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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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王都手前行き


 基地で騒動が起きた翌日、近隣の基地から救援に派遣された騎士団が到着したことで、ガルアの町は幾分か落ち着きを取り戻していた。

 ただ、バレルを乗っ取って操っていた奴が王都へ向かったかもしれないからと、領主であるゼインさんは大忙しだ。

 王都と近隣の領地へ今回の件を報せ、領内の町や村へ通達を出して警戒を促しつつ情報収集をしてと、休む暇が無い。

 とても王都まで行っている余裕は無いからって、子供達を迎えに行く予定は無しになった。

 だけど、王都は危険かもしれないから予定通り帰省はさせるらしい。

 危険な奴が向かっているかもしれない王都よりも、既に去った後のガルアの方が安全な確率は高いという判断だそうだ。

 既に今回の件を報せる使者とは別に、従士隊から護衛の部隊を編成して送っていると教えてくれた。


「おそらく王都は騒ぎになるだろうし、そういう意味でもこっちへ帰した方が安全だからな」


 忙しそうに筆を走らせながら、呼び出した俺達に説明するゼインさんはいかにも作り笑いな笑みを見せている。

 平気そうに振る舞っているけど、忙しさでだいぶキツイようだな。


「それで、俺達を呼び出したのは?」

「ああ、そうそう。その迎えの件で、君達に協力してもらいたいんだ」


 協力?


「なにぶん急ぎで編成させたから、少々心許ないんだ。機動力を重視したから人員も少ないしね」

「そこで俺達が後続として合流を?」

「そうだ。それに例の人間に憑依する奴、あいつが王都以外で暴れる可能性も否定できない。そうなった場合、似たような存在を連れた君なら対抗できると思ってね」


 なるほど、つまり本命は俺達というよりもレギアの方か。

 確かにこいつがいれば、そいつと遭遇してもなんとかできるかもしれない。

 だから従士隊から後続を編成せず、俺達に頼むのか。


「ふん、おもしれえじゃねえか。奴と遭遇したら、遠慮なく斬ってもいいんだな」

「好きにしたまえ」


 こいつを好きにさせるとこっちが大変なんだけど、レギア抜きで対抗できるかと聞かれると自信が無いんだよな。


「これは冒険者ギルドを通して指名依頼という形にして、報酬だけでなく冒険者としての功績にも繋がるようにするから、是非頼みたい」


 そこまでしてくれるのなら、こっちも受けたいとは思う。

 だけど……。


「それはつまり、王都へ行けってことですか?」


 あまり良い思い出が無い王都へ行くのは、正直気乗りしない。

 依頼を受ける以上はそんな我が儘を言える立場じゃないんだろうけど、やっぱり躊躇してしまう。

 俺と同じで王都から逃げてきた身のロシェリが、いつの間にかフードを被って顔を隠し、震えながら俺の袖を握ってきた。

 これは俺よりも重傷だ。


「安心したまえ、君達のことは考慮している。合流地点は王都ではなく、エルク村という王都から数日で着く村だ」


 えっ、そうなの?


「この村までなら送った護衛だけでもなんとかできるだろうし、そこで君達と合流してガルアへ帰省させるということだ」


 わざわざそこまで考えてくれたのか。

 ロシェリも震えが止まって、それならって頷いている。

 お気遣い、ありがとうございます。


「どうだね。これなら問題無いだろう?」

「はい。お気遣い頂き、感謝します」

「気にしないでくれ。私としては一刻も早く、子供達を王都から逃がしてやりたいからな。その点からしても、こうした方が安心するんだ」


 だとしても、感謝します。


「あまり慌てる必要はねえぞ。俺もあいつも移動速度は大して速くない。あんな遠い場所まで行くのなら、数日の猶予はある。おまけにあいつは寄り道好きだ、本当に王都へ向かっていて寄り道までしていたら、途中で追い抜くことだってできるだろうよ」


 さすがは元相棒のことだけあって、よく分かってるな。

 しかしこいつ、王都までの距離が分かるってことは、王都に行ったことがあるのか?

 適当にあっちこっちブラブラしながら、相当長く生きてきたんだろうな。

 でなかったら、あんな能力値にならないって。


「それは朗報だ。猶予があるのなら王都への連絡が届きやすいし、それを受けての対策と準備も進められる」


 猶予があると分かったゼインさんの表情が、少し和らいだ。

 だけど、こういう情報はもっと早く教えろよ。

 こいつに言っても無駄なんだろうけどさ。


「とはいえ、早めに動くのにこしたことはない。すぐに動けるかね?」

「食料さえ確保すれば、いつでも」

「分かった。私もすぐにギルドへ依頼を出すから、頼んだぞ」


 こうして急遽、エルク村へ行っての護衛依頼を受けることになった。

 馬車を用意するというのを別の手があるからと断り、すぐさま準備に取り掛かった。

 水は魔法でなんとかできるし、野営に必要な物は次元収納や空間収納袋へ入れっぱなしだから、本当に後は食料を準備するだけ。

 アトロシアス家への事情説明はリズに任せ、急ぎで食料を購入していき、それが済んだら冒険者ギルドへ。

 ちょうどベリアス辺境伯家の人が依頼を頼んだ後のようで、そのまま依頼を受託したら門へ向かい、そこでリズと合流して町の外へ出る。


「ところで、ここからエルク村まで結構な距離があるわよね?」

「猶予があるとはいえ、できるだけ急いだ方がいいんだよね?」

「でも……馬車……断った、よね?」


 そりゃあね、俺達には馬車よりも早くて持久力がある相棒達がいるからな。


「こういう時こそ、こいつらの出番だろ」


 親指で差した先では、自分達の出番を察した従魔達がやる気満々で筋肉を隆起させている。


「「「あぁ~……」」」


 納得したような、したくないような微妙な表情をされた。

 だけど馬車よりもこいつらが走った方が速いのは確かだから、俺とアリルがメガトンアルマジロに乗り、ロシェリとリズはマキシマムガゼルの肩に担いでもらうことにした。

 大きさの問題で人を背負えないコンゴウカンガルーとビルドコアラは、単独で走ってもらう。


「頼んだぞ、お前達。全力で走っていいからな」


 頼まれたら応える従魔達は一斉に鳴き声を上げ、周りの人がちょっと驚く。

 驚かせた人達に謝りつつメガトンアルマジロに手綱をかけ、念のためにロシェリの「騎乗」スキルを、本人了承の上でスキルの入れ替えで一時的に借りておく。


「よし、行くぞ」


 手綱を握ってメガトンアルマジロに跨る俺の背中にアリルが捕まり、ロシェリとリズがマキシマムガゼルの肩に担がれ、落とされないようにしっかり確保される。

 後はもう、走るだけだ。


「出発!」


 合図と共に従魔達が揃って駆け出す。

 直後に従魔達で移動する判断をしたことを後悔して、「騎乗」スキルを借りておいた判断を褒めた。


「速い速い速い速い速い!」

「ちょっ、こんなに速く走れるの!? ビーちゃんも普通についてきてるし!?」

「ゆれ、ゆ、ゆれ、揺れる、揺れすぎぃ……」


 ロシェリ達が騒ぐ通り、こいつら速すぎ。

 いつの間に、こんなに速く走れるようになっていたんだろうか。

 いや、元々これくらいで走れたんだろう。今までが俺達に合わせてくれていただけで。

 振り落とされないようにアリルは背中に密着してるし、あまりの速さにリズは涙目だし、ロシェリは速さよりも揺れに負けそうだ。

 かくいう俺も、そこまで余裕がある訳じゃない。

 必死に手綱を握って、「騎乗」スキルで振り落されないようにするので精一杯だ。

 背中に密着するアリルの方を気にする余裕なんて、これっぽちも無い。

 そして単独で走っているとはいえ、よく並走できるなコンゴウカンガルーとビルドコアラ。


「はっはっはっ! こりゃあ、いい乗り心地じゃねえか。やるなぁ、テメェら」


 唯一楽しんでいるレギアに褒められたからか、鳴き声を上げた従魔達がさらに速度を上げた。

 ちょっと待て、まだ加速できるんかい。

 それでいて上手く避けながら擦れ違いや追い越しをするんだから、無駄に器用だ。


「いやあぁぁぁっ! 速すぎるってぇっ!」

「揺れてる! 思った以上に揺れてるからぁっ!」

「……うっぷ」


 やばい、揺れすぎでロシェリが限界だ。


「おい、速度落とせ! というか、一度止まれ!」


 速さのせいか、声を掛けても気づいていない。

 だからって、このまま拙いことになるし……仕方ないか。


「止まれ!」


 「咆哮」スキルを使って叫んだら、従魔達だけでなくロシェリ達も擦れ違った旅人も驚いていた。

 停止するために従魔達は足を止めるが、速すぎた勢いは簡単には殺せない。

 踏ん張った状態のまま、跡を残しながら地面を滑ってようやく止まった。

 でも、それによる大きな揺れがトドメになってしまった。


「……うっ」


 直後に起きたことはロシェリの名誉のためにも伏せておこう。

 とりあえず水魔法が必要になった。それで察してほしい。


「気にしないからさ、元気出せって」

「ぐすっ、うぅ……」


 醜態を晒してしまったロシェリを慰めるのは、言われなくとも俺の役目だ。

 巻き込まれて水魔法で体を洗ったマキシマムガゼルは、従魔達に任せてある。

 そのお陰がもう復活し、鳴き声の合唱をしながら筋肉を強調するポーズを次々に決めている。

 通行人が怯えたり、不審な目を向けてるからやめろ。

 そしてレギアも爆笑してるんじゃない!


「ジルグ君。そこはほら、もっと優しく肩に手を回して抱き寄せてさ」

「なんなら二人っきりになれる時間あげようか?」


 リズ、いらん助言するな。

 アリル、今はそんな時間も惜しんで移動が必要な状況なんだが?

 それから少ししたら落ち着いたようだけど、俺にしがみついて離れようとしないから、ロシェリとアリルの位置を交代して移動再開。

 さっきまでより速度は落として、できるだけ揺れないように走ってもらっている。

 それでも馬車を追い抜いて行くんだから、大したものだ。


「本当に、気にしてない?」

「してない、してない。なんなら、今夜は寝かせない方向で証明しようか?」

「あ、あうぅ……」


 背中を向けているけど、俯いたのは背中に額か何かが当たった感触で分かる。

 しかし、俺らしくない言い方をしたもんだ。


「面白いことを聞かせてもらったぜ。今夜が楽しみだな」


 うん、あんな言い方をしたのは、絶対にこいつの影響だ。

 というかこいつ、見る気満々かよ。


「しないからな! あくまで一つの冗談だからな!」

「何だよ、ツマラナイ奴だな。後ろの暗い小娘もそう思うだろ」

「えっ、あっ、えぇっと……」


 真面目に答えようとしなくていいぞ、こいつの戯言なんか。


「ちょっと……残念」

「はっ?」


 まさかロシェリから、そうした返しがくるとは思わなかった。

 ああうん、そう言われるとちょっと困る。


「おいこら、女にこんなこと言わせてまだ冗談で通すなら、男が廃るぜ」


 分かってるよ、そんな事。


「あ~……。この仕事が終わって、ガルアに帰ったらな」

「うん!」

「ハッハッハッ、そうこなくっちゃな」


 弾んだ声でのお返事、いただきました。

 ついでにレギアの余計な一言も。

 そこへ、後ろを走っていたマキシマムガゼルが追い付いて並走しだした。

 どうしたのかと思ったら、両肩にそれぞれ乗っている二人が声を掛けてきた。


「ちょっと、仕事中に何を喋ってるのよ!」

「勿論それには、僕達も加えてくれるんだよね」

「そうよ、ロシェリだけズルい……って違うわよぉっ!」

「ハッハッハッ! いい身分だな。ここは男を見せるべきじゃねえのか、んん?」


 聞こえてたのか。

 ヤバい、なんかスゲェ恥ずかしい。

 そして他人事のように笑って、この状況を一番楽しんでいるレギアがムカつく。

 しかも発端は俺だから、強く言い返せない。

 軽率な発言はするもんじゃないな、本当に……。


「同じくこの仕事が終わって、帰ったらな」

「うん。期待しているよ」

「ふ、ふん。そう言われて断ったら、女が廃るわね。いいわ、そうしましょう」


 尻尾は嬉しそうに激しく揺れているのに、本人は相変わらず素直じゃないな。


「ところで、このペースだとどれくらいでエルク村に着くかな?」


 そうだな。ゼインさんからはできるだけ早く合流してもらいたいって言われたから、あまり悠長に移動する訳にはいかない。

 幸いにも従魔達は今の速度でも普通の馬よりも早く、それでいて長く走れるから期間は短く出来るだろう。

 さらに道中の町や村で宿泊せず、野営しながら移動に徹すればさらに短縮可能だ。

 だけど正確な日数までは計算できない。

 王都からガルアへ向かっていた時は、嫌な思い出ばかりの王都から逃げられればいいって感じで急ぐ旅路じゃなかったから、ペースはゆっくりだったし町に数日滞在したこともあった。

 後はあれだあれ、ビーストレント絡みとかアリル捜索とかその他諸々に巻き込まれたし。


「正確な日数は分からないけど、町とかに立ち寄らず移動し続ければ短く済むんじゃないか?」

「えっ、それって休み無しってことっ!?」


 いやいや、それはないから。

 休息や仮眠くらいは取るから。


「……ご飯……」


 食べるから! 食べさせてやるから!

 さすがに飲まず食わずで何日も移動するなんて、これっぽっちも考えてないから!


「休みはあるし、飯も食うから! できるだけ移動時間を長く取ろうってだけだって!」

「あっ、そうなの。良かった」

「いくら担がれているとはいえ、ビーちゃん達は疲れるだろうなって、心配しちゃったよ」

「ほっ……」


 分かってくれて何よりだ。

 しっかし、エルク村か。懐かしいな。

 王都を出てひょんなことからロシェリと組んで、最初に訪れた村だ。

 だけどロシェリは虐められていた相手と遭遇したから、そこまで懐かしいとは思わないだろう。


「そういえば、元気かな」

「誰、が?」

「王都からガルアへの旅路で知り合った人達」


 ビーストレントの時に共闘したレイアさんと、助けに求めに来たライラさん。

 その素材で新しい武器を作ってくれた、女性ドワーフ。確か樹獣の杖にあった製作者名はセルリアさんだったっけ。

 他にも初めて受けた護衛依頼の依頼主のヨルドさん一家に、道中で遭遇したシアと町長一家。

 道中に出会った人達の中で関わりが深めなのは、こんなところかな。

 女性が多め? ほっとけ。


「そういえばそうね。シアは家族のため、頑張ってるのかしら」

「レイア、さん。どうしてる……かな」


 今回のルートは王都から来た道をなぞるから、町に寄ればそうした人達とも会えるかもしれない。

 だけどあいにく、今はそんな暇は無い。

 エルク村でゼインさんの子供達と護衛と合流した帰りなら、子供達のために宿へ泊まるかもしれないから会える可能性はあるけど、少なくとも行きは無い。

 できるだけ早めに着いて合流してほしいって要望だから、寄り道をする訳にはいかない。


「むう、なんか僕だけ蚊帳の外だよ」


 ガルアへ到着してから仲間に加わったリズが、一人不満気な表情をしている。

 でも、こればっかりは仕方がない。

 巡り会いっていうのは、いつどこで起きるか分からないからな。


「そうむくれるなって、出会えたら紹介するから」

「えっ、紹介? いやでも、ジルグ君の妻になるのなら、友人への紹介くらいは当然だよね」


 紹介の意味が違う。

 そういう意味で紹介するのなら……アトロシアス家の皆は承認済みみたいなものだから、元実家で世話になった使用人や護衛の皆かな?

 いや、王都に行かないからそういう意味での紹介をする予定は、これっぽっちも無いけど。


「だったら私もね」

「私……も」


 乗るな、こら。

 でもまあ、もしもレイアさん達と会えれば、この三人といずれ結婚しますくらいは伝えておいてもいいかな。


「ハッハッハッ。やっぱりお前達といると退屈しねぇな。その調子で俺様を楽しませろ」


 別にお前を楽しませるために、こういう会話しているんじゃないからな!?




 ****




 ん~。いい感じ。

 王都へ行く前の肩慣らしに、その辺にいた冒険者に憑依してこいつの仲間と適当な魔物、ついでに遭遇した盗賊達を殺してだいぶ感覚を取り戻してきたよ。

 さてと、憑依を解く前にこいつも殺して証拠隠滅しておこう。

 首の辺りを魔力の爪で斬って、絶命する前に憑依を解除。

 憑依していた雑魚は首を押さえながら倒れて悶えて、痙攣したら死んじゃった。


「さてと、もうちょっと遊んでから王都へ行こうかな」


 大勢殺せるように、しっかり調整しておかないとね。


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