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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
75/116

詳細不明


 一発逆転を狙っての種族入れ替えだった。

 あいつが過ごした膨大な時間は、人間が生きていられる年月を越えている。

 だから人間にすれば肉体が年月に耐えられず死ぬか、せいぜいアンデッド化する程度だと思っていた。

 操っていたゼオンが精霊になったとしても、奴には何かに憑依するスキルが無いからレギアの力を借りれば倒せると思っていた。

 でもその思惑は完全に外れた。正に予想外の事態だ。


「cmcgrxfmgmtmbnvs/a;nbm,gcmvvssrrmg,ttcmclk!」


 叫んでいるあいつの声は言葉になっているものの、全くの意味不明だ。

 体の方も一部が膨らんでは戻りを別々の箇所で繰り返し、角や翼が生えたかと思ったら引っ込み、二倍の大きさになったかと思ったら半分の大きさになって結局元に戻りと、様々な変化が起きてその度に苦しむ様子と声を上げている。


「おいレギア、あれ何だよ」

「俺様が知るか! テメェで調べろ!」


 分かったよ。「完全解析」!




 ■◇|◎凹凸☆ ?!% 性別:&#@


 状態:”>、\


 体力 @%=>_ 魔力 #<>)  俊敏 ¥”*} 知力 :*’&

 器用 $!~*  筋力 +◆☆;」 耐久 <&{) 耐性 「)+(%¥

 抵抗 /-#!  運 ¥|?、。


 スキル

 guug,jiirzf LV??? ,cerqdripn LV!!!

 iyvvtitxz LV&&&  iguhmnntu LV###

 qtryusdalbg LV\\\ fdvuyrplh LV$$$


 閲覧可能情報

 身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求




 なんじゃこりゃあっ!?

 全然読めないぞ、何だこの表示されている文字は。

 閲覧可能情報も……同じか。意味不明の文字が並んでいるだけで全く読めない。


「駄目だ、全くの意味不明だ。何なのか分からない!」

「それでも完全の名が付いたスキルか! 完全の部分を消しちまえ!」


 ちくしょう、レギアのくせに正論過ぎて反論できねぇ。

 でもどうする。スキルや能力どころか、種族さえも分からないから対抗手段が思い浮かばない。

 いっそ元に戻すか?

 いや、駄目だ。「完全解析」に二人分の表示がされない。

 理由は分からないけど、ゼオンとデルスは混じり合いつつあると見ていい。だからこんな表示になっているのか?

 この後はいったいどうなるんだ?


「おい! 考えている暇があったら、さっさとあれを始末しろ! 何か分からねぇが、あれはヤバい!」

「っ、分かってる!」


 そうだ、こんなことを考えている場合じゃない。早く倒さないと。

 エフェクトエクステンドで強化に使った魔法はまだ効果を発揮しているし、「逆境」でより力は増している。

 後は残った僅かな魔力を全て使い切るつもりで……。


「アクアエンチャント解除、フレアエンチャント!」


 「灼熱」を使いつつ、まだ継続しているアクアエンチャントから「灼熱」と相性の良いフレアエンチャントに変更。

 魔力の急激な消費による疲労感もだいぶ収まって、今なら体も動く。


「っああぁぁっ!」


 残った力を振り絞って奴の右側面から接近し、この一撃に全てを賭けるつもりで気合いの声と共にハルバートを振るう。

 だけど首に当たった刃はとても硬い物とぶつかったかのようにビクともせず、どれだけ力を入れても刃は食い込みもしない。

 「灼熱」とフレアエンチャントによる熱も炎も効いている様子も無い。

 自身の変化に苦しんでいるそいつは俺を気にも留めずに苦しみ続けているかと思いきや、顔を向けてきた。

 瞬間、とても嫌な予感がして後ろへ跳ぶ。


「ufgvmrvvzjfg..p.frygrrbg,rrvvnse!」


 意味不明の叫びの直後、右腕の肩から指先までが三倍くらいに肥大化して振るわれ、それの指が数本直撃した。

 当たったのは指なのに俺の体は凄い衝撃に襲われ、真横へ吹っ飛ばされた。


「だあぁぁぁぁっ!?」


 痛い痛い痛い痛い痛い!

 指で払われただけなのに、なんでこんなに痛いんだ、なんでこんなに吹っ飛ぶんだ、どれだけ地面を跳ねて転がれば止まるんだぁっ!


「ぶあぁあっ!」


 窪みか何かに引っかかって大きく跳ね、地面に叩きつけられて数回転がり、うつ伏せ状態でやっと止まった……。

 体中が痛い。意識が飛びそうだけど痛みで意識が引き戻される。

 口の中が鉄の味で一杯になっていて、呼吸は満足にできない。

 少し体を動かすだけでも激痛が走る。

 それでも少しずつ顔を動かして状態を確認する。

 レギア憑きのハルバートは手放していて、右の籠手と脛当ては残っているけど左の籠手と革鎧は完全に壊れて、転がって来た方に破片が散らばっている。

 あっちこっち血だらけで右脚は変な方向に曲がっていて、左腕は折れた骨が飛び出ている。

 脇腹には石の破片まで刺さってるし、右手の指は今にも取れそうだ。

 これ、どうすればいいんだよ……。


「おい、生きてるか!」


 憑依を解いたのか、レギアが飛んできた。


「なんとか……」

「だったら逃げるぞ! とても敵いっこねぇ!」

「お前……俺のこのザマを見て言えよ……」


 こんな状態じゃ、逃げたくても満足に動くことすらできないって。


「それくらい、意地と気合いと根性でなんとかしやがれ! 奴はまだあの調子だ、逃げるにしても今しかねぇんだよ!」


 ここで精神論をかますか、お前。

 でも、あいつがまだ不安定なのは間違いない。

 俺をぶっ飛ばした腕は元に戻って、今度は左脚がやせ細り、尻尾が生え、左腕が細かく分裂しそうになって、そのどれもがすぐに戻ったり引っ込んだり治ったりしている。


「オラッ、さっさと逃げるぞ!」

「無茶、言うな……ぐっ」


 こんな痛み、耐えきれるか。

 這って逃げることすらできない。

 ちょっと動いただけで激痛に襲われて、息苦しい咳と共に少し吐血する。

 ちくしょう、駄目か……。


「gtxt,vbtbh,ryvtcccbcn!」


 またあいつの叫びが聞こえたと思ったら、今度は衝撃波のようなものが襲ってきた。


「ぐっがががっ!」


 まっ、たかっ、これっ!

 うつ伏せだからそこまで影響を受けなかったけど、それでも激痛が走ったし数回地面を転がって仰向けになった。


「今度は……なんだよ……」


 少しずつ顔を動かしてあいつの方を見ると、空に向かって意味不明の言葉を何度も叫んでいたかと思ったら、一際大きな声を上げて輝きだした。

 また衝撃波が来るのかと思ったら、今回は眩しいだけで衝撃波は来ない。

 やがて光が消えると、そこには無色透明な縦長で丸みのある殻の中で膝を抱えて丸くなっているあいつがいた。

 ジッとしていて動かないから、とりあえずは大丈夫そうだ。


「あれは……なんだ?」

「知るか。それよりも、今が逃げるチャンス……うん?」

「どうした」

「いや、周りにいる精霊共が」


 周りにいる精霊?

 おっ、なんか地面や植物から小さな光の玉がいくつも浮いてきた。

 これが精霊か?

 そういえばレギアのことを知ろうと精霊について調べていた時に、自然そのものが精霊って書かれている本を見たっけ。


『伝言』

『精霊王様からの伝言』

「ちっ。奴からだと」


 精霊王って、名前からして精霊の王なんだろうけど、いきなり何の用だ。


『そこの人間』

『それと精霊の理を外れた精霊』

『世界樹へ来い』

『行き方はそいつが知っている』


 世界樹? なんだそれ、聞いたことが無いぞ。


「おいテメェら、アレはどうすんだ! 放っておくってのか!」

『問題無い』

『少なくとも一月はあのまま』

『だから急げ』

『猶予は長くない』


 そう言い残して精霊とやらは消えた。

 あいつは一月ぐらいなら放っておいていいと言われても、本当に大丈夫なのか? 

 精霊王はあいつが何で、どんな状態なのか分かっているのか?

 この場で答えを知っているのはレギアだけだ。


「レギア。精霊王ってのが言うことは信用できるのか?」

「……ああ。他の精霊共はクソヤローばかりだが、奴は信用できる」

「お前がそんなことを言うなんて、珍しいな」

「余計なお世話だ。それよりさっさと世界樹に行くぞ」

「いやいや、その前に俺をなんとかしろよ」


 あいつは放置していいなら放置しておくとして、問題はこの体だ。

 正直言って、めっちゃ痛い。

 叫んで喚いて暴れていいなら、今すぐできる。

 いや、訂正する。動けないから暴れるのは無理だし、暴れたら余計に悪化するから暴れるのは無しで。


「気合いでなんとかしやがれ!」

「どうしてそう、精神論で押し通そうとするかな。まあいい、ロシェリ達に伝えて迎えをよこしてくれないか?」

「テメェ、俺様に使い走りさせようってのか」

「仕方ないだろ、他にいないんだから」

「ちっ。しょうがねえ……おっ。どうやらその必要は無いみたいだな」


 はっ? どういう意味だ?

 レギアが同じ方向をジッと見ているから、痛みを堪えながらそっちへ顔を向ける。

 すると、遠くから何かが跳ねながら近づいて来るのが見えた。


「あれは……」


 あの跳ね方は見覚えがある。いや、見覚えがありすぎる。

 だってあの跳ね方をする押しかけ従魔を、いつも近くで見ているんだからな。

 その押しかけ従魔のコンゴウカンガルーは、俺を見つけると速度を上げて近づいてきた。


「お前、なんで来たんだよ」


 近くに止まったから声を掛けると、生きているのが分かったからか鳴き声を上げながら嬉しそうに垂直跳びをしだした。


「来たのはお前だけか?」


 飛び跳ねるのを止めたコンゴウカンガルーへ問いかけると、肯定するように何回も頷く。


「どうして、来たんだ?」


 次の問いかけに、鳴き声を上げながら自分と俺を指差し、次いで額の従魔の刻印を指差す。

 えぇっと、これは……。


「お前は俺の従魔だから、心配して引き返して来たのか?」


 ちゃんと伝わったからか、凄く嬉しそうに何度も頷いてる。


「……ロシェリ達はそのことを?」


 はい、そこの筋肉カンガルーさん、目を逸らさない。

 筋肉を隆起させて強調させたポーズをして誤魔化そうとしない。


「まったく……。でもまあ、動けない以上は助かったよ。後で一緒に皆へ謝ろうな」


 ちょっと罰が悪そうに頷くけど、俺はご覧の有様だしコンゴウカンガルーも勝手に引き返したんだから仕方ない。

 ロシェリ達と合流したら、揃って怒られよう。

 だけどその前にコンゴウカンガルーにハルバートを回収してもらって、ついでに防具の破片を集められるだけ集めてもらった。

 それらは僅かに残った魔力で次元収納を開いて、そこへ入れておく。


「んで? お前、どうやって動く気だ?」

「どうやってって、体はこんなだからコンゴウカンガルーに運んでもらうしかないだろ」

「ほう? そりゃあ見ものだな」


 いやらしい笑みを浮かべたレギアの言葉の意味が、この時の俺には分からなかった。

 それを知ったのは、抱えてもらって移動を開始した直後だった。


「いだだだだだだだだだっ! 跳ねるな、止まれ、下ろせっ!」


 俺の悲痛な叫びを聞いてコンゴウカンガルーは止まり、抱えていた俺を下ろした。

 なるほど、こういうことか。

 抱えて持ち上げるまではよかった。コンゴウカンガルーの体は俺より少し小さいものの、筋肉は伊達じゃないから俺を抱えるくらいは訳がない。

 だけどこいつは移動で飛び跳ねる。

 それが全身の傷に響いてさっきの絶叫に繋がった。

 しかもさっきの次元収納で完全に魔力が尽きて気分が悪いから、酔ったような感じになって気持ち悪い。


「ハッハッハッ。なかなかの見ものだったぜ」


 この野郎、気づいていて黙ってたな。

 オロオロしているコンゴウカンガルーに非は無い、俺が気づかなかっただけだ。

 さて、どうしよう。

 やっぱりロシェリ達を呼んで、安全に運べそうなメガトンアルマジロで運んでもらおうかと考えていたら、肩を落としていたコンゴウカンガルーに変化が起きた。

 俯いたまま唸り声を上げて震えだしたかと思ったら、体毛の色は濃くなり、体は二メートルくらいに大きくなり、筋肉の量が増えてより逞しくなっていく。

 さらに両腕の上下から新たに腕が生え、六本腕になると変化は治まった。

 胸を張って雄雄しい雄叫びを上げるこいつはなんだ?


「おう、こいつはアシュラカンガルーじゃねぇか」


 アシュラカンガルーねぇ。

 生憎とまだ魔力が全然回復していないから、「完全解析」で能力を見ることはできない。

 それに今優先すべきはロシェリ達との合流だ。

 なんとかして傷が痛まないように移動する方法は……って、何で六本腕で俺をまた抱え上げるんだ!

 鼻息を荒くするアシュラカンガルーの表情からは、腕が増えたから安定するはずだって主張が窺える。多分。

 ていうか、進化して調子に乗ってるだろ、お前!

 確かに腕が増えれば抱える時に安定はするだろうけど、結局飛び跳ねるんだから傷に響くことに変わりは無いんであって……ああぁぁぁぁぁぁぁっ!

 爆笑しながら付いてきているレギア、絶対に許さねぇぞおぉぉぉぉっ!




 ****




 あの場から逃げ出した私と姉上は、姫様と殿下と共に護衛を伴ってバーナー伯爵領との境にある関所へ駆け込み、そこにいる騎士団へ事情を説明した。

 護衛のためシェインの町から同行してくれている、騎士団員のレイア殿がいてくれたお陰で話はスムーズに伝わり、一時的に休ませてもらえる事ことなった。

 その間に近隣へ連絡を飛ばし、急ぎ救援を呼ぶそうだ。

 ずっと走りっぱなしだった馬と緊張しっぱなしだった護衛達が安堵する中、一部では騒ぎが起きていた。


「放して、行くの、ジルグ君のとこ、行くのぉ」

「落ち着きなさいって、足手まといになるって分かってるでしょ!」


 騒いでいるのはジルグ殿の仲間で恋仲だというロシェリとかいう少女。

 あの場に戻ると言い張って駆け出そうとするのを、仲間と従魔に止められている。


「でも、でも、さっき空が、ドカンドカンって」

「あれは僕も驚いたし、大丈夫かなって思ったけど、あんな場所に行く方が危険だよ」


 確かにあれは驚いた。どうにか関所へ辿り着いた直後に、空が何度も爆発したのだから。

 驚いて外を見たら、遠くの空に煙の塊が見えて爆音が響くたびに煙が広がっていくのが見え、馬が驚いて暴走しそうになったからよく覚えている。


「気持ちは分かるけど、絶対に駄目。ただでさえ、あの子が勝手に戻っちゃったんだから」


 あの子……ああ、彼の従魔のコンゴウカンガルーか。

 主人が心配になったのか、途中で勝手に引き返してしまったんだ。

 止めている二人も従魔とロシェリ殿と同じ気持ちだろうに、それを堪えてロシェリ殿を止めている。

 顔見知りだという、騎士団のレイア殿とライラ殿も不安そうにジルグ殿がいる方を何度も見ていた。

 私だって不安だ。彼には相談にのってもらったし、姉上と姫様の傍についているリアン殿が不安そうにしている。

 彼女達のためにも、どうか無事に帰ってきてほしい。

 そう願いながら、全員が用意された大部屋で救援が来るまでしばらく休んでいると、関所に詰めている騎士団員が駆け込んできた。


「休憩中、申し訳ありません。一人残ったとおっしゃっていた少年が、魔物に運ばれてこっちへ接近中です」


 それを聞いてロシェリ殿達が一目散に部屋を飛び出し、それに私達も続く。

 魔物に運ばれてということは、確実に負傷している。

 死んでは……いないよな。いやいや、死んでいたらあの化け物が先に来ているだろう。ということは、少なくとも死んではいないはず。

 というか、ひょっとしてあんな化け物に勝ったのか?

 色々と考えながら外へ出ると、何かが飛び跳ねながらこっちへ近づいて来るのが見えた。

 よく見えないな。何かを抱えているようには見えるが、何かまでは分からない。


「遠見筒で見たところ、報告にあった少年です」


 ああ、遠見筒で見たのか。どうりで肉眼では見えないと思った。


「ライラ、あなたのスキルで見えない?」

「あれぐらいの距離、楽勝です!」


 レイア殿の指示でライラ殿が胸を叩いて目を凝らす。

 魔法を唱えていないから、遠くの様子を見る先天的スキルを持っているのだろう。


「あっ、あれはジルグさんです、間違いありません! 抱えているのは、なんかちょっと見た目が変わってますけど従魔のカンガルーさんです!」


 それを聞いた彼の仲間達は心の底から安堵した表情を見せる。

 私達も彼を一人置いていってしまった罪悪感があるから、姫様も殿下も姉上も近衛兵達も安堵している。


「でも、あれ? えっ、凄い、大怪我してます。ていうか、死んでませんよね?」


 笑みを浮かべていた表情が引きつってそう告げた瞬間、安堵していた空気は凍りついた。

 真っ先に飛び出したのはロシェリ殿、それに僅かに遅れてアリル殿とリズメル殿、さらに彼女達の従魔が駆けだす。

 私達もそれに続き、倒れそうになって途中からマキシマムガゼルに担がれたロシェリ殿達を追う。

 接近していたのは見た目こそ少し……どころかだいぶ変わっていたが、あのカンガルーだった。

 だがそれ以上に、抱えていたジルグ殿の状態に誰もが絶句して、真っ先に駆けだした彼女達は崩れ落ちている。


「嘘……」

「えっ、まさか……」

「そんな……」


 ゆっくりと下ろされた彼の姿は凄惨の一言だった。

 頑丈そうだった防具はほとんど残っておらず、着衣はボロボロ。

 全身は血だらけ、右脚はありえない曲がり方をしていて、左腕は折れた骨が皮膚を突き破って飛び出している。

 さらに左の脇腹には石の破片が刺さり、右手の指が何本か千切れそうなのが辛うじて繋がっている。


「うぶっ、おえぇぇぇっ」


 彼の凄惨な姿に殿下が嘔吐している。

 少し離れた所では、姉上と姫様も同じ状態だ。

 ……駄目だ、私も堪えるのはもう限界だ。


「うえぇっ」


 私達をあの場から逃がしてくれた恩人への態度ではないのは分かっているが、これほど凄惨な光景は見たことがないから勘弁してもらいたい。


「おいテメェら、何勝手に諦めてやがる。まだ死んでねぇから、さっさと治せ」


 えっ、生きているのか?


「……息があります、生きています!」


 口元に手を当てたライア殿が叫ぶ。

 崩れ落ちていたロシェリ殿が這うように彼の傍へ寄り、胸元に耳を当てて心臓の音を聞く。


「いき、生きて、生きてっ、る!」

「分かったから、早く治癒魔法を!」

「でないと本当に死んじゃうから!」

「う、うん! グレイス、ヒーリング」


 治癒魔法の光に包まれたジルグ殿の傷が癒えていく。

 死んでいたら治癒魔法は効かないから、彼が生きているのは確かだろう。

 ならばなおのこと、先ほどの嘔吐は失礼だったな。彼が目覚めたら、あの場に一人で残してしまった件も含めて謝罪しなければ。

 どうか、早く目覚めてくれ。


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