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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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切り札が絶対とは限らない


 最初から全開の速度で側面へ回り込み、首を狙ってハルバートを振るう。

 だけとゼオンに憑依して操っているデルスって奴は、首元へ迫る斧部分を魔力で覆った手で軽々と受け止めた。


「エフェクトエクステンド? 君、越えているの?」


 前にレギアが言ったのと同じようなことを言ってやがる。

 答えてやる義理は無いから即座に引き、今度は頭や心臓を狙って何度も突く。

 だけど何事も無いかのように、手で捌かれるか避けられている。しかも一歩も動かずその場に立ったままだ。


「なるほど。レギアが気に入る訳、おっ?」


 惜しい。「飛槍術」で突きを飛ばしたのに、手で側面を叩かれて軌道が逸れたから頬を掠めただけか。

 だったら連続で「飛槍術」だ。


「おっ、おっ、おぉっ!? なるほどね、二つも越えていたらレギアが気に入るのも仕方ないか」


 この野郎! 全部避けてやがる!


「アッハッハッ、面白くなってきたなぁっ! パワーライズ! ハードボディ!」

「どこが面白いんだよ、この野郎!」


 しかもさり気なく自己強化魔法使ってるし。

 でも、あいつが余裕をこいている今のうちに「完全解析」だ。




 ライフスピリット 精霊 憑依型 性別無し


 名前:デルス


 状態:健康


 体力 ∞     魔力18923 俊敏392 知力11176

 器用 0     筋力 0     耐久 0   耐性19028

 抵抗16848 運444


 スキル【生命憑依時憑依対象へ共有可】

 闇耐性LV9 光耐性LV10 挑発LV8 分裂LV1


 種族固有スキル

 生命憑依 物理無効【生命憑依時無効】


 生命憑依時発動スキル

 憑依対象身体能力強化LV10【憑依中のみ成長】

 憑依対象身体機能強化LV9【憑依中のみ成長】

 憑依対象全状態異常耐性LV8【憑依中のみ成長】

 憑依対象治癒能力強化LV8【憑依中のみ成長】

 魔力爪LV7【憑依中のみ成長】

 魔斬LV6【憑依中のみ成長】

 硬化LV6【憑依中のみ成長】

 憑依対象支配操作


 閲覧可能情報

 身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求




 能力の数値はレギアと大体同じくらいか。

 つか、「分裂」ってスキルがあるのかよ!

 こんなのが複数になったら、シャレにならねえよ!


「ハッハァッ! いいねいいね。一方的な虐殺もいいけど、たまにはこういう勝負もしないとね!」


 俺は味変えの香辛料か口直しの一品か!

 て、それどころじゃない。スキルを入れ替えて弱体化させないと。

 種族固有スキルはどうせ入れ替えられないから、それ以外だ。

 憑依対象とか付いているのは……駄目だ、選ぶことはできるけど俺でもレギアでもスキルの入れ替えができない。


「ほらほら、どうしたの! 動きが鈍ってるよ、もう疲れたの?」


 ああくそっ、スキルの入れ替えをしながらこいつの相手するのは難しい。

 入れ替えを中断して戦闘に集中し、押されていた打ち合いをどうにか拮抗まで持って行くと笑みが明るくなった。


「アハハッ、そうこなくっちゃ! だったらもっと楽しめるかな?」


 次の瞬間に両手を覆う魔力が真っ赤になって炎を纏った。


「うわっちっ! なんだこりゃ!?」


 武器越しに熱が伝わったのかレギアが叫んだ。

 これ、ゼオンの「灼熱」スキルじゃないか。

 憑依している奴の先天的スキルまで使えるのかよ。


「おい熱いぞ、なんとかしろ!」

「分かってる! アクアエンチャント!」


 これまでに使ったフレアエンチャント、エアロエンチャントの水魔法版を使ってハルバートに水を纏わせる。


「おう、ちったぁマシになったぞ」

「そりゃどうも!」


 とはいえ、アクアエンチャントはあまり地上戦向きじゃない。

 火魔法への対処や防御力の向上には繋がるけど、これの最大の利点は水中でも呼吸ができること。

 だけど近くには池も湖も川も無い。

 でもそんなことを気にしている場合じゃない。「灼熱」に対抗できるのは、これしかない。


「へえ、そんなのも使えるんだ。やっぱり君は楽しめるね」


 こっちは全然楽しんでねぇよ。

 攻撃は速くて重いし、一合一合を交わす度に「灼熱」とアクアエンチャントの影響か小さな破裂音して水蒸気が上がってる。

 最初から全力全開だから持久戦は避けたいけど、スキルの入れ替えをする隙もないし、「飛槍術」も初見で対処された。

 だとしたら、次に使えて一撃で確実にしとめられるのは……。


「隙ありぃ!」

「ぐぅっ!?」


 次の手を考えていた隙を突かれて膝蹴りを受けた。

 辛うじて柄で防いだものの、凄い衝撃で後ろへ吹っ飛んで地面に叩きつけられ、数回地面を弾みながら転がってうつ伏せに倒れる。


「おい、無事か」

「なんとか……な」


 レギアの呼びかけに応えて顔を上げる。

 ハードボディを使っているお陰で骨も内臓も無事だけど、あっちこっち痛む。

 「逆境」スキルで力が湧いてくるのを感じながら起き上がろうとしたら、近衛兵二人が駆け抜けて前へ出た。


「援護するぞ少年! アクアアロー!」

「くらえ、シャインレイン!」


 そうだ、いきなりデルスが現れたから頭から飛んでいたけど、ここには姫と殿下の護衛に付いていた近衛兵や騎士団員、それに俺の仲間達が。


「楽しく勝負してるんだから、雑魚が邪魔しないでよ!」


 援護の魔法が魔力の爪であっさり切り裂かれ、直後に援護してくれた近衛兵二人が魔力の爪の餌食になった。

 あっという間に切り裂かれた二人から鮮血が噴き出る光景に、エルマ姫やアルス王子、アルトーラにアルスの悲鳴が聞こえる。


「まったくもう。邪魔されないように、まずはあいつらからやっちゃおうかな」


 させるかよ!

 立ち上がりながら「飛槍術」での突きを繰り出す。


「おっと危ない」


 くそっ、避けられたか。

 構え直して対峙していると、また別の近衛兵達が横を抜いて向かって行った。

 バカ、力の差が分からないのか!


「喰らえ!」

「これで終わりだ!」

「ふぅん!」


 それぞれの先天的スキルなのか、一人は拳を巨大化させて殴り掛かり、一人は魔力の腕を四本も作って合計六本の剣で斬りかかり、残りの一人は何故か剣の柄だけを振り抜こうとしている。


「ああもう、邪魔だって言ってんだろ!」


 癇癪を起した子供の用に喚くデルスによって、三人はあっという間に返り討ちにされて血の雨を撒き散らす肉塊へと変えられた。

 巨大化した拳は無残に切り裂かれ、六本の剣は全て折られ、柄しかなかったはずの剣には刀身が浮かんでくる。


「先天的スキルの「巨大化」に「魔腕まわん」に「無色透明化」ってところかな。どれも前に見たことがあるよ」


 返り血を手の甲で拭ってから舐め取るデルスの顔は無表情で、心底つまらなさそうだ。


「だ、駄目だ! 姫様と殿下を連れて逃げろ!」

「アルトーラ様とディラス様も、お早く!」


 後ろでこの場から逃げようとするのが分かる音や声が聞こえる。

 そうだ、早く逃げてくれ。


「えぇぇぇ。せっかくだから、逃がさないよ!」


 両手を覆う魔力が大きくなって、爪が太く長くなった。

 そうはせるか!

 デルスが動く前に接近して攻撃を仕掛ける。

 だけどそれは防がれ、そこからまた打ち合いに入った。


「ジルグ、君!」

「私達は……」

「行け!」


 ロシェリ達や従魔達が残ってなんとかなる相手じゃない。

 だったら気兼ねなくできるよう、離れてくれた方がやり易い。


「で、でも、君を残して僕達だけ逃げるなんて」

「いいから行け! こっちはなんとかするから!」


 正直なところ、本当になんとかできるかは分からないけど、今はこうするしかない。


「で、でも……また、ジルグ君に、頼って……」

「そんなこと気にしてる暇があったら、さっさと行け!」


 躊躇しているロシェリに強く返す。

 頼む、そこまで余裕は無いんだ、早く行ってくれ。


「テメェら見て分かんねぇのか! 俺様とこいつ以外はいても足手纏いなんだから、さっさと消えろ!」


 レギアお前、もう少し言い方があるだろ!

 でも俺が言い辛いことを言ってくれたから、頭ごなしに怒れない。


「あああっ、もう! 分かったわよ、その代わり死んだら許さないからね!」

「くっ……ごめんね! その代わり、絶対に死なないでね!」

「待って、離して、私は残るのぉっ」


 背中越しだけど、アリルとリズが嫌がるロシェリを引っ張って行く光景が浮かぶ。

 従魔達の鳴き声が聞こえた後、馬や馬車が離れて行く音が耳に届く。

 そうだ、早く逃げてこいつの情報を伝えてくれ。


「あ~あ、行っちゃったか。まあいいか、君との戦いを楽しんだら追いかけて殺すんだから、ちょっと寿命が延びただけなんだし」


 こいつ……。自分が負ける事なんかこれっぽっちも考えてなんかいない、完全に俺達を見下している。

 しかもゼオンの顔でそんなことをされたから、元実家での日々を思い出す。

 もうどうでもいいと思っていた元身内への怒りが顔を出して、奥歯を噛みしめる。


「おおっ、怖い顔。何? まだ本気を隠したの? もっと僕を楽しませてくれるの?」

「うるっせぇっ!」


 ありったけの力で攻撃を弾いたら距離を取って、次の一手の準備をする。


「ホークアイ!」


 上空から辺りを見渡す視界を手に入れ、突きでの攻撃動作に入りながら奴の近くにある近衛兵の死体の一つと位置を入れ替え。

 急に俺が近くに現れたものだから奴は驚いて目を見開く。


(とった!)


 突きの軌道は完全に心臓へ向かっている。

 いくら「硬化」スキルがあるとはいえ、ここまで不意を突いた一撃なら心臓を貫ける。

 そう思っていたのに、二本の腕が割って入って防がれた。

 手応えからして右腕は貫通したけど左腕は貫通できず、念のために使っておいた「飛槍術」は左腕を貫通したものの、威力が落ちて「硬化」で強化された皮膚へ僅かに刺さる程度で終わった。


「くっ!」


 すぐにハルバートを抜いて距離を取ろうとしたら、その前に蹴飛ばされた。


「づぅっ!」


 幸いにもハルバートは抜けたし距離も取れたとはいえ、今のに反応するってどんな反応速度してんだよ。


「ふっ、ふふっ……」


 ん? なんだ?


「アハッ……。アハハハッ、アハハハハハハハハハハッ!」


 うわっ、なんかヤバい感じに笑いだした。

 ていうか両腕を貫通したのに、なんでもう傷が治りかけているんだ。

 あっ、そういえば「憑依対象治癒能力強化」ってスキルがあったんだっけ。


「初めて見たよ、今のスキル! 一瞬で接近したけど、強化系統。いや、移動動作が無かったから空間系かな。やっぱり長生きはするものだね、未知のスキルとの遭遇はいつだって胸躍るよ!」


 あいつの顔でそんなにキラキラ目を輝かせて、嬉々とした表情をするな気持ち悪い。

 というかなんだあの反応は。


「さあさあさあ! もっとそのスキル使っていいから、僕を楽しませてよ!」


 喜びながら襲って来た一撃を防いで押し返し、そこから三度目の打ち合いになる。

 なんだよこいつ、死にかけたのになんで笑って楽しもうとしてんだよ!


「ちっ、あの反応も相変わらずかよ」

「どういうことだ」


 激しい攻撃を完全には防ぎきれず、時折爪によって浅く斬られながらもどうにか致命傷を受けないように攻撃を凌ぎつつ、舌打ち混じりのレギアの呟きに尋ねる。


「奴は殺すのと同じくらい、自分へのスリルに魅入られている。命の危機なんて奴にとっちゃ、最高の楽しみでしかないんだよ」


 悪いがその考え方は、永遠に理解できない自信がある。


「どうしたのさ、さっきのを遠慮なく使いなよ!」


 言われなくとも!

 打ち合いに押されて後退したように距離を取り、背後への攻撃動作に入りながらホークアイで視界に収めている俺とデルスの位置を入れ替える。

 あいつにすれば正面から俺が急にどこかへ消えたのに対し、俺はあいつがどこにいるのか分かっているし既に攻撃動作に入っている。

 これならさすがに反応できないだろ。


「うひょうっ!」


 避けるのかよ!

 向こうが体勢を立て直している間に空振ったハルバートを持ち直し、迫る爪を防いで鍔迫り合いに持ち込む。

 なんで今のに気づいたんだ。


「甘い甘い。動作に入るのが早かったね。消えてからじゃないと、どこに出るか先読みできるよ!」


 そういうことかよ。

 確実に当てるために攻撃動作に入ってから入れ替えたのが仇になったか。

 だったら、その助言を後悔させてやる!

 鍔迫り合いから互いに距離を取った瞬間、今度は動作に入らず入れ替え。そして背後から横薙ぎ!


「ほいっと」


 今度は受け止めた!? だから、なんで分かるんだよっ!? 


「アッハッハッ。無駄だよ無駄、僕がどれだけの戦闘経験を積んでいるのか、レギアに聞いてないのかい? 初見ならともかく、二度目三度目なら察知して防ぐくらい、簡単だよ」


 聞いてねぇよ!

 ていうか、少し考えれば戦闘経験の差が圧倒的なのはすぐに分かったじゃねぇか、くそっ!

 慌ててハルバートを引いて間合いを取ったけど、あいつは攻め込んで来ずに笑顔で頷いている。どうしたんだ?


「うんうん、なるほどね。君のその力が何か分かったよ。ズバリ! 空間に干渉して二人の位置を入れ替える、そんな先天的スキルでしょ」


 ちょっと待て。たった三回しか使ってみせていないのに、もう「入れ替え」を見破ったのか?


「その表情は図星だね。簡単な推理だよ。最初のはともかく、その後の二回は必ずその武器の間合い分だけ距離を取っていたからさ。空間を瞬時に移動するだけなら、わざわざ距離を取る必要は無いでしょ? おまけに最初のやつで使った僕が殺した奴が、明らかに離れた場所へ移動しているしね」

「おおいおい、もう見破られてるじゃねぇか」


 ちっ。やっぱり最初ので決められなかったのが痛いな。

 それにまさか、あんな言動している奴にこれだけの分析力があるとは思わなかった。

 でも、得意気な表情で説明している間にスキルの入れ替えはさせてもらったぞ。

 数が増えると厄介だから「分裂」LV1をレギアの「闇耐性」LV1分と、憑依対象って表記が無い「魔斬」スキルLV6は「夜目」LV3分と「速読」の各LV2分と「暗記」LV1分を、それぞれ使って入れ替えた。


「さあて、「飛槍術」に位置を入れ替えるスキル。どっちも面白いけど、まだ何かある? あるのなら見せてよ」


 だったらお望み通り、見せてやるよ!

 「魔斬」を奪ったのは、まだ見せていない越えた力を使うためだからな!


「ウィンドカッター!」


 普通なら複数の風の刃を同時に放つところを、一枚だけデルスの上へ向けて放つ。


「え~、どこ狙ってるのさ」


 これでいいんだよ。

 上空のウィンドカッターとデルスの位置を入れ替え!

 地面スレスレに現れたウィンドカッターは地面に直撃して、デルスは少し離れた空中に出現する。


「はっ?」


 こっからじゃ表情は見えないけど、おそろくは驚いているか呆けているだろう。

 ゼオンにもデルスにも空中を移動するためのスキルは無いから、これでもう奴に回避する手段は無い。

 後はこの魔法で、「魔斬」が無いと気づいた時にはもう手遅れって状況に持ち込めばいい。

 「飛槍術」、「自己強越化魔法」に次ぐ三つ目の越えた力、「業火魔法」で!


「ガトリングエクスプロージョン!」


 親指大の炎が僅かな時間差で放たれ、空中で姿勢を整えたデルスへ向けて飛んでいく。

 あいつはそれを「魔斬」で斬ろうとしているのか爪を振るう。

 でもスキルの入れ替えで「魔斬」は失っているから斬れず、触れると同時に着弾となって爆発する。


「ぼあぁぁぁっ!」


 ちょっとだけ聞こえたあいつの悲鳴は、連続して起きる爆音によって掻き消された。

 次々に起きる爆発の威力は一発でも結構なものだけど、確実に倒すために撃ち続ける。

 空中なら周囲への被害はあまり気にしなくていいし、何より一発や二発で死ぬとは思えない。

 だからこそ魔力を注ぎ続け、可能な限りガトリングエクスプロージョンを放つ。


「おぉぉぉぉっ!」


 声を上げながら放ったのは何発か分からない。

 魔力がだいぶ無くなったから魔法を止めた頃には、巨大な煙の塊が空中に漂っていて、煙に包まれた何かが少し離れた場所へ落下した。

 煙が晴れたそこには、ボロボロになったゼオンの体がうつ伏せに倒れている。

 距離があってよく見えないけど、動く素振りは見えない。


「いくらなんでも、あれならさすがに効いただろ」

「そうだな。仮に途中であの体を捨てていても「火耐性」がなくちゃ、あれは耐えられねぇだろうよ」


 膝を着いて息を整えながらの呟きに、ハルバートに憑依したままのレギアが喋りかけてきた。


「だったら大丈夫だ。奴にもあの体にも「火耐性」のスキルは無かったし、対抗できそうな「魔斬」は入れ替えて奪っておいた」

「ハッハッハッ。そうかそうか、なら問題ねえな」

「ついでにお前にはデルスってのが持ってた「分裂」をやったからな」

「テメェ、俺様に黙って何やってくれてんだ」


 あんな戦いの中で、説明している暇なんか無いっての。

 それに下手に喋ったら気づかれるかもしれないし。


「いいだろ別に。お陰で奴が分裂して生き残る可能性も無くなったんだ」

「チッ! まあいいだろう。代わりに奴を斬らせろ」

「……死んでいてもか?」

「構うか。あの肉体だけでも斬らなきゃ、気が済まねぇんだよ」


 まあ、それくらいならいいか。

 もしも生きていたらまた暴れるかもしれないから、死亡確認はしておかないとな。

 あいつに付けられた傷の痛みを堪えて立ち上がった時、一瞬目を疑った。


「うっ、があぁぁぁっ!」


 ボロボロで血だらけになったあいつが、雄叫びのような声を上げながら立ち上がったからだ。

 嘘だろ。生きているのはともかく、なんで動けるんだよ。


「はぁ……はぁ……。やってくれたね。まさか魔法とも位置を入れ替えられる上に、「火魔法」も越えているとは思わなかったよ。おまけに何故か「魔斬」も使えなくなっているし」

「どうして、生きてるんだよ……」

「咄嗟にこの体の「灼熱」ってスキルで全身に炎を纏って、爆発の熱と威力を相殺したんだよ。それでも危なかったけどね」


 つまり疑似的な「火耐性」で耐えきったってのか。

 くそっ、こんなことなら「灼熱」のレベルを下げておくんだった。


「いやぁ、久々に命の危機を感じたよ。こんなにゾクゾクしたのは久しぶりだ。お礼に次は、君の体を使ってあげるよ。僕のスキルで治癒が働いているとはいえ、この体はもう限界が近いからね」

「おい、ヤベェぞ。早くなんとかしろ!」

「そんなこと言われても……」


 あれで決めるつもりでいたから、もう魔力はほとんど残っていない。

 体力はまだ大丈夫とはいえ、この傷だらけの体に加えて、急激な魔力の消耗で疲労感が半端じゃないからさっきまでのような戦いはできないし、逃げるのも難しそうだ。

 どうする、何か手はないか? 何かを入れ替えるか?

 でも何を入れ替える。残りの魔力からして、入れ替えられるのは三回ぐらいしかできない。

 たったそれだけの回数で、何を入れ替えればいい。 スキル? 位置?

 駄目だ、どっちを入れ替えても状況はあまり変わらない。

 他に何かないか、考えろ、何かないか!


『(これってスキル以外も入れ替えられないか?)』


 あっ……。


「さあ、もらうよ!」

「おい、ジルグ! ちぃっ!」


 これしかない!

 急げ、「完全解析」! 「入れ替え」!


「いけぇっ!」

「今さら何を……。えっ、がっ、あっ、あぁぁっ、がっ、あががががっ!」

「な、なんだあの野郎。急に」


 何をするつもりだったのか、ハルバートから飛び出していたレギアが苦しみだしたデルス入りのゼオンの様子に戸惑っている。

 危なかった。どうにか間に合ったか。


「おい、お前何かしたのか?」

「ああ、やってやったさ。あいつはもう、誰にも憑依できない」


 思い出したぜ。旅に出たばかりの頃、エルク村の宿でスキル以外の何が入れ替えられるか模索した時の事を。

 本当にできるのかは試していない、ぶっつけ本番の一か八かだったけど成功した。

 あの時に判明した、入れ替えられるもの。


『(つまり、自分の種族と性別は入れ替えられるのか)』


 入れ替えてやったぜ、憑依されているゼオンと憑依しているデルスの種族を。

 今はゼオンが精霊、そしてデルスは人間だ!

 これで奴はもう誰にも憑依できず、種族固有の「物理無効」スキル、憑依時に発動するスキルが全部意味を成さなくなった。

 なによりも奴の過ごした膨大な年月が人間の体に押しかかって来るはず。そのまま老いて死ね。仮にアンデッドになっても、さっきまでよりは戦いやすいはず。

 そう思っていた。


「―――――っ!」


 声にならない悲鳴を上げるデルス入りのゼオンの外見が変わっていく。

 中に入っているデルスが人間になって外側のゼオンが精霊になったからか、人の形をした靄のようになって人間らしい外見が消えていく。

 さあどうなる。老いて死ぬか、それともアンデッドになるか。

 だけど次の瞬間に奴は強い光と共に衝撃波を放ち、俺はそれに吹き飛ばされた。


「どっ、わっ!」


 なんとか受け身を取ったけど、顔を上げて見た奴の姿は変貌していた。

 人の形をした白い光の表面には様々な色の小さな光が蠢き、顔には目と口の形になった紺色の光。

 苦しんでいる様子は既に無く、やや前屈みで呼吸を整えると背筋を伸ばして顔を真上に向ける。


「―――――っ! ―――――っ! ―――――っ!」

「うわぁぁっ!?」

「なんだ、こりゃあっ! とても聞いてられねえぞ!」


 叫び声のように発している、声とは言い難い不快なだけの音に思わず耳を塞ぐ。

 レギアも不快感を露わにするように叫んでいる。

 死ぬでもアンデッドになるでもない。

 一体、あいつは何になったんだ?


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