落とさない、集中も落とさない!」
今やっているのは、砂がパンパンに詰まった大きな麻袋を両腕で抱えての走り込み。
長距離を延々と走らされたり、短距離の全力疾走を何度も繰り返したりと、足腰だけじゃなくて腕力も鍛えられている。
「それ抱えて動けるようになれば、ハルバートを持ちながら動くなんて楽なものよ。ほら、前のめりにならない! 姿勢を崩せば体幹が悪くなるだけじゃなくて、使っている筋肉への負担に影響が出て、鍛え方のバランスが悪くなるわよ!」
知らず知らずのうちに姿勢が崩れていたか。
腹筋と背筋に力を入れて上体を起こし、腕に掛かる負担にも耐える。
体のあっちこっちに注意を払って集中しなくちゃいけないから、単に重さに耐えて走ればいい訳じゃない。
今にも落ちそうな麻袋を抱え直し、腕に力をしっかり入れて走り続ける。
これがあとどれくらい続くのかと思っていた所で、午前中の修業が終わった。
「はい、午前中はここまでよ。午後はそれを抱えての坂道ダッシュ、砂地走り、悪路走、速度二倍シャトルランをするからね」
どれもやったことがあるから、どういう内容なのかは分かる。
これを抱えたままそれをやるのか。
終わった後には手も足もパンパンになっていそうだ。
そんな事を考えつつ、砂入りの麻袋を抱えたまま昼食と休憩のために戻ると、ちょうどロシェリ達も帰って来たところだった。
「あっ、おかえり……」
「お疲れさま……」
「なにその袋。そんなの抱えて修業してたの?」
「まあな。で、レギアはどうした?」
姿が見当たらないから尋ねると、ここといってリズが右手に持っている物を掲げた。
握っているのは進化したレギアの尻尾で、よほど疲労しているのかブランとぶら下がったまま微動だにせず、目はグルグルになっている。
進化を待っていた分、修業開始が二ヶ月半ぐらい遅れたから、それを取り返すために猛特訓しているらしい。
「今日もしごかれたみたいだな」
精霊王に修業をつけてもらうようになってから、レギアは連日この調子だ。
普段が普段だからいい気味だと思いつつも、さすがにちょっと気の毒かな。
「見てるだけで、震える……ほどだった……」
「私達の修業も客観的に見れば、あんな感じなのかしら」
「言い返したらさらに厳しい修業をさせられるのに、反抗するのを止めないんだよね」
如何にもレギアらしい。
そんなことを喋りつつ、いつも食事をしているリビングへ行って席に着き、背もたれに身を預けたりテーブルへ伏せたりと体を休める。
リズが持っていたレギアは、テーブルの隅へ置かれている。
しかし見た目と今の様子はアレだけど、進化したレギアの能力は凄いの一言だ。
シンクロアーマードスピリット 精霊 憑依型 性別無し
名前:レギア
状態:疲労 気絶
体力 ∞ 魔力20125 俊敏671 知力13097
器用521 筋力 0 耐久 0 耐性18986
抵抗16814 運666
スキル【憑依装備者へ共有可】
闇耐性LV9 光耐性LV10 看破LV7 透視LV4
分裂LV4
種族固有スキル
憑依装備 物理無効【憑依装備時無効】
憑依装備時発動スキル
闇属性攻撃LV10【憑依中のみ成長】
魔法吸収LV9【憑依中のみ成長】
魔法放出LV9【憑依中のみ成長】
憑依装備者強度強化LV9【憑依中のみ成長】
憑依装備者身体能力強化LV9【憑依中のみ成長】
憑依装備者身体機能強化LV9【憑依中のみ成長】
憑依装備者全状態異常耐性LV8【憑依中のみ成長】
憑依装備者スキル強化LV1【憑依中のみ成長】
憑依装備者自然治癒LV1【憑依中のみ成長】
憑依装備者自然回復LV1【憑依中のみ成長】
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
憑依対象が変わったから表記が変化しただけでなく、憑依時の新たなスキルも習得している。
「憑依装備者スキル強化」はスキルのレベル分、憑依した相手のスキルのレベルを上昇させ、「憑依装備者自然治癒」は傷を治し、「憑依装備者自然回復」は体力と魔力の回復を促す。
進化した時点でも上昇していた能力の数値も、修行に参加するようになってからさらに上昇して、魔力はとうとう二万を越えるまでになっている。
それと進化してから器用の欄も数値が上がりだしたのは、尻尾や足が生えたからだろうか。
ちなみに俺は……。
ジルグ・アトロシアス 男 15歳 人間
職業:冒険者 Dランク
状態:疲労 空腹
従魔:アシュラカンガルー
体力2683 魔力1677 俊敏1809 知力1258
器用1696 筋力1799 耐久1771 耐性1182
抵抗1262 運306
先天的スキル
入れ替えLV8 完全解析LV8 灼熱LV9
能力成長促進LV7 魔力消費軽減LV8 逆境LV8
剛力LV7 活性化LV7 体力消費軽減LV7
後天的スキル
算術LV1 速読LV1 夜目LV1 空間魔法LV7
動体視力LV10 暗記LV3 斧術LV10
槌術LV10 土魔法LV9 風魔法LV9 咆哮LV8
威圧LV8 強振LV6 料理LV1 解体LV5
刺突LV6 強打LV6 斬撃LV4 採取LV1
魔斬LV6 清掃LV2 整頓LV2 集中LV1
進化スキル
飛槍術LV2【槍術LV13】
自己強越化魔法LV1【自己強化魔法LV11】
業火魔法LV1【火魔法LV11】
激流魔法LV1【水魔法LV11】
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身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
体力と関わりのある「活性化」と「体力消費軽減」、鍛え方や食事について色々と教わったから「暗記」、成長をし続けたから「能力成長促進」のレベルが上がり、新たに「集中」も習得したものの、他のスキルに成長は見られない。
その分、能力の数値が著しく伸びている。「能力成長促進」があるとはいえ、四ヶ月でここまで伸びるのか。
それと、場所を使わせてもらっているのに何もしないのは駄目だっていう母さんの方針で、部屋とか風呂の掃除と片付けをするようになったから、元実家を去る時に失った「清掃」を再習得して、新たに「整頓」も習得した。
他のスキルについては、今後の修行で鍛えるんだろう。
一方でロシェリ達の方は、能力だけでなくスキルの方も成長している。
ロシェリ 女 15歳 人間
職業:冒険者 Dランク
状態:疲労 空腹
従魔:マキシマムガゼル
体力395 魔力1997 俊敏374 知力1531
器用376 筋力265 耐久636 耐性672
抵抗1247 運321
先天的スキル
魔飢LV8 衝撃緩和LV6 能力成長促進LV6
後天的スキル
光魔法LV9 氷魔法LV8 治癒魔法LV9 雷魔法LV8
整頓LV4 精神的苦痛耐性LV1 回避LV5 騎乗LV6
闇魔法LV8 採取LV2 魔力操作LV3 清掃LV1
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身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
アリル 女 17歳 犬人ハーフのタブーエルフ
職業:冒険者 Dランク
状態:疲労 空腹
従魔:ギガントアンキロ
体力1052 魔力1326 俊敏1429 知力1294
器用1468 筋力436 耐久981 耐性1048
抵抗1163 運269
先天的スキル
活性化LV8 色別LV7 魔力消費軽減LV8
能力成長促進LV6
後天的スキル
弓術LV10 解体LV7 料理LV7 氷魔法LV9
採取LV7 風魔法LV9 潜伏LV7 付与魔法LV8
夜目LV5 複射LV7 連射LV7 植物魔法LV4
聞き耳LV3 清掃LV2 整頓LV2 魔力操作LV2
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身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
リズメル 女 16歳 馬人族
職業:冒険者 Eランク
状態:疲労 空腹
従魔:ゴウリキコアラ
体力417 魔力1686 俊敏411 知力894
器用920 筋力308 耐久823 耐性842
抵抗1079 運379
先天的スキル
悪意予知LV7 能力成長促進LV5
後天的スキル
農耕LV2 精神的苦痛耐性LV1 土魔法LV7
水魔法LV6 植物魔法LV6 料理LV4 罠設置LV1
穴掘りLV3 解体LV4 採取LV5 観察LV5
火魔法LV4 雷魔法LV4 闇魔法LV3 空間魔法LV2
清掃LV3 整頓LV2 重力魔法LV1
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
能力の数値は得意分野以外は伸びが弱いとはいえ、数値は上がっているし新しいスキルも習得している。
「清掃」と「整頓」は同じ理由として、ロシェリとアリルは魔力の扱いが上手くなる「魔力操作」、リズは「重力魔法」を習得した。
そして窓から見える、外で精霊王から水と食事を受け取っている筋肉従魔達はというと……。
マキシマムガゼル 魔物 獣型 雄
状態:疲労 空腹
主人:ロシェリ
体力1736 魔力241 俊敏1213 知力620
器用662 筋力1709 耐久1611 耐性825
抵抗804 運374
スキル
突進LV8 跳躍LV7 蹴術LV8 威嚇LV6 屈強LV8
威圧LV4 不屈LV5 硬化LV5 挑発LV5 咆哮LV3
盾術LV2 棍術LV2 強振LV1
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
アシュラカンガルー 魔物 獣型 雄
状態:疲労 空腹
主人:ジルグ・アトロシアス
体力1701 魔力223 俊敏1346 知力657
器用893 筋力1684 耐久1435 耐性869
抵抗810 運386
スキル
拳術LV8 跳躍LV7 屈強LV7 動体視力LV7 蹴術LV6
虚撃LV6 連打LV5 不屈LV5 回避LV3 集中LV2
強打LV1
種族固有スキル
怒髪天
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身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
ギガントアンキロ 魔物 獣型 雄
状態:疲労 空腹
主人:アリル
体力1128 魔力194 俊敏659 知力612
器用473 筋力1086 耐久1627 耐性741
抵抗546 運258
スキル
穴掘りLV5 突進LV6 屈強LV5 硬化LV5
不屈LV5 闘志LV3 強打LV1
種族固有スキル
丸転
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身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
ゴウリキコアラ 魔物 獣型 雄
状態:疲労 空腹
主人:リズメル
体力1083 魔力152 俊敏816 知力482
器用569 筋力1174 耐久1067 耐性608
抵抗530 運319
スキル
屈強LV6 拳術LV6 蹴術LV5 威圧LV4
爪撃LV4 不屈LV3 闘志LV1
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
「能力成長促進」が無いから、数値の伸びは俺達に比べると低い。
だけど確実に成長しているし、スキルのレベルも上がって新しいスキルも習得している。
しかもメガトンアルマジロとビルドコアラに至っては、進化まで果たした。
メガトンアルマジロが進化したギガントアンキロは、大きさが二倍ぐらいになって、尻尾の先端には小さな棘がいくつも生え、背中の表面はゴツゴツとした岩場みたいになっている。
ビルドコアラが進化したゴウリキコアラも、小型のゴリラぐらいだった大きさが最早ゴリラを越えて大型の熊だ。
それでいて体の分厚さはマキシマムガゼルに負けず劣らずだし、顔はコアラでも顔つきが厳ついから、辛うじて存在していた可愛らしさが完全に消え失せている。
そして何よりも、筋肉量が格段に増している。
先に進化した二体もそうだったけど、どうしてこいつらは進化すると筋肉まで増えるんだ。
お陰で見たくもない、従魔による筋肉自慢大会を見せられることになったっけ。
「どうしたのよ、外をボーッと眺めて」
「この前の、筋肉自慢大会を思い出してた」
「いやいや、何でそんなのを思い出してるのさ」
「もう……ガッチガチも、ムッキムキも、いらない……」
なのに筋肉従魔が増えていって、進化して筋肉度も増しているんだよな。
何でだろうか。
「待たせたわね。さあ、午後のためにしっかり食べなさい」
食事が届いたと分かるや否や、疲れはどこへ飛んで行ったのか。
椅子やテーブルへ預けていた体を起こし、テーブルに並べられた料理を奪い合わず、譲り合いながら食べていく。
修業を開始した頃のような貪り食う勢いは無くなったとはいえ、食べる量に変化は無く、むしろ僅かずつ食事量は増えている。
それでいて体はこれだから、修業でどれだけ消費しているのかが窺える。
「失礼するよ」
おっ、精霊王。
普段は食事時にはあまり来ないのに珍しいな。
「食べながらでいいから聞いてほしい。精霊達を通じて見聞きした、向こうの近況を教えてあげるよ」
向こう? ああ、あっちのことか。
「まさか、あいつに何か動きがあったのか?」
「アレに動きは無いよ。ただ、王太子が動かせるだけの騎士団を動員して、アレへ総攻撃を仕掛けたよ」
王太子というと、アルスの兄で王族の長男か。
確か名前は……ベルツ殿下だったな。
というか、総攻撃って。
「確か今のあいつには、どんな攻撃も通じないんじゃなかったか?」
「うん、そうだよ。完全な無駄足で骨折り損のくたびれ儲け。反撃されないから被害は出ていないけど、お金と魔力と体力と食料は無駄に消費しちゃって苦い顔をしていたよ」
そりゃあ、そうだろうな。
おそらくはベリアス辺境伯家か騎士団を通じてあいつのことを知って、それっぽい理由を並べて動いたんだろう。
被害が出ていないのは何よりだけど、無駄な動員と行動は咎められるだろうな。
そうだ、ベリアス辺境伯家といえば。
「アトロシアス家の方はどうなってる?」
「聞かれると思って調査済みだよ。その家は今回の遠征に参加せず、保護した皇子(王子)と姫を守りつつ、仕えている辺境伯家と領地にいる騎士団と協力して国境の警戒に当たっているよ」
国境の警戒? どうしてまた。
「国内の混乱、王都の崩壊。その隙を突いて他国が攻め込んで来るのを警戒しているのね。やあねぇ、そんな火事場泥棒に注意しなきゃいけないなんて」
追加の料理を持って来た母さんが表情をしかめている。
なるほど。確かに火事場泥棒みたいで嫌だけど、混乱の隙を突くのは間違っていない。
いくら隣国が友好国とはいえ、腹の内では何を考えているか分からないんだから。
仮に攻め込む気が無いにしても、警戒はしておくべくだろう。
「ちなみに隣国に攻め込む気は無いようだけど、救援をして恩を売ろうとしているみたいだね」
それはそれで面倒だな。
あっ、こら待てロシェリ、ローストチキンを独り占めするな。
「それと君達がいた国の王様は無事だよ。運良く柱とかが支えになって、瓦礫の隙間にいたのを救出されたよ。当分は動かせない重傷だけど、命に別状は無いみたいだね」
だとしたら、国内の混乱は比較的早めに落ち着くだろう。
国のトップがいるのといないのじゃ、国内の情勢は大違いだからな。
「他の国は様子見に徹するみたいだね。どこかしらからアレの情報を入手して、どう動くかはそれの動きと、君達の国の対処や情勢次第ってところかな」
まっ、そんなところだろ。
下手に攻め込んであわよくば占領しても、あいつの相手をして壊滅させられたら、それこそ目も当てられないもんな。
俺だって自分が生み出したっていう責任が無いのなら、あんなのとは戦いたくないし。
「とまあ、向こうの近況はこんな感じだね。ついでにどうでもいい情報を伝えるとしたら、ジルグ君の元実家は被害を免れたってことくらいかな」
凄くどうでもいい情報だ。
あの家が被害に遭おうが遭うまいが……いや、一点だけどうでもよくないか。
「そこの使用人とか、護衛の人達は?」
「無事だよ。君の元家族は避難名目でさっさと王都から逃げ出したけど、彼らは王都に留まって怪我人の手当てや救助、炊き出しとかを手伝ってるよ」
そっか。あの人達が無事だったのはなによりだ。
この件が片付いたら、ロシェリ達を連れて会いに行こうかな。
そのためにもしっかり食って鍛えて、あいつを倒さないと。
もう残り半月……いや、こっちでの半年しか時間がないんだから。
そうして改めて決意を固めて取り組んだ午後の修行を終えた後、母さんから告げられた。
「体の方はだいぶ鍛えられたから、明日から修行を次の段階へ移すわよ」




