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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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ガルア帰還


 俺とレギアから伝わった情報により、事態は動きを見せた。

 関所にいる騎士団員から偵察を出して状況確認を行った後、俺達はそのままエルマ姫とアルス王子とその護衛と共にガルアへ向けて出発。

 動きが無いのなら、護衛が減っていようとも早く移動した方がいいってことだ。

 周辺から集まった騎士団員達は護衛に加わらず、正体不明生命体と仮称されたあいつの下へ向かって観察と警戒をするのと、王都の被害状況を確認し向かった。

 そういう訳で俺達は現在、早めのペースでガルアへ向けて移動中。

 遭遇した魔物はアレンさんを中心とした辺境伯家の護衛隊や、レイアさんを始めとした騎士団員達、そして近衛兵達が倒していく。

 あいつの一撃で革鎧と左の籠手はぶっ壊れたけど、右の籠手と脛当てとハルバートは無事だったから戦えることは戦える。

 それなのに絶対駄目とロシェリ達に言われ、馬車の前で最後の防衛線として控えさせられた。

 ちなみにそのロシェリ達は今現在、従魔達と共に怒涛の勢いで魔物を倒している。


「ったく、暇でしょうがねぇぞ。ちょっとあそこへ突っ込もうぜ」

「んな勝手をやったら、説教コースだぞ」


 まあ、こいつにはいくら説教しても効果無いんだろうけど。


「というかお前、あの中に斬りがいのある魔物でもいるのか?」

「いねぇよ。単に暇つぶしがしたいだけだ」


 こいつは……。

 斬りたい時に斬りたい奴をとか言っておきながら、これかよ。

 それにしても、凄いなアシュラカンガルー。

 六本ある腕の内、真ん中の二本が拝むように掌を合わせているけど、残りの四本の腕での攻撃が凄まじい。

 素早く攻撃を潜り抜けて懐へ飛び込み、四本の腕での連打や同時攻撃を的確に繰り出している。


(これも『集中』スキルのお陰か)


 「完全解析」によると、「集中」スキルは回避や攻撃の正確性を向上させるスキルのようだ。

 ひょっとすると真ん中の手を合わせているのは、「集中」スキルを維持するためなのか?


「討伐完了。被害状況を確認せよ」


 おぉ、いつの間にか戦闘が終わっていた。

 心配するほどの魔物じゃなかったとはいえ、やっぱり参戦出来ないのはもどかしい。


「ただいま」

「ちゃんと大人しくしてたわね」

「うん、偉い偉い」

「俺は子供か」


 言いつけを破ったら説教が待っているだろうから、そうそう動かないっての。

 たかが説教と侮るなかれ、この三人の説教は疲れる。

 だって三人が同時にするんじゃなくて、一人ずつ順番にするからとても時間が掛かるんだ。

 しかもアリルは攻撃的な説教、リズはねちっこい説教、ロシェリに至っては泣き混じりの説教とタイプが違うからなおさらだ。


「お前もご苦労さん。進化してだいぶ強くなったな」


 うん、褒められて嬉しいのは分かったから筋肉隆起でのポーズはやめって。

 腕が増えた分、むさ苦しさと暑苦しさが増しているんだよ。

 だからって頑張っているのに褒めないのも悪いから、難儀なもんだ。


「この調子だと、メガトンアルマジロとビーちゃんも進化したら、どんなことになるだろうね」


 やめてくれ、リズ。

 そいつらがどんな魔物へ進化するか分からないけど、間違いなく筋肉系だと思う。

 下手をしたら筋肉隆起ポーズをせずとも、暑苦しくてむさ苦しい従魔集団になりかねない。

 いや、現在進行形でなりかけているか。


「皆さん、確認作業が終了しました。移動を再開します」

「あっ、分かりました。連絡ありがとうございます」


 わざわざ報せてくれたレイアさんへお礼を伝え、辺境伯家の馬車の傍らをメガトンアルマジロに乗って走り出す。

 アリルとリズは同乗して、ロシェリだけはいつも通りマキシマムガゼルの肩に担がれている。

 なんだか、自分もそっちへ一緒に乗りたいって視線が前髪越しに向けられているような気がするけど、気のせいだ気のせい。

 こんな調子で魔物と戦いつつ速めのペースで移動を続け、予定より早くガルアへ到着。

 先触れを出していたからか、ガルア基地の騎士団やアトロシアス家による従士隊、さらにはゼインさんまでもが町の入口へ迎えに来ていた。


「お父様!」

「父上!」


 停止した馬車から飛び降りたアルトーラとディラスは、ゼインさんを呼びながら駆け寄る。

 それを迎えるゼインさんは安堵の表情を浮かべた。


「アルトーラ、ディラス。怪我は無いか?」

「はい、皆様のお陰で」

「ですが道中にちょっと……」

「その件については先触れの者から聞いている。それで、エルマ様とアルス様は」

「あちらに」


 アルトーラが指摘する方向では、ちょうど二人が近衛兵に手を借りて馬車から降りていた。

 立場上、自分の子供よりも王族を優先しなくちゃならないゼインさんは、すまないとだけ残して二人の下へ向かって片膝を着いた。


「エルマ様、アルス様。ベリアス辺境伯家当主のゼイン・ベリアスと申します。ご無事でなによりです」


 丁寧に挨拶をするゼインさんに、エルマ姫もアルス王子も礼で返した。


「これはご丁寧に、ありがとうございます」

「先触れの者から状況はおおよそ聞いております。大変な目に遭われたようで」


 大変な目どころか、一歩間違えてれば全滅だったけどな。

 デルスが憑依したゼオンや、それが変貌した奴との戦いを思い出している間に話は進み、ベリアス辺境伯家の屋敷へ移動しての詳細な状況説明が行われることになった。

 騎士団の大半はガルア基地の方へ向かい、説明をするレイアさん達数名と基地の大隊長他数名だけが同行する。

 人数が多い上に仰々しいから移動中は注目を集めたけど、それ以外は問題無く屋敷へ到着。

 これで俺達の仕事は終わったと思いきや、ノワール伯父さんから俺だけ状況説明の場へ参加するように言われた。


「どうして?」

「道中で襲ってきた奴について、教えてもらいたいんだ。君しかそれを知らないからね」


 そういうことか。

 仕方ないから後の事はアリルに任せ、説明会が行われる屋敷内の会議室へ移動した。

 まずはエルマ姫とアルス王子、それと近衛兵によって王都の状況が説明される。

 合流した時にも聞いたけど、改めて聞くと酷いもんだ。

 途中からエルマ姫は泣きだしちゃうし、アルス王子はまたレギアが絡んで来ないかこっちを怖々見ているし、ゼインさん達は難しい顔をしているし。


「以上が、我々の知る限りの王都の状況です。陛下の安否も王都の被害状況も一切不明です」

「分かりました。暴れたという奴は、既に王都を出ているのですね」

「はい。現在は行動停止中なので、騎士団がそれの調査と警戒、及び王都の状況確認へ向かっています」

「ならば我々は情報が届くのを待ちましょう。報告を続けてください」


 続いて述べられたのは、王都を出てから俺達と遭遇するまでのこと。

 シェインの町で現地の基地からレイアさんを中心とした部隊を護衛として付けてもらい、残りは周辺への伝達と万一に備えて住人へ避難の呼びかけに当たり、現状は不明。

 こちらは王都の確認に向かった一行が同時に調査するそうだ。


「なるほど、分かった。ではジルグ君、戦闘時の様子を教えてもらえるか?」

「報告によると、ゼオン副騎士団長が操られていたと聞いたが」


 ガルア基地の大隊長が疑うように問いかけてきた。

 下手をすれば騎士団の存続に関わるから、その点が気になるんだろう。

 本当に操られていたなら、その点を強調する事で騎士団の解体は避けられるからな。


「そうです。憑依されて操られていました」


 操られていた点を肯定した後、種族とスキルの入れ替えについては伏せて戦闘時の様子や主な言動、そして変貌時の様子と最低でも一ヶ月はそのままだという、精霊達からの情報も伝えた。

 全てを説明し終えると室内はざわめきに包まれ、ゼインさんとノワール伯父さん、そしてガルア基地の大隊長が小声で顔を寄せて何やら話す。


「変貌した姿は一体何なのだね?」

「あんなのは見たことが無いので分かりません。類似する魔物も種族も知りませんし、そもそもアレが何なのかも見当がつきません」


 実際、あいつが変貌した直後に「完全解析」を使ったけど表示された文字が読めず、どんな存在なのかどんなスキルを持っているかが全く分からなかった。

 あの時のレギアの言う通り、完全なんて名前が付いているのに情けない話だ。

 でも「完全解析」のことは下手に明かせないから、そういう意味では誤魔化す必要が無くて助かったかも。


「現時点では仮称されている、正体不明生命体としか呼びようがありません」

「そうか。精霊とやらは、何か対策なり詳細なりを伝えていなかったかい?」

「いいえ」


 精霊から伝えられたのは、最低でも一ヶ月はあのままだという事と、精霊王の下へ来いという事の二点だけ。

 詳細や対策については一切伝えられていない。


「変貌中のそいつから一発だけ攻撃を受けたんですが、その結果防具がこうなりました」


 参考までに破壊されたハンティングシャークの革鎧と左の籠手を提出したら、ざわめきが起きた。


「た、たった一発で防具がこんなに?」

「素材は何かね?」

「ハンティングシャークです。製作者はバロンさんの息子のロイドさんで、点検と整備も欠かしていませんでした」


 そう伝えるとガルア基地の大隊長さんの表情が曇った。


「バロン氏の息子のロイド氏なら知っている。バロン氏に劣るとはいえ、腕は確かだ。しかも素材がハンティングシャークなのにこれか……」

「ちなみに、どんな一撃だったのかね?」


 おそらくは殴られたか蹴られたと思っているんだろうけど、そうじゃないんだよな。

 とはいえ、伝えない訳にはいかない。

 それだけの力があいつにはあるんだから。


「指が当たっただけです」

「……は?」

「さっきお話しした、形が定まらない時に肥大化した右腕でやられました。こんな感じで腕を振って、その指が数本直撃したんです」


 動作付きで説明したら予想通り、どよめきが起きた。


「指!? 指が当たっただけでこれなのかね!」

「その通りです」

「ちょっと待ってください、ジルグさん。では、あの時の怪我も?」

「そうですね。変貌が始まる前は、さほど怪我をしていなかったので」


 肯定の言葉にどよめきが大きくなり、レイアさんがその時の怪我の具合を説明したらさらに大きくなった。

 しかし、改めて聞くと本当によく生きてたな。

 もう今年の幸運を全部使いきった気がする。


「それだけの力があるとなれば危険です。最低でも一ヶ月は動かないのなら、今のうちに叩くべきかと!」


 近衛兵の言い分は間違っていない。

 動かない今だからこそ、あれを倒せる最大のチャンスだ。

 うん? だけどそれだったら、どうして精霊王は自分の下へ来いって伝えてきたんだろう。

 今のうちに倒せでも、あれのことを伝えろでもなく、何でわざわざ自分の下へ来るよう精霊に伝えさせたんだ?


「落ち着いてください。ジルグ君、一つ確認したい」


 ノワール伯父さん? なんだろう。


「なんですか?」

「精霊とやらは今のうちに倒せ、とは言っていなかったんだね?」

「はい。俺も今、それが気になってきて……」

「ふむ……だとすると」


 何かに気づいたのか?

 今のやり取りの中で気づくようなことってあるか?


「ノワール。どうかしたのか?」

「ひょっとすると、現状の正体不明生命体へ攻撃しても無意味かもしれません」


 えっ? どういうことだ。

 周りも訳が分からない様子だし、ゼインさんもそんな感じだ。


「先ほどそちらの近衛兵の方が言ったように、正体不明生命体は危険であり今が倒す絶好の機会です。なのに何故、精霊とやらは今のうちに倒せと伝えず、出て来るまでの期間を告げたのでしょうか」


 言われてみれば……どうしてだろう。


「これは私の推測なのですが、現状の奴へ攻撃しても無意味だから、あれが外へ出るのを待てという意味ではないでしょうか」


 ノワール伯父さんの推測に誰もがざわめく。

 でも、そういう考え方をするのも分かる。

 今が倒す絶好の機会なのに倒せと伝えず、最低でも一ヶ月はそのままだってことと、精霊王が呼んでいることしか伝えられなかった。

 それは現状の奴への攻撃は無意味だと言いたいのか、はたまた精霊王の下へ行かなくちゃ倒す手段が無いとも取れる。

 くそっ、なんでこんなことに気づかなかったんだ。


「貴殿の推測にも一理あるが、奴が出て来るまでの間になんとかしろと伝えた、とも取れるのでは?」

「確かにそうとも取れますが、最悪のケースは考えた方が良いかと」

「もしもノワールの推測が当たってしまうと、そいつが野に放たれないと倒せないということになるな……」


 難しい表情をしたゼインさんの発言で、室内は沈黙に包まれた。

 できればそうあってほしくない。

 あそこから出てきたあいつが、どれだけの力を持っているのか予想がつかない。

 対話によるコミュニケーションが取れるかも分からないし、そもそも敵対する意思の有無さえも不明だ。

 全く予想ができないから、誰も意見を出せない。

 そんな中でガルア基地の大隊長が意見を出した。


「何にしても、我々には最低でも一ヶ月は猶予があります。どのような対応をするにしても、調査なり観察なりをしてからでも遅くないのでは? この場で早急に決めるには、情報が足りません」


 要するにこの場では結論を出さず、様子を見ようってことか。

 消極的な提案だけど他に案は出ないし、情報収集は必要だからってことで大隊長の意見が採用された。

 今後は正体不明生命体の観察、王都の状況、他の王族が安否も含めて情報収集を行い、連絡を密に取りつつ対策を練ることで決定。

 エルマ姫とアルス殿下はベリアス辺境伯家に滞在して、近衛兵達は離れの方に住みつつ交代で二人を護衛するようだ。

 その間の生活費は全部辺境伯家持ちかと思いきや、長期間の滞在を見越して陛下が生活費を持たせてくれていた。

 渡された金銭を確認したゼインさんは曰く、お二人どころか近衛兵達を一年は養える額らしい。

 詳細な額は聞くのが怖いから、聞かずにおいた。

 会議はこれで終了して退室していく中、ノワール伯父さんが声を掛けてきた。


「ご苦労だった、ジルグ。しかし災難だな、まさかこんなことになろうとは」

「あんなの誰も予想できないって。魔物か盗賊との遭遇ならともかく、予知系のスキルでもないとあんなのと遭遇するなんて思わないって」

「違いない。一報が届いた時は驚いたぞ」


 驚かない方が無理だって。

 

「ユイとルウも心配していたぞ。早く帰って顔を見せてやれ」

「分かった。伯父さんは?」

「しばらくこっちにいることになりそうだから、皆にはそう伝えておいてくれ」

「ん、了解」


 あっ、そうだ。


「伯父さん、ちょっといいかな。話したいことがあるんだ」

「話したいこと?」

「できれば端の方で内々に」

「分かった。お館様、少々失礼します」


 ゼインさんに一言告げたノワール伯父さんと部屋の隅へ行き、小声で精霊達から精霊王の下へ来るように言われたこと、そこへ行くための手段が幸運にも揃っていることを伝える。


「そんなことがあったのか。しかし、何故会議の場で言わなかった」

「呼ばれたのは俺とレギアなんだ。ロシェリ達は行き来の都合上、一緒に行くことになるんだけど、あの場でこれを伝えたら絶対に同行者続出だろ?」


 必要以上に同行者を連れて行って、機嫌でも損ねられたら困る。

 何の用事で呼ばれたのかは不明だけど、不興を買ったらその用事すら伝えられず帰されてしまうかもしれない。

 その点も伝えたら、納得したように頷いてくれた。


「確かにな。少なくとも騎士団と近衛からは、何名かが同行を強要しただろうな」

「だから言わなかったんだよ。でも、伯父さんにだけは伝えておいた方がいいかなって思って」


 そう告げると一瞬驚かれた後に笑みを向けられた。


「どうかした?」

「最初は警戒していた私にだけ、こんな相談をしてくれたのが驚いたのと同時に嬉しいのさ」


 言われてみれば、そうだな。

 元実家のこともあって、最初は肉親だと分かっても警戒していた。

 気持ちの問題だからそう簡単には解決しないとはいえ、ノワール伯父さんには伝えようと思ったのは確かだ。


「分かった、行って来い」

「ありがとう」

「気にするな。ただし、この事はお館様には伝えておくぞ」


 それはこう、立場的なものからかな?


「……どうして?」

「私の立場もあるが、お館様だけでも知っていれば不在中に君を呼ぶように言われても、なんとでも言い訳ができるからだ」


 ああそうか。

 今回の会議への参加と同じ理由で、今後も呼び出されるかもしれないもんな。


「安心しろ。お館様には内密にするよう伝えておく」

「そうしてくれると助かるよ」

「ただ、出発は明日以降にしてくれ。でないとユイとルウが拗ねて泣く」

「分かってるって。じゃあ、後はお願い」

「任されよう」


 これにてノワール伯父さんとの相談は終了。

 こっちを見て待っていたゼインさんに一礼して退室し、早足でアトロシアス家へ直行。

 門番と言葉を交わして敷地へ入ると庭で寛ぐ従魔達の姿があったから、ロシェリ達はもう帰ってきているんだろう。

 ということは今頃、ロシェリ達やリアン従姉さんが奥さん達と旅路の事を――。


「「おーにーいーさーまー!」」

「ごるっ、ばぁっ!?」


 状況説明しよう。

 完全に油断して玄関の扉を開けた瞬間、腹部へ凄い衝撃が二つ同時に叩き込まれて背中から倒れた。

 衝撃の原因たる従妹コンビことユイとルウは、心配そうな表情で両手と上着の袖を捲って両腕を確認し、次いでズボンの裾を上げて両脚を確認し、最後には上着を捲って二人で腹を確認していく。

 いや、一体これなんだ?


「ユイ~」

「ルウ!」

「「ジルグお兄様が無事で良かったー!」」


 いやいやいや、何安心しきった表情でハイタッチしてんの。

 無事かどうかを確かめるのに、どうして両手足と腹を調べる必要があるんだ。

 呆気に取られていると、苦笑いしたリズがやって来て二人へ声を掛ける。


「ほら、ユイちゃんルウちゃん。ジルグ君が起きれないから、どいてあげて」

「「あっ、ごめんなさい。ジルグお兄様」」


 謝りながら従妹コンビがどいたから上半身を起こすと、後から来たアリルが手を差し出してくれた。


「大丈夫? 頭打ってない?」

「ああ、大丈夫だ。で、なんでこんなことに?」


 手を借りて立ち上がると、息を切らしたロシェリが遅れて姿を現す。


「は、速いよ、皆……」


 いや、ロシェリが遅いだけだから。

 体力と俊敏の数値、年下のユイとルウより低いからな。

 十歳と十一歳に負けてるんだぞ。


「簡単な話だよ。ジルグ君が怪我した話をして、それがどんな怪我だったのか追及されて、つい喋っちゃって」

「私が、治したって言っても……凄く心配、してて……」

「不安そうに窓の外を見ながら帰ってくるのを待っていて、姿を見た途端に駆け出して突撃ってわけ」


 そういうことか。

 だから、ほぼ全身をくまなく調べられたのか。


「無事で良かったです! 凄い怪我をしたって聞いて、とても不安でした!」

「治したって言われても~、凄く心配だったの~」

「そっか。心配させてごめんな」


 心配してくれていた従妹コンビの頭を撫でてやると、まるでスライムのようにふにゃりと表情が緩んだ。

 なんだろう、そのふにゃりと緩んだ頬を凄く引っ張ってみたい。

 だけど可愛い従妹コンビにそんなことはしない。

 耐えろ、俺。


「ジルグ君、まだ最大の難関が残っているよ」


 最大の難関? なんだそれ。


「奥さん達も不安そうにしてたのよ」

「特に、ユアンリさん、泣きそうだった」


 あ~、そっちか。

 しゃあない、腹を括って行きますか。

 従妹コンビに手を繋がれて連れて行かれた一室で、無事な姿を見たユアンリ祖母ちゃんに泣かれ、奥さん一同から無事だったことに安堵され、最後に無茶をするなと正座で説教された。

 やめろユイ、ルウ、痺れる足を突くな。

 アリルとリズも混ざるな!


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