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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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新たな憑依する存在


 騎士団の基地での騒動は、その日のうちに収まった。

 ただ、多くの死傷者が出たのに加えて基地自体が大きな損傷を受けたらしく、ガルアの町は大騒ぎになっている。

 近隣の基地からの救援隊が到着するまでの間、とても生存している騎士団員だけでは手が足りないということで、町のあらゆる機関へ緊急の救援要請が届いた。

 領主であるゼインさんを通じて従士隊に動いてもらっただけでなく、教会や冒険者ギルド、さらには町の医者や薬屋にも要請が届き、それに応じた人々が崩壊しかけている基地へと集まってくる。

 俺達も屋敷で救援要請を聞き、一旦冒険者ギルドへ向かって救援隊への参加をしてから基地へやってきた。

 たくさんの焚き火で明かりを確保した基地の敷地内で、救援に来た人達と生き延びた騎士団員達が対応に追われている。


「治癒……完了……」

「すまない。次はこいつを頼む」

「は、はい……」


 治癒魔法を使えるロシェリは重傷者の治療に加わっているけど、人数が多くて治しても治してもキリが無い。

 冒険者に限らず教会や従士隊からも治癒魔法の使い手が治療しているものの、負傷者が多すぎる。

 あまりに忙しすぎて、治療する側の方が今にも倒れそうだ。

 現に、既に目がグルグルになって端の方に寝かされて休んでいる人もいる。


「そこの坊主! 生存者だ、手を貸してくれ!」

「はい!」


 呼ばれた先では瓦礫に埋もれた騎士団員がいて、それを救出しようとしていた。

 俺がやっているのは、見つかっていない騎士団員の捜索と救助だ。

 何人かと呼吸を合わせて大きな瓦礫を浮かせ、その間に救出された騎士団員は治療へ運ばれていく。

 同じように救出や瓦礫の撤去作業に従魔達も協力し、アリルとリズは軽傷者の応急手当に対応している。


「まだあと十四人見つかっていない! 捜索と救助の担当は、引き続き捜索してくれ!」


 団員の照会をしている騎士団員が叫んだ。

 それに俺も含めて捜索と救助の担当が返事し、辺りに呼びかけたり瓦礫をどかしたりする。


「全く、一体どれだけの強者が暴れたというのだ」


 同じく捜索と救助の担当に振り分けられたキキョウさんが寄って来て、汗を拭いながら呟く。

 そう言いたくなるのも分かる。

 堅牢な基地をここまで破壊したんだから、暴れていた奴はかなり強いんだろう。


「でも、そいつはもう倒されたんだろ?」

「そう聞いている。重傷を負った大隊長の近くに倒れ、息絶えていたそうだ」


 その大隊長は手足を砕かれ内臓を傷つけられながらも、奇跡的に一命を取りとめていた。

 だけど何故か治癒魔法の効きが悪く、命は助かったものの今も喋れない状態らしい。

 作業中に聞いた話だと、先天的スキルの代償で魔力の巡りが悪くなっていて、治癒魔法の効きが弱まっているとかなんとか。


「そいつ、どんな奴なんだろうな」

「先ほど騎士団の者が喋っているのを小耳に挟んだのだが、バレルという者らしい」

「……えっ?」


 バレル? まさか、あいつが?

 でもあいつには、これだけの力は無いはずだ。

 ついこの前に衝突した時に「完全解析」で能力を見たから、それは間違いない。

 第一、あいつからは戦闘系のスキルを奪っているから、残っているのはスキルの入れ替えで俺が渡した非戦闘系のスキルだけのはず。

 仮にこの数日で何か新しい戦闘系のスキルを習得したとしても、ここまで使いこなせるものか?

 そんなことを考えていたら、タバサさんが駆けて来た。


「キキョウ! あっ、アンタもいるのか。ちょっと手を貸してくれ、向こうの瓦礫の下から声がしたんだ」

「承知!」

「分かった!」


 考えるのは後回しだ。今は捜索と救助をしないと。

 結局、残りの十四人のうち生存していたのは五人だけ。残りの九人は遺体で見つかった。

 遺体すら見つからず、行方不明のままよりはマシだって言われたけど、後味が悪いのに変わりない。


「おつ……かれ……」


 いや、明らかにロシェリの方が疲れてるだろ。

 ぐったりと地面に横たわって、指一本動かせませんって感じだぞ。

 先に戻っていた従魔達は、まだまだやれるぜって感じで筋肉隆起ポーズしているし。

 というかお前達はもう少し、周りの空気を読め!


「あっ、お疲れ……」

「やっと終わったよ。もう何人手当てしたか、分からないよ」


 軽傷者の手当てをしていたアリルとリズも、フラフラになって地べたに座った。

 なんでも救出された軽傷者の他に、救助活動中に怪我をした人も治療したそうだ。

 当たり前だけど治癒魔法は重傷者の治療を最優先にしていたから、そうした軽傷者も全員回ってきたらしい。


「ご苦労さん」

「ジルグだって疲れたでしょ? 救助は体力使うしね」

「僕達は体力的にというか、忙しさで精神的に疲れたよ」

「……両方」


 だろうね。見るからにそうだから。

 アリルとリズも、見れば分かるって表情向けてるし。

 それとまだまだ元気なのは分かったから、お前達は筋肉隆起ポーズをやめろ。アピールしなくても分かるから。そして空気を読め!


「ところで、本当にこれ誰が暴れたわけ?」

「たった一人なんだってね。基地も崩壊してるし、どれだけの化け物なんだろう」

「……そのことで、ちょっと小耳に挟んだんだけど」


 キキョウさんから聞いた情報が気になって、一段落した時に騎士団員から聞いたら本当にバレルだった。

 その騎士団員は王都から一緒に研修に来ていた人で、どうしてあれだけの力を発揮していたのか、意味が分からないって頭を抱えていた。

 同期の中では最弱。それがバレルの評価だったから。


「マジ? あれがここをこんなにしたの?」

「そうらしい」


 三人が信じられないって表情をしている。俺だって信じがたいよ。数日前に見た数値とスキルからして、ここまでの戦闘力が有るとは思えないんだから。

 だけど、実際にあいつが暴れてこれだけの被害を出した。

 ただでさえ俺の件で危うくなっていそうなのに、バレルがこんな事件を起こしたらグレイズ家は終わりだろう。

 使用人や護衛の人達、早めに次の仕事場が見つかればいいけど。


「あっ、ジルグ。ここにいたのか。ちょっと来てくれ、お館様が呼んでるぞ」


 良くしてくれた人達の今後を心の中で祈っていると、ゴーグ従兄さんに声を掛けられた。

 ゼインさんが何の用だろうか。

 とりあえず言ってみなくちゃ分からないから、ロシェリ達と離れてゴーグ従兄さんの案内でゼインさんの下へ向かう。

 案内されたのは、仮説本部と書かれた木の板が立てかけられた天幕だった。

 崩壊した中から引っ張り出したのか、所々が破れている。


「お館様、ジルグを連れて来ました」

「入れ」


 許可が出たから中へ通されると、ゼインさんの他にノワール伯父さんと数人の従士隊員、それと何人かの騎士団員もいた。

 彼らの足元には、布を掛けられた何かが転がっている。


「来たか。あまり気分の良いものではないだろうが、一応は身内として本人確認を頼みたい」


 身内という言葉で、布の下の物が何か分かった。

 ノワール伯父さんに促されて従士隊員が布を捲ると、予想通りバレルの死体が転がっていた。

 もう縁が切れているとはいえ、一応血縁だからってことで確認に呼ばれたんだろう。


「これはバレル・グレイズで間違いないかね」

「顔が偽装されたものでなければ、間違いありません」


 何かしらのスキルを使い、死を偽装できるって聞いたことがあるからそう答えたけど、本人に違いない。

 「完全解析」の名前の欄に、しっかりとバレル・グレイズって表示されているから。


「偽装の心配は無い。そういった痕跡は見られなかった」

「では本人です。先日会ったばかりですから、見間違えはしません」

「ということです」

「承知しました。すまないね、君。規則で血縁者による確認が必要なんだよ」


 だから俺が呼ばれたのか。

 わざわざ王都にいるグレイズ家の連中を呼ぶより、俺を呼ぶ方が早いもんな。

 でも親類と言わずに血縁者って言っているから、こっちの事情は察してくれているんだろう。


「いえ。それよりも、こいつが暴れてこうなったと聞いたんですが、本当に?」

「本当だ! なにせ俺達の目の前で暴れてたんだからな!」


 改めて見た能力とスキルからはとても信じられず、再度尋ねたら騎士団員の一人が感情を露わにして肯定した。


「でも、先日衝突した時のこいつからは、想像できないんですが」

「俺達だって信じられねえよ! でも本当なんだ、こいつがやったんだ!」

「落ち着け。それよりも聞きたいのだが、こいつは手足に爪のようなものを作り出すスキルか技術を持っていると、知っているかね?」


 なんだそりゃ。

 元実家にいた頃のこいつは槍を振ってばかりいたから、そんなスキルか技術があるなんて知らないぞ。

 俺が家を出た後に習得した可能性はあるけど、少なくともそんなスキルが無いのは分かっている。

 「完全解析」には、それっぽいスキルなんて表示されていないから。


「知りません。少なくとも、元実家にいた頃は見た事が無いです」

「そうか。ううむ、分からん」


 首を捻る騎士団員だけど、俺にも訳が分からない。

 いったいどうなってんだか……。


「……おい、俺様にもちょっと見せてみろ」

「うん? どうしたレギア」


 今日も今日とて氷石のタグに憑依して、退屈だからって寝ていたレギアが珍しく興味を示した。

 というか、起きてたんかい。

 断る理由は無いから服の内側に入れていた氷石のタグを取り出し、バレルの死体を見れるように顔を向けてやる。


「手足に魔力の爪……。この魔力の残滓……。実力以上の力……。まさか……」

「おい、何か心当たりがあるのか?」


 明らかに何か知っている反応を見せている。

 騎士団員はレギアを見て、何だそれはって顔をしているけど、今はスルーしてレギアを問い詰めよう。


「……」

「言えよ。何か知っているのか?」

「……これに残っている魔力の感じが、俺様の知っている奴とそっくりだ」


 マジか。ゼインさんも騎士団員も驚いていて、どういうことだってざわめいている。

 それにしても、バレルの死体にそいつの魔力が残っている?

 あっ、ひょっとして。


「お前の知っている奴っていうのは、人間に憑依する能力があるのか」

「……そうだ」


 ざわめきがどよめきに変わった。

 当然だ。この騒動が単にバレルによる暴動じゃなくて、何かがバレルに憑依して暴れたことになったんだからな。

 だけどそうでないと、本人以外の魔力が残っているのと、バレルがこれだけの被害を出すほど強くなった理由の説明がつかない。


「とはいえ、暴れたのはこいつの意思だろ!」

「あいつが憑依していたのなら、間違いなく体も思考も支配していただろうな。あいつはそういう奴だ」

「じゃあ、こいつは体を乗っ取られて操られていただけだと?」

「俺様の知っているあいつがやったのなら、間違いないだろうな。あいつは誰かに力を貸すなんて、これっぽっちも考える奴じゃないからな」


 騎士団員達があからさまに動揺している。

 暴れているバレルが死んで終わりかと思っていたら、黒幕のような存在がいたんだからな。

 しかし、人間に憑依できる能力か。

 レギアが知っている点からして、ひょっとするとそいつも精霊なのか?


「そいつはどこにいる!」

「知るか。俺様もそこまで万能じゃねえよ。ただ、人間が多い場所かもしれねえな」

「なんでだ」

「あいつは殺すことに悦楽を覚えている。特に人間相手にな」


 ニヤリと笑いながらの言葉に、少し寒気が走った。


「人間が大量に死んだ話を聞かないから、ここ何十年かは大人しくしていたようだが、今回の事でタガが外れたはずだ。ハッハッハッ、厄介なこった」


 笑い事でも、厄介どころでもないって。

 人を殺すことに悦楽を覚えている快楽殺人者が、誰かを操って大勢の人がいる場所で暴れるだって?

 身体能力は高くとも、戦闘向けのスキルが無いバレルでこれなんだ。もしも戦闘向けスキルを多く備えた奴に憑依したら……。


「すぐに本部と周辺の基地へ通達! 相手は人間を乗っ取って操る能力がある、憑依型の魔物だ!」


 この場にいる騎士団員の中で、最も階級が高そうな人が叫んだ。

 ただ、魔物じゃなくて精霊かもしれない。

 まあこの際、どっちでもいいか。


「しかし、対策が無ければ通達しても」


 その通りだな。注意を促しても、倒せなきゃ意味が無い。

 仕方ない、レギアに聞くしかないか。


「おい。そいつはどうすれば倒せる」

「憑依している奴を殺せば一緒に死ぬさ。憑依している間に殺せれば、の話だがな」


 やけにあっさり教えてくれたな。

 騎士団員はすぐに通達のために走って行ったけど、基地をこんな惨状にした奴を倒すには、どれだけの戦力が必要なんだろうか。

 おまけに憑依を解く隙も与えずに殺すとなると、不意打ちで即死させるしかない。

 憑依した相手次第では、それすらも難しいだろうな。


「まあ、倒すことに拘らなければ憑依前に封印するって手も有りだがな」


 そういえばそうだ。こいつも出会った時は封印されていたっけ。

 こいつと同じように、憑依前は戦闘力が無いのならその方が楽かもしれない。


「封印か……。外見はどんなのだ」

「はっ。誰がテメェなんかに喋るか」

「なんだと!?」


 出たよ天邪鬼め。


「こいつと同じ外見をしているなら、本体は霧か靄っぽいものの塊です」

「あっ。テメェコラ、何勝手に喋ってんだ」


 その反応は正解だな。


「お前が勝手にするから、俺も勝手にしたんだ」


 だからこれでお相子だ。

 情報を聞いた騎士団員は追加情報ってことで、別の部下を走らせた。


「私も王家や周辺の領主に向けて警告を出さなくては。悪いが、これで失礼する」

「はっ。お疲れ様です」


 領主としての役目を果たすため、ゼインさんとノワール伯父さんも天幕を後にする。

 そのままの流れでも俺も解放され、天幕を出たらゴーグ兄さんと別れてロシェリ達の下へ向かう。


「しかし、あいつがまた動き出したか」

「そいつは前から、こういう暴れ方をしていたのか?」

「いいや、最初はもう少し大人しかったぜ。だが段々とツマラナイ奴になっちまったから、何十年も前にこっちから見限らせてもらったぜ」


 人間に憑依できる奴とこいつがつるむって。

 今回の騒動の中心にいる奴が人間に憑依して操って、その人間の武器にこいつが憑依していたってことか?

 そしたら、どんなヘボでも英雄になるだろうな。

 まさかとは思うけど、英雄の影にこいつら有りって訳じゃないよな?

 だとしたら、多くの英雄譚が疑わしくなるぞ。

 母さんは……いや、母さんは違うか。何十年も前に別れたのなら、母さんとは無関係だ。

 それにしても、今の感じの話をどこかで聞いたような……。

 ああ、思い出した。前の相棒について聞いた時だ。

 そうか、だからよく知っていたのか。


「な……」


 聞こうと思ったけど辞めた。

 だって、こいつが素直に教えてくれるはずがないから。


「なんだよ」

「別に。あっ、一つ聞いていいか」

「なんだ」

「そいつと戦うことになったら、斬りたいか?」


 もしかしたらだけど、場合によっては敵対するかもしれないんだ。これだけは確認しておきたい。

 そしたらレギアはニヤリと笑った。


「ああ、斬りたいな。ツマラナイ奴にはなったが、斬り応えはありそうだ」

「そうか」


 これで万が一、そいつと遭遇してもどうにかできそうだ。

 スキルの入れ替えだけでどこまで対抗できるか分からないし、ブラストレックスの時のように入れ替えられないスキルがあっても、同じ精霊のレギアとなら入れ替えられるかもしれないからな。


「できれば、遭遇自体したくないけどな」

「何か言ったか」

「何でもない」


 本当、何でもないうちで終わっていてほしいや。


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