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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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閑話 精霊王の温泉日和


 ジルグ君達へ修行をつけるようになって初の休日。

 今頃彼らは部屋で寝ているだろう。

 日頃の疲労の蓄積もあるけど、昨夜は遅くまで励んでいたようで寝不足気味だったからね。

 どうしてわかるのかって?

 見聞きしなくとも、寝不足かどうかぐらいなら一目で分かるよ。

 その間に僕は、アーシェの前世での知識を基に温泉を改装していく。


「で、このジャグジーっていうお風呂の気泡はこれくらいでいいのかな?」

「量は十分ね。できればもうちょっと勢いを強く」

「ほいほいっと。こんなもん?」

「オッケー。バッチリよ」


 それにしても、異世界には随分と色々な種類のお風呂があるんだね。

 使うのは温泉じゃなくて普通に沸かしたお湯が大半らしいけど、だとしてもこれだけ種類があるのは楽しそうだ。

 ここまでに作ったのは寝転がってお湯に浸かる寝湯、お湯の中を歩く歩行湯、それとたった今完成したジャグジーは気泡が底から広範囲に出るのと、側面から狭い範囲に勢いよく出る二種類がある。

 さて、今度はどんなお風呂かな。


「次はどんなのを作る?」

「そうね……。電気風呂がいいわ」


 電気風呂? えっ、それって大丈夫なの? 感電しない?

 アーシェによるとそこまで強い電気じゃなくて、出発点と着地点の間に微弱な電流を流すようで、言わば水中に電気だけの通り道を作る感じみたいだ。


「最初は変な感じだけど、慣れると結構良いのよね」

「なるほど。早速取り掛かろう」


 このお風呂で大事なのは、電流の強さと流れの制御と見た。

 まずは制御に重点を置いて、強さは徐々に弱めて調整していく。


「う~ん、まだ強いわね。電流をもうちょっと弱くお願い」

「はいは~い。これくらいかな?」

「ん、これでいいわ。次は打たせ湯いってみましょう!」


 打たせ湯か。どんなお風呂なんだろ。

 こんな感じでいくつもの種類のお風呂を作っていき、最終的にはアーシェがスパリゾートと呼ぶぐらいの温泉設備が完成した。


「ふう、いい仕事をしたよ」

「いいえ、まだよ」


 えっ、まだ何かあるの?


「温泉と言えばこれが欠かせない。サウナと水風呂よ!」


 水風呂はその名の通り水を張ったお風呂なんだろうけど、サウナって何?

 ジャグジーのように、別の呼び方があるだけで何かのお風呂なのかな。


「それはどんなお風呂なんだい?」

「熱い水蒸気を室内に充満させたものよ」


 なにそれ蒸し暑そう。

 というかお風呂じゃないのに、温泉には欠かせないの?

 ちょっと意味が分からない。


「お風呂じゃないなら興味が湧かないなぁ」

「サウナは別名蒸し風呂っていうんだけど?」

「よし作ろう」


 どうしてそれを先に言わないのさ。

 お風呂と聞いた以上は作ってやろうじゃないか。

 えっと何? 資材は木材で、水蒸気が逃げないようにして、内部は大きな階段のようにして座れるようにする。

 熱い水蒸気は熱した石に水をかけた時に発生するぐらいだね。

 という感じでサウナもとい、蒸し風呂完成。

 水風呂はそのすぐ傍に作ってくれっていうから、ちょちょいのちょいっと作ってあげた。


「でもこれ、本当に良い物なの?」

「論より証拠、中へ入れば分かるわ」


 そう言うのなら試してみようじゃないか。

 指を鳴らして腰にタオルを巻いただけの姿になって、いざ蒸し風呂へ。

 うわっ、蒸し暑っ! 分かっていたけど蒸し暑い!


「しばらくそこの段差に座って、ジッとしてなさい」


 言われた通りにするけどさ、蒸し暑いのは不快でしかないと思うんだけど。

 もう汗がダラダラ流れてきたし、ここまでに作ったお風呂と違って苦行でしかないと思う。

 それからしばらく中で過ごしたけど、何が良いのかサッパリ分からない。


「そろそろ出てらっしゃい」


 う~ん、結局蒸し風呂の良さが分からなかったなぁ。

 汗を拭いながら蒸し風呂から出ると、休憩用に用意した椅子が置かれていた。


「さあさあ、次はここで少し休んで」


 あんな蒸し暑い空間にいたんだから、言われずとも休むよ。

 促されるがまま椅子に座り、火照った体を冷ます。

 はぁ、水が欲しいなぁ。


「そこである程度体を冷ましたら、いよいよ水風呂よ。これに入らなくちゃ、サウナに入った意味が無いわ」


 要するに蒸し風呂と水風呂は二つで一つ、ということかな。

 さっき言われたけど論より証拠、少し体も冷めたし入ってみるか。

 アーシェによるといきなり入るんじゃなくて、先に掛け水をして体を慣らしてからだそうだ。

 うわっ、温度差で凄く冷たい。

 でもって入水……おぉっ? なんか体の表面に暖かい膜があるような感じがする。

 ひょっとして蒸し風呂で温まったからかな?

 だけどそれもすぐになくなって、水の冷たさが全身を包む。

 冷たいことは冷たいけど、段々気持ちよくなってきた。

 汗が流れる顔を洗って、ついでにちょっと潜水。


「ぷはっ、気持ち良い」

「気持ちは分かるけど、顔を洗うのと潜るのは厳密に言えばマナー違反よ」


 あっ、そうなんだ。

 初めてだから勘弁して。


「まあ今回は初回だから見逃すわ。それより、そろそろ上がりなさい」


 え~、まだ一分くらいしか浸かってないのに?

 渋々ながら上がってさっきの椅子に座らされると、なんだか体がスゥッとしてきた。


「わっ、なにこれ」


 何かが全身を駆け巡るような感覚があって、それがとても気持ち良い。


「どう? サウナの後に一休み挟んで水風呂に約一分。それが一番気持ち良いのよ」

「なるほど。確かにこれは両方が揃ってこそだね」

「そうでしょう? どちらか一方だけでは、これは味わえないわ」


 蒸し風呂という苦行の後に、水風呂へ入ったいる時と出た後に訪れる二段構えの爽快感。

 何のために蒸し暑いだけの蒸し風呂を作ったのかと思ったら、その後の水風呂のためだったんだね。

 確かにこれは欠かせない。というより、欠かしたくない。


「付け加えるなら、サウナはストレス発散や新陳代謝を良くする効果があるから、単に暑いだけじゃないの。無理せず限度を守って利用すれば、体にも良いのよ」


 へぇ、そうなんだ。

 シンチンタイシャっていうのが何かはよく分からないけど、体に良いのならそれでいいか。

 しかしさすがは異世界のお風呂だね。

 どれも僕の風呂好きを的確に突いてくるよ。


「これで完成でいいのかな?」

「そうね、これくらいで十分かしら。後はこれを女湯にも作るだけね」


 今作業をやっていたのは男湯の方だから、これを女湯の方にも作らなきゃならない。

 だけどメンドクサイ。

 作るのは大した作業じゃないけど、蒸し風呂と水風呂で気持ちよくなった後で作業なんてしたくないよ。


「面倒だからさ、仕切り無しで混浴にしない?」

「そしたらうちの堅物ヘタレ息子が入りたがらないと思うわ」


 わぁ、その光景が容易に思い浮かぶよ。


「そこはそれ、湯着を着用するとかさ」

「まあそれが無難かしら。いえ、ちょっと待って。どうせなら」


 なんかアーシェが悪い笑みを浮かべた。

 これはなんかジルグ君がトラブルに巻き込まれる予感がするね。

 まっ、人生に苦労は付きものだから、ここは口出しせずに静観しようか。

 面白そうだしね!

 それから昼食を挟んだ午後、彼らを改装した温泉へ招待してあげた。


「なんか色々とたくさんあるわね」

「全部、入りたい……」

「アハハッ。のぼせないようにしないとね」

「それはいいんだけどさ、なんで混浴? それとこの変な湯着は何?」


 納得しきれていないジルグ君が指摘しているのは、面倒だから混浴にした温泉と、彼らが着用しているアーシェが用意した変わった湯着。

 僕とジルグ君は上半身裸で男物の下着みたいな物だけを着用しているのに対し、アーシェ達女性陣は胴体部をしっかりと覆った物を着用している。


「混浴なのは、男湯と女湯の両方に作るのが大変だからよ。ちなみにこれは湯着じゃなくて水着といって、異世界では水泳やこうした混浴風呂では定番の物なのよ」


 自分が準備するって言うから何かと思ったけど、これは異世界の水泳着だったのか。

 こっちの水泳着は湯着とあんまり変わらないから、こういう上半身裸の物は無いもんね。

 改装した温泉に合わせて、こっちも異世界風にしたってことかな?

 あの笑みからして、何か他にも理由がありそうだけど……。


「水着ねぇ……」

「そうよ。私が着ているのはワンピース型で、ロシェリちゃん達のはスクール水着って言うのよ。しかも白スクよ!」


 わざわざ白を付けるってことは、別の色もあるってことか。


「お義母さん、この胸元の文字は?」

「前世の世界の文字で、あなた達の名前が書いてあるの」


 異世界の文字か。

 なんて書いてあるのかと思ったら、彼女達の名前だったんだね。

 彼女達の胸は平たいから、文字自体はとても見やすいよ。


「むっ」

「んっ」

「なに? 今のイラッとした気分は」


 おっと、危ない危ない。なかなか鋭くなっているね。

 これも修業の成果かな。

 うっかり口に出していたら、間違いなく攻撃されていたね。

 まあそれくらい、簡単に防いでみせるけどさ。


「さあさあ、せっかくの休みで目の前には異世界のお風呂がたくさんあるんだから、余計な事は気にせず楽しんでらっしゃい」


 背中を押されたジルグ君は微妙に納得し切れていないようだけど、未来の奥さん達に手を引かれて連れて行かれた。

 本当に彼はこうした余裕というか遊びというか、そういうのを受け入れたり実行したりするのが下手だね。

 そういう意味じゃ、未来の奥さん達に引っ張られて尻に敷かれた方が幸せかもしれない。


「それじゃ、僕は寝湯でゆっくりさせてもらうよ」

「私もそうするわ」


 ジルグ君達が底から気泡の出る方の泡風呂に入るのを見届け、僕達は寝湯でのんびり過ごす。

 はぁ、寝転がって温泉に浸かるのは気持ちいいね。

 うっかりすると、睡眠の必要は無いのに寝ちゃいそうだよ。


「今回はこっちへ来て本当に良かったわ。息子に会えるし、自分の手で鍛えてあげられるし、義娘達にも会えるし、温泉にもこうして浸かれるし」

「僕が風呂好きで良かったね」

「深く感謝するわ。あのポンコツ女神の下で働くより、こっちにいようかしら」


 残念ながらそれは無理なんだよね。

 ここはあくまで精霊達の住処で、君は見習いとはいえ神。

 一時的な滞在許可は出ても、いずれは帰らなきゃならないんだよ。


「生憎、その希望は叶えられないよ」

「分かっているわよ、それくらい」


 ならいいんだけど。


「でもさ、たまに遊びに来るくらいはいいでしょ?」

「ちゃんと許可さえ取れば、構わないよ」


 たまの来客は大歓迎だよ。

 あっ、そうだ。 


「だったらその時にレギアを通じて彼らも呼ぶかい?」

「……できるの?」

「レギアへ呼びかけるくらいは訳ないさ。応えてもらえるかは別だけど」


 ここを出て行ったばかりの頃、呼び戻そうと何度も呼びかけたけど、悉く無視されちゃったんだよね。

 そんな過去もあって、ここへ来るように呼びかけた時も他の精霊を通じてだったし。

 直接呼びかけて無視されるのって、結構傷つくんだよ。


「できるのならやってもらいたいわね。そう頻繁には来られないでしょうから、年に数回程度かしら」

「そうだね。彼らはともかく、君はそれくらいが限度だろうね」


 一応は神の見習いだからね。


「あっ、でもそうなるといずれは孫の顔も見れるのかしら。お祖母ちゃん若いとか、神様になったなんて凄いって言われたら、甘やかしてなんでも出してあげちゃうかも」


 早くも孫バカ炸裂だよ。

 だけど気持ちは分からなくもないかな。

 絶対に会えないと思っていた孫に会えるかもしれないんだから、そりゃあ楽しみになるよね。

 締まりの欠片も無いデレッデレの表情を見れば、どれだけ楽しみなのかは一目で分かる。

 ……ひょっとしたら僕も、甘やかして色々やってあげちゃうかも。


「ふっふっふ~。そっちも楽しみだけど、向こうの反応も楽しみね」

「向こうの反応? ジルグ君達のこと?」

「そうよ。こういう時のお約束を用意しておいてあげたから」

「お約束?」


 異世界風のお約束ってことかな?

 一体何をしたんだろう。


「まさかとは思うけど、温泉に被害は出ないよね?」

「それは無いから安心して」


 良かった。温泉に被害を出していたら、本気で怒るところだったよ。


「じゃあ、お約束って何なのさ?」

「それはロシェリちゃん達の水着にあるわ」

「彼女達の水着に?」

「ええ。彼女達が着ている白スクはね、濡れると透けるのよ」


 透ける。ということは。


「「「「ギャアァァァッ!?」」」」


 あの悲鳴で彼らの状況がよく分かったよ。

 彼らが入っていたのは泡風呂だから、上がるまでは気付かなかったんだろうね。


「ふっ。息子へラッキースケベの贈り物よ」


 ドヤ顔で親指立てているけど、ラッキーじゃないよね、確信犯だよね。

 完全に仕込み有りの仕組まれていた結果で、幸運のこの字も無いから。

 あっ、ジルグ君が鬼の形相をして物凄い勢いで走って来た。


「母さーん! 何だよあの白スクって水着はぁっ!」


 おぉっ、凄いね。

 床を滑ってちょうど僕達の前へ止まったよ。


「良い物だったでしょ」

「そういう問題じゃなーい!」

「そっち方面に頭が固くて遊び心の無い息子を、母なりに心配してのことなのよ」

「余計なお世話だ!」

「その余計なお世話を焼きたくなるほど、ジルグはもっと女の子にがっつくべきなのよ」

「いいだろ別に!」


 これに関しては僕もアーシェと同意見かな。

 溺れるのは良くないけど、固すぎるのも考えものだと思う。


「もう、分かったわよ。だったらこっちでいいでしょ」


 不満気なアーシェが出したのは、色違いの同じ水着。

 今度のは紺色なんだね。


「この色なら透けないから、着ても大丈夫でしょ」

「最初からそっちにしてくれよ!」


 奪うようにそれを手にしたジルグ君は、駆け足で未来の奥さん達の下へ向かってそれを手渡していた。

 彼が目を背けている間に彼女達は隠すべき場所を隠し、脱衣所へ駆け込む。

 それから少しして着替えて来た彼女達は、今度は大丈夫かとお湯を掛けて透けないのを確認したら、ジルグ君の下へ戻って行った。


「……で、今度は何を仕掛けたの?」

「あら、分かる?」

「すんなりと代わりを差し出したから、何かあるのかなって思って」

「さすが精霊王、鋭いわね」


 別に精霊王だから気づいた訳じゃないし、誰だってそんな気はすると思うよ。


「それで、今回の仕掛けは何?」

「あの水着、しばらくすると水に溶ける素材なのよ」


 わあ、そうなった時の光景が目に浮かぶよ。

 しばらくしてってことだから、入った直後には溶けないから油断しているだろうなぁ。

 さっきお湯を掛けた程度じゃなんともなかったし。


「彼がまた怒るよ」

「役得で眼福なんだから、そこまで怒らないでしょ」

「君に対して怒るって言っているんだよ」

「大丈夫よ。怒ったところでそれまで、実力行使は無駄だと分かっているもの」


 君と彼の実力差を考えれば当然だね。

 彼もそれを分かっているのなら、下手な行動はしないだろう。

 だからといって、怒らない訳じゃないけど。

 直後に彼女達の悲鳴と、アーシェに対するジルグ君の怒号が響き渡った。


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