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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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一時の休息


 ようやく説教と正座で痺れる脚へのツンツン攻撃から解放された。

 説教が終わるやいなや逃げ出した従妹コンビとロシェリ達め、後で覚えてろよ。

 邪魔にならないよう、玄関の端の方へ這って移動して痺れが取れるのを待っていると、氷石のタグに憑依してずっと寝ていたレギアが目覚めた。


「んあっ。おっ、帰って来てたのか。で、お前は何やってんだよ」

「正座での長説教で行動不能」

「ちっ。実体があれば足を突いてやったのによ」


 レギア、お前もか。

 こればっかりはこいつに実体が無くて助かった。


「んで、あいつの所にはいつ行くんだ?」


 あいつ? ああ、精霊王の所か。


「早くとも明日だ。今日は身内に構ってやれって伯父さんに言われた」

「猶予は長くねぇって言われた割に、のんびりしてんな」

「だからって好き勝手を通すには、俺達じゃ立場が弱いんだよ」


 精霊王が俺とレギアをどう思っていようが勝手だけど、こっちは何でも好き勝手できる訳じゃない。

 自由に動ける冒険者稼業とはいえ、仕事を請け負っている間はこっちの都合を通すのは難しい。

 依頼を受けている以上は、相手側の都合が優先されるんだから。


「まあいいさ。本気で早く来させたいなら、精霊を通してもっと警告してくるはずだ。それが無いってことは、ちったぁ余裕があるってこったからな」


 うわっ、なんか屁理屈っぽい。

 だけど間違っているようにも思えない。


「とはいえ、急いだ方が良いから明日には行くぞ」

「分かったよ。ったく、俺様達に何の用があるってんだ」


 レギアがブツブツ呟く文句を聞き流し、脚の痺れが取れたから部屋へ向かう。

 あっ、そうだ。痺れる脚を突いた五人への仕返しはどうしよう。

 さほど大した悪戯じゃないからほどほどに留めるとして、何をしようか。

 飽きるまでくすぐろうか、それとも同じ目に遭ってもらおうか。

 そんなことを考えながら部屋に戻ると、おかえりと従妹コンビが飛びついて来た。


「お疲れ様でした、ジルグお従兄様」

「お母さん達と~、お祖母ちゃん達のお説教は長いから~、疲れるよね~」


 うん、そうだな。とても疲れたよ、可愛い可愛い従妹コンビよ。

 そして部屋で寛いでいるロシェリ達も。

 笑みを浮かべて従妹コンビの頭に手を添える。

 撫でてやるとでも思ったのか、従妹コンビは満面の笑みでロシェリ達は和やかな空気になっている。

 でもね君達、自分の行いを見直してごらん?

 本当にちっちゃい些細なことだけどさ、やられた側としては仕返しの一つでもしたい。

 目には目を、物理的な悪戯には物理で仕返しを。


「そうだジルグお従兄様、先ほどは悪戯して申し訳ありませんでした」

「ごめんね~」


 従姉コンビ、無罪放免。

 軽く頭を握ってやろうと思ったけど、変更して頭を撫でる。


「ん、ちゃんと謝れて偉いぞ」


 チラリとロシェリ達へ視線を向ける。


「あっ、えっと、ごめんね」

「ごめん、なさい」

「悪かったわね」


 まあいいとしよう。

 ただし促されてから謝った形だから、褒め言葉は無しだ。


「お詫びにお風呂で背中を流しましょうか?」

「ルウもやる~」

「いや、それは駄目だ」

「「なんで~?」」


 なんでも何も、年齢を考えなさい。

 いくら従兄妹とはいえ、分別をつけないといけない年頃だろ。


「今ならお姉様達も一緒ですよ」

「承諾してもらいました~」


 従妹コンビの発言にロシェリ達へ視線を向ける。

 ロシェリは恥ずかしそうに視線を逸らし、アリルは顔はそっぽを向いたのに視線はチラチラこっちへ向けるという妙な技をやりながら上機嫌に尻尾を揺らし、リズはちょっと照れくさそうにしながらニコニコ笑っている。


「承諾、したのか?」

「だって、ジルグ君と、私達と、少しでも一緒にいたいって……言うから……」


 うん? どうして一緒にいたいなんて言い出すんだ?

 しばらく不在にしていて、寂しくなったのかな。


「実はジルグが帰ってくるまでの間に、アトロシアス家の人達に話したのよ」

「何を?」

「早ければ明日にでも、また遠出するってこと」


 なんだ、もう話していたのか。

 さすがに目的地までは伝えていないみたいだけど、伝えたら伝えたで説明と説得が大変そうだからな。


「どこに行くのかまでは追及しません」

「だけどまたいなくなるのは~、寂しいの~」

「「だから今日はずっと一緒にいよう」」


 ノワール伯父さん、誘わずとも向こうから申し出てくれたよ。

 だったら野暮は言わず、良い従兄としてこのまま乗ってあげるか。


「分かった。今日は一緒にいような」

「「はいっ!」」


 良い笑顔を向ける二人にこっちの表情も緩んでしまう。

 ロシェリ達も笑みを浮かべていて、室内が空気が穏やかになる。


「ハッ。仲良しこよしで結構なこった。俺様は寝とくから、勝手にやってやがれ」


 こういう時くらい空気読めよ。

 そしてまだ寝るのか、お前。

 まあその方が静かだし面倒が無くていいか。


「じゃあ外しておくから、好きなだけ寝てろ」

「おうよ。向こうに行っても寝てたら起こせよ」


 どんだけ寝るつもりなんだと思いつつ、レギア入りの氷石のタグを外してテーブルの上に置いておく。


「で、まずはどうする?」

「「一緒にお風呂入りましょう!」」


 その話、まだ継続していたのか。

 でもさすがに混浴は拙いだろ。

 そういう入浴施設でもないのに。


「大丈夫です、ちゃんと湯着を着ますから!」

「そういう条件で~、お母様達とお祖母様達が許してくれたの~」


 ロシェリ達だけじゃなくて、奥さん一同も協力しているのか。

 だとしたら断り難いし、湯着を着るのならセーフ……かな?


「という訳で!」

「行こう~」

「……分かったよ、行くか」


 半ば流される形で湯着を準備し、風呂へ向かう。

 ていうか、湯着あるんだ。

 用意してくれた使用人曰く、何かしらの理由で人前であまり肌を出したくない人のために準備してあるんだそうな。

 ついでに今なら他に誰もいないという情報と、邪魔が入らないようにと清掃中の立て看板を渡された。

 

「こんなんでいいんですか?」

「大丈夫ですよ。案外こういう古典的な方法の方が、変に怪しまれずに済みます」


 そういうもんかなと思いながらも、一応受け取って風呂へ向かって脱衣所の前に看板を設置しておく。


「じゃあ俺はここで待ってるから、先に入って体を洗ったら呼んでくれ」

「なんでだい? 別に一緒でもいいじゃないか」

「……体を洗うために湯着を脱ぐことになるんだが、それでもいいなら行くぞ」

「「いいで……」」


 肯定しようとした従妹コンビの口をアリルとリズが封じて脱衣所へ連れて行き、後から呼ぶねとロシェリが言い残して脱衣所へ入って行く。

 呼ばれるまで壁に寄りかかって待っていると、中から声が聞こえてきた。


「お姉様達、誰も勝負下着じゃないのですね」

「当たり前じゃない。ついさっきまで、依頼をこなしてたのよ」

「皆、ちゃんと下着類は服の下に隠そうね」

「どうしてですか~?」

「ジルグ君に、見られ、ちゃうよ」

「「別に気にしませんよ」」

「「「駄目!」」」


 あの二人はもう少しそっち方面を気にするよう、奥さん一同へ伝えておこう。

 いくら従兄相手とはいえ、もう少し羞恥心を持ってほしい。

 楽しそうな声で喋りながら風呂場へ移動する音が聞こえ、それからしばらくしてリズの声がした。


「もう入っていいよ」


 やれやれ、ようやくか。

 待ちかねた気分で脱衣所へ入り、そそくさと服を脱いで湯着を穿く。

 女性用は膝まである袖無しの羽織りみたいなのに対し、男性用は同じ生地の下着になっている。

 一応女性用のを男が使ってもいいそうだけど、上半身裸なのは気にしないからこっちにした。

 第一、こっちの方が体洗いやすいし。


「入るぞ」

「「どうぞ」」


 返事をしたのが従妹コンビだから一抹の不安を覚え、少し待ってみる。

 だけどロシェリ達からの制止の声が聞こえないから大丈夫と判断し、風呂場へ入った。


「いらっしゃ~い」

「お待ちしてました!」


 待ち構えていた従妹コンビが抱きついてきた。

 こらやめろ、いくら湯着を着ていても密着は拙い。

 さほど育っていないとはいえ、当たってるから。


「むふ~。やっぱり筋肉じゃないお従兄様がいいですね」

「幼い頃にお父様やお祖父様、ゴーグお兄様とも入りましたが、決まって筋肉を自慢してばかりで」


 あの祖父と伯父と従兄は何をしているのだろうか。

 似たような筋肉自慢を頻繁にする従魔達を交え、一度問い詰めてみたい。


「どうでもいいけど、早くジルグ君も入りなよ」

「その前に体を洗ってよね」


 腰辺りまで浸かって誘ってくるリズと、脚だけ浸けて体を洗うよう促すアリルに一瞬目を奪われた。

 従妹コンビもそうだけど、湯着が張り付いてスタイルが丸分かりだ。

 別に透けている訳じゃないのに、なんか目のやり場に困る。


「あれ? ロシェリは?」

「あそこで溶けてるよ」

「溶けてる?」


 よく分からないことを言うリズの指す方を見ると、肩まで浸かったロシェリの表情がスライムのように蕩けていた。

 なるほど、溶けているか。


「ふに~」


 しかも表情だけでなく声まで溶けている感じだ。

 あんなに蕩けていたのは初めて一夜を共にした時の……煩悩退散。

 何を思い出してるんだ。従妹コンビもいるんだから、反応する訳にはいかない。 

 とにかく落ち着こう、体を洗って落ち着こう。


「「背中流すね」」


 まあ、それぐらいならいいか。

 既に泡立てた洗浄用の布を手にした従妹コンビの楽しそうな様子に、頷いて許可を出す。

 競うように背中を洗う二人を尻目に、前側を洗っていると腕も洗いだしたからそっちも任せ、脚を洗っていく。

 湯着の下は当然自分でやった。

 こらそこの従妹コンビ、どうして残念そうにしているんだ。なんで代わりに頭を洗うと言い出すんだ、なんの代わりだ。

 アリルとリズも笑ってないで注意してやれ、未だにお湯に浸かって蕩けているロシェリも以下同文!


「お湯掛けますよ」

「頼む」

「え~い」


 従妹コンビの掛け湯で泡が洗い流される。

 残りが無いのを確認したら、手を引かれてようやく入浴。

 やっぱり風呂はいいな、お湯に浸かっているだけなのに疲れが癒されていく。

 そこへ楽しそうな笑みを浮かべたリズが寄って来た。


「どうだった? 王様気分は」

「王様気分って……」

「だってそうじゃない。可愛い女の子に洗ってもらって」


 隣を陣取る従妹コンビがアリルに可愛いと言われ、体をくねらせながら照れている。

 ニヤニヤ顔のアリルとリズがちょっとイラッとしたから、ちょっとだけ仕返ししてやろう。


「従妹相手だと、王様っていうより兄気分だよ。それに」

「それに?」

「未来の嫁さんに密着されて洗ってもらわないと、王様気分なんて味わえないっての」


 ニヤけながらそう告げると、二人は一瞬で茹で上がった。

 ついでに両脇から黄色い歓声も響いる。

 ロシェリ? 聞こえてなかったのか、スライムを通り越して溶けたチーズくらい蕩けてるよ。


「あああ、あんた、何言ってくれてんのよ!」


 湯船から立ち上がってこっちを指差すアリルの感情の高ぶりを示すように、エルフ耳の先端がビンビンに上を向いている。

 でも尻尾は嬉しそうにブンブン振られているし、褐色肌でも分かるほど真っ赤になってるから従妹コンビが嬉しそう、照れてるとヒソヒソ話している。


「そ、そっか、そうだよね。やっぱりこういうのは、お嫁さんがやらないとね」


 アリルと同じくらい真っ赤になった頬に両手を添えて、デレッデレの表情で喜ぶリズの耳も嬉しそうに動いている。

 湯船の中の尻尾も上機嫌に動いているのか、水面がバシャバシャと音を立てている。


「なんなら、今からでもやるか?」

「やるかっ!」


 強い言葉で否定したアリルがお湯を掛けてきたことで、そのままお湯掛け合戦へ発展。

 俺と従妹コンビ、アリルとリズのチームでお湯を掛け合う。

 まだ幼い従妹コンビと組んでいようとも、人数で勝っている上に前衛を張る俺が後衛の二人に負けるはずがない。

 従兄妹らしく息を合わせて掛けるお湯の勢いにアリルとリズは押され、こっちが優勢だ。


「くっ、やっぱり後衛の僕達二人じゃ不利だね」

「ちょっとロシェリ、いつまでも蕩けてないで参戦しなさいよ!」

「ふに~」

「ふに~、じゃなくて!」

「へっ? あっ、うん」


 ようやく蕩け状態から復帰したロシェリが参戦したからといって、そうそう負けるか。

 前衛の体力と筋力、舐めるなよ。

 温存しておいた力を惜しげもなく発揮し、勝負はこっちの勝利となって従妹コンビとハイタッチを交わす。

 あれ? いつの間に勝負になったんだっけ?


「ちょっと、遊びなんだから本気出さないでよ!」

「あはははっ。前衛相手じゃ敵わないや」

「あうぅぅ……」


 遊びだから思いっきりやるんだよ、こんな機会が次にいつあるか分からないからな。

 さて、戦いも済んだことだしゆっくりお湯に浸かろう。


「遊んだ後の風呂は最高だな」

「お風呂で遊ぶのは、あまり感心できないけどね」

「いいじゃないか、せっかくの貸し切り状態なんだからさ」

「「そうですよ、お姉様」」

「ふに~」


 あっ、またロシェリが蕩けてる。


「ロシェリって風呂に入ると、いつもあんな感じなのか?」

「そうね。お風呂に入っている間は、大抵ああして蕩けてるわ」


 そうなのか。一緒に風呂に入ったのは初めてだから、知らなかったな。

 だけど蕩けたくなる気持ちは分かる。気持ち良いもんな、風呂は。


「ところでジルグお従兄様」

「この後はどうしますか~?」


 この後、ね……。


「ユイとルウの好きにしていいぞ。可能な限り二人の要望に応えよう」

「「いいんですかっ!」」

「構わないさ。なっ、いいだろ」


 一応ロシェリ達にも確認を取ると、アリルとリズは快諾し、ロシェリは蕩けた表情のまま頷く。

 これに喜んだ従妹コンビが両側から抱きついてきたり、それに便乗するようにリズが正面から抱き着いてきたり、アリルがリズの行動に怒ったり、いつの間にかのぼせていたロシェリを救出したりして部屋に戻った。


「もう、いくら気持ちいいからって限度を考えなさいよね」

「……ごめん、なさい」


 アリルとリズが着替えさせ、俺が背負って運んだロシェリはベッドでダウン中。

 水分補給をさせてアリルが扇いでやっているけど、もうしばらく復活しないだろう。

 その様子にリズと苦笑いをしていると、自室へ戻っていた従妹コンビが女性使用人と共にやって来た。


「部屋から卓上遊戯とかを持ってきました!」

「お茶とお菓子も用意してもらいました~」


 お菓子と聞いてロシェリが体を起こす。


「お菓子……」

「こら、まだ寝てなさい」

「でも、お腹空いた……」


 のぼせたぐらいじゃ食欲を失わないのが、ロシェリらしい。

 その後、お茶とお菓子をつまみつつ、従妹コンビが持ってきた卓上遊戯や札遊びをして過ごす。

 こうした遊びをするのも初めてだと感激するロシェリがちょっと涙ぐみ、何故か毎回最下位になってしまうアリルが何でだと絶叫し、そんな様子に全員で笑う。

 家族団欒みたいな雰囲気もあって盛り上がったこともあり、夕食後も続きをやって楽しい時間を過ごす。

 食後なのにデザート名目でロシェリがお菓子を大量消費したり、辛うじて最下位を逃れたリズがホッとしてまたも最下位のアリルが落ち込んだり、実はユイとルウが目で合図を送って結託していたことが発覚したり、罰として俺達からくすぐられて大爆笑してたりと、従妹コンビが疲れて寝るまで遊び通した。


「楽しかったみたいだね」


 寝落ちする前に交わした約束に従い、俺の両隣で寝させている従妹コンビの笑みを見ながらリズが呟く。


「私達も、楽しめた……」

「そうね。こんなに遊んだのは久しぶりね」

「なんだか俺達の方が気分転換させられた感じだな」


 お陰でこれからの事を考えて、少し重くなっていた気持ちが軽くなった。


「だけど残念だな」

「何が?」

「出発前に交わしたジルグ君との約束だよ。さすがにこの子達がいると、無理だよね」


 出発前にリズと交わした約束……。

 ああ、あれか。この依頼が済んだら抱くってやつ。


「悪いけど今回は諦めてくれ。それにこの二人がいなくとも、今はそういう状況じゃないだろ」


 ノワール伯父さんやゼインさんを始め、多くの人達があいつへの対処に動いていて、それの関係で俺とレギアは精霊王から呼び出された。

 さらにあいつがああなった原因が俺にあって、元々はレギアの元相棒が憑依した元父親だ。

 本当なら一刻も早く精霊王の下へ行くか、対処へ参加すべきなんだろう。

 でもだからこそ、こうしていられる猶予の時間を大事にしたい。

 さすがに事に至るのは憚れるけどな。


「残念だけどその通りだね。だったら約束は、事が落ち着いたらに先延ばしで頼むよ」

「了解。だったら今回の件、絶対に解決しないとな」


 正直あいつがあの中から出た後にどうなるのか、想像が付かない。

 できれば平和的に解決すればいいなと思いながら、俺達も眠りに就いた。



 ****



 翌朝、奥さん一同と従妹コンビ、それと辺境伯家から戻って来たゴーグ従兄さんとリアン従姉さんに見送られ、精霊王の下へ出発することになった。

 行き先と目的については、複数人で行うエルフ独自の転移魔法でしか行けない場所で、そこに今回の件を解決する手がかりがあるかもしれないから調べに行く、帰ってくるのにはそれなりに日にちが掛かるかもしれないと説明しておいた。


「じゃ、行ってきます」

「「早く帰って来てね!」」

「向こうでの調査次第だけど、できるだけ努力するよ」


 従妹コンビには悪いけど、こればかりは精霊王の用事次第だから保証できない。


「無理はしないでね」

「こっちは任せておけ!」

「お姉ちゃんは待っていますよ」


 心配そうに見送ってくれるユアンリ祖母ちゃんに、胸を張るゴーグ従兄さん、こんな時でもマイペースなリアン従姉さん。

 その後ろに控えている奥さん一同からも言葉を掛けてもらい、準備万端なロシェリ達と従魔達の下へ向かう。


「じゃあアリル、頼む」

「分かったわ。まずはジルグが魔力を空間へ変換してその状態を保って頂戴」

「了解」


 リズも移動中に空間魔法を安定して使えるようになったものの、まだ不安だからと行きは俺が担当する。

 魔法スキルを習得するための訓練方法と同じく、掌の間に魔力を集めて空間へ変化させていく。

 魔力から変換された空間は小さな立方体を型作り、その状態で止めて保つ。


「ロシェリ、あの立方体に杖を付けて魔力を流して」

「う、うん」


 混宿の杖の先端が立方体に触れる。

 そこへ魔力が流されると杖と立方体が共鳴するように輝きだした。


「よし、後は任せて」

「頼むぞ」


 立方体へ両手を近づけたアリルは、何かよく分からない言葉を口にしだした。

 それにより立方体の輝きだけが増していく。

 やがてアリルの呟く言葉が終わると立方体が手元から飛ぶように離れ、近くに落ちて大きなって光の壁のようになった。


「あれが目的地への転移門よ。さあ、行きましょう」


 真っ先に歩き出したアリルに続き、ロシェリとリズと従魔達と共に壁へ近づく。

 後ろから聞こえる従妹コンビの声に背中を向けたまま手を振って応え、壁に触れて中へ入れるのを確認して進む。

 特に抵抗も無く通り抜けた先は、巨大な樹がそびえ立つ淡い光を放つ草原だった。

 全員が通過すると壁は消滅する。


「ここが?」

「ああそうだ、俺様が生まれた場所だ。そんでそこの樹が世界樹だ」


 氷石のタグから出て来たレギアが説明する。

 これが世界樹……。

 高さだけでもどれだけあるか分からないし、太さも相当な物だ。

 一体樹齢何年なんだろうか。


「おっと、奴が来たか」

「奴?」

「精霊王だよ」


 レギアがそう告げた直後、世界樹の枝から誰かが飛び降りた。

 思わず身構える前に現れた精霊王とやらは……。


「どうもー! はっじめまして~。僕が精霊王、でーっす!」


 舌を出してウィンクしながら右手を横向きピースにして目元にやってポーズを決める、半袖半ズボン姿をした十歳くらいの金髪美少年だった。

 えっ、これが精霊王?


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